
本記事では、消費者庁の「令和5年版 消費者白書」(以下「消費者白書」)をもとに、高齢者におけるインターネット通販のトラブルの実態について解説します。顧客の年齢層が高めのEC事業者は、お客様がどのような点を不安に感じているかの参考になるでしょう。
なお、消費者白書では、「消費者意識基本調査」および「消費生活意識調査」の調査結果に基づいて、「消費者問題の動向と消費者の意識・行動」と「消費者政策の実施の状況」についてまとめられています。全世代の消費者の意識を知るために参考となるデータも多く掲載されているので、消費者庁HPで公開されている資料もぜひ一度確認してみてください。
参照情報:消費者庁HP「消費者白書等」
この記事の目次
高齢者のインターネットおよびネット通販の利用状況
高齢者におけるインターネット通販のトラブルを考える前提として、そもそも「高齢者」と分類される65歳以上の人は、インターネットやインターネット通販をどの程度利用しているのでしょうか。
「消費者意識基本調査」(2022年度)で「普段、パソコンやスマートフォン等でインター ネットをどの程度利用しているか」という質問に、「利用している」*1と回答した人の割合は、全体では78.8%、65歳~74歳では63.3%、75歳以上では33.1%となりました。
*1:「ほとんど毎日利用している」、「毎日ではないが定期的に利用している」または「時々利用している」の計
この結果から、高齢者のインターネット利用率は全体に比べると低いものの、65歳~74歳と75歳以上で差があることがわかります。
65歳~74歳では、全体に比べれば利用率が下がるとはいえ、6割以上がインターネットを利用しており、高齢者だからインターネットを利用しないということはありません。一方で75歳以上のインターネット利用率は3割ほどにとどまり、インターネットがあまり利用されていないことがわかります。
なお、「利用している」と回答した人の中で「ほとんど毎日利用している」と回答した人の割合も、年齢が高くなるにつれて下がっています。
また、「利用しているもの」は何かという質問で、もっとも利用率が高かったのが「情報収集(検索、閲覧)」です。65歳~74歳までが89.3%、75歳以上は84.3%となりました。次いで利用率が高かったのが「商品・サービスの予約や購入」で、65歳~74歳までが53.2%、75歳以上は44.9%となっています。
「利用しているもの」は全16項目(「その他」「無回答」除く)あり、全体の傾向と比べると、高齢者のインターネット利用は限定的です。そのなかで、「情報収集(検索、閲覧)」「商品・サービスの予約や購入」は、比較的よく利用される用途だといえます。
コロナ禍でインターネット通販の利用率が拡大

インターネット通販の利用はもともと増加傾向にありましたが、特にコロナ禍において大きく拡大しました。
総務省の「家計消費状況調査」では、二人以上の世帯におけるインターネットを利用して財やサービスの注文をした世帯の割合(以下「ネットショッピングの利用率」)が調査されています。
この調査で世帯主の年齢別の推移を見ると、2018年~ 2022年までの5年間で、全体では39.2%から 52.7 % に、65歳から74歳までは25.8 %から39.9%に、75歳以上は14.9%から25.6%にそれぞれ増加しています。また、2018年以降の経年変化をみると、2020年に他の年と比べて大きくネットショッピングの利用率が上昇しました。これは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が影響していると考えられます。
なお、高齢者が世帯主の世帯では、2021年以降も利用率が上昇を続けています。
高齢者のインターネット通販の消費生活相談

消費生活白書によると、2022年の高齢者の「インターネット通販」の消費生活相談件数は約5万件で、近年最多となっています。これを年齢区分別に見ると、65歳~74歳までの相談件数が高齢者全体の約3分の2を占めています。
前述の通り、高齢者のインターネット利用率は、65歳~74歳までと75歳以上で大きな差があり、75歳以上ではそもそもインターネットを利用する人が少なくなるため、インターネット通販の消費生活相談件数も少ないのです。

消費生活相談件数の対象を「通信販売」に広げ、「インターネット通販」 と「インターネット通販以外の通信販売」で分けて見ると、65歳~74歳までは「インターネット通販」の割合が高く、75歳~84歳まではそれぞれ同程度の割合、85歳以上は「インターネット通販以外の通信販売」の割合が高くなっています。
インターネット通信販売以外にも、「店頭購入」「訪問販売」の消費生活相談の割合も、年齢が高くなるほどに増えています。つまり、高齢者に分類される年代の人のなかでも、年齢によってインターネットやネット通販の利用率には差があり、消費者トラブルを防ぐためには、それぞれの消費形態に合わせた対策や取り組みが必要だということです。
また、インターネット通販に携わる事業者が、高齢者に快適な購買体験を提供するためには、インターネット通販の利用率が高い65歳~74歳を中心として考えればよいといえます。
定期購入の消費生活相談が多い

