ふるさと納税制度見直しで3社に1社が「事業縮小・廃業」を懸念 - 地域商社会が緊急アンケート調査を実施

一般社団法人ふるさと納税地域商社会(代表理事:株式会社パンクチュアル 守時健)は、政府・与党が検討しているふるさと納税制度の見直し(募集費用の上限引き下げ、高額所得者の控除上限設定等)について、地域経済への影響を測定するための緊急アンケート調査を実施しました。

同会は「自治体が地域のために自由に活用できる財源を拡充する」という国および総務省の基本的な趣旨に深く賛同しており、これまでも制度の適正な運用推進に取り組んできたとしています。

一方で、今回の制度改正の内容次第では、地域に還流する資金総額そのものが大きく減少し、結果として返礼品を提供する地域事業者の売上や雇用に深刻な影響を及ぼす可能性があることを強く懸念していると表明しています。

この懸念を検証するため、全国の事業者に「現在の状況」や「制度改正で生じうる影響」を問う調査を実施したところ、35.5%の事業者が「廃業・倒産または事業縮小」の懸念を抱いていることが判明しました。同会は、制度の趣旨である地方創生・地域産業振興の観点から、拙速な制度縮小につながる改正に懸念を示し、国に対して慎重な議論と対応を求めています。

調査結果 3社に1社が「事業縮小・廃業」を懸念

同会会員が連携する全国41都道府県の返礼品提供事業者(n=1,000社)を対象とした最新調査により、制度改正が単なる「自治体の減収」にとどまらず、地域の雇用と産業基盤を直撃する実態が明らかになりました。

制度変更が続いた場合の事業継続への影響

事業存続の危機として、35.5%が「縮小・廃業」の可能性があると回答しています。

事業継続への影響アンケート結果

「廃業・倒産の可能性がある」と答えた事業者は6.9%、「事業縮小の可能性がある」は28.6%となっており、合計で35.5%の事業者が経営規模の縮小や存続の危機を訴えています。

制度変更が続いた場合の従業員雇用への影響

雇用については、29.5%の事業者がネガティブな影響を予測していることがわかりました。

雇用への影響アンケート結果

「解雇・雇用調整の可能性が高い」と答えた事業者は10.5%、「可能性がある」は19%となっており、合計で29.5%が雇用への悪影響を懸念しています。このことから、地域の貴重な雇用維持機能が損なわれる恐れがあると同会は指摘しています。

背景 なぜこれほど深刻なのか?(重要性と売り上げの比率)

深刻な影響が出る背景には、ふるさと納税が地域事業者の「事業の大きな支え」となっている実態があるとされています。

現状のふるさと納税の売上の経営に対する重要度

経営への重要度について、43.1%が「重要」と回答しています。

経営重要度アンケート結果

「非常に重要」と回答した事業者は27.5%、「重要」は15.6%となっており、「非常に重要」と「重要」を合わせると、約半数(43.1%)の事業者が、ふるさと納税を経営上の重要基盤と位置付けていることが明らかになりました。

ふるさと納税が年間売上に占める比率

売上依存度については、3割以上の事業者が売上の5%以上をふるさと納税に依存しているという結果が出ています。

売上依存度アンケート結果

33.6%の事業者が「5%以上」と回答しており、中には30%以上を依存する事業者(合計9.5%)も一定数存在しています。この売上が失われることは、経営にとって致命的な影響を与えるとされています。

「5%以上〜10%未満」の事業者は12.8%、「10%以上」は合計で20.8%となっています。

回答者属性 影響を受けるのは「地域の小規模事業者」

今回のアンケート回答者の属性からは、本制度が地方の小規模な一次産業事業者に深く浸透している実態が浮き彫りになったと報告されています。

回答者の従業員数

返礼品事業者は地域を支える20名以下の小規模事業者が中心となっています。

従業員数アンケート結果

回答者の73.7%が従業員数20名以下の小規模事業者(1〜5名:47.9%、6〜20名:25.6%)であり、制度変更による事務負担増や売上減の影響を吸収する体力が乏しい層が中心であることが示されています。

