
株式会社SynaBiz 北村さん(右)
前回取材させていただいた株式会社SynaBizの北村さんに、ジュエリーの生産量が1位である山梨県に工場を構える「BRUSH」をご紹介いただきました。代表の仙洞田さんは2012年に前職で立ち上げたジュエリー事業を引き継ぎ、2021年に1から工場を立ち上げています。今年からは自社ブランドを開始し、OEMとの2軸になったことで工場内に良い効果が出ているようです。今回は、BRUSH合同会社(以下、BRUSH)の代表である仙洞田さんに、工場立ち上げに至る背景から、ものづくりにかけるこだわり、今後の展望についてなど幅広く伺いました。
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テレビマンが工場を設立!?
――どのような経緯で北村さんはBRUSHを知り、今回のご紹介に至ったかを教えていただけますか?
北村さん:BRUSHを運営されている仙洞田さんとは共通の知人を介して知り合いました。BRUSHさんで自社ブランドを立ち上げて今後ECでの販売に力を入れていくから話を聞いてみてくれないかとご紹介いただいたのです。話を聞けば聞くほど仙洞田さんのプレゼンテーションに魅了され、また仙洞田さん自身のご経歴も非常にユニークだったので、今回紹介させていただこうと思った経緯になります。
――それでは気になる仙洞田さんについてですが、まず、どういった背景で現在ジュエリー工場を経営しているのか教えていただけますか。
仙洞田さん:以前勤めていた会社で10年前に135周年を記念する事業コンテストがありました。山梨に根ざした新聞・テレビ・ラジオなど多角的なメディア企業だったため、広告以外の収益を上げることを目的にしていたのだと思います。全126案ある中で、私が発表したものづくりの案が優勝しました。そのときに立ち上がったのが今の前身の事業になります。当時は色々なものを作りましたが、ジュエリーが唯一事業として成長していきました。

仙洞田さん:ジュエリーの製造に必要な機械は自費で用意し、グループ会社の一角を間借りしながら事業を運営していました。長い間、自費で買った機械で製造した商品の収益が会社についている状態だったこともあり、私が退職するときは会社との間にわだかまりなく必要な機械を手元に戻して再スタートすることになります。
BRUSHとして運営している今の工場は私の祖父の生家だった場所を譲り受けて改装しました。ジュエリーの生産では音が出ることや動力が必要なことから、元々ジュエリーを作っていた場所でないと難しいといわれています。祖父の家は工場ではありませんでしたが、周囲にジュエリー工場が多かったため、幸いにも環境面のハードルはそこまで高くありませんでした。
業界・職人の環境を知り、燃える情熱
――サラリーマン時代、会社の収益になることがわかっていながら自費で機械を用意して事業を推進させた情熱には驚きです。仙洞田さんがそこまで情熱を注げるのはどういった理由からなのでしょうか。
仙洞田さん:山梨から東京に転勤になった頃、前職の先輩から「東京で山梨博士になれ。そうすれば東京でも目立てる」と言われました。東京では大手広告代理店と他県の系列メディアが一緒に仕事をするため、地域の情報に詳しい人は重宝されるからです。山梨について調べていくと地場産業が多く、特にものづくりに強い土地であることがわかりました。
ジュエリーの生産量は日本一ですが、事業コンテストをきっかけにジュエリー産業に関わったことで課題が見えてきたのです。低賃金かつ過酷な労働環境による後継者不足や、通常の製造工程では時間もお金もかかるため新規でジェエリーを作りたい方にとって敷居が高いといったことが例として挙げられます。
適正な工賃で作られたものを、適正な価格で届けることができなければ産業は発展していきません。事業を始めてから、こういった課題のことが常に頭に引っかかっているため、情熱を注げられているのだと思います。

