D2C・インフルエンサーのOEMも請け負う!プレタポルテの縫製工場「辻洋装店」の変化と挑戦
株式会社辻洋装店 辻さん(写真左)
LEFRI 高木さん(写真右)
インタビューの概要

ファッション業界の課題から日本国内のアパレル縫製工場の現状を伺った取材から、LEFRIの高木さんにご紹介いただき、東京都中野区に縫製工場を構える株式会社辻洋装店(以下、辻洋装店)に取材させていただくことになりました。辻洋装店では75年以上の歴史の中で、女性用のプレタポルテを中心に手がけています。ここ数年では、D2CブランドやインフルエンサーのOEMを請け負うことや3Dモデリングの技術を取り入れるなど、活発に新しい取り組みを始めているようです。縫製工場やプレタポルテについて、そして、時代の動きに合わせて変化する辻洋装店について、代表取締役である辻吉樹さんに伺いしました。

縫製工場が感じるアパレル業界の課題

――創業から75年が経ち、辻洋装店では縫製工場の変遷を見てきたかと思います。まずは辻さんが感じてきた縫製工場の昔と今をお聞かせいただけますか。

辻さん:縫製工場は元々閉鎖的な業界です。工場ならではのやり方は、同業者が見るとわかってしまうことが多く、閉鎖的にならざるを得ませんでした。また、ブランドが他に模倣されることを恐れて、工場に「うちのブランドを作っていることはあまり言わないようにしてくれ」とお願いすることも多いです。

辻洋装店は工場を構えて75年経ちますが、同じ都内の縫製工場は9割、全国で8割以上がバブル崩壊後になくなりました。海外製の商品が多く流通するようになったことが理由の1つです。アパレルの輸入浸透率はバブルの頃で50%ほど(着数ベース)でした。しかし、今は98%となっています。この現状を見て「閉鎖的なままでいいのか?」と思ったのです。

縫製工場が感じるアパレル業界の課題

――日本の消費者が着用している洋服の98%が海外で作られているのですね。そういった現状を受けて、辻洋装店ではどういった取り組みを行っているのでしょうか。

辻さん:縫製工場は基本的にショールームがあるわけではなく、人様を迎え入れるような雰囲気ではないといえます。しかし、工場の存在を知ってもらえなければ将来お客様になるブランドに見つけてもらうことはできないでしょう。

そこで、都内であることの立地の良さを活かして辻洋装店ではホームページを作成し、工場見学を始めました。当時はホームページを持っている縫製工場は少なく、都心から工場へのアクセスが良いこともあり本業に支障が出るほど人が来るようになったのです。今でも年間で300人は来ていただいています。また、多くの方に工場のことを知ってもらうために、ブログやSNSなどで情報を発信することにも力を入れています。

縫製工場では以前から課題になっている労働環境の悪さから、若い働き手が入ってきづらい状況にあります。そのため、高齢化が進んでいたり、外国人労働者に頼っていたりと採用に苦労している工場は少なくありません。

アメリカ国防省は日本の「外国人技能実習制度」は人身売買にあたるとまで指摘し、改善を促している点など外国人研修生に対して法令遵守ができていないニュースを目にしたことはないでしょうか。労働力不足から技能実習と労働を混同してしまっているケースが多く見受けられるのは残念です。辻洋装店がオープンな縫製工場として、若い方やさまざまな業界の方との交流により少しでも業界を明るく盛り上げていければと思っています。

辻洋装店の工場内の様子
辻洋装店の工場内の様子

大量生産の対にある定義できないプレタポルテの魅力

――若い働き手が前向きに縫製工場で働きたいと思える環境づくりは非常に大切なことだと感じました。辻洋装店はプレタポルテと呼ばれる高級既製服の縫製をしているとのことですが、どのような洋服の縫製をしているのか教えていただけますか。

辻さん:プレタポルテとは定義が曖昧なものです。高級に具体的な定義を持たせることは難しいといえます。例えば、テーラードジャケットを作るにしても、普通のデザインのはずが仕上がりは高貴な雰囲気を纏うように、細かいところでアイロンをかけたり、フォルムを作ったりと微細な調整と工夫を積み重ねていきます。すると、そのブランドのアイデンティティを宿した立体的な洋服が出来上がるのです。

大量生産では手間のかかる作業を省くことで効率的に、安価な生産を可能にしています。一方でプレタポルテは大量生産ではできない手間をかけているからこそ、高級品として扱われているのです。何度もアイロンをかけながらクセ取りをして調整するフォルム。加えて、生地は生きもので、気温や湿度といった環境によって伸びたり、縮んだりします。そのため、室温調整はもちろん、生地を裁断した後に1日寝かせるなど、さまざまなことに留意しなければなりません。この手間によって生み出される洋服の雰囲気は見る人が見ると明らかな違いになります。

生地の伸び縮みなどを抑えるために特殊な技巧を用いて加工
生地の伸び縮みなどを抑えるために特殊な技巧を用いて加工

OEMで提供される確かな技術

――大量生産ではないからこそできる細部までの工夫を施すことで、プレタポルテらしい独特の雰囲気を纏うことになるのですね。縫製の依頼はどういった企業やブランドから受けることが多いのでしょうか。

