NRF 2024振り返りセミナー:リテールメディアによる顧客エンゲージメントと売上拡大の鍵 後編【セミナーレポート】
イベントの概要

2024年2月28日、Google Cloud による「NRF 2024振り返りセミナー」が開催されました。このセミナーは、2024年1月13日~16日にニューヨークで開催された、NRF(National Retail Federation:全米小売協会)による年に一度の世界規模のカンファレンス「NRF 2024」でのトレンドや注目トピック、それらに関連したGoogleのソリューションを紹介するものです。

本記事では、4つのセッションからなるNRF 2024振り返りセミナーより、セッション3について、EC事業者が押さえておくべき要点を中心に紹介します。

【登壇者】
木村 直樹
Google
リテール業界統括部 統括部長

リテールメディアは「止まらない成長市場」に

木村さん:NRF 2024ではリテールメディアに関するセッションが10時間以上あり、注目度の高さが伺えます。特にDay0では、スペシャルプログラムとしてリテールメディアだけの時間がありました。そちらを中心に紹介します。

リテールメディア市場は、グローバルで10%以上の成長速度で伸長しており、今後も高い成長が予測されています。USではTV市場を2025年で抜き去る予測で、インパクトの大きさがわかるのではないでしょうか。

リテールメディアの大きな成長ドライバーとなっているのが、高い利益率です。リテールメディアの先進企業であるAmazonでは、リテールメディア事業が入るか入らないかで営業利益に$5 Billion(約 7,500 億円)以上の差が生まれます。

同じく先進企業のWalmartのメディア事業「Walmart Connect」は60%という高い営業利益率を誇り、2022年の営業利益額は $1 Billion(約1,500億円)となっています。これは、Walmartの小売事業で換算すると$35 Billion分(約5兆円)もの売上が必要な額です。

さらに、広告主であるCPG(Consumer Packaged Goods:消費財)ブランドの成長と投資も、市場の成長を促しています。USでは現在、CPGクライアントが予算の約3分の1をリテールメディアに投下しています。これがさらに2024年には50%に増加するとの予想で、加速度的に投資が増加しています。

「新しい収入源」に惹きつけられた増え続ける新規参入者と外部パートナー

「新しい収入源」に惹きつけられた増え続ける新規参入者と外部パートナー

木村さん:リテールメディアへの新規参入の多くがここ2年に集中しており、小売・非小売関連ソリューション含め、あらゆる企業の参入が続いています。リテール企業では過去2年で30社以上の参入がありました。この流れは北米だけでなく、南米、ヨーロッパ、アジアへと広がっています。

そのなかで一番大きく変わってきたと感じるのが、外部パートナーです。NRF 2024では、先進的なリテーラーとメーカーの協業に関するセッションに、ファシリテーターとしてコンサルタントや調査会社が入り、チームとなっているケースが増加していると感じました。

私の感覚では、3年くらい前まではここまでチームで動くことはなかったと思います。各社がしっかりとリソースを割いて事業を伸ばしていこう、サポートしていこうという取り組みがあるのが、これまでとの大きな違いです。

更なる成長に向けたオフサイト連携と実店舗への展開

更なる成長に向けたオフサイト連携と実店舗への展開

木村さん:リテールメディアのマネタイズは、リテーラーのファーストパーティデータを獲得して加工、メディア配信につなげて効果測定を行うという流れです。これをメーカーが小売に依頼して実施するのが基本です。

そのなかでリテールメディアは、「オフサイト」「オンサイト」「効果計測ソリューション」という3つの領域に分けられます。この構造は国を問わず共通しています。

オフサイトとは、検索や各種プラットフォームなど、小売の自社メディア以外の外部メディアに自社データを活用して、自社のECサイトや実店舗に送客を行うことです。大規模で粗利が一定なのが特徴です。

オンサイトとは、小売の自社メディアに広告を掲載することです。デジタル領域ではアプリやECサイト、また実店舗のサイネージなどが主流です。外部メディアと比較すると小規模で、利益率が高くなります。

そしてリテールメディアで重要なのが、配信結果から見るインサイトです。メーカーが求めることに対して、効果測定をサービスとして展開していくことが、リテールメディアの大きな流れになります。オンサイトや、オフサイトで実施した施策の効果分析サービス自体も販売している先進企業も存在します。

リテールメディアの進化の方向性(US)

