
【ゲストスピーカー】
野崎 創さん
株式会社エーデルワイスファーム 代表取締役
ハム・ベーコン専門店「エーデルワイスファーム」
【チャンネルMC】
柳田 敏正さん
株式会社柳田織物 代表取締役
ワイシャツ専門店「ozie(オジエ)」
この記事の目次
レッド・オーシャンから抜け出す戦略!資本力に負けない運営
エーデルワイスファームが通販を始めるまでの軌跡
柳田さん:今回は株式会社エーデルワイスファームの野崎創さんに、食品業界の製造・小売・卸売についてお話しいただきます。野崎さんは1994年からECを始めたとのことですが、なぜ非常に早い時期から始めようと思ったのでしょうか。
野崎さん:当時はECという言葉自体がありませんでした。インターネットという言葉ですら、まだ誰も知らない時代です。弊社は、とある百貨店に4年近くプロパー店舗で出店していたのですが、次の展開をどうしようか考えていました。そのタイミングで、明太子で有名な「ふくや」のセミナーを受講したのです。当時のふくやは明太子を通販と直販により65億円の年商を作り出していました。その秘密に迫りたかったのですが、セミナーではその内容には触れられず、詳しく知ることができなかったのです。
懇親会で登壇者の方と名刺交換をする機会があったので、どうしてもそのノウハウを知りたくて、あえて列の最後に並んでじっくり核心を突いたお話を聞くことにしました。弊社のハムやベーコンが通販で売れるのか。また、お客様の集客方法や、一度購入した方に継続して購入いただく方法などを知りたくて質問をしたのです。
柳田さん:結果的に話を聞くことができたんですか?
野崎さん:いろいろなことを教えてくれました。やるべきことを教えてもらい、そのセミナーから半年後に通販をスタートします。まずはモノクロのチラシを数百枚作ることから始めました。
通販を始めた次の年に、アメリカに留学した頃の友人と電話で話していると「インターネットというものがアメリカで火がつきそうだぞ」と教えてもらいます。当時はパソコン通信と呼ばれるインターネットとは異なる手法でデータの送受信をしていました。しかし、その手法では画像を送ることですら簡単ではありません。インターネットはインフラさえ整っていれば、動画はもちろん、さまざまな発信できるようになるため、新しい世の中になると確信したのです。
その半年後、日本で最も早くにECモール事業を始めた札幌市に「良かったら参画しないか」と声をかけてもらい、EC事業を始めたのが1994年の秋のことになります。その後、自社サイトのドメインを取ったのは1996年です。当時はECを始めている方がまだ少ない時代だったので、ノウハウはネットの掲示板を見ることで収集していました。同じような苦労をしていることをきっかけに、他の方と実際に接触する機会もありましたね。このようにして、半信半疑ではありましたが、インターネットの世界で物を売ることを始めたのです。
柳田さん:もともと百貨店で小売をやってから、紙の通販。そしてECを始めたという流れですね。紆余曲折があったと思いますが、苦労されたエピソードはありますか?
野崎さん:想像以上の急成長による大変さがありましたね。2000年当時、弊社は地元に店舗を持つことなく、ネット通販とカタログ通販、百貨店の物産展への出展の3つの販路を持っていました。そのとき、地元のローカルTVから弊社を紹介したいと連絡がきたのです。注文が入ってくれればいいかなという軽い気持ちで取材を受けました。テレビを見て初めてうちを知るお客様が多いだろうから、お試しセットを紹介させていただいたのです。すると、テレビに出てからというもの、丸3日間電話が鳴り止みませんでした。
便利がゆえ、成長が鈍足なEC市場
柳田さん:野崎さんから見て、EC業界の課題についてお話しいただけないでしょうか。
野崎さん:ここ5~6年(2020年時点)、海外に視察に行って見て感じるのは、日本はコンビニをはじめ、あまりにも便利過ぎると思っています。そのため、ECの成長速度が他の国と比べると遅いのです。これが私にとっては誤算でした。EC化率がまだ10%にも満たない規模に、後発組が新規参入する中、大手企業が参入すると中小零細企業は資本力で圧倒されてしまいます。もうその時代は来ているのです。
その結果、小さなマーケットの中でお互いがしのぎを削るような形になっています。つまり、インターネットが始まる前に当たり前だった小売や卸など、競合企業と店舗の棚を取り合ってしのぎ削り合っていたものが、今度はインターネット上にそのまますり替わっているのです。頑張っている割には意外と儲からないのが今のECの状況だと感じています。
顧客をファン化させるための販売戦略とは?
