
多くのマーケターが、AI化が進むデジタルマーケティング環境で悩みを抱えています。AIへの依存度が進むほど、人間が介在する余地は減っていく。5年後、10年後、自分はマーケターとして仕事ができるのか?当然の悩みです。かなりの確率で各企業に必要とされるマーケターの数は減るはずです。AI主導のマーケティングで、パフォーマンスに差を生むことも困難になるでしょう。今回は、このような課題を乗り越えるため、これからのマーケターに必要とされる5つの資質についてお話しします。
堀内 公博
株式会社データドリブン・コンサルティング
代表取締役
一橋大学院在学中に楽天へ参画し、同社初のマーケティング組織を立ち上げるなど、急成長期のマーケティング基盤構築を主導。大手ゲーム会社ではグローバルマーケティング責任者として世界展開を牽引し、歴代最高益の達成や累計7億ダウンロード超のヒット創出に貢献。株式会社トライトではCMOとしてIPOと収益性向上を実現。現在は、2024年に設立した株式会社データドリブン・コンサルティングで、上場企業からスタートアップまで幅広くマーケティング・経営戦略を支援する。
AI化による変化は今に始まったことではない
5つの資質の説明をする前に、マーケターが直面する現在のマーケティング環境について整理します。確かに、この数年のデジタルマーケティングの環境変化は大きなものであることは確かです。GoogleやMetaの広告商品はAI、機械学習の活用範囲が広がり、AIに目標とターゲットデータを渡せば、ほぼ自動的に集客をしてくれます。さらに、ChatGPTの登場以来、消費者の購買行動も明らかに変化しています。それまで欲しいものを探すのに検索を利用していたのが、生成AIに質問する。トラフィックが大幅にシフトしています。
ただし、私のように、2000年代初頭からマーケティングに関わってきた人間からすると、これらの変化は大きな変化には違いありませんが、初めての経験とは言えません。そもそも、デジタルマーケティングへのAIの導入が始まったのは2000年代の前半まで遡ります。精度の差はあれ、20年以上マーケターはいかにAIを使いこなすかを考えてきました。
一方、生成AIの誕生によるWebトラフィックの変化も、これまで体験してきた変化の一つにすぎません。そもそも2000年代初頭には、SNSもYouTubeもTikTokも普及していないか、存在していませんでした。20数年の間に、これらのサイトが誕生し、普及することでトラフィックは変化し、マーケターはそれに対応してきたのです。
PDCAとデータドリブンで変化に対応する
マーケティング環境の変化に対応するために重要なことは、2つあります。ひとつは、PDCAの精度と回転速度を徹底的に高めること。ふたつめは、その実現のために、徹底的にデータドリブンであることです。PDCAもデータドリブンもマーケターには目新しい言葉ではありません。ただし、PDCAを行うことや、データドリブンを取り入れることが重要なのではありません。
環境変化に誰よりも素早く、正しく対応するためには、PDCAを「データ」に基づいて、「精度」と「回転速度」を「徹底的に高める」ことが不可欠です。それにより、いち早く環境の変化を認識でき、その対策を打てるようになります。重要なのは、単純に情報収集することではありません。精緻なマーケティング活動を継続することで、変化を敏感に感じられるようにすることなのです。
多くのマーケターは、マーケティングで成功するためには、最新の技術や最新のツールを導入することが必要だと誤解しています。しかし、情報取集を行い、最新の技術を導入しても競合と比べてマーケティングで競争優位性が築けていないという体験をしたことがある人も多いと思います。
このようなスタンスで取り組んでいるマーケターに欠けているのが、PDCAとデータドリブンの徹底です。なぜなら、どんなに優れた技術やツールであっても、それを有効に活用するためには、導入後にオペレーションに落とし込み、改善し続けることが不可欠だからです。PDCAを継続的に回し、データを精緻に観測しているからこそ、市場環境の変化を数値の変化として早期に捉えることができます。そして、変化に対応する施策を実行し、改善をやり切ることで、初めてその対応を成果につなげることができるのです。
マーケターに必要な5つの資質
ここまで理解できると、本題のデジタルマーケターに必要な5つの資質とは、必然的に、改善をやり切るマーケターになるための資質となります。具体的には次の5つです。ちなみに、重要度順に並んでいます。
- 論理的に考える力がある
- 数字を見ることに拒否感がない
- 真面目で、継続して努力できる
- 責任感があり、自身の行った業務の結果にコミットできる
- 向上心が強い
論理的に考える力がある
PDCAの精度と回転速度を極限まで高めるために必要なのは、一つひとつのPDCAから何を学び、次の改善点が見つけられるかです。これを愚直に、継続できるかどうかが何よりも重要です。この実現のために必要なのが、論理的に考える力です。D(実行)の結果得られた、C(検証)での検証データについて、徹底的に論理的に考えることが重要です。
ちなみに、論理的に考える力を論理的思考力としていないのには理由があります。論理的に考える力には、単なる思考力だけでなく、さまざまな誘惑を排除して、Cの検証データからA(改善)を行うという意志の力も含まれます。企業で仕事をしていると、さまざまな誘惑があります。上司や関係者の意向への忖度、同僚の成功事例など、論理的な意思決定をしない理由がそこかしこに転がっています。それらを排して、徹底的に論理的に考え抜く意思を強く持てることも重要です。
数字を見ることに拒否感がない