木村さん:フレームワークはさまざまですが、リテールメディア先進国のUSでは、オンサイト配信からオフサイト配信への拡張が大きなトレンドです。

また新しいチャレンジとして、実店舗への拡張も大きなトレンドでしょう。今のショッピング購買は、オンラインだけで完結することが難しく、オフラインの購買比率もまだ高い状態です。しかしそのデータが抜けており、そこを補完する実店舗向けのソリューションを拡張していく流れがあります。

リテールメディア領域別 現状のCPGブランドの投資配分の状況

リテールメディア領域別 現状のCPGブランドの投資配分の状況

木村さん:資料(上図)のうち、インストアは実店舗のことで事実上オンサイト、ダイレクトはオフサイトに分類されます。現状のCPGブランドの投資配分は、USの場合、オンサイト比率が高くなっていますが、今後はオフサイトとインストア(実店舗)への出稿が強化される想定で、それらをどう伸ばしていくかがこれからの大きな議論となるところです。

リテールメディアの今後の成長領域

リテールメディアの今後の成長領域

木村さん:資料(上図)の左図は2025年までのメディア別市場規模推移で、リテールメディアに該当するのが赤色および水色です。リテールメディアの成長がいかに早く大きいものであるかが表れています。

右図は2027年までにリテールメディアのどの領域が伸びていくのかの予測です。オフサイト広告を中心とした成長が予測されています。インストアはまだ売上の収益の規模感はそれほど見込めませんが、徐々に増えていく予測です。

リテールメディア(オフサイト領域)の成長の可能性

木村さん:オフサイト広告はCTV(テレビ視聴)と通常のモバイル視聴と合せて、大きな成長が見込まれています。各リテーラーは各プラットフォーマー、いわゆるストリーミングプレイヤーと連携して、オフサイトのソリューションの有効活用に注力している状況です。

オフサイト配信を強化するCTVの市場シェア

オフサイト配信を強化するCTVの市場シェア

木村さん:USではYouTube、Netflixを中心として、ストリーミングサービスの存在感が従来のブロードキャストサービスよりも強くなっています。リテール企業としても、足りないリーチ力を補完するパートナーとしての取り組みを強化しており、IDや顧客データを突き合わせて活用を進めています。

日本ではYouTube、PrimeVideo、TVer、Netflixが主要なプレイヤーです。特にTVerは最近伸びています。その他、niconico、Abemaなどもあります。DV360というソリューションを使うと、国内の主要な動画サービスに対してまとめてアクセスが可能になるため、連携するプレイヤーが今後増えると想定されます。

数周目に入り「顧客体験の最大化」という本質に立ち返る先進リテールメディア事業者

数周目に入り「顧客体験の最大化」という本質に立ち返る先進リテールメディア事業者

木村さん:先進企業は成長市場だから投資するのではなく、本質に立ち返り、全体としてどう顧客体験を最大化するかに注力している印象です。

そこには「Flywheel」という考え方があります。メディアで面白いコンテンツを配信してそれに興味を持った人に広告をあて、購買につなげていく。購買した人が増えるほど新しいメディアを見る人が増え、また広告が増えて購買につなげていく。そうやって一貫した顧客体験を広げていこうという取り組みです。

お客様の買い物体験をより引き上げているためのリテールメディア

お客様の買い物体験をより引き上げているためのリテールメディア

木村さん:スポンサード広告による新しいブランドやほしい商品の発見、おすすめ商品の購入などで、リテールメディアが生活者の顧客体験を向上させることで、リテールメディアは生活者に好意的に受け止められます。

小売企業はこれらをさらに引き上げるために、全チャネル(オンラインと実店舗)で一貫性のある体験を提供することを目指している印象です。

リテールメディア先進企業の取り組みの方向性

木村さん:一番大事なのは、リテールメディアは「手段」だということです。「目的」は生活者に最適な顧客体験を提供することで、リテールメディアが主語になってはいけません。

だからこそ、オンサイトとオフサイトを連携する必要があります。自社のアプリだけ、自社の購買サイトだけ見る人はいません。生活者はさまざまなメディア、サイトも見ています。そこに一貫した体験を提供することが重要なポイントです。

それを実現するために、NRF 2024では、メーカーと小売がジョイントビジネスプランという形で、ただキャンペーンの出稿者・受託者という関係ではなく、一緒にビジネスを成長させていこうという取り組みが圧倒的に多かった印象です。

ブランドを成長させるために小売にお金を出す、小売を成長させ得るブランドと組むという形で、それはこれからも広がっていくと考えられます。

リテールメディアの本質的な価値

リテールメディアの本質的な価値

木村さん:メーカーと小売がつながればできるのに商流的にできていなかったところに、リテールメディアによりテクノロジーの進化、外部環境の変化が起こったことで、できることが増えたのが現状です。今後は、メーカーと小売でこれまでにないようなパートナーシップを結ぶことが促進されると考えられます。

先進企業が立ち返った、本来のリテールメディアの意義とは

先進企業が立ち返った、本来のリテールメディアの意義とは

木村さん:リテールメディアは、ショッパーとブランドとリテーラー、三方よしになる形でないと事業として成立していきません。これを達成するために討議して、技術を活用していくことが重要です。

Q&A

――リテールメディアを活用するために、どのような準備が必要でしょうか?

