
ホームセンター大手のコーナン商事株式会社(以下、コーナン商事)は、2025年4月11日付で「第4次中期経営計画(2026年2月期~2028年2月期)」を公表しました。
本計画は、次の第5次中計以降の成長を見据えた“基盤づくり”として位置付けられ、基本方針には「すべての経営活動をお客様視点へ転換すること」が掲げられています。
計画の中核には、事業の軸となる7つの重点戦略が据えられています。本記事では、それぞれの戦略の背景や取り組み内容について、IR資料に記載された事実に基づき整理します。
この記事の目次
① 出店戦略:3年間で86店舗を新規展開

今後の成長を牽引する柱として、出店によるエリア拡大が掲げられています。コーナン商事は、2026年~2028年の3年間で86店舗を新たに展開する計画です。
特に職人向け業態である「PRO業態」の積極出店を主軸とし、注力エリアを明確にしたドミナント戦略のもと、既存業態とのハイブリッド展開や新業態店舗の導入も検討されています。また、出店判断の基準も見直され、投資効率を高めるため居抜き物件の活用が進められる方針です。
この出店戦略による売上への貢献は、3年間で累計600億円を見込んでいます。
② 商品・価格戦略:PB構成比の引き上げで収益性を改善

粗利益率の改善に向けた中核施策として、プライベートブランド(PB)商品の強化が掲げられています。第4次中計では、PB売上構成比を現状の約37%から6ポイント引き上げ、約43%まで高めることを目指します。
そのために、SKU数・在庫高・回転率の最適化を図りながら、3,000SKU以上の商品改善・開発を計画。開発体制ではカテゴリ別の方針を設け、NB・PBの構成最適化を図るとともに、PBの価値訴求と販促活動を一体で推進していく体制を構築します。
店舗での売場展開、販促計画との統合により、「お客様と共創するPB戦略」を具現化する構えです。
③ EC×店舗戦略:相互送客を前提としたEC拡大

コーナン商事は、ECと店舗を独立した販売チャネルではなく、「相互送客による連携チャネル」として再定義。第4次中計では、法人向けやリフォームを中心に、自社ECを重点的に強化するとのことです。
自社ECにおけるBtoB-ECの売上を102億円(2025年実績)から145億円(2028年)へ、BtoC-ECの売上を157億円から180億円へと増加させることを目標として掲げています。
同社は、自社チャネルを中心としたEC構築を通じ、モール依存からの脱却も目指しています。
④ ファン化戦略:アプリ会員数300万人を目指す

会員基盤の拡充とロイヤル顧客の創出に向けて、コーナン商事はアプリ会員の拡大を戦略の柱に据えています。2025年時点で50万人を超えた会員数を、2028年までに300万人へと伸ばすことを目標としています。
また、年間購入金額などに応じたステージ制会員プログラムの導入も検討。顧客ごとのニーズに応じたプロモーション展開を可能にし、来店頻度や購買単価の向上を図る計画です。
アプリ会員の拡充は、ECとリアル店舗双方の送客導線としても活用される見込みです。
⑤ 物流戦略:拠点整備と一元管理で供給体制を強化
多店舗展開と商品多様化に伴い、物流体制の再構築が進められます。主な施策には、物流経路の一元管理、需要予測に基づく適正在庫の配置、拠点整備の拡充などが含まれています。
これらは出店計画と連携して進められ、拡大した販売網を支える安定供給体制の整備が図られます。店舗と連動した物流の機能強化により、欠品の防止と物流効率の改善を実現していくとのことです。
⑥ オペレーション戦略:業務改善と省力化の両立を図る
社内業務の省力化と質的向上に向けた施策が盛り込まれています。生成AIの試験導入や、需要予測を活用した自動発注システム、ロボット導入などが実行中です。
店舗業務・本部業務それぞれに即改善・即検証のサイクルを取り入れ、「業務改善ワークショップ」により現場主導のボトムアップ型運用が強化されています。
こうした取り組みは、単なる効率化にとどまらず、接客品質や顧客満足度の維持・向上にも寄与する設計とされています。
⑦ 人財経営:成長を支える人材の育成と配置
コーナン商事では、人材を「人財」として位置づけ、すべての従業員の成長を掲げた体制強化に乗り出しています。「人財委員会」を新設し、人材育成・評価制度・配置戦略を一体で進める体制を整備。
主な施策には、ジョブローテーション制度の導入、教育体系の再構築、メンター制度の推進、業務範囲の最適化、エンゲージメント指標の導入といった多角的アプローチが含まれています。
これにより、従業員一人ひとりの能力開発とエンゲージメント向上を両立し、「成長する会社」像の実現を図るとしています。
まとめ
コーナン商事が掲げる「売上5,600億円」という目標は、単なる数字の積み上げではなく、事業構造そのものを強化・再設計する中期的な取り組みによって実現を目指すものです。
第4次中期経営計画では、出店戦略やPB商品開発に加え、ECと実店舗の連携、ファン基盤の構築、人材育成、物流体制の見直し、業務の省力化まで、企業活動のあらゆる側面にわたって重点戦略が設計されています。
特に注目されるのは、ECを“独立した売上チャネル”ではなく、“店舗と相互に機能する顧客接点”として捉えている点です。法人やリフォーム分野へのEC対応強化や、自社アプリによる会員施策といった複数の施策が組み合わさり、より立体的な売上構造の構築が目指されています。
また、PB比率の引き上げによる粗利益率の改善や、生成AI・自動化の活用を通じた業務効率化の取り組みも、利益構造の安定化を支える柱として盛り込まれています。
こうした多面的な取り組みが、今後どのように展開されていくのか。中計の期間中における動向と成果に引き続き目を向けていきたいところです。
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