
17,000名のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する株式会社サーキュレーションが「D2Cブランドの創り方」というウェビナーを実施しました。
D2Cに挑戦する企業が急増する中、とくに大手企業においてはブランディングに苦戦し、なかなか売上を伸ばせていないという声も多く聞かれます。そうした課題をお持ちの担当者さん向けに、ウェビナーでは「GREEN SPOON」を立ち上げた田邊さんがブランディングのポイントをご紹介しました。当日参加できなかった方も多いと思いますので、コマースピック編集部で内容をまとめました。皆さんの参考になれば幸いです。
【登壇者】
株式会社Greenspoon
代表取締役 田邊友則さん
D2Cサブスク「GREEN SPOON」を手がけるD2C世界観創りのプロ
【ファシリテーター】
株式会社サーキュレーション
プロシェアリング本部 マネージャー
樋口達也さん
この記事の目次
大手企業はD2Cに苦戦する理由
2026年には国内EC市場の規模は29兆4000億円になるとみられ、今後も堅調に伸長する見込みです。多くの企業がEC、特にD2Cに挑戦する中、成功事例も増えています。たとえば従来のメンズコスメにはない世界観を構築したメンズコスメブランド「BULK HOMME(バルクオム)」はコロナ禍でも売り上げは堅調で、グローバルにも進出。収益化が難しいといわれるメンズコスメ業界で大成功をおさめています。
このようにD2Cの領域ではスタートアップ企業の活躍がめざましいものの、大手企業では難しいといわれています。理由は「大手企業はどのように世界観を創り、発信させていくのかという部分に課題を感じているからでは」と田邊さんは分析します。

田邊さんが代表をつとめる「GREEN SPOON」は2020年の3月にスタート。1年で累計会員数2万人、販売数50万個と業界最速スピードで成長中です。

新宿伊勢丹ポップアップショップの開催、サブスク大賞2020グランプリ受賞などでもその人気ぶりは注目され、テレビ番組「ヒルナンデス!」、雑誌「anan」などメディア実績も多数あります。媒体掲載はメディアからSNSを見て問い合わせをしてくるケースが8〜9割だとのことです。
そんな「GREEN SPOON」を立ち上げた田邊さんが、D2Cブランドにおいて大切だと思うことは「オンリーワンになること」です。そのためには以下のステップを踏むことが重要だそうです。
ステップ1:世界観創り
ステップ2:高品質な商品創り
ステップ3:コミュニケーション戦略策定
ステップ4:CRM設計
1つ1つご説明していきましょう。
ステップ1:世界観創り
ブランドの世界観を創るために大切なのは、
- ブランドの提供価値を決定する
- 情緒価値まで設計する
- ブランドとミッション/ビジョンが一致している
の3点だと田邊さんは話します。
1.ブランドの提供価値を決定する
「GREEN SPOON」が考えるブランドとは「意味ある差を持っていること」。そして「その存在たらしめる意味そのものである=唯一無二であること」と話しています。
さらに「所有し、使用することが自己表現のツールになっていること」。たとえばベンツなら「ベンツに乗っている俺はかっこいい」と感じられるなど、エモーショナルな情緒的価値が含まれているところだそうです。
世の中に情報やものがあふれていく中で、機能価値の時代はもう終わり、情緒的に引かれる部分がなければ選んではもらえません。多くの人にファンになっていただくためにはブランディングが重要であり「GREEN SPOON」では初期の頃から大切にブランドを創り上げ、重要なブランド構成要素として、
・高価でプレミアム
・利用シーンや特定モーメントの規定
・エモーショナルな価値体験
を定義しました。
また、同じ領域である食品や飲料の有名ブランドも参考にしたそうです。情緒的価値から感じる世界観によって、顧客は魅力を感じ「実際に利用したい」という想いが生まれると思ったそうです。「高級チョコレートといえば」誰もがイメージするGODIVAや、田邊さん自身が好きなHinekenのビールなどの世界観を分析し、実際に使われるシーンなどから情緒的価値を考えたといいます。