クライアントにも、職人にも嬉しいBRUSHのこだわり
――では、そういった課題を解決するために取り組んでいることがあれば教えていただけますか。
仙洞田さん:まず、BRUSHでは他の同業のジュエリー会社から依頼される下請けの仕事はしていません。中間業者を挟まずにクライアントとの直接取引だけに絞ることで、適正な工賃で仕事を受けられます。また、クライアントと直接コミュニケーションを取れることは工賃の問題以上に大切なポイントがあるのです。
現状、BRUSHの売上のほとんどはクライアントから依頼を受けて商品を製造するOEMです。製造の依頼を受ける通常の流れでは、クライアントからデザイン案を受け取り、職人が手を動かして作ったサンプルを見ながら調整をかけていきます。
一方で、BRUSHではクライアントとやり取りをするコミュニケーターの私がCADを使えるため、デザイン段階で商品のイメージを具体的に作成できます。加えて、3Dプリンターを用意しているので職人の手を動かさずにサンプルをお出しすることが可能です。つまり、正式に発注いただく前の工程での手戻りを少なくし、それでいて職人が手を動かす必要がない状況を作っているので、クライアントにとっても敷居が高くない価格で商品を提供できています。

品質を維持するための工夫と仕組み
――発注前のコミュニケーションからクライアントにとってもBRUSHさんにとっても仕事を進めやすい仕組みを作っていると感じられました。次に商品について、どのような強みを持っているのか教えていただけますか。
仙洞田さん:OEM、自社ブランドに限らず、高い品質で安定した供給をすることは重要です。どこで勝つのか考えたときに、絶対に品質は欠かせません。そして、品質の次に価格です。
一般に工場では利益追求の観点から、いかに手離れをよくするか、短い時間で仕上げるのかということが大事になります。工場全体にこの雰囲気が漂っていると、サラリーマン職人は手を抜くことを覚え始めます。そういった職人が独立した際に仕事をお願いすると、品質があまり高くないことが目に見えてわかってしまうのです。
BRUSHでは品質にこだわることを職人と同意の上で製造しています。職人の中には、いずれ独立をしようと考えている方もいます。弊社では、いつかはするであろう独立を応援することで、技術を磨くモチベーションを維持して働いています。例えば、日々の製造の中でハテナが出たら絶対に飲み込んではいけません。1つ出たハテナが長い工程の中で、だんだん膨らんでいき、どこかでダメになっていることに気づくと、後の全工程に響いてしまうのです。
また、他の工場では分業制となっていることが多いですが、弊社ではどの工程もできるようになってもらっています。独立をするうえで、全ての工程を知っているほうがいいので、職人も前向きに取り組んでいます。

仙洞田さん:他にも職人には残業を絶対にしないルールを立てています。労働時間が長くなるほど集中力が落ちて、品質の低下につながってしまうからです。細かいところも含めて日常的に職人と話をする中で「ものづくりでは2歩進んで3歩下がることがよくある。戻るくらいなら半歩ずつでも着実に前に進むようにしよう」と繰り返し話しています。
クライアントとの密なコミュニケーションで納得の商品を顧客の手元へ
――高い品質を保つために、職人さんとの対話や社内の制度など高い視座で製造に向き合える環境を提供していることがわかります。クライアントとのコミュニケーションについてはいかがでしょうか。
仙洞田さん:うちはクライアントの方々と比較的近い距離感の開かれた工場だと思っています。ブランドのデザイナーさんが工場まで来て、職人が打ち合わせに参加しながら何泊か泊まって変えることもしばしばです。
また、店頭に立つブランドの販売員に工場まで来てもらうこともあります。職人と話す機会を設けたり、私から製造の過程や工夫などを説明したりと、誰がどのような工程を経て作った商品かがわかると、販売員の方々も接客の際に自信を持ってお客様に販売できるようになるようです。

北村さん:今までいくつも工場を見てきましたが、工場の多くが少人数で経営をしていて、当然ですがものづくりに特化しているため伝えることが得意とは限りません。例えばオープンファクトリーを経営しているような大きな工場だと、PRの方がちゃんといらっしゃって非常に魅力的な紹介をしてくださります。BRUSHさんは少人数での経営であるからこそクライアントとの距離感や新しい技術に対して貪欲な姿勢などはもちろんですが、仙洞田さんが元テレビマンだからこそ持つ発信力の強さを普段やり取りしている中で感じることが多いです。
仙洞田さん:他の工場ではあまりやっていないことだと思いますが、OEMの依頼を頂いているクライアントと職人が直接コミュニケーションを取ることもあります。例えば、難易度の高いデザインの要望を頂いたとき、技術的な議論の場に職人が同席することでクライアントの納得感が変わります。
職人としても、クライアントに伝わるようなコミュニケーションを心がける必要があるため、伝える力が養われるのです。日常的に私が捕まらないことが多いので、クライアントには工場直通の連絡先を伝えて自ずと職人と話をする機会も設けていますね。

