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Temuとは?
「Temu(テム)」という名前が、今やEC業界だけでなく一般消費者の間でも広がりつつあります。実際に利用したことがある人も少なくないでしょう。Temu(テム)は、中国を拠点とするPDDホールディングス社が運営するオンラインマーケットプレイスで、急激な成長を遂げています。
Temuが急速に広がった背景
この急速な広がりの背景には、圧倒的な安さ、豊富な商品ラインアップ、そして積極的な広告戦略があります。SNSや動画プラットフォームを中心に目にするTemuの広告は、「ここまでやるか」と驚かされるほどのインパクトを放っているのではないでしょうか。
特に2023年2月のスーパーボウルで放映されたテレビCMは、Temuの広告戦略の象徴とも言えるでしょう。このCMでは、「億万長者のように買い物しよう(Shop like a Billionaire)」というキャッチフレーズを掲げ、Temuの特徴である低価格と豊富な商品ラインアップを大々的にアピールしました。
スーパーボウルは全米で最も視聴率が高い番組であり、このタイミングを狙った広告戦略は、Temuの認知度を一気に向上させました。この広告は、Temuの「手軽に高品質な商品を購入できる」というブランドメッセージを多くの人に伝えたのです。
2022年9月にアメリカ市場でサービスを開始したTemuですが、圧倒的な価格競争力と上記で挙げたような広告戦略により、利用者を急速に拡大。2024年には、iPhoneとAndroidのアプリダウンロード数ランキングでトップを獲得し、グローバルな成功を収めています。
さらに、アメリカ市場での成功を足がかりに、ヨーロッパやアジア市場にも進出。現在では、40以上の国と地域でサービスを展開しています。
日本市場には2023年7月にサービス展開を開始。2024年10月にアパレルブランド「夢展望」と連携し、日本市場への展開をさらに加速させています。
ティームーからテムに読み方を変えたわけ
Temuは現在では、「テム」という読み方が正式に定着していますが、サービス開始当初は「ティームー」と発音されていました。この混乱の背景には、ブランド名の由来が関係しています。
Temuという名前は、「Team Up、Price Down」の略語に由来しています。このフレーズから、英語の発音規則に基づいて「ティームー」と読む人も多かったのです。しかし、2023年10月頃から、公式担当者から「テム」との読み方に統一する発表が行われました。
この変更の背景には、「ティームー」という発音が一部のスラングとして好ましくない意味を持つ可能性が指摘されたためと言われています。また、「テム」という発音は短く覚えやすいだけでなく、シンプルで親しみやすいイメージを与えるため、日本市場や他国でのマーケティングにおいても適していると判断されたそうです。
Temuが安い理由
Pinduoduoのサプライチェーンや運営ノウハウを活用
Temuを運営するPDDホールディングス社は、中国の大手Eコマース企業であり、「拼多多(Pinduoduo、ピンドゥオドゥオ)」という共同購入型のECプラットフォームを運営しています。Pinduoduoは2015年にサービスを開始し、ソーシャルECという独自のビジネスモデルを活用し、短期間で中国EC市場において主要な地位を築きました。
Temuが他よりも低価格で商品を提供できる理由の一つは、Pinduoduoのサプライチェーンや運営ノウハウを活用していることが挙げられます。
価格設定や販売プロセスを管理する「フルホスティングモデル」
もう一つの理由が、プラットフォーム自体が商品の価格設定や販売プロセスを管理する「フルホスティングモデル」を採用している点です。このビジネスモデルは、従来のマーケットプレイス型プラットフォームとは異なり、Temuが販売全体を主導する仕組みとなっています。
フルホスティングモデルは、プラットフォームが商品の販売価格の設定、在庫管理、物流、カスタマーサポートまで、販売に関わる全てのプロセスを一括して管理するビジネスモデルです。このモデルは、販売者と消費者の間にプラットフォームが積極的に介入することで、効率性と一貫性を実現しています。フルホスティングモデルについてもう少し詳しく解説します。
Temuが採用するフルホスティングモデルとは
フルホスティングモデルの主な特徴
- 価格設定の主導権
商品の価格はプラットフォーム側で決定。これにより、競争力のある価格が維持され、消費者にとって魅力的な価格帯が提供されます。
- 物流と在庫管理
販売者は商品をTemuに供給するだけで、在庫や配送の手配はTemuが行います。これにより、販売者の負担が軽減されます。
- 顧客対応の一元化
カスタマーサービスもプラットフォーム側で対応するため、販売者が直接消費者とやり取りする必要がありません。
- 統一されたプロモーション戦略
Temuが全体のプロモーションを統括し、統一されたマーケティング施策を展開するため、販売者はマーケティング活動に専念する必要がありません。
