
第3回目は、ビジネスにおけるロイヤルユーザーの向上を目指す方法を掘り下げます。訪問回数と購入回数をクロスさせた分析によるユーザー行動分析について、具体的な例を挙げて説明します。
小島 健一
株式会社DearOne
グロースマーケティング部 アナリティクスユニット シニアコンサルタント
元ミュージシャンであり、大手レコード会社からCDリリースを経験後、デジマケ業界へ。事業会社2社を経て、2014年にアイ・エム・ジェイ(Accentureグループ)に入社。おもにアクセス解析支援を中心としたデジタルマーケティング領域のコンサルタントとして従事。
2020年2月からNTTドコモ傘下のDearOne入社後は、 主に、プロダクトアナリティクスツールAmplitude導入や導入後の利用促進を中心としたデータ活用のコンサルタントとして、エンタープライズからスタートアップまで幅広いクライアントを支援。2022年MBA取得。
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https://growth-marketing.jp/amplitude
この記事の目次
そもそもロイヤルユーザーとは…?なぜロイヤルユーザーを増やす必要があるのか?
そもそもロイヤルユーザーとはどのようなユーザーのことでしょうか?
ロイヤルユーザーとは、特定の製品やサービスを継続的に利用し続ける顧客のことを指します。以下の特徴を持つことが多いと言われています。
- 頻繁な利用
サービスや製品を定期的に利用し、競合製品に切り替えることが少ない。
- 高いエンゲージメント
企業のマーケティング活動やキャンペーンに積極的に参加し、フィードバックを提供する。
- ポジティブな口コミ
新規顧客獲得につながるポジティブな口コミを広める。
では、なぜ製品やサービスはロイヤルユーザーを増やす必要があるのでしょうか?主な理由は下記になります。
- 安定した収益源
ロイヤルユーザーは定期的に製品やサービスを購入するため、安定した収益源となります。
- マーケティングコストの削減
新規顧客を獲得するコストに比べ、既存顧客を維持するコストは比較的低いと言われています。ロイヤルユーザーは長期間にわたって企業と関わり続けるため、総合的なマーケティングコストを削減できます。
- ブランドの強化
ロイヤルユーザーの存在は、ブランドの信頼性を高めます。ロイヤルユーザーのポジティブな口コミやフィードバックは、他の消費者に対する信頼感を醸成し、ブランドの評判を向上することに繋がります。
- 製品、サービス開発のインサイト
ロイヤルユーザーから得られるフィードバックは、製品やサービスの改善に直接役立ちます。彼らは企業の製品やサービスに対して深い理解を持っているため、貴重なインサイトを提供してくれます。
ロイヤルユーザーとして、私の妻の例を挙げてみます。私の妻は長男の誕生をきっかけにあるメーカーの保湿剤を使いはじめました。赤ちゃんの肌に塗る保湿剤です。利用開始するきっかけは、すでにお子さんがいる方からのお勧めだったそうです。それまで使っていた保湿剤よりも気に入ったため、5年以上使い続けています。
購入するときは常に、そのメーカーのECサイトで購入するのですが、購入頻度によって会員ランクが分かれており、5年以上使い続けている妻は、ランクが高いので割引率が高いとのこと。他のサイトや店舗でも購入できるそうなのですが、会員ランク制度があるため、メーカーのECサイトで購入しています。
ECサイトには商品レビューがあるので、書き込みをして、使い心地を発信しています。最初の利用は保湿剤でしたが、その後、ボディソープ、シャンプー、日焼け止めクリームも同じメーカーで購入するようになりました。昨年、次男も誕生したのですが、もちろん、次男にもこのメーカーの商品を使っています。さらに、周りに出産された方がいると、必ずこのメーカーを勧めています。
メーカーの目線でみると、妻=ロイヤルユーザーはなんとありがたい存在でしょうか!笑
ロイヤルユーザーが増えると良いことだらけですね。笑
ロイヤルユーザーを増やすことは、企業の長期的な成長と成功に不可欠で、ロイヤルユーザーを増やす戦略を考えることは非常に重要です。前述したように、この記事では、ロイヤルユーザーの向上を目指す方法を行動分析の観点から掘り下げます。
ロイヤルユーザー増につながる分析
ロイヤルユーザーを増やすために有効な分析として、訪問回数×購入回数分析とユーザージャーニーの定義をご紹介します。
訪問回数×購入回数分析とは「訪問回数と購入回数でユーザーを分類する分析」のことです。この分析からユーザー行動の特徴を把握することで、重要な顧客セグメントの特定やマーケティング戦略の最適化が可能になります。可視化のイメージはこのようなものになります。

