
代表取締役 太野由佳子さん
猫用品の専門店「nekozuki(ねこずき)」は「ネコ目線のモノづくり」にこだわり、他にはない特徴的な商品を販売しています。運営元の株式会社クロス・クローバー・ジャパンの代表取締役である大の猫好きの太野由佳子さんは、猫の課題を解決する商品を作りながら、販促をせずに認知を拡大しています。今回は、太野さんに商品の企画・開発時に意識している点や、集客方法について伺いました。
この記事の目次
猫用品の専門店を立ち上げるきっかけ

――nekozukiはどのような流れで立ち上げることになったのでしょうか?
太野さん:幼い頃からずっと猫が好きで、19歳になって初めて飼うことになりました。22歳になり会社員として働き始めたのですが、仕事は楽しかったものの、5年目くらいに慣れてきたと感じると「私じゃなくてもできることなのかも」と思うようになります。
当時、休みの日には動物保護施設で犬や猫のお世話をしていました。ボランティアをしていると普段接点を持たない方とお話する機会があるんですが、たまたま起業家の支援をしている方とお話ししたときに、組織で働くよりも経営者に向いているのではないかと思って、27歳の頃に株式会社クロス・クローバー・ジャパンを立ち上げたのです。せっかく自分で会社をやるなら、好きなことをしたくて猫に関係する事業を始めます。
スタートは実店舗から!課題解決のためにモノづくりへ
――思い立ってから行動に起こすスピード感がすごいですね。起業直後はどんなことをされたんですか?
太野さん:最初は盛岡市内に猫関連のペット用品を販売する実店舗を構えました。お店を構えて商品を置けばお客様が来ると思っていたため全く宣伝をしなかったんです。当然、お客様は全くいらっしゃいませんでした。店舗の売上がほとんどなかったのでお店が閉店して、19時からレジ打ちのバイトをしながら生計を立てていましたね。
あるとき、ネットでモノを売る方法があると聞いて、盛岡では売れなくても、全国には欲しい人がいるかもしれないと、会社経営に変化をつけるつもりで楽天市場に出店してみたのです。出店したのが2006年くらいで、それから1年かけてバイトをしつつ、店頭からネットでの販売にシフトしていきます。
徐々に売上が伸びてお客様とのやり取りが増えてくると、困りごとが寄せられるようになったんです。仕入れ商品では困りごとを解決できないことが増えて、「自分じゃないとできないことをしよう」と思って、2008年頃からモノづくりを始めます。商品化できて販売を開始したことで、2010年にオリジナルブランドnekozukiが誕生しました。
――最初は店舗からのスタートだったんですね。楽天市場だと、そこまで活発にお客様とやり取りするイメージはないのですが、意見はどのようにして寄せられたのでしょうか?
太野さん:立ち上げ当初は時間に余裕があったので、購入いただいたお客様に直接電話をしてお話を伺っていました。怪しまれたり、話を聞いてもらえなかったりすることもありましたが、実店舗には人が来てくれない中で、誰かの役に立てている声を生で聞けると嬉しい気持ちになったんです。
――商品はそんなお客様の声を形にしたんでしょうか?
太野さん:最初は自分の家で飼っている猫が困っていることを形にしました。今は、お客様から寄せられる困りごとから、猫のつらい様子がイメージできて大変だなと思うことを優先的に商品化に向けて動いています。例えば、爪切りのたびに暴れてしまうため病院で麻酔を打っている猫は、その都度、体に負担がかかってしまいます。その声を寄せてくれた方のために作ったもふもふマスクが、同じように困っている人がたくさんいてヒット商品になりました。

ゼロからの商品開発はテレアポで製造先を開拓
――モノづくりは全くの未経験からですが、どういった流れで形にしていったのか教えていただけますか。
太野さん:まず、頭の中に「こういう風に作りたい」という明確なイメージがあるので、実現するための技術が、木工なのか、縫製なのか、何で作れるのか考えました。専門的な図面を書くこともできないので、下手でも良いから立体的に見られるものを作ろうと紙粘土や紙、ティッシュやセロハンテープなどを使いながら形にしていきます。
最初は製造先のあてもないので電話帳を開いて片っ端から電話をかけていきました。なかなかアポを取るのに苦労しましたが、なんとか1件お話を聞いてくれる先が出てきて、何度か電話を重ねる中で、実際に作ってもらえることになったんです。今は大小含めると30社ほどの会社に弊社の商品を作っていただいていますが、どこもペット用品を作ったことがないところからお願いをして、今の関係を築いています。
ネコ目線の商品開発はヒト用サイズで試作を実施
――商品を作ってもらう上でどんなことを心がけていますか?
太野さん:最近はオンラインで打ち合わせができるようになりましたが、それでも製造先の会社には直接行くことが多いです。対面だと伝わる情報量が段違いなんですよね。あと、私が技術者ではないこともありますが、製造する際の手間はあえて考えずに、自分が猫だったらどう感じるのか考えながら、常に猫にとって最良な形になるようにこだわっています。
なので、商品を作るときは猫用だけでなく、ヒト用に拡大したモノを作り、「もし自分がネコだったら」と自分で試してみて、着用時の重さや痛みがないかなどチェックする商品もあります。初めて依頼する方には結構驚かれますね。でも、実際に使ってみると生地のごわつきが素材の匂いが気になったり、もっと軽くしようとか柔らかくしよう思ったりすることがあるので、重要な工程といえます。