回答者の業種

地域の食を支える一次産業が約26.4%を占めているという結果が出ています。

業種アンケート結果

業種別では、農業・畜産・水産が25%以上を占めており、食品加工(16.6%)を含めると、地域の「食」を支える事業者が40%強となることがわかりました。

国に対する5つの要望

アンケート結果および地方の実情を踏まえ、同会は国に対し、以下の5項目を強く求めています。

①地方・事業者への影響評価と丁寧な合意形成

制度改正に先立ち、自治体財政だけでなく、返礼品提供事業者の売上・雇用・投資・一次産業の持続性等への影響を定量・定性で示し、地方自治体及び現場事業者との意見交換を実施することを要望しています。

②募集費用の「一律圧縮」に反対し、地域産業を守る設計へ

地域雇用への打撃となる「一律引き下げ」ではなく、地場産品への特例や、地域内循環・雇用創出を評価する仕組みなど、メリハリある設計を求めています。

※構造的な「しわ寄せ」の懸念

経費には「地域外への手数料」と「地域への実務経費」が混在しています。特にポータルサイト手数料率が高止まりしたまま総枠が削減されれば、しわ寄せは全て「地域事業者」へ及ぶことになります。これは事実上、返礼品3割基準を形骸化させ、地方創生に逆行するとの懸念が示されています。

③制度趣旨に反する返礼品の是正は、狙い撃ちで行うこと

輸入品加工等の趣旨逸脱へのルール厳格化など、ターゲットを絞った是正措置を優先し、真面目に取り組む地方の産業振興に資する返礼品群を弱体化させないことを求めています。

④高額所得者への控除上限は、制度全体の縮小に接続させないこと

寄附市場全体の縮小を通じて地方と事業者に打撃が及ぶことがないよう、地方側の影響試算と対策(経過措置・段階導入・代替措置)を併せて示すことを要望しています。

⑤制度の安定運用(頻繁な変更の抑制)と十分な経過措置

頻繁な改正は、在庫・投資回収・雇用計画に深刻な悪影響を与えるとして、制度変更を行う場合は、十分な周知期間・複数年の経過措置を確保し、頻繁な変更を避けることを求めています。

経費上限4割に対する構造的な懸念

今回の改革案にある「経費上限4割」は、人件費や材料費が高騰する現状において、事実上「返礼品の調達費」以外に削減の余地がなく、地域の生産者を圧迫することになると指摘されています。その結果、返礼品の魅力(還元率)が低下して市場が大幅に縮小し、地域に回る資金も減少するとされています。これは、地方創生や地域産業、雇用を守るという本来の目的と逆行する結果となりかねないとの懸念が示されています。

さらに、還元率の低下は低所得者層(一般利用者)の「ふるさと納税離れ」を招くとされています。結果として制度に残るのは高所得者のみとなり、是正を目指したはずの「高所得者優遇」とは真逆の状況を生むことが予測されています。

地域経済効果の実態と地域商社の役割の再評価

メディア等で「寄附額の50%しか地域に残らない」といった表現がなされることがありますが、実態とは大きく異なるとしています。

地域経済効果の実態

地域への実質的な還流: 自治体に直接残る財源に加え、返礼品は地域事業者が生産・加工するものであり、送料についても地域内の雇用や関連産業を通じて経済効果を生んでいるとされています。これらを総合的に捉えれば、寄附額の8割以上が地域経済に還流していると評価することが妥当であり、実際にそのような地域内経済効果を示す研究結果や分析も数多く存在していると指摘されています。

地域商社の役割: 同会は、地域商社(中間事業者)の役割についても、単なるコストではなく、地域事業者支援や人材雇用、他分野への再投資を通じて地域経済の循環を生み出す存在として位置づけられるべきだと考えていると表明しています。

以上の観点から、地方創生の理念を損なうことなく、地域産業と雇用を守り、持続的な制度運営を実現するため、実態に即した慎重な制度設計と安定的な運用を強く要望しています。