Temuがフルホスティングモデルを採用する理由
Temuがこのモデルを採用している背景には、消費者体験の向上と効率的な運営が挙げられます。
- 消費者にとってのメリット
フルホスティングモデルにより、低価格で高品質の商品が安定的に提供されます。さらに、物流やカスタマーサービスが統一されているため、シームレスな購買体験を実現できるのです。
- 販売者にとってのメリット
販売者は商品の供給に専念でき、在庫管理や顧客対応などの運営負担が軽減されます。また、Temuの広範なプロモーション施策により、商品がより多くの消費者に届く可能性が高まるでしょう。
フルホスティングモデルのメリットと課題
メリット
- 低価格戦略の実現
プラットフォームが価格を一括で管理するため、コスト削減を効率的に行い、競争力のある価格を提供できます。 - 品質と物流の一貫性
在庫や配送が統一管理されることで、消費者に均一なサービスを提供できます。 - 販売者の負担軽減
商品提供に専念できるため、小規模事業者でも簡単に参入可能です。
課題
- 販売者の自由度の制限
価格設定やプロモーション戦略がプラットフォームに委ねられるため、販売者独自の戦略が採用しにくいです。 - プラットフォーム依存のリスク
販売者はプラットフォームの規則変更や手数料改定の影響を大きく受ける可能性があります。
Temuの成功が牽引!PDDホールディングス、アリババを一時超える快挙
PDDホールディングス社、2023年11月に時価総額が1,924億ドル(約27兆3,000億円)に達し、同業のアリババグループの1,918億ドル(約27兆2,000億円)を上回ります。この急成長は、Pinduoduoが中国国内での成功を基盤に、越境ECプラットフォーム「Temu」を通じて海外市場への進出を加速させたことが大きな要因とされています。
Pinduoduoは中国国内市場を対象とし、Temuは国際市場をターゲットにしていますが、似たような背景のサービスとしてTikTokが挙げられるでしょう。TikTokはByteDance(バイトダンス)社が開発・運営していますが、もともとは中国国内向けの短編動画プラットフォーム「抖音(Douyin)」がベースとなっています。今では、TikTokを知らない人はいないでしょう。Temuも楽天市場やAmazonのように、誰もが当たり前のように使う日が来るかもしれません。
出店型マーケットプレイスのTemu
ここからはTemuに出店するメリットや出店方法について解説します。
Temuに出店するメリット
巨大なユーザーベースへのアクセス
Temuは、PDDホールディングス社が運営するマーケットプレイスとして、短期間で世界中の消費者を惹きつけています。現在では、アメリカやヨーロッパをはじめ、40か国以上でサービスを展開しており、数億人規模のユーザーベースを誇ります。この膨大なトラフィックは、出店者にとって以下のような利点をもたらすでしょう。
- 自社商品を新たな市場で露出させる機会が増える。
- 国内市場ではリーチしにくい海外の消費者にもアプローチできる。
- グローバルな消費者データを取得し、今後の戦略に活用できる。
低コストでリスクを最小限に
通常、海外市場に参入する際には高額なコストがかかりますが、Temuでは初期登録費用や広告費が不要です。販売手数料のみで利用できるため、コストを抑えつつ市場開拓が可能です。特に以下の点で、低リスクな参入が実現します。
- 初期投資が不要:在庫の準備や倉庫管理の費用が最小限で済む。
- 成果報酬型モデル:販売が発生した際に手数料を支払う仕組みのため、売れなかった場合のリスクが低い。
手厚い専任サポート
Temuでは、新規出店者を対象に、専任のサポートチームがバックアップを提供。特に以下のサポートが充実しています。
- 登録サポート:アカウント作成や書類準備をサポートし、出店プロセスを円滑に進められます。
- 販売戦略のアドバイス:商品ページの作成方法や効果的なプロモーション手法について具体的なアドバイスを提供。
- トラブル対応:配送遅延や返品処理などの課題についてもサポートチームが迅速に対応します。
グローバルなマーケティング力
Temuは、自社で大規模な広告キャンペーンを展開しており、販売者はその恩恵を受けることができます。
- SNS広告や動画プラットフォームでの露出による高い集客力。
- 消費者向けクーポンやプロモーションを活用した販促支援。
これにより、販売者が個別に広告を出す必要がなく、コスト削減と集客の効率化を同時に実現できるでしょう。
消費者ニーズに特化した機能
Temuは、AIを活用して消費者の嗜好をリアルタイムで分析し、最適な商品を提案する機能を備えています。この仕組みにより、販売者の商品がターゲット消費者に効率的にリーチする可能性が高まります。
Temuに出店するデメリット・注意点
Temuへの出店は多くのメリットを提供しますが、同時にいくつかの注意点やデメリットも存在します。以下に主要な点をまとめます。
- 品質管理と顧客満足度
