
本記事では最近の海外ニュースをまとめて取り上げていきます。特に今回はEC事業者の返品対応に関連するニュースをまとめました。
この記事の目次
【フランス】郵便局に試着室の設置を試験導入
ニュースの概要
フランスの郵政公社ラ・ポスト社(La Poste)は、パリにある郵便局2か所に試着室を設置しました。今後、計7か所に試着室を設置する予定です。ラ・ポスト社によると、多くの消費者は商品を受け取ったとしても、自宅で着用し、似合わなければ返送しています。この試験的な試着室の導入により、フランスの消費者は指定された郵便局で注文した商品をすぐに試着できるようになったのです。郵便局との提携事業者からの注文であれば、着用した商品が気に入らなければその場で無料返品することが可能になりました。
参照:La Poste installs fitting room in post office
日本への横展開は?配送のムダを減らすための取り組み
本実験に対し、フランス商工会議所のコンセイユ・デュ・コマース・ド・フランス(CDCF)は、試着室が導入されることによって、ECの消費が加速し、実店舗への来店数の減少を懸念しています。
日本では喫緊に迫った物流の2024年問題に向けて、配送会社による試着室の導入を検討するニュースは現時点で聞いたことがありません。返品により消費者から事業者に配送される際、配送会社は再度配送料を受け取ることが可能であるため、試着室の導入は売上を損なう可能性のある施策ともいえます。しかし、この取り組みにより、個人宅への配送を削減し、利益効率を高める効果や、顧客満足度の向上、配送不可の削減につながるようであれば実施の可能性があるかもしれません。この実験が、今後のどのような結果になるのか注目です。
【英国・米国】EC事業者に押し寄せる「返品の波」
ニュースの概要
返品管理プラットフォームを提供するZigZag社によると、EC事業者は「今年の1月は過去最大の返品の波」に直面しているといいます。消費者が返品に関する費用の負担をしなければならないにもかかわらず、1年前よりも返品の割合ははるかに高くなっているのです。ZigZag社の調査では、12月24日から1月2日までの英国における返品数が前年同期比16%増加し、米国では、返品数が前年比で26%増加したという驚異的な数字が観測されました。
特に1月1日と2日にZigZag社では返品のピークを記録しました。英国では2023年の同期間よりも返品数が42%も多くなったのです。ZigZag社の最高経営責任者(CEO)アル・ゲリー氏は、「現在の経済情勢ではこの返品の流れは驚くべきことではない」と述べました。返品により、消費者が無駄な支出をいかに抑えようとしているかを示しています。
現在、ZigZag社が提供する返品管理プラットフォームを利用するEC事業者の63%は、何らかの形で有償返品サービスを組み込んでいます。これは、返品に対して消費者が支払いを行うことが常識になりつつあることを示しています。EC事業者にとっては注文を受ける利益以上に返品にかかる手数料のほうがはるかに高いためです。返品を避けることが、多くのEC事業者にとって最優先事項となっています。
参照:‘Return wave’ floods online sellers
消費者の購買体験と事業者の利益確保
消費者にとって返品がしやすいことはECでしか販売されていない商品を購入する際に重要なポイントといえます。しかし、事業者は返品にかかるコストを考えると、容易に返品無料に踏み切れないかもしれません。失敗したくない消費者は返品ありきで複数サイズを注文することもあるでしょう。このとき、送料や返品時の手数料を赤字にならない範囲で設定するかが肝といえます。
AmazonのPrime Try Before You Buyのように無料で返品が可能な仕組みがありますが、有料会員制度の導入や購入金額の高いロイヤリティの高いお客様に限定するなど、海外の事業者から学びルール作りを検討しても良いかもしれませんね。
【ドイツ・オーストリア・スイス】返品回避が最優先事項に
ニュースの概要
ドイツ、オーストリア、スイス(3か国を総称してDACHと呼ぶ)のEC事業者にとって、返品の防止は重要なポイントです。返品にかかる費用は平均して5~10ユーロですが、中にはこの範囲を超えるものもあります。返品を減らすために詳細な商品情報をページに記載することが大切であると考えられているのです。
ドイツのリテール研究所EHIは、2023年に配送と返品管理に関する研究を実施し、すでに初期結果を発表しています。DACH地域のEC事業者81社を対象とした調査から、同研究所は、ほとんどのEC事業者にとって返品の回避が最優先であると結論付けています。本調査のプロジェクトリーダーであるヒルカ・バーグマン氏は、「返品を回避しようとする事業者たちの努力は、場合によっては大量の返品とそれに伴う非常に高額なコストに起因する」と説明しています。
返品数が最も少ないのは食品と飲料のカテゴリーです。ただし、ファッションやアクセサリーの事業者では通常、注文の25%~50%が返品され、ピーク時には75%に達します。消費者は、サイズの異なる複数の商品を注文し、自宅で最終購入を決定し、残りを返品することが当たり前になっています。EHIによると、ファッション系の多くの事業者はこれを容認し、促進しているのです。
また、EHIの調査によると、返品率に加えて、返品コストも大きく異なります。平均して、5~10ユーロが返品にかかるコストです。家具およびインテリアのカテゴリーでは、返品コストがその金額の2倍になる可能性もあるでしょう。調査対象となったEC事業者のうち、64%が返品送料を負担しています。回答者のうち半数以上(56%)が、返品時に最も多くのコストがかかるのは返品商品の検査と品質管理との結果が出ています。
参照:Avoiding returns a top priority in DACH
先進国の動きから先読みしたプラン設計を
日本よりも返品対応への取り組みが進んでいる国は多数あります。今回紹介したニュースもその一つといえるでしょう。Recustomer社の調査による、日本のEC事業者の返品率はDACHと比較すると著しく低く、2023年度で6.61%、比較的高い靴のカテゴリーに限って見ても11.1%です。
海外の事業者が直面するコストの問題とどう向き合うのか、繰り返しになりますが消費者からのニーズは高い一方で導入の際は慎重に試算をして進めると良いかもしれませんね。
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