PDCAとともにデジタルマーケターに必要なのがデータドリブンです。論理的に考える際に、最も重要な素材がデータです。現代のマーケターの日常は、PDCAを行い、Cの検証データと徹底的に対話することの繰り返しです。「数字は嫌いです。マーケターとはゼロイチの発想力です。」というマーケターをたまに目にしますが、残念ながらこの姿勢では現代のマーケティングにおいて成果を出し続けることはできません。運よく上手くいくことはあっても、散発的で、成果を「出し続ける」ことはできません。
一方、統計スキルが高いと表現していない点には注意が必要です。スキルとしては小学校低学年で習った四則演算程度の数学的スキルで特に問題ありません。ROAS、CTR、CVR、LTV、CPAなどすべて四則演算のみで十分対応可能です。重要なのは、特殊な計算スキルではなく、目の前の数字から逃げずに、数字を基に徹底的に考え抜くことです。
真面目で、継続的に努力できる
論理的に考える力があることと、数字に拒否感がないことは、優れたマーケターになるための必要条件です。しかし、2つの条件をクリアした人が本当に優れたマーケターに成長できるかどうかの分岐点は、この真面目で、継続的に努力できるかにかかっています。
この条件をみて、「普通」と思った読者も多いかもしれません。しかし、多くのマーケターの育成に関わってきた立場でいえば、真面目で、継続的に努力ができることは才能であると私は考えています。それっぽく振る舞える人はいくらでもいます。しかし、それを突き詰めて、何年も継続し続けられる人は、実はそれほど多くありません。
私はよくデジタルマーケティングをシングルヒットと送りバントで1点を取る野球に例えます。世の中の優れたマーケターのイメージは、クリエイティブな視点やアイディアで大ヒット商品を生み出す満塁ホームランのイメージです。しかし、ECのような継続的にサービスを提供し続けるデジタルビジネスにおいて重要なのは、三振か満塁ホームランかのようなマーケティングではありません。PDCAを繰り返すことで生まれる膨大なデータを丁寧に読み解き、改善をひとつずつ積み重ねていく。これをどれだけ愚直に、一貫性をもって継続できるか。そのためには、中途半端ではなく、真面目に、継続して努力をすることを徹底できることが成否を分ける最大のポイントになります。
責任感があり、自身の行った業務の結果にコミットできる
PDCAは必ずしも成功の連続ではありません。特に、誰も体験したことのない優れたマーケティングを行うほど、進む道は未知のものであり、失敗を伴います。人間だれしも失敗はしたくはありません。成功に光を当て、失敗からは目をそらしたいものです。
しかし、優れたマーケターにとって重要なのは、失敗からどれだけ学びを得られるかです。失敗の検証データに真摯に向き合い、失敗の原因を理解し、改善のヒントを得る。決して失敗から目をそらさず、会社のコストを使って得た失敗データを、価値のあるものに変えることが求められます。
その実行のために必要な資質が、結果にコミットする意志の強さです。未知の領域を突き進みながら、その先に必ず結果が出ると信じて、成功するまで必ずやり抜く意思が必要です。
多くのマーケターが成果を出せない最大の理由は、中途半端にやっただけで、上手くいかないと諦めてしまうからです。これは精神論ではありません。PDCAとは突き詰めるほど必然的に失敗の比率が多くなります。その状況で、少し上手くいかないからと言って、次のよさそうな方法を探す。これでは、どのような手法を試してもうまくいきません。重要なのは、一度始めたら、これ以上改善できないところまで、やり切ることです。それなくして、厳しい競争の中で成果を出すことはできないのです。
向上心が強い
最後の資質が向上心です。デジタルマーケティングの進化は文字通り日進月歩です。前述の通り、私がマーケティングを始めた20数年前は、SNSもYouTubeも誕生していないか、普及していませんでした。ただ、これらは生き残った成功事例でしかありません。その数十倍、数百倍の失敗事例が浮かんでは消えるのを繰り返してきました。
優れたマーケターは、失敗するかもしれない技術やツールについても学び、試し、評価することをひたすら繰り返す必要があります。それをサボった瞬間に競合に差を付けられ、キャッチアップに何倍もの時間とリソースが必要になります。
日々進歩する技術に対応し続けるために必要なのは、常に学び続ける向上心です。デジタルマーケティングの世界に「昔取った杵柄」は存在しません。何年、何十年経験しても、常に新しい情報を学び続けなければなりません。その向上心を持ち続けられる人こそがマーケターとして成果を出し続けられるのです。
必要な資質を理解し、欠点を補う工夫をする
ここで挙げた5つの資質は、マーケティングがどんなにAI化し、たとえ検索トラフィックが大幅に生成AIに移ったとしても重要性は変わりません。なぜなら、私は20年以上多くのマーケターを見続けてきましたが、生き残っている人材の多くは、この5つの資質の多くを持っているからです。
もちろん、5つの資質を完璧に持っている人ばかりではありません。私などは、自分で最も重要だと説明した継続して努力する資質が決定的に足りていません。しかし、そのようなときに重要なのは、その欠点を補うための方法を自分で工夫し、理解しておくことです。注意してくれる人を作っておく、欠点を補ってくれる人とチームを組むなど、方法はいろいろあるでしょう。是非、いろいろ工夫してみて下さい。
欠点を補う工夫をするためには、ここで挙げた5つの資質を正しく理解することが全ての出発点です。最新のマーケティング事例は数か月もたてば陳腐化します。それよりも重要なのは優れたマーケターになるために必要な基本的な条件を正しく理解し、実践することです。AIはマーケターの仕事を変えます。しかし、変化に適応し続ける人材を置き換えることはできません。本当に重要なのは、新しいツールを知ることではなく、変化に対応し続けられる自分自身の土台をつくることです。その土台こそが、ここで紹介した5つの資質なのです。
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