社内を巻き込んでEC事業を推進するには?必要なコミュニケーションや心構えをエース北山さんに聞く
エース株式会社 第三事業部 次長 北山浩さん
インタビューの概要

ECの市場は誕生からまだ20数年と歴史が浅い業界です。その一方で急速にテクノロジーが発展しているため、卸や実店舗を中心に事業を展開してきた小売企業がECとどのように向き合ったら良いかわからないという声を聞くことがしばしばあります。今回は創業から80年以上の歴史を持つエース株式会社(以下、エース)の第三事業部(ECにまつわる部署)で次長を務める北山浩さんに、EC担当者が業務を円滑に推進するための秘訣についてお伺いしました。

ある日突然EC担当者に!? 成果を出すための工夫とは

――北山さんがEC事業の担当になった頃のお話を聞かせていただけますか?

北山さん:2010年に社内で新しくレディースブランドが立ち上がるときに「ECの運営をお願いしたい」とざっくりとした指示が来ました。当時は、直営店の担当や、セレクトショップを担当して卸を見ていたので、そこにECの業務が加わりました。

エースとして自社ECのメインサイトがあったので、それとは違うサイトとして立ち上げる形になります。いきなりのことで右も左もわからない状態でしたので、メインサイトの担当に色々と教わりながら、見様見真似で始めていきました。

新しいブランドなのですぐに大きな売上が立つことはありませんが、最初の頃は取り組みやすい施策を積み重ねて徐々に売上を伸ばしていきました。その後、新ブランドとしてECモールに出店することになります。その動きに並行する形で、新ブランドの担当からメインサイトを含めたECの事業全体を取りまとめるようになりました。

メインサイトといっても当時はターゲットブランドのみを取り扱っているだけでしたので、ECを本格的に取り組み始めたのは私が責任者になった2017年になります。2017年から2019年の3年間でECのみの売上で2016年度比200%成長を遂げました。

EC担当者としての心構えと社内コミュニケーション

――北山さんがECに携わるようになってから着実に売上を伸ばしていますね。おそらく着任当時、北山さんを含めてECに精通した方が社内には少なかったかと思うのですが、どのようにして成果を伸ばしていったのでしょうか?

北山さん:担当になったからには、他の人にその領域で負けてしまうと担当として任されている意味がないと思います。ECの担当となったとき、情報収集を接客的に行っていきました。当時はECのミカタ、ネットショップ担当者フォーラム、ECzineの3媒体くらいでしたので、このあたりの情報から知見を増やしていきました。

加えて、会社員として組織で働いていると新しいことをする際に必ず上長のサインが必要になると思います。この上長を味方に付けなければ、新しい施策に挑戦する環境を作りづらく、思うように成果を伸ばすことは難しいでしょう。しかし、当時の直属の上長はECについて特に詳しいわけではありませんでした。

私の場合は、先程の専門媒体の情報や新しい商業施設のオープン情報、競合ブランドの出店状況など、良い情報を見つけると必ず上長に私のコメントを付けて共有していました。私の上長は送った情報をしっかりと読んでくれていたので、2年くらい経つと社内で私の次にECについて詳しくなっていました。すると新しい取り組みの要望をあげると、1から10まで説明をせずとも承認を得られるようになっていきます。また、上長の裁量を超えた決裁であっても上長に知見が溜まっているので、更に上のレイヤーに上手く情報伝達し、決裁を通してくれるようになりました。

他部署との調整業務に欠かせない目線合わせ

――決裁を通す上で数値的な根拠を示しても施策の全体像が見えないと承認されづらいため、社内で一つ一つの施策に承認を取る苦労が耐えないという話はよく耳にします。上長を巻き込んで一緒に知見を増やしていくのは非常に合理的だと感じられました。ECの運用にはサイト内のみで完結せず、他の部署を巻き込んだ動きが必要になることもあると思います。そういったときはどのようにして動いているのでしょうか?

北山さん:他の部署と連携が必要なときは直接行って面と向かって話をします。チャットによる文字だけのやり取りでは細かいニュアンスが伝わりづらく、電話だけですとなかなか話が前に進みづらいからです。例えば、物流のことなら物流センターの責任者と、情報/セキュリティ関係のことなら情報管理の責任者のところまで直接話に行きます。社内でやりたいことを伝えるために、東京から大阪や石川まで行ったこともありました。

お互いのイメージを共有させるためには、わかってもらえるまでしっかりと対話を重ねる必要があります。その際、依頼内容によってはその部署の目標や利益に直結しづらい話をすることも出てきます。しかし、部署の都合はお客様にとっては関係なく、社として推進したら良いことはたくさんあるのです。部署として利益があるかどうかではなく、商品をお買い求めいただくお客様にとって利益があるかどうかということが非常に重要です。

お客様が当社の商品をお買い求めいただくことで会社が成り立っています。だからこそ快く商品をお買い求めいただくためのお客様シテンが欠かせません。お客様シテンという言葉を使う上で、私は社内で「お客様の視点に立って企画を考える」こと、「お客様を始点に物事を進める」ことの2つの意味を合わせて使っています。

社内調整の末、実施できた施策とは

――他部署と業務を進める上で徹底的に話し合うことは必要不可欠ですね。お客様シテンに立ったとしても、前進に苦労が避けられないこともあるかと思います。実際に推進された施策の事例があればお伺いできますか?

