
LEFRI 高木竜作さん(左)
日本の縫製工場は高い技術を持っていますが、コストの観点から海外の工場に依頼するメーカーは少なくありません。しかし、昨今の物価上昇や円安の影響で海外の人件費が高騰する今、日本の縫製工場に再び依頼が増えているようです。コロナ禍で鈍化したアパレル業界が徐々に再興する中で、日本の縫製工場はこの依頼を一過性で終わらせない工夫が求められています。今回は株式会社SynaBizの北村健太さんとアパレルブランドLEFRIの高木竜作さんに、日本の縫製工場の現