Jリーグのグッズ販売から「購買体験の最適化」を考える
この記事の執筆者

沼田 宗一朗(いぬゆな)
スマートシェア株式会社

フリーのWebライター・Webコンテンツサイト運用者として活動しつつ、自身のXアカウントで積極的に発信し、15,000超のフォロワーを獲得。2024年4月にスマートシェアにジョインし、CS・マーケティング責任者として500件以上のSNSキャンペーンをサポート。現在はXアルゴリズムの分析に注力中。

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スポーツ組織とコマース

毎度お世話になっております。スマートシェア株式会社の沼田宗一朗こといぬゆなでございます。今回コマースピックさんで『SNSが俺の財布を狙ってる』というテーマで記事を書かせていただきます。

突然ですがみなさん、スポーツはお好きですか?サッカーはお好きですか?Jリーグはお好きですか?

わたし、Jリーグのジェフユナイテッド市原・千葉を15年くらい応援しておりまして、競技面はまあ、勝ったり負けたり……ですが、スポーツ組織の“運営”という観点では、非常に示唆に富む分野だと感じています。特にここ数年のJクラブのグッズ販売や広報戦略には、「購買体験の最適化」という現代コマースに通じる思想が随所に見られまして、そういった要素を楽しみつつも試合に負けたらブチギレながら日々を過ごしております。

収益構造の中で進化する「グッズ」

まず基本的な数字から。2023シーズン、ジェフ千葉の売上は約31億9,700万円。このうち、物販収入は約2億7,600万円。スポンサー収入(17億円)に次ぐ、主要な収益源の一つです。

ただし、Jリーグ各クラブにおけるグッズ販売は、単なる「売上を立てる手段」として語り尽くせるものではありません。実際には、試合会場のブランディング、ファンとの心理的接続、SNSを通じた語られ体験の演出など、複数の目的がレイヤーとして重なっています。例えばこちら。

芸能人やキャラクターモノでもおなじみのフォトプロップスやアクリルスタンド系の商品ですね。「選手と一緒にお出かけして写真を撮る」というのはすでにちょっとした文化になっています。

ガチャ系の商品は、ファン・サポーター同士で交換する文化もあります。好きな選手が当たるまで永遠に回し続ける「自引き派」と呼ばれる人もいて、売上への貢献は半端じゃないのですが、交換を通じて交流が生まれるケースも多く、ロイヤリティ向上につながります。

ファン・サポーターにいくらアウェイ戦を観に行ってもらっても、入場料・現地のグッズや飲食売上などはホームチームのもの。ジェフには一銭も入りません。それでもこういったグッズを制作することで、ホーム戦だけでなくアウェイ戦にも遠征する方の熱量をさらに高める一助となります。

豊富な選択肢と「個別最適化」の思想

ジェフが2024年に何種類のグッズを発売したか数えてみたのですが、200種類以上ありました。普通に販売されるグッズが8割、受注生産系が1割、ガチャなどが1割という内訳です。

ユニフォームやタオルマフラーなどは、30人以上いる選手それぞれの背番号やネームを入れられる仕様になっています。基本的には自分が好きな選手、推している選手の番号を選ぶ人が多く、一種の個別最適化がされる仕組みです。

背番号だけではなく、Jクラブのグッズは、選択肢の幅が非常に広く、ファン・サポーターはその中から“自分の文脈に合うもの”を取捨選択しています。すべての人がユニフォームを買うわけではありませんし、応援タオルよりもマスコットのぬいぐるみに惹かれる人もいます。小さなお子さんがいればロンパースやキッズユニフォームを買うし、マウスパッドなど仕事や家で使う実用品を好む人もいます。

ちなみに僕は8年前くらいに半額に値下がりしてたから買った、チームカラーとロゴが主張しすぎず配置されたデザインの財布がお気に入りです。

買ったらSNSで「語る」

現代のコマースでは、購入後は「使う」よりも先に「語る」「見せる」行動が先行します。Nintendo Switch2なんて、買う前の抽選から当落をみなさん大いに語ってますし、メールの画面のスクリーンショットを何百枚見せられたかわかりません。当然ながらJリーグのファン・サポーターでもこの文脈は顕著で、SNS上では「グッズを買った」こと自体がコンテンツになります。

ここ数年のトレンドとして、マスコットの巨大ぬいぐるみ(80センチ~1メートルくらい)をアウェイ戦に連れていくという文化が挙げられます。あまりに大きいので、スタジアムに持ち込む場合は子供用のチケットを購入して1席をぬいぐるみ用で使用するよう案内しているクラブが多いほど。

この文化の始まりは、大分トリニータが2021年に行ったクラウドファンディング。その返礼品として送られた80センチ・5キロの「圧倒的ニータン」を持って全国のスタジアムを巡る大分サポーターが多数現れたことで、他のクラブもこのサイズのぬいぐるみを発売するようになり、連れ歩くサポーターが増え……という流れができあがっています。

この流れに乗ってジェフも巨大ぬいぐるみを発売しました。そもそもファンが“連れて歩く”前提で設計されたわけではないはずなんですが(マジでめちゃくちゃでかいし……)、ファン・サポーターそれぞれがグッズに物語性を付与していくというのも面白い現象だと思います。

ディズニーリゾートやUSJなど、テーマパークのグッズなども共通する部分がありますが、「ファングッズの機能は身につけることではなく、見せることにある」ということですね。

グッズ=関係性のインターフェース

もちろん、グッズ販売のメイン目的は売上を増やすことではあるんですが、グッズを通じて、ファン・サポーターとクラブの関係性を更新する体験を計算して設計できているかどうかは重要な点だと考えます。SNS・グッズ販売所(EC)・スタジアムそれぞれの体験をまたいだ統合的なUX構築が今後ますます求められるのではないかと。

愛するクラブのエンブレムが刻まれたグッズは、ただの装飾品ではなく、クラブを取り巻く関係性の参加証とも言えるのではないでしょうか。

買って終わりではなく、買ってからが始まり。「エモーション・マーケティング」とか「エモーショナル・コマース」なんて概念がありますが、その最前線にあるのがスポーツ・Jリーグのグッズ販売なのかもしれません。

スマートシェア株式会社では、SNSを活用したマーケティング・コマース施策について、無料相談を承っております。SNSを絡めた施策、ファンとのコミュニケーション設計などに関するお悩みがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。

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