今回のアンケートへの地域事業者のコメント抜粋

今回のアンケートでは、度重なる制度変更に対する疲弊や、事業存続への不安、そして地方創生の理念と逆行する動きへの憤りの声が多数寄せられたと報告されています。

事業継続・雇用への切実な懸念

・毎年コロコロと制度が変わり、設備投資も事業計画も立てられません。もう少し落ち着いた制度であってほしいです

・ふるさと納税での収入を見込んで設備投資を行っています。制度が変わると回収できず、廃業の恐れが大いにあります

・冷凍庫建設、作業場の拡張、人の採用など、何年もかけて取り組んでいます。1年単位での急な変更には対応が難しいです

・雇用対策の一部を担っています。縮小されれば、雇用に影響が出てくるのが怖いです

・弊社は自社工場で製造を行っています。一生懸命にやっている会社が損をしない仕組みになることを期待します

・ふるさと納税制度で忙しくなった部分を福祉の方々に委託したり、パートさんの増員をしてきました。また今まで地元でしか販売してなかったものを全国へ発送することにより、たくさんの方々から意見を聞くことができました。今後の展開に不安があります

・人材が首都圏に流れ、収入を生む財源が減ってる中でふるさと納税は地方にとって大事な財源であります。また、商品の発信力や開発力が弱まると懸念があります

生産者からの声

・今年から参加している地方の小さな農業法人です。米価格が高騰する中でも、この制度のおかげで適正価格で販売できています。地域の情報発信の一つでもあり、利用者が減るような変更は止めてほしいです

・制度のおかげで、農家からの買い付け価格が高値で安定し、今まで流通しにくかった『訳あり品』も買い付けることができています。農業主体の地方には重要な制度です

・ふるさと納税によって雇用と生まれて新たな地場産品も増えています。地方のこだわりのモノづくりをしている会社にとって、ふるさと納税は全国の人と繋がりを持てる重要な市場となっています。当社もふるさと納税を通じてネットショップのリピーターになったり、実店舗まで来てくれたり、顧客と中小企業企業をつなげてくれています

地方創生・制度意義について

・震災後の復興には、"被災地"というマイナスな情報から知られた地域であったと思いますが、ふるさと納税があったからこそ、"被災地"だけではない、たくさんの魅力がある場所なんだと伝える事ができたんだと思います

・地方活性化がテーマのはずが、引き締めは地方衰退を加速させるだけです。地方が望まない改正は、政策と逆行しています

・地方が自らの魅力と努力で寄附を集め、福祉や産業振興に還元できる大切な仕組みです。制度のおかげで地方が活性化している事実を正しく評価すべきです

・ふるさと納税は、今となってはなくてはならない制度です。これ以上の規模縮小は、地方にとって大変にしんどいです

・国民に浸透しつつある寄付という文化が根付いてきているところに今回の制度案は、寄付離れが懸念されます

・ふるさと納税という制度によって、今まで注目されてこなかった地方都市の活性化に繋がりました。規制することで納税額が減少し、返礼品事業者にも大きな影響が出るので、このような規制はしないでほしいです

是正のあり方についての提案

・制限するべきは、地域の産品ではなく、輸入品を加工しただけの商品群ではないかと思います

・単なる一律引き下げではなく、『雇用創出』や『産業振興効果』を評価軸に加えた制度設計が必要だと感じます

・制度を変えると色々と混乱するのでなるべく控えてほしいです

・寄附自体が下がってしまっては地域に残るお金も減ってしまうのではないでしょうか。制度変更が短期間で多いのが、不安です

調査概要

1-1. 調査期間
2025年12月6日~16日

1-2. 調査機関(調査主体)
自社調査

1-3. 調査対象
全国のふるさと納税の返礼品出品事業者

1-4. 有効回答数(サンプル数)
1,000件

1-5. 調査方法(集計方法、算出方法)
インターネット調査

(一社)ふるさと納税地域商社会について

(一社)ふるさと納税地域商社会は、ふるさと納税制度の健全な運用、啓蒙活動を通じて「ふるさと納税で地方を元気に!」を掲げ活動しています。全国18団体が加盟しており(2025年11月現在)会員企業におけるふるさと納税サポート自治体数は179自治体を数え、令和6年度の取扱寄附額は1,100億円を超えているとのことです。

出典元: 一般社団法人ふるさと納税地域商社会 プレスリリース

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