2.情緒価値まで設計する
人は情緒的価値から感じる世界観によってものを選んでいる、ということを踏まえ、「GREEN SPOON」では「”たのしい食のセルフケア文化を創る”」をテーマに、
・ヘルシーなファストフード
・簡単にいつでも野菜を摂れる
・自己肯定感/自分を好きでいられる
という商品を提供し「日常の一瞬だけでなく、人生という視座でも一貫したウェルネスの価値提供をしたい」と考えたそうです。
どのような価値を提供できるかを考えるにあたり、田邊さんは「自分が何を創りたいのかが大事」だと言います。自分が情緒的でないままに、情緒的価値を提供することはできないからだそうです。
何を創りたいのかを感じ取るには、自分への「そもそも幸せとは何か」という問いかけが必要で、それがビジョンになるそうです。「社運なり人生をかけて挑戦をするときには、その人の幸せが何なのかを実現するべき」だと田邊さんは話します。
「GREEN SPOON」も、まさに田邊さんが欲しいものを創って起業しています。自身が忙しいIT企業に勤める中で、健康を気遣いたいと感じ、海外の予防医学・未病への意識の高さも知る中で、添加物なしで簡単に健康を気遣えるサ―ビスを創りたいと考えたそうです。
またブランドのネーミングも大事であると、田邊さんは言います。「GREEN SPOON」は、読みやすく、音感や書いた時の字面がよく、海外でも通用し、なおかつ野菜を想起させ、食のサービスであることがわかりやすい言葉を選び、この名前になったそうです。
3.ブランドとミッション/ビジョンが一致している
「GREEN SPOON」では「自分を好きでいつづけられる人生を」をビジョンとし、「たのしい食のセルフケア習慣を身につけ、自分が大切にしている実感が、あなたの『自分を好きでいつづけられる人生』につながりますように」と伝えています。
田邊さん自身、自己肯定感は大きなファクターだと感じているため、そこをビジョンに据え、プロダクト、クリエイティブ、顧客体験など、すべてのベースにこのビジョンを通しているそうです。
こうした世界観が決まるまでには何年もかかったそうですが、決まりさえすれば、あとは実現していくだけ。自分が信じている世界観にアプローチするのにどうしたらいいかというミッションを考えることが大事だと、田邊さんは言います。

「GREEN SPOON」ではビジョンを実現するためのミッションとして次の3つを掲げています。
・カラダの健康
健康的な食事におけるウェルネスの提供
・ココロの健康
自己肯定感ある人生を通じたウェルネスの実現
・地球の健康
環境・社会・地球スケールでのウェルネスの貢献
さまざまな視座からミッションを掲げることで、共通するウェルネスの実現に向けたアクションが明確になっていきます。
ステップ2:高品質な商品創り
田邊さんによると、高品質な商品創りのポイントは、
1.世界観とマッチしたデザイン
2.消費者体験
3.独自性と効用
の3つだそうです。
1.世界観とマッチしたデザイン
「GREEN SPOON」では、ブランドストーリーとして「たのしい食のセルフケア文化を作る」をテーマに、テンションが上がるパッケージや、他にないアンニュイでおしゃれなキャラクターを設定しています。
同じ健康を気遣う方法でも、ジム通いやダイエットなど辛く感じるものは続きにくいもの。そこを解決するにはたのしくあるべきだと考え、テンションが上がる設計にした、と田邊さんは言います。
また野菜スムージーのパッケージは野菜の断面を見せる写真のビジュアルが多かった中で、同じようにしたら埋もれてしまうと考え、あえてイラストを起用したそうです。

2.消費者体験
次に「GREEN SPOON」では、調理の作業工程まで思わずスマホのカメラを向けたくなる設計を考えました。ブランドのスタート時はちょうどInstagramでのマーケティングが盛り上がり始めた時期だったこともあり、動画にふさわしい尺になることや、写真を撮って人にシェアしたくなる瞬間を多く作ることを考え、その回数をKPIにしてカウントしていたこともあったそうです。

3.独自性と効用
商品創りには消費者を惹きつける独自性=新規性も大切である、と田邊さんは言います。世の中にものやサービスがあふれる中、「GREEN SPOON」では「パーソナライズ」というコンセプトを掲げ、さらに「パーソナルスムージー」というキャッチコピーで多くの人の目を引きました。わかりやすい言葉どうしを組み合わせることで、キャッチーになるネーミングを意識したそうですが、その結果50以上のメディアから問い合わせがくるなど、広告効果は絶大だったそうです。
また従来、野菜のスムージーといえばグリーンスムージーしかありませんでしたが、「野菜を摂りたいというニーズがあるならカボチャやニンジンなどがあってもいい」と考え、新しく創ることを検討しました。
こうした独自性に加え、同時にお客様への効用を提供しなければなりません。カットされた新鮮食材を瞬間冷凍することで、加熱滅菌の工程をはさむと壊れてしまう栄養素も損なわず摂取可能であり、しかも添加物不使用というベネフィットもプラスしました。
ちなみにブランド創りも大切ですが、経営する上では事業計画があり、そこにひもづくKPI、KGIも重要です。「GREEN SPOON」では原価率、CPA、CAC、継続率、顧客のARPUなどをかけあわせながら事業KPIを設計し、売り上げをKGIで追っています。立ち上げ当初は瞬間冷凍ができる工場は1件1件電話をかけて探し、原価が決まってから売価を決めるという方法で進めていました。
ステップ3:コミュニケーション戦略策定
コミュニケーション戦略策定のポイントは「公式SNSの運用×ファンによる発信」だと田邊さんは話します。現在、「GREEN SPOON」ではマガジンやInstagram、Twitterを使い分けながら情報を発信していますが、立ち上げ当初はスタッフが3人しかいなかったため、広報宣伝活動はほぼしていなかったそうです。
それにもかかわらずInstagramやTwitterで多くの人が「GREEN SPOON」の商品について発信しているのは、思わずスマホのカメラを向けたくなるような設計をし、なおかつ写真の撮り方も提示をしてきたからだとか。