太野さん:一方で、徹底的に猫に寄り添った商品開発をしているため、例えば、肉球マークのような飼い主目線で入っていると嬉しいかもしれない要素は猫にとって機能性が上がらないことやコストが上がることを考えると、あえて入れていません。商品タグは猫の肌に触れない位置にするなど、あくまで猫の困りごとを解決することにこだわっているんです。
販促費をかけない集客施策
困りごとを本気で解決できるからこその口コミ・紹介
――あくまで猫の課題解決にフォーカスした商品作り。ヒト用のサイズまで作っていることに驚きです。広告など費用を投じた販促活動をほとんど行っていないとのことですが、お客様からの認知はどのようにして得ているのでしょうか?
太野さん:特殊な商品が多く、ひと目でわからないものもあるため、実際にご利用いただいたお客様や動物病院などの口コミや紹介から認知が広がっているようです。卸の引き合いを多く頂いているんですが、商品の特性上お断りしています。一部動物病院やグッドデザイン賞の受賞商品だけを並べるお店にのみ卸していますが、先生や店員さんに使い方をお伝えして、店頭にPOPを設置いただき、お客様に商品について説明していただくようにお願いしています。やはり、ひと目で見てわからない分、ネットでの販売に向いている商品なんですよね。

太野さん:多方面に卸を展開するほど量産できる商品ではないことや、説明が必要な商品であること。そして何よりも、お客様からの声を直接聞くために、できるだけ自分自身で販売をしています。
卸を通してしまうと上がってくる声は要約されたものになってしまい、混じり気のないお客様の声を聞くことは難しいでしょう。社内でお客様対応をしているスタッフは問い合わせに対してしっかりとお話を引き出せて、聞ける人を意識して採用しています。そんなお客様の生の声が、商品の開発や改良の種として活かされて今に繋がっているんです。
詳細な利用方法や使用感を記事化し、検索流入を獲得
――困りごとを解決する商品だからこそ、お客様の声に耳を傾ける重要性が感じられました。口コミや紹介が多い中で、自社ECサイトへの流入はどんな構成になっているのでしょうか?
太野さん:大半がダイレクトとオーガニック(Googleなどの検索流入)です。オーガニックではお悩み系のワードで流入しています。例えば、「猫砂」というキーワードだけでは上位に表示するのは難しいですが、お悩みに関連する単語をもう一つ追加したページを作成することで上位に表示させやすくなります。
商品ページやカテゴリーページにそういった工夫を入れることもありますが、商品ページに書けないような細かいことをブログに書いています。猫砂を販売していますが、60日間定点観測した様子を記事にして、その期間で必要な猫砂の量や一回あたりの使用量、砂を入れる猫トイレによる違いなど細かい情報を公開しました。猫と暮らす中で必要なことをまとめていると、ブログ経由のアクセスが一定数増えて、問い合わせに繋がるのです。

――あくまで猫のためを徹底することで、紹介やオーガニックの流入のような認知を広げる入り口になっているんですね。最後に、太野さんがnekozukiの運営を通して今後目指す方向について伺えますか。
太野さん:猫の元々持つ本能を押さえつけることなく、むしろ発揮できるような商品を作っていきたいです。私を含めて、猫が飼い主と元気に、幸せに長生きできるといいなと思っています。飼い主が与えるものが猫の全てになることを考えると、なるべく猫にとって快適な物を作らないといけないなと思うんです。
使いづらいことが当たり前ではなく、解決できる商品があること、相談できる先があることを知っていただきたいです。
インタビューを通して:言葉で通じ合えないからこその商品開発力
猫は自ら声を上げて、不満を言うことはできません。そのため、太野さんはお客様の声をできるだけ漏らさずにヒアリングし、困りごとを解決できるような商品開発を心がけているのです。また、具体的な商品化に向けて、猫とヒトの両者が試し、販売後もレビューをもとに幾度となく改良を重ねていると話されていました。
太野さんは、展示会にも足繁く通いながら、新しい技術のストックやヒアリング時点では商品化が難しい困りごとを解決する糸口を探されているとのこと。言葉なき動物だからこそ、より快適に、最善を尽くす商品開発の熱量は非常に高いものを感じました。nekozukiのサイトには、ユニークな商品や充実したコンテンツがあるため、EC運営にあたって参考になると思います。ぜひご覧になってみてはいかがでしょうか。
■猫用品専門オリジナルブランドnekozukiの公式通販サイト
https://kurokuro.jp/
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