インターネット通販を含む通信販売において、「定期購入」に関する消費生活相談件数は、2022年は7万5,478件と過去最多になっています。そのなかでも、65歳以上の相談の割合が33.3%と上昇しているのです。
2022年の高齢者における定期購入の相談件数は、前年の約2倍に急増し、過去最多となっています。特に相談件数が増えているのが、化粧品や健康商品の定期購入トラブルです。
なお、2022年の「定期購入」に関する相談におけるインターネット通販の割合をみると、65歳~74歳までが約8割を占めています。年齢が上がるほどその割合は減少し、85歳以上では2割になります。一方で、85歳以上では、主にテレビショッピングでの定期購入トラブルが多いです。
定期購入に関するトラブルは、消費者が定期購入であることを認識しないまま注文した、解約したいのに解約ができないなどのトラブルが多くなっています。
定期購入商材を扱うECサイトが信頼性を高めるためには、定期購入である旨をわかりやすく表示する、解約に関する条件や手続きをわかりやすく説明する、といった対応が求められるでしょう。
高齢者が消費トラブルに巻き込まれる要因
高齢者がインターネット通販のトラブルに巻き込まれる要因として、消費生活白書の調査から、次の点があげられます。
健康を優先したい、健康への不安
「消費者意識基本調査」(2022年度)で、日々の暮らし方に対する考え方について聞いたところ、「健康を優先した生活をしたい」に「当てはまる」*2と回答した人の割合は、65歳~74歳までが76.3 %、75歳以上が84.1%でした。年齢層が高いほど「健康を優先した生活をしたい」と考えている人が増えることがわかります。
また、「あなた自身の現在や将来への不安や心配」を聞いたところ、「現在」の「筋力や体力の低下」「もの忘れ等の認知機能の低下」「糖尿病やがん等の病気」(以下「健康に関連する高く、特に50歳代または60歳代でもっとも多くなっています。
*2:「とても当てはまる」または「ある程度当てはまる」の計
前述の化粧品や健康商品の定期購入トラブルが増えている背景として、こういった高齢者の健康でいたいというニーズ、健康に対する不安もあると考えられるでしょう。
購入前の事前調査
「消費者意識基本調査」(2022年度)で消費者の行動について聞いたところ、「買う前に機能・品質・価格等を十分に調べる」について「当てはまる」*3と回答した人の割合は、65歳~74歳までが55.4%、75歳以上が 48.6%で、年齢層が高くなるほど低くなっています。
*3:「とても当てはまる」または「ある程度当てはまる」の計
特に、「当てはまる」のうち「とても当てはまる」と回答した人の割合は年齢層による差が大きいです。もっとも高いのが20歳代の34.5%に対し、65歳~74歳まででは13.7%、75歳以上では10.0%にとどまっています。
また、インターネット通販で「気を付けていること」として、「複数のサイトから情報を集め、信頼できるか確認する」「口コミや評価を判断材料にする」についての質問には、全体に対して高齢者は「当てはまる」と回答した割合が低くなっています。
具体的には、「複数のサイトから情報を集め、信頼できるか確認する」について「当てはまる」と回答した割合が全体で88%だったのに対し、65歳~74歳まででは61.6%、75歳以上では49.2%でした。「口コミや評価を判断材料にする」については、全体が84.6%だったのに対し、65歳~74歳まででは63.7%、75歳以上では42.5%となっています。
これらの調査結果から、高齢者はインターネット通販における購入前の調査が十分でなく、トラブルになりそうなECサイトや商品に気づかずに利用してしまうというケースが、他の世代よりも多い可能性が考えられます。
消費者トラブルへの危機意識
「消費者意識基本調査」(2022年度)で「消費者トラブルへの不安の程度」の質問では、「不安を感じる」*4との回答が全体では73.6%だったのに対し、65歳~74歳まででは67.5%、75歳以上では53.3%でした。年齢が高くなるにつれて割合が低下しています。
*4:「非常に不安を感じる」「不安を感じる」「少し不安を感じる」の計
消費者トラブルへの不安がないということは、消費者トラブルへの警戒心の薄さともいえ、消費者トラブルに遭いやすい状態になってしまっているのです。
また、総務省「国勢調査」によると一人暮らしの高齢者が増加しています。これは今後も続くと推測され、孤独・孤立した環境にいる高齢者が増えることで、消費者トラブルが起きても顕在化しにくくなるおそれがあります。
【まとめ】「今」の顧客に合わせた信頼性の向上が必要
真面目にインターネット通販に取り組んでいるEC事業者にとって、消費者トラブルはあまり縁のないことのように思われるかもしれません。
しかし、消費者トラブルの実態から、消費者がどのようなことに不安を感じ、どんなトラブルの経験があるのかを知ることにより、そういった不安をなくし、トラブルにつながらないECサイトを作ることで、顧客からの信頼性を高めることができます。
また、インターネット通販での消費者トラブルが増加すると、インターネット通販の利用を控えるという動きも出てくるおそれがあります。それぞれのECサイトが信頼性を高め、安心して利用できるECサイトを増やすことは、EC業界全体にとって重要なことです。
高齢者でもインターネットやインターネット通販の利用は増えています。そして、時代とともに顧客の意識や行動は変化します。本記事で紹介したような情報も参考にしながら、顧客の今の実態に合わせた商品やサービスを提供していきましょう。
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