木村さん:ファーストパーティデータがすべての起点となります。活用に向けてデータを増やし、加工して使える状態にすることが重要です。まず、どこでデータを取るかです。アプリやECサイトなどデジタルの接点を増やすことは、リテーラーの売上向上にもつながり、メーカーにも良い結果をもたらします。

――アメリカと日本でリテールメディアの進化にはどのような違いがありますか?その違いを踏まえ、日本の小売業、メーカーとしてどのような取り組みを進めるべきでしょうか?

木村さん:まず大きく違うのは、リテーラーがWalmartのような巨大企業ではなく、スーパーマーケットを中心に分散されていることです。コンビニエンスストアも日本のユニークなものといえます。

そういった店舗の利便性、地域密着などから、日本はUSに比べてデジタル比率が低くなっています。USはデジタル比率が高いがゆえにオンラインからスタートして、その後オフラインに展開していきますが、日本でそれを待っていても収益化につながらず、メーカーさんのマーケティングの高度化にもつながりません。

USではニールセンを中心に計測事業が進んでいます。日本にもそういった事業者はいるものの、カバレッジが低い状況です。リテーラーのIDやPOSのデータを使った効果計測を、パートナーとしてメーカーと組んで進める必要があります。同時に、アプリのインストールやECサイトのペネトレーションレイトの向上を進め、デジタル側のオンサイトも増やしていく。そういった取り組みを交互に行うのが日本ならではの進化の仕方かと思います。

――リテールメディアを自社のECサイト(オンサイト)に今後導入していくために、何か助けになるようなGoogleのサービスがあればご教示いただきたいです。

木村さん:一番わかりやすいのは、オンサイト向けの広告化ソリューション「Google Ad Manager」です。いわゆる媒体社向けのサービスで、リテーラーも媒体社と捉えて導入する形になります。自社のオンサイトのディスプレイ面が広告面になり、導入後にはDV360に接続した配信や、それ以外の検索連動広告との連携も可能です。

合わせて、自社サイトのUI、UX向上も考える必要があります。たとえば、検索機能を提供する「Retail Search」や、リコメンデーション機能を向上させる「Recommendations AI」などが活用できます。

――サードパーティクッキー終了に伴い、リマーケティング広告の代替の施策を探しているのですが、オフサイト広告は代替になり得るでしょうか。

木村さん:メーカーだと間違いなくなり得ます。メーカーはリテーラーのようにファーストパーティデータを持たないため、クッキーに頼らざるを得ないデジタルマーケティングを進めてこられたかと思いますが、その頼る部分がなくなってしまうでしょう。

そこでどのデータをもっているプレイヤーと組んでいくかを考える必要があり、消費財企業であればリテーラーのファーストパーティデータを使ったものになってくるかと思います。

――日本の生活者がリテールメディアを使う理由は、ポイント付与やディスカウント情報の把握が主であると感じます。欧米でのリテールメディアで高めようとしている顧客体験はどのようなものがあるでしょうか?

木村さん:日本とUSで主流のプロモーションの手法は違いますが、プロモーションを行うこと、それが影響を及ぼすことは変わりません。

日本は特に1,000円OFFや、ロイヤリティポイント付与などの訴求への感度が高くなっています。一方のUSは、〇%OFFという訴求や、在庫のアベイラビリティ、〇個買ったら値引きなどのプロモーションもよく見られます。また、カテゴリーによっても違いがあります。

【まとめ】セミナーに参加してみて

NRF 2024で見られるUS市場のトレンドは、遠からず日本にも入ってくると考えられます。

セッション3では、リテールメディアの今と今後の予測について詳しく解説されており、EC事業者にとっては、今後の広告配信を考える上で役立つ情報となっています。解説されている通り、トレンドを押さえた上で、メーカーやプラットフォーマーと連携した取り組みを行っていくことが重要です。

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