――大量生産の安価な商品ではないからこそ、販売する事業者さんが商品をよく理解できる環境や職人さんと直接コミュニケーションを取れる機会が設けられているのでしょう。どのようなクライアントと長いお取引になることが多いですか。
仙洞田さん:ものづくりをよく理解してくれているクライアントとは長く続くことが多いと思います。商売ではあるので金額にシビアなのは大切なことだと思いますが、例えば5,000本発注するから1本あたりの単価を抑えてほしいという依頼はお受けしていません。
北村さん:OEMであまりビジネスライクな話になるとうまくいかないと感じることは多いです。価格ファーストの大量生産なら海外の工場に出したほうが良いのではないかと思います。

自社ブランドの立ち上げによってOEMに与える好影響
――今年に入ってから自社ブランドを立ち上げられたとのことですが、どのような商品を製造・販売しているのでしょうか。
仙洞田さん:OEMを10年以上続けてきたので、さまざまなジュエリーを作ってきました。やはりデザイナーさんは優秀ですので、同じところに並べても難しいと思い、まだ市場にあまり流通していない「ネイルリング」を最初に作ることにしました。
OEMではクライアントに卸してから、クライアントが利益を取る上代を設定しますが、自社ブランドだと手がかかるデザインでも卸値で市場に出すことができます。BRUSHの自社ブランドではそういう商品を販売するのでご覧いただきたいです。

――10年以上続けてきたOEMに自社ブランドの製造が加わったことで工場内に変化はありましたか。
仙洞田さん:自社ブランドではあえて手間がかかる効率が悪い商品を製造しています。手間がかかる商品を作ると職人のレベルが上がるので、提供できる商品の質や製造スピードが上がっていくのです。OEMだけではできない挑戦をしながら、安定して売上を立てられているOEMの品質を向上するサイクルが自社ブランドを立ち上げたことで実現できていると感じています。
自社ブランドでは私から職人に手間がかかるデザインを依頼していますが、OEMでは「まさかそんなデザインを!?」といった、ものづくりをする人間では思いつかないようなデザインの依頼が来ることがあります。どちらも大変な仕事ではありながら、職人は私が褒めても慣れてしまいますが、クライアントから褒めてもらえるとやる気につながっているのです。

BRUSHが持続可能にするジュエリー産業のこれから
――2軸が回ることで工場に良い流れを生み出していることがわかりました。最後に、今後の方向性を伺ってもよろしいでしょうか。
仙洞田さん:ジュエリー製造を始めて10年目になり自社ブランドを作り、NETSEAとの取引によってネットでの卸を始めました。また現在、楽天市場に出店をして小売も始めています。
業界では職人の“給料”は概ね年齢と同じであることが理想といわれています。しかし、歳を重ねると目が悪くなり40歳くらいから若い頃ほどできなくなってしまうのです。そういった職人が今まで培ってきた経験を次に繋げることで価値を発揮できる環境を作っていこうと思っています。
例えば、山梨であれば果樹園で果物の食べ放題に来る観光客がいますが、そのコースの1つに入るような観光要素でジュエリーの製造体験をしていただく。若い職人に技術をつなぐだけでなく、一般の方が製造に触れる機会が業界の発展にもつながっていくと思うのです。
事業のスタートが山梨の地場産業を活かしながら、職人の環境を良くしていこうというところから始まっているため、BRUSHではものづくりを真面目にやりながら前進していこうと思います。

インタビューを通して:体験を通して尊さがわかる職人の技術
取材当日、ジュエリーの製造工程を実際に紹介いただき、実際にジェエリーを製造する体験をさせていただきました。当然のことではありながら、初心者では思ったような出来栄えにならないことが体験を通して感じられました。クライアントに対して、こういった体験の機会を提供することは、職人の技術の尊さが感じられるきっかけになるように思います。
BRUSHは2022年8月にBtoB卸モールのNETSEAに出店しました。BRUSHのNETSEA店では1品から商品を仕入れることが可能です。ぜひこの機会にご覧になってはいかがでしょうか。また、OEMの生産など、新しい商品を作りたい場合はSynaBizに相談してみるといいと思います。
■BRUSH合同会社 NETSEA店
https://www.netsea.jp/shop/810675
■株式会社SynaBiz 問い合わせ先
https://www.netsea.jp/support
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