緻密な計画より「D(実行)」を回せ。泥臭いテスト至上主義と「勝てる隙間」の見つけ方【まつ毛美容液「EMAKED」成長の裏側 第1回】

コマースピック読者の皆様、はじめまして。水橋保寿堂製薬株式会社で取締役を務めております、村井信也と申します。

当社のまつ毛美容液「EMAKED(エマーキット)」は、現在でこそ多くのお客様にご愛顧いただき、業界トップシェアを獲得するに至りました。しかし、決して最初から順風満帆だったわけではありません。本連載では、後発であったEMAKEDがいかにして市場に挑み、どのような壁を乗り越えてきたのか、その泥臭い軌跡を全5回にわたってお届けします。

第1回となる今回は、私が入社した頃のリアルな状況から、市場参入の考え方、そして泥臭いテストの裏側についてお話しします。

この記事の執筆者

村井 信也
水橋保寿堂製薬株式会社
取締役

越境ECの立ち上げからExitまでを経験後、化粧品D2C領域へ。市場の熱量を最大化させる仕掛けづくりに長け、大手ECプラットフォームを一時ダウンさせるほどの反響を何度も再現。一過性のブームに終わらせず、10年かけて売上を20倍にまで引き上げる持続的な事業成長を実現した。「熱狂」を売上に直結させる実戦型マーケターとして、幅広い業種の売上拡大に貢献している。

水橋保寿堂製薬
https://mizu-ho.com/

「売れない商品」からのスタートと、混沌とした市場

私が入社したのは今からおよそ12〜13年前(2013年頃)のことです 。その時点では、すでにEMAKEDは発売されていたものの、リアクションが少なく、利益回収が難しい状況にありました。当時の主要ターゲットは、つけまつ毛などメイク文化の流行を気にする若い女性層に設定されていました。

当時のまつ毛美容液市場を振り返ると、通販領域やバラエティショップなどで販売される中高価格帯の競合は、ほぼ3社に限定されていました。一方でドラッグストアなどの店頭には、知名度の高いメーカーが1,000円台のプチプラ価格で販売していました。市場は「存在しそうで存在しない」状態であり、消費者の間では美容液の認知は広がりつつも「本当に伸びるのか」という確信がない状態でした。

さらにステルスマーケティングに対して法規制が進んでいない時代だったため、アフィリエイト報酬の良し悪しで比較サイトのランキングが入れ替わるなど、情報が錯綜していました。消費者はどの情報が「本当」なのか、疑心暗鬼に陥っていたのです。

大手がいない「ラーメン屋」の戦い方と、絶対的なプロダクトへの自信

市場はカオスでしたが、私には勝算がありました。それは、「自信のないものを一切お売りしない」という原価率を気にしない強い商品開発へのこだわりです。また、そのこだわりが結果としてあえて競合よりも高い価格設定にすることになり、高価格=良いものという直感的なブランディングを行う形に。事実さえ広めれば必ず勝てると見込んでいました。

市場への参入や戦い方において、私は独自の基準を持っています。私たちのような小規模な業者は、市場が存在するレッドオーシャンに飛び込むべきです。ただし、大手が強すぎるカテゴリーは絶対に避けなければなりません。資本力で勝てず、シェアを取ることも許されないからです。狙うべきは、中堅やベンチャー企業が大きなシェアを持っているカテゴリーです。

これは飲食業界に例えるとわかりやすいでしょう。カレーや牛丼の個人店を出すのは大手がひしめき合っていて至難の業ですが、ラーメン屋であればチェーン店が少なく大手がいないため、大きくなれるチャンスがあります。美容業界も同様で、超大手のナショナルブランドがいない領域であれば、十分に戦えるのです。

この「勝てる隙間」を見つけるため、私はお金を使う前の情報収集を徹底しました。大手のIR資料を読み込むのはもちろん、OEM業者や容器業者にまでヒアリングを行い、「どの会社がどれくらい作っているのか」をヒアリングすることで、市場の解像度を極限まで高めていきました。

ペルソナは捨てる。センスに頼らず、徹底した客観性で市場に問う

プロダクトには自信があったため、課題は明確にマーケティングにありました。そこで私は、初期ターゲットであった「若い女性層」という設定を疑うことから始めました。当時のEMAKEDの定価は5,000円程度。継続的にこの価格帯のスキンケアを購入・消費できる女性層は、私の経験的知見から「40代以上がメイン」だと確信していました。

ターゲット層を上へ引き上げるにあたり、広告のメッセージも大きく変えました。「まつ毛を盛る」という若い層向けの文脈から離れ、「朝の手抜きができる」「昔あった目力を取り戻す」といった、主婦層の目線に合わせたリアルな言葉を選びました。

この最適なターゲットやメッセージを見つける過程で、私はあえてペルソナを設計しません。なぜなら、私自身は化粧品の消費者ではなく、作り手の主観が入ったペルソナは結局『自分の都合の良い幻想』に過ぎないからです。マーケターの意思など、市場の前では無価値です。自分の『これは違う』という先入観を殺し、フラットに市場に問うことだけが正解に辿り着く唯一の道だと考えています。

そこで重視したのは、PDCAの「D(実行)」を増やすことです。ただし、D(実行)を増やす理由は、ダメなものを消し込む作業ではありません。コピー、クリエイティブ、媒体、オファー……これら無数の要素が一気に掛け合わさった瞬間にだけ見える『答え』があるからです。足し算や引き算で少しずつ改善するのではなく、膨大なテストの波から突如として現れる爆発的な反応を捕まえにいく。だからこそ、自分のセンスに頼らず、一見あり得ない組み合わせも含めて全てをテストし切る必要があるのです。

よく『このコピー一発で獲得率が劇的に上がった』という成功談を聞きますが、ビジネスの本質はそこにはありません。そんな魔法を期待するよりも、泥臭くテストを繰り返し、市場から返ってきた結果という『真実』を真摯に受け止める。クリエイティブな閃きよりも、徹底した客観性。 それが後発の私たちが勝つために必要不可欠なスタンスでした。

会話を生むネーミング「EMAKED(でかめ)」の仕掛け

最後に、EMAKEDというネーミングに込めた意図について触れておきます。この商品名は生粋のマーケターである当時の代表がつけたものです。お気づきの方も多いと思いますが、「EMAKED」は「でかめ(DEKAME)」の逆読みです。また、素直に読んでエマーキットと読める名前に放っていません。そこには、あえて読みにくくすることで検索回数を増やす狙いがありました。

例えば「エマーキッド」と言い間違えられることで、「それ、エマーキットだよ」「でかめの逆なんだよ」という会話が生まれます。この「会話が生まれる」ことこそが重要で、記憶に残りやすく、最終的にはお客様同士の口コミの輪を広げる効果をもたらします。最も効率の良いマーケティングは「名前で検索してもらうこと」であり、そのためのネーミング戦略がこの商品には組み込まれているのです。

泥臭いテストと、市場の隙間を突く戦略。これがEMAKEDの快進撃の第一歩でした。次回は、この商品をどのように流通させ、オンラインとオフラインのチャネルをどう使い分けていったのか、「配荷戦略」の裏側についてお話しします。

水橋保寿堂製薬
https://mizu-ho.com/

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