著名な芸能人やインスタグラマーも「GREEN SPOON」の商品について多く投稿していますが、その理由は独自性があるからだと田邊さんは話しています。世の中にあふれている化粧品などと比べ、「GREEN SPOON」は見た目も商品も新しく、コンテンツとして選ばれたと感じているそうです。
田邊さんはもともとインフルエンサーのつながりが多かったそうですが、投稿してもらうための魔法があるわけではなく、新商品を送るなどの特別扱いもなく、商品の魅力が伝わる制作物をきちんと作り、1人1人に説明をしっかりして、わかってもらった結果だそうです。それはメディアへの対応にも大切なことだと話します。
広告費は使っていますが、商品の認知にかかわるPRには費用はかけず、SNSや雑誌で見た人が広告経由で購入してくれるという導線ができているとのことでした。
ステップ4:CRM改善
CRM改善のポイントは、SNSとファンの発信、サービス本体を有機的につなげていくことだと田邊さんは話します。

「GREEN SPOON」では3つの強化機能として、
1.ブランドを体現するメディア
2.顧客に楽しんでいただくサービスを作るCRM
3.安心してサービスを利用いただけるCS
を挙げ、それぞれの充実をはかっています。
週1回のLINEマガジンでは“自分を好きでいつづけられる人生を”という「GREEN SPOON」のビジョンを踏まえ、ユーザーに対して、その人が思う「自分を好きになる瞬間」や、商品を使うことでどういう気持ちになるかなどをインタビューし掲載しています。
また「すぐ冷凍庫がいっぱいになってしまう」というユーザーの声に対し、すぐにパウチタイプをリリースしました。今まで定期的に購入いただいていた方の8割がパウチへと移行し、冷凍庫のスペースの問題を解決できました。スマホを向けたくなるような設計とは別に、体験設計の意味ではこうした利便性の追求や迅速な対応も大事だといいます。「GREEN SPOON」の改善サイクルが速いのは、体制がミニマムなため意思決定が速いことと、工場との連携がしっかりとできていることからだそうです。
田邊さんは、SNSとCRMがD2Cの本質であり、パーソナライズしたCRMをどこまでできるかが大事だと言います。「GREEN SPOON」はユーザーの生の声を蓄積しているため、購入商品や、購入回数ごとにメッセージの細かな出し分けができる点が強みです。例えば商品によって、水で割るよりも牛乳で割ったほうが美味しいですよ、といった提案を行うなど、アレンジの提案であればかなり細かいところまでコミュニケーションが可能です。そうしたCRMをすればするほどユーザーの喜びにつながり、継続率やLTVの向上にもつながることが数値でもわかっており、そこがD2Cならではの面白みである、とのことでした。
まとめ:D2Cブランド立ち上げにおける成功のポイント
D2Cブランド立ち上げにおける成功のポイントは
1.伝わるブランド意義
2.世界観を体現したデザインと品質
3.SNSのフル活用
の3つだと田邊さんは強調します。

世界観創りと高品質な商品創りで一貫した情緒的価値×唯一無二の機能的価値(独自性×効用)を提供し、さらにSNSとCRMでファンとサービスを拡大していき、ブランドの世界観をぶらすことなく、一貫して顧客に届け続けることが大切だそうです。
田邊さんのお話をふまえ、最後にサーキュレーションの佐々木さんが、D2Cで成功を目指す企業方に、すぐに取り組んでいただきたいことを提示しました。それは、
1.自分が欲しいと思うサービス・プロダクトは何か?考える
2.若手社員に最近Instagramに投稿した“体験”を聞いてみる
3.D2Cスタートアップの公式SNSをフォローしてみる
の3つです。
ブランドディングや世界観の構築を行う場合、外部のアドバイザリーを活用することも必要なときがあります。株式会社サーキュレーションは、「プロシェアリング」というサービスを提供。外部プロ人材の経験・知見を複数の企業でシェアし、あらゆる経営課題を解決する新しい人材活用モデルです。
雇用でも派遣でもなく、プロジェクト単位で外部の専門性の高い「プロ人材」の知見・経験を活用できるので、外部アドバイザリーを必要とする場合は、活用を検討してみてもいいのではないでしょうか。
今回の他にも、サーキュレーションでは月4〜6本のプロ人材とのウェビナーを実施しています。興味のある方はチェックしてみてはいかがでしょうか。
「プロシェアリング」について
https://circu.co.jp/service/
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