理念の刷新と商品開発のための環境作り
柳田さん:そのような状況で、野崎さんはどのようなことに取り組んでいるのかをお聞かせいただけないでしょうか。
野崎さん:地元のローカルな部分を持ちながらも、世界が注目するようなグローバルな発信をしていきたいと思っています。例えば、ローカルな食べ物、環境、コミュニケーションなど、それぞれの発信をクロスすることでブランディングにつながります。
柳田さん:食品は直接口に入れるものなので、地域性や環境に配慮しているかのSDGsの観点などを気にする方もいるでしょう。特にニッチな商品であればあるほどブランディングに通じる、わかってもらう努力をしないといけません。ブランディングの話になりましたが、なんだかんだ言っても食品の場合、美味しいのは当然必要なことです。その上で、さらに選ばれる理由を作らないといけないですよね。
野崎さん:選ばれる理由については、ここ1年半くらい社外のデザイナーの方に深く入ってもらい、ほぼ毎月会議を繰り返し議論しています。
その会議を通して根本的に弊社のビジョンや理念を刷新しました。以前は先代が決めたビジョンでありコンセプトだった「カントリーライフの食文化をお届けする」でしたが、今は「美味しいハム・ベーコンをお届けする」と極めてシンプルになっています。
柳田さん:すごくシンプルな理念になりましたね。
野崎さん:お客様に一番伝わるのは何かを考えた結果、この理念に至りました。次の段階として、ハム・ベーコン・ソーセージのメインとなる既存商品の見直しです。今までやってこなかったことに手を付け始めました。例えば、ハムやベーコンの味は環境に左右されることが少ないですが、ソーセージは製造工程で空気に晒したり、燻製の仕方だったり、工夫によって味が変わります。
正直な話、デザイナーの方から「もっと良いものを作れるのにやってこなかったでしょ」と指摘を受けたのです。図星を突かれたこともあり、環境作りとして研究開発工房を作っています。
また、同業他社がやっているコンクールで賞を取ることをしました。賞を貰わなくても美味しいものを作っていれば良いと考えていたのですが、お客様が自分の好きなものに良い評価をしてもらいたい気持ちに気づけていなかったのです。
昨年から挑戦を始めたところ、次々と賞を頂きました。ドイツ農業協会の金・銀・銅賞。食品のミシュランと呼ばれている世界味覚審査機構にベーコンをエントリーし、二つ星を受賞など、ありがたい限りです。しかし、今になってこういった賞に挑戦しているのは、これまでが若干怠慢だったかという気がしています。
柳田さん:まだまだ伸びしろがあるということですね。
顧客との対面からヒントをもらう
柳田さん:エーデルワイスファームでは札幌市内に直売店を持っていたり、百貨店の催事によく出たりしていますよね?オフラインならではの事例はありますか。
野崎さん:弊社は長年物産展の中では、ただ商品を並べて自分たちのこだわりを伝えて販売することで、それなりの売上を作れていました。
ある日、とあるカリスマバイヤーが私のところに来て「野崎さんのところで何か変わったことをやってないですか?」と聞かれたんです。「イベントでベーコンを串打ちしてベーコン串として売り出しています」と答えると「それで行こう!」と。「百貨店で売るものではないですよ」と話したのですが、「野崎さん、百貨店も今は百貨店という枠ではなく、お客様は遊びが欲しいんです」と言うんです。「やってみないとわからないから、ベーコン串をやってみましょう」となりました。
しかし、ベーコン串を焼くための台を作ると、その分物産展のスペースが奪われるので売上が下がるのではないかと心配でした。それに対し、カリスマバイヤーは「大丈夫だ」と言うんです。
柳田さん:何が大丈夫なのでしょうか?
野崎さん:長い目で見たらお客様が付いて絶対に成長するから大丈夫だということでした。彼から頼まれて今では4年が経ちますが、ベーコン串だけで週に1,600本ほど販売しています。
柳田さん:そんなに売れているんですね。お客様の前に立つことが一番のヒントなのかなと野崎さんの話を聞いて思います。
思い出作りでお客様と継続的なお付き合いを
野崎さん:弊社でやっているものづくりや、燻製をしている風景や肉の加工をしている現場など、一般の方からすると非日常なんですよね。
柳田さん:調理とは違いますからね。
野崎さん:非日常を少しでも感じ取れるような場作りをすると、思い出として強く残るようになるんですよ。そして、その強い思い出はなかなか塗り替えることができないんです。例えば、お土産で頂いたドイツのハム・ソーセージと、ドイツで食べるハム・ソーセージとでは、後者のほうが美味しいと感じるのではないでしょうか。北海道で食べたとうもろこしが一番美味しいと思うのもそうですね。
柳田さん:風景と一緒にいる人と空気感と、そういった感覚が思い出になるということですね。
野崎さん:結局、人間の感情には勝てないんです。
柳田さん:そういった感情を動かすこと、思い出に残ってもらうにはやっぱり体験なんですね。お客様への体験や商品をどんどん改善をされているということですが、今後どういうことに取り組む予定か最後に教えていただけますか。
野崎さん:お客様がものづくりできて、自社の商品開発もできる新しい工房を作りたいです。また、今もカフェを運営していますが、より本格的なカフェレストランを作りたいとも思っています。工房の名前は扱っている商品がお肉なのでミート(meat)と人に会うミート(meet)をかけ合わせたミートラボにできたら面白いのではないでしょうか。
加えて申し上げたいのはファンがいてこそなので、ファン作りのための環境はECの分野においてもっと徹底するべきだと考えています。本当の意味でお客様と交えるように、作り手の顔や情報を出していくことが大切です。各企業がどのような世界観を持ってこの先事業を成長させていくのか、お客様はよく見ていますから。
おわりに:買い物プラスαの価値でお客様の頭に残る体験を
1994年という非常に早い段階からEC事業を始め、挑戦を続けている野崎さん。そのお話の中で印象的だったものは「思い出」の強さです。観光地で観光客がありがたがって美味しいと食べる一方で、地元の方にとってはそうでもないという話はよく聞くかと思います。
理想は観光地の選択肢として人が来てくれるような体験を提供できれば、忘れがたい思い出をお客様に提供できることでしょう。しかし、他のお店とは少し違う工夫が、お客様の期待を超えて思い出になることはよくある話だと思います。その少しの期待を超えることに施策を考える意識を傾けると、何か良い解決策が見えてくるかもしれません。
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