縦軸をサイト訪問の回数、横軸を購入回数として、セグメント化しそのボリュームを把握します。似ているものとしては、Recency(最終購入日)、Frequency(頻度)、Monetary(購入金額)の頭文字を取って、RFM分析と呼ばれているものがあります。同じものではないので、ご注意いただければと思います。
このように、サイトの訪問回数、購入回数を軸にユーザーを分類する理由ですが、私の経験上、サイトの訪問回数と購入回数は相関が強いです。「たくさんサイトに来ている人ほど買う確率が高い」という傾向があるため、訪問回数別にユーザーを分類し、購入回数を増やすアクションを促すことは非常に重要と考えています。
この話をすると「サイトにたくさん来る人が多く買うなんて当たり前でしょ?いちいち触れることじゃない」と感じる方もいるようです。私はこの相関に注目するべきだと捉えています。その理由は下記です。
- ユーザーの製品、サービス理解を測る
訪問回数はユーザーがブランドや商品に対してどれだけ関心を持っているかを示す重要な指標です。ユーザーがサイトを訪れる頻度が高まることで、商品やサービスについての理解が深まり、最終的には購入につながるケースが多いと考えています。このため、訪問回数に注目し、段階的に購入意欲を高めるためのコンテンツ提供やマーケティング施策を計画することは有効です。
- データ収集が比較的、容易
ユーザーごとの訪問回数と購入回数であれば、多くのサイトで基本的なデータとして計測されているため、データは揃えやすいです。耳にすることの多いRFM分析の場合、Recency(最終購入日)のデータは信頼性にかけることが多く、なかなか分析ができないことが多いです。
ちなみに、前述した私の妻を例にとると、とくに購入する商品が決まっていなくても、送られてきたメールマガジンをきっかけにサイトを訪問し、新商品やセール情報などをチェックすると言っています。その後、購入ニーズが湧いたときに、このメーカーを想起し、サイトに訪問して購入するとのことです。そのため、ユーザーごとの訪問回数は重要な指標と言えます。
セグメントごとにユーザー行動を分析
次にセグメントごとのユーザー行動の特徴を把握し、その特徴に合わせた施策を考案します。分析手法はのちほど紹介しますが、まずは施策のイメージを示します。

上記の図を簡単にご説明します。
①のセグメント(未購入だがサイトに訪問有りの方)のユーザー行動を分析した場合、「ログインで躓いている傾向がありそう」ということがわかってきたので、未ログインの方にログインを促す施策を実施する。
②のセグメント(未購入だがサイトに訪問が多い方)のユーザー行動を分析した場合、「キャンペーンをきっかけに購入する傾向がありそう」との示唆がでてきたので、キャンペーンを訴求する。
③のセグメント(購入有りサイトに訪問が多い方)のユーザー行動を分析した場合、「複数商品の購入が見込めそう」というのがわかってきたので、複数商品の購入を促すキャンペーンを実施する。
この記事を読んでいただいている方ならイメージをつかめていただけているかと思います。
このように各セグメントに特化した施策を行うことで、特定のニーズや行動パターンを持つセグメントのユーザー一人一人にパーソナライズされた体験を提供することに繋がり、マーケティングメッセージの効果を最大化できます。
具体的な分析手法
実は上に示したような、セグメントを分け、さらにサイト内のユーザー行動を分析するのは大変な作業ですが、「Amplitude」という行動分析ツールを使うと非常にスピーディーな分析が可能です。ここでは、例として、一部を紹介させていただきます。「①の状態のユーザーを②にしたい」という観点での分析となります。
Amplitudeは訪問回数や購入回数で条件を指定して、ユーザーセグメントを作成し、行動の比較がやりやすいツールとなっています。

上図は、実際にAmplitudeで条件付けしユーザーのセグメントを作成した例です。
さらに、①と②の行動を比較し、特徴を見出しているのが下図になります。①、②のユーザーのそれぞれ何%がその行動を実行しているか?を出して、割合を比較したものになります。
(Amplitudeではこのような分析が数分で可能になります。)

この分析結果を見ると、①は②と比較して、利用開始時の案内が約2倍、ログインエラーが約1.3倍多いことがわかります。また、ホーム画面、商品検索などの利用は少なくなっていることがわかります。
この結果から、「新規利用ユーザーがログインで躓いているのではないか?」「ログインするユーザーが増えれば、サイト利用が増えるのではないか?」との仮説を導き出します。
施策例
この仮説から課題を解決する施策の具体例をご紹介します。
1:エラーメッセージの明確化
エラーメッセージを具体的にし、ユーザーが問題を理解しやすくする。
例えば「パスワードが間違っています」ではなく、「パスワードは8文字以上で、大文字、小文字、数字を含めてください」と具体的な説明を追加。
2:シングルサインオン(SSO)の導入
GoogleやFacebookなどの外部サービスを使ったシングルサインオンを導入し、ユーザーが既存のアカウントで簡単にログインできるようにする。
3:インセンティブの提供
下記のようなログインを促すためのインセンティブを提供する。
- ログインしたらポイントが獲得できるキャンペーン
- 未ログインユーザーに対し限定セールを開催
3のインセンティブの提供は、パーソナライズ施策と呼べるものかと思います。
まとめ
ロイヤルユーザーの増加は、安定した収益源の確保やマーケティングコストの削減、ブランドの強化に繋がり、企業の長期的な成長と成功を支えます。具体的な行動分析と施策の実施を通じて、ロイヤルユーザーの獲得を目指しましょう。
そのためには、詳細なデータ分析と行動分析が不可欠です。訪問回数と購入回数のクロス分析により、ユーザー行動の特徴を把握し、重要な顧客セグメントを特定できます。また、セグメントごとに特化した施策を行うことで、個々のニーズや行動パターンに応じたパーソナライズされた体験を提供し、マーケティングメッセージの効果を最大化できます。
迅速かつ正確にユーザーの行動を分析し、効果的な施策を立案する環境が必要となり、「Amplitude」のような行動分析ツールの導入も選択肢に入れると良いと思います。
Amplitudeの詳細はこちら
https://growth-marketing.jp/amplitude
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