辻さん:コロナが流行り出す前ぐらいから、プレタポルテ以外にOEMで新しい仕事を受けるようにしています。あるとき、カジュアルメーカーの取締役の方から依頼を頂きました。カジュアルはやっていなかったですし、価格が合わないからと最初はお断りしたものの、「どうしても作って欲しい」と再度依頼を受けたため、チャンレンジすることにしたのです。結果、苦手としていたカジュアルですが、良さをわかっていただき継続的なお取引関係にあります。

他には少人数で運営しているアパレルメーカーやインフルエンサーの方からの依頼を受けています。この2つの取引先の共通点は今までにない上代の低さです。縫製にかかる原価は変えずに、廃棄が出ないようにしたり、受注生産にしたりとブランド側で工夫をして通常10万円で売られる洋服を3万円で販売していました。

洋服は上代が10万円であれば20%が原価となります。原価となる2万円の中から生地などを抜いた半分の約1万円が縫製の工賃です。我々の工賃は変えられないため、ブランドは50%を超える原価率で販売することになります。

百貨店で洋服が販売される場合、定価で商品が購入されるプロバー消化率は40~50%と言われています。つまり、店頭に並んでいる商品の半分は捨てられているかセールで値引かれて消費されています。既存のやり方では原価率が50%を超える洋服の販売はあり得ませんでした。

こういったアパレル業界の廃棄問題から、今はSDGsに寄り添った洋服でないと着たくないという人も大勢いるようです。我々の世代はブランドといっても商品の背景や物語には鈍感だと思います。新しいお取引先とお話をすることで、自分の中での常識がそうではないことに気づけて、今までにないものを取り入れようとなったのです。

OEMで提供される確かな技術

OEMの工程と辻洋装店独自の工夫

――直近数年で、新規の取引先が増えたかと思いますが、依頼を受けてから商品ができあがるまで、どういった流れで進めていくのでしょうか。

辻さん:まず、どのような洋服を作るのか企画から始めることもあれば、ある程度イメージを固めていてデザイン画を持ち込んでいただくところから始まることもあります。デザイナーの方であっても、小学生が描くような絵で持ち込まれる方もいるので最初の段階ではあまり難しく考えないほうが良いかもしれません。そのデザイン画から試し生地(シーチング)で簡単なサンプルを作って、具体的なイメージを徐々に固めていきます。

シーチングで作るサンプルイメージ
シーチングで作るサンプルイメージ

辻さん:具体的なイメージを形にするスピードを早められるよう、今年の7月に3Dモデリングを導入しました。絵が描けないデザイナーの代わりに、パタンナーがデザイナーの意図を汲み取って2次元の設計図を作ることはよくあります。さらにそのイメージを3Dにできるようモデリストがサンプルを作るのです。

OEMの仕事をする上で、本来であればニュアンスが微妙に異なるサンプルの用意が何着も必要ですが、3Dモデリングを活用すれば実物を作成する前にかなり具体的なところまでイメージを固められます。まれに9着ほどサンプルを製作することもありますが2着に減らせれば、時間効率が上がり、無駄なサンプルを作る必要がなくなるので環境に配慮した対応ができるのです。

高木さん:3Dモデリングであればオンラインミーティングで画面を共有しながら、認識を合わせられるので移動の手間がなくなります。また、最近では無駄なサンプル作成を減らす動きが業界全体で進んでいるため、まさに辻洋装店のアクションは時代に即したものだと感じています。

辻さん:サンプルの段階ではオンラインで対応することもありますが、最終段階は現物を見ながらお話しいただきます。プレタポルテではよくある話ですが、設計図通りに作成したものも、現物を見ると「もう少しくるんとして欲しい」や「ここはもっとシャキっと」といった感性的な部分の調整が入るためです。来ていただくだけでなく、トラブルがあれば私が直接伺うこともあります。原反(製品化前の生地)に傷があればモノを見ながら話しますし、高級品を作っているので顔を合わせてお話する安心感は欠かせません。

辻洋装店とともに歩むブランドの在り方

――都内に工場を構えているため、クライアントとの距離が近いことが多く、軽いフットワークで行き来できるのは魅力的です。辻洋装店が今までの取引の中で相性が良いと感じるのはどういった企業でしょうか。また、今後どのような方と取り組みをしたいか教えていただけますか。

辻さん:コストよりも、良いものを求めている気持ちが先んじている企業とは長くお付き合いが続いています。着ることで高貴な印象や品が良く見えるようなブランドに寄り添うことが得意です。美しいフォルムを綺麗に見せるといった、プレタポルテならではの共通言語を持っている方とは相性が良いといえるでしょう。

また、OEMでブランドを作る際は、登場人物が少ないほうが良いモノができやすいです。作りたいモノのイメージが明確な方との意思の疎通を図るためには、できるだけ間に人を介さず、伝言ゲームにならないコミュニケーションが大切になってきます。

ファッション業界を明るく楽しく、ワクワクドキドキできるような、そういった志を持つ方たちとの出会いがあればいいなと思います。

インタビューを通して:歴史に裏打ちされた高貴なプレタポルテをOEMで

取材の中で実際に行っている工法や現場の様子を見学し、プレタポルテが生まれるまでの細部へのこだわりを拝見しました。長い歴史の中で、プレタポルテを手掛けることに努めてきた辻洋装店が、新しい風を取り入れるためOEMに力を入れ始めています。

辻洋装店にOEMで縫製を依頼したいと考えられている方は、本記事では掲載しきれなかった歴史や縫製の工夫など、ぜひ工場見学で伺ってみてはいかがでしょうか。

▼辻洋装店のホームページ
https://tsujiyosoten.co.jp/

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