Temuは、低価格商品を提供することが主な強みですが、その分、消費者が品質に対して不満を感じるリスクがあります。特に以下の点に注意が必要です。 - 品質トラブルの影響
消費者からの商品レビューが低評価になると、販売機会の減少やブランドイメージの低下につながります。マーケットプレイスではレビューが購入判断に直結するため、商品情報の正確性や品質保証が重要です。 - 返品対応の課題
Temuの規定では、購入者が満足しない場合の返品が発生しやすいため、返品ポリシーに対応する準備が必要です。 - 対策
出品前に商品説明を詳細に記載し、高品質の画像を使用することで、消費者の期待値を適切に管理します。また、可能であれば、返品率の低減を目指して商品の品質を向上させることが求められます。
法的および規制上のリスク
Temuを含むマーケットプレイスでは、出品する商品の合法性と知的財産権の遵守が厳しく求められます。以下の点が特に重要です。
- 偽造品の取締り
Temuは、偽造品の販売防止を目的とした規制を強化しています。これにより、出品者が意図せず知的財産権を侵害した場合でも、アカウント停止や罰金のリスクがあります。 - 地域ごとの規制
海外市場では、国ごとに製品基準や輸入規制が異なります。例えば、特定の化粧品や電子機器が販売禁止となるケースもあります。 - 対策
商品を出品する前に、取り扱う商品の合法性と規制に関する十分なリサーチを行い、公式の出品ガイドラインを遵守します。また、必要に応じて専門家に相談することも効果的です。
- 競争の激化
Temuは、多くの販売者が低価格で商品を提供するプラットフォームのため、以下のような競争が激しくなる傾向があります。 - 価格競争
同じ商品が複数の販売者から出品される場合、価格設定が売上に大きく影響します。低価格競争に巻き込まれると利益率が低下するリスクがあります。 - 差別化の難しさ
商品ページや価格だけでは他の販売者との差別化が難しくなるため、消費者が自社商品を選ぶ理由を明確にする必要があります。 - 対策
価格以外での競争力を強化するため、ユニークな商品説明やプロモーション戦略を活用し、ブランドの信頼性を高める施策を実施します。
プラットフォーム依存のリスク
Temuのようなマーケットプレイスを主な販売チャネルとする場合、以下のリスクに注意する必要があります。
- ポリシー変更の影響
プラットフォームが手数料を引き上げたり、規約を変更したりした場合、売上や利益に大きな影響を及ぼす可能性があります。 - 直接の顧客関係が築きにくい
マーケットプレイスでは、顧客データがプラットフォームに管理されるため、販売者が直接的なリピート顧客を作りにくいです。 - 対策
Temu以外にも自社ECサイトや他のマーケットプレイスを活用し、複数の販売チャネルを展開することで、プラットフォーム依存のリスクを分散します。
Temuは、低リスクで海外市場に参入できる魅力的なプラットフォームですが、競争や法的リスク、プラットフォーム依存に対する慎重な戦略が求められます。出店前に注意点を十分に把握し、リスク管理を徹底することで、成功への道を切り開くことができるでしょう。
Temuに出店する方法
1. 出店条件
日本企業がTemuに出店するには、以下の条件を満たす必要があります。
- 18歳以上の担当者が出店手続きを行うこと
- 有効な政府発行のID(運転免許証またはパスポート)
- 銀行口座および住所証明書類(公共料金請求書や銀行明細など)
- 法人の場合は、事業ライセンスと税務登録証明が必要
2. 登録手順
1)アカウント作成
Temuのセラーセントラルページから登録フォームに必要事項を入力します。または、親会社Pinduoduoを経由して登録することも可能です。
2)書類の提出
IDや事業ライセンス、税務情報などの必要書類をアップロードします。
3)ストア設定
ストア名、ロゴ、連絡先情報を登録し、販売ページを作成します。
4)審査と承認
提出された情報と書類はTemuによる審査を受けます。このプロセスには通常3日程度かかります。審査に通過すると出店が正式に承認され、販売を開始できます。
Temuで成功するためのポイント
1. 品質重視の商品提供
Temuでは、正確な商品情報や高品質な写真が求められます。顧客の期待に応える商品を提供し、リピート購入を促進しましょう。
2. 適切な価格設定
競争力のある価格設定は重要です。市場調査を行い、競合製品と比較して適切な価格を設定しましょう。
3. 顧客サービスの強化
迅速な顧客対応や返品ポリシーの明確化など、優れたサービスを提供することで、信頼とブランド力を向上させることができます。
まとめ
PDDホールディングス社が運営するTemuは、単なるECプラットフォームではありません。その低価格戦略、積極的な広告展開、そして柔軟なブランド運営は、これまでのeコマースの枠を超えた存在として注目されています。日本企業にとっても、Temuはグローバル市場での新たな可能性を切り開く重要なパートナーとなるでしょう。今後のTemuの動向からも目が離せません。
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