北山さん:1つ大きな施策を挙げるとすると、ポイントプログラムの導入です。ずっと社内でやりたいと言い続けていまして、言い始めた当初と比べると色々な技術が出たことで費用がかなり抑えられることになり、導入を進めることになりました。

もともとポイント制度はあったものの、実店舗とECで別々だったり、ブランド横断ではなく使えないブランドがあったり、紙のポイントカードを使っていたりと不便な点が多くありました。今では電子化し、ほとんどのブランドで使えるように一元化しています。これによって、他のブランドの認知に繋がり、店舗に行かなくてもエースを選んでもらえるきっかけを作れるなどメリットが増えました。

施策の立ち上げ時は数人でやっていたものの、推進は最終的に私がほぼ1人でやっています。実店舗の担当者と話を進めながら、3月末にキックオフを、8月頭と9月頭に二段階リリースをして、約半年で6万件のデータを移行しました。

システムの導入については現状店頭で使っているPOSシステムや自社ECのカートシステムなど、今活用しているシステムとの連動を考慮しました。仮に約80店舗ある実店舗のPOSシステムをリプレイスするとなるとスイッチングコストが大きくなりすぎてしまいます。コストの面を考慮しながら、比較的容易につなぎこみができるシステムを見つけて実装することになりました。

施策推進時の上長コミュニケーション

――かなり大掛かりな動きかと思いますがお一人で推進していたとのことで、上長の方への進捗報告はどのようにコミュニケーションを取っていたのでしょうか?

北山さん:昼食をいつも上長と取っていたので、そのタイミングで報告していました。どちらかというと、スタートの時期やマニュアルの作成についての話が多く、何がどうなっているのかといった細かい話はあまりなかったです。これも上長が高い業務知識を持っているからなのかもしれません。

ポイントプログラムの導入は社内的にも必要だとは思われていたのですが、やる人がおらず、出来ていなかったという側面が大きくありました。アパレルくらい来店頻度が高ければポイントカードでも良いのかもしれませんが、かばんの購入頻度であればポイントカードを配布することで再来店につなげることは難しいでしょう。今後Cookie規制などオンラインでの後追いがしづらくなることを考えると、ポイントプログラムにご登録いただいたお客様とのコミュニケーションは非常に重要と考えています。

1つ1つ積み上げながら信頼を勝ち得る

――ポイントプログラムによってお客様の利便性が向上し、CRMを通してサービス品質を向上できるようになり、今後に繋がる大きな施策でしたね。実績を積んできたことで、2010年時点と比べて社内におけるEC事業の立ち位置は変わったのではないしょうか?

北山さん:当初と比べると、まず売上が大きくなってきたので立ち位置が変わったことは明らかです。もともと1つの課として動いていたEC事業が今は1つの事業部になっています。年間の予算では数ある事業部の中で2番手になるかならないかと拮抗するくらいの規模感にもなりました。

人の投資や資金の投資など、実績に伴って少しずつ柔軟になってきています。1つ1つの施策を通して売上が伸ばすことが社内の信頼を勝ち得ていくことにも繋がります。

ポイントプログラムの導入の他に、2拠点から発送できるようにしたことも当社としては大きな取り組みでした。さまざまな事情があって2年半もかかっていますが、諦めずに取り組んだからこそ、最後は成し遂げることができたのです。オセロを一枚ずつめくっていく辛抱強さで諦めずにやり続けることが大事だと思います。

今後の展望とメッセージ

――お客様シテンを忘れずに施策を積み上げ、数字を残して社内からの信頼を勝ち得ることが、更にお客様にとって良い還元を提供するサイクルになっていそうですね。今後北山さんがやっていきたいこととして、どういったことがあるでしょうか。

北山さん:個人的な想いですがアンバサダープログラムをやってみたいです。当社はメーカーとしての要素の方が強いです。お客様の声を聞いて開発をすすめているものの、商品開発はバッグ業界のリーディングカンパニ―としてプロダクトアウトが多めです。

お客様に参加していただいて、欲しい仕様の話であったり、要望であったり、コアなファンの方たちと一緒にブランドや商品を作っていきたいです。そのとき、クラウドファンディングでアンバサダーのクレジットを入れて熱の入った宣伝をして認知を広められたら良いなぁと思っています。

――最後に、読者の方に向けてメッセージを頂きたいです。

北山さん:今でもECサイトを作って商品を載せたら売れると思っている方が多いです。でも本当はサイトにアップしてからが大切で、どうやってお客様に来てもらうのか、商品の魅力を伝えるのか、を考えて形にしなければいけません。サイトに商品を載せた後がどれだけ大事なのか、会社の上層部の方に知ってもらわなければなりません。出来たてのサイトはまだ無人島の状態で、その無人島をいかにリゾート地に変えていくかがEC担当者の仕事です。諦めた時点でその先はなくなってしまうので、前を向いて頑張りましょう。

インタビューを通して:社内を巻き込んで前進するためのコミュニケーションを取るために

卸や実店舗を軸とした小売業を長く営んでいる企業が新しくEC事業を立ち上げた場合、既存の事業との違いに戸惑うことが少なくないかと思います。そういった環境下で、ある日突然、EC担当者に任命されたとき、今回の北山さんの処世術がきっと参考になるでしょう。

取材の中で、今は専門の媒体以外にTwitterが情報収集の場として有効だとお話されていました。リアルなイベントが減った中、セミナーに登壇するような方はTwitterで情報発信しています。メディア然り、SNS然り、インプットした情報を自分たちの事業にそのまま当てはめるのではなく、自社で置き換えた場合のイメージを具体的に持つことが大切です。

ビジネスや旅行用など、かばんを探している方はぜひ今回取材にご協力いただいたACE Online Storeで探してみてはいかがでしょうか。

▼ACE Online Store
https://store.ace.jp/shop/default.aspx

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