【2025年専門家コラムまとめ/後編】越境EC・CRM・成長の型から見る、事業拡大のヒント

2025年に入り、EC市場は「変化」への適応がより強く求められるフェーズへと突入しています。前編ではSNS・AI・決済という技術やトレンドの変化を取り上げましたが、後編ではより事業の根幹に関わる「市場開拓」「顧客関係」「思考の型」に焦点を当てます。

国内市場の縮小に伴う「越境EC」への挑戦、広告費高騰に対する「CRM」の強化、そして成果を出すための再現性ある「フレームワーク」。いずれも、EC事業者が中長期的な成長を描く上で避けては通れないテーマです。

本記事では、コマースピックに掲載されたコラムの中から、私、舟本が特に重要だと感じた論点を厳選し、上記3つの切り口でご紹介します。

越境EC:パートナー選びと「狙うべき市場」の解像度

内需の減少に伴い、海外販路開拓の必要性は高まる一方ですが、成功へのハードルは依然として高いままです。ここでは、支援事業者選びの「ミスマッチ」を防ぐ視点と、韓国・中東という特定市場のポテンシャルを解説した3本のコラムを紹介します。漠然と海外を目指すのではなく、誰と、どこで戦うべきかを考えるためのヒントが詰まっています。

支援事業者選びの「ミスマッチ」はなぜ起きるのか

世界へボカン株式会社の徳田祐希さんは、越境EC支援の現場で頻発する事業者と支援企業のミスマッチについて警鐘を鳴らしています。徳田さんは、越境ECに取り組む体制を「内製完結型」「内製+外注共存型」「PM統括型」の3つに分類し、多くの企業にとって現実的なのは後者2つであると指摘しました。

また、ミスマッチが起きる原因として「成功要素の理解不足」「支援事業者のノウハウ不足」「発注判断基準の欠如」の3点を挙げています。特に、安易な価格判断や会社規模だけの実績判断が失敗を招くとし、自社のフェーズや課題解決の実績があるパートナーを選ぶ重要性を説いています。

韓国市場:成功の鍵は「オペレーション」にあり

Free Life&Co株式会社の藤田裕貴さんは、EC化率が約29%と日本の約3倍を誇る「韓国市場」の魅力と、具体的な攻略法を解説しています。韓国はスマートフォン普及率が98%と高く、流行に敏感な国民性があるため、日本製品への関心も根強い市場です。

藤田さんは、特に「物流フロー」の選択が重要だと指摘します。「無在庫輸出」「D2C・メーカー」「フルフィルメント」の3パターンから自社に合ったモデルを選び、韓国特有の「高速配送(翌日〜当日配送)」への期待に応える体制構築が不可欠であるとしています。

中東市場:「ビジョン2030」と若年層が牽引する消費

Tempura technologies株式会社の上田剛大さんは、次なる成長マーケットとして「中東エリア」への参入を提唱しています。中東のEC市場は2025年までに750億ドル以上に達すると予測されており、サウジアラビアでは人口の約70%が35歳以下という若年層の多さが特徴です。

上田さんは、サウジアラビアの「ビジョン2030」や2034年W杯開催といった政策・イベントが追い風になると分析。また、SnapchatやTikTokなどのSNS普及率が高く、日本のアニメや文化への親和性も高いため、今が「先行者利益」を獲得する好機であるとまとめています。

CRM:獲得偏重からの脱却と「ロイヤルティ」の本質

新規顧客獲得コスト(CPA)の高騰により、既存顧客との関係性を深めるCRMの重要性がかつてないほど高まっています。ここでは、会員プログラムの設計と、顧客ロイヤルティの理論的背景を解説した2本のコラムを取り上げます。

会員プログラムは「4つの型」で考える

株式会社Stackの大原祐太さんは、オムニチャネル対応のハードルが下がったことで、会員プログラムがブランド戦略の核になりつつあると語ります。大原さんは会員プログラムを「自社経済圏型」「体験型」「リワード型」「サブスク型」の4つに分類し、それぞれの特徴を整理しています。

例えば、SHIPSのような「自社経済圏型」では還元率とわかりやすさが、ARC'TERYXのような「体験型」ではブランド独自のイベント体験が重要になります。単なるポイント付与にとどまらず、ブランドが顧客とどう付き合いたいかを体現する手段としてプログラムを設計する必要性を説いています。

コストコに学ぶ「顧客ロイヤルティ」と市場の法則

つきみ株式会社の山本達巳さんは、顧客ロイヤルティ戦略の成功例として「コストコ」を挙げ、そのメカニズムを解説しています。山本さんは「負の二項分布(NBD)」や「ダブルジョパディの法則」といった理論を用い、小規模ブランドが置かれている厳しい現実を指摘します。

その上で、コストコが「会員制」というモデルで熱狂的なファンを生んでいる点に着目。会費を支払うことで「元を取りたい」という心理が働き、厳選された商品ラインナップが「賢い買い物客」という自己認識(パーセプション)を醸成していると分析します。ECにおいても、こうした独自の価値提供がロイヤルティ構築の鍵となります。

フレームワーク:売上を伸ばすための「思考の型」

最後は、EC事業を成長させるための思考法やフレームワークです。手法論に振り回されず、自社の勝ち筋を見つけるための「型」を提示した2本のコラムを紹介します。

自社ECを「20倍」に伸ばしたシンプルな鉄則

manyC株式会社の陣内友哉さんは、中古パソコンECを売上20倍超に導いた経験をもとに、自社EC成長の要諦を解説しています。陣内さんが強調するのは「やらないことを決める」戦略の重要性と、「集客→接客→追客」という顧客行動に基づいたシンプルな運営です。

「誰に来てほしいか」を決め、ECサイトを店舗として扱い接客(UI/UX)を磨き、再来訪を設計する。ウルトラCのような秘策はなく、このサイクルを速く・正しく回すことこそが最短の成長ルートであると説いています。

マーケティングは「恋愛」と同じ3ステップ

合同会社コトウリの北村宏明さんは、難しく捉えられがちなマーケティングを「恋愛」に例えてわかりやすく解説しています。相手(顧客)が求めていない価値を一方的にアピールしても響かない点は、恋愛もマーケティングも同じです。

北村さんは、そのプロセスを「可視化(出会いのルートを知る)」「数値化(脈アリ度を測る)」「最適化(アプローチを調整する)」の3つの「化」に落とし込むことを提唱します。現状を客観的に把握し、具体的な打ち手を講じるという基本動作の重要性を再認識させてくれる内容です。

最後に

前編・後編にわたり、2025年のEC市場を読み解く専門家コラムを紹介してきました。

「越境EC」で市場を広げ、「CRM」で足場を固め、「フレームワーク」で迷いなく実行する。これらのテーマは、一過性のトレンドではなく、事業を太く長く育てていくための本質的な要素です。

コマースピックでは、今後もEC事業者の皆様の「判断の軸」となるような専門家コラムを発信してまいります。気になるテーマがあれば、ぜひ各記事の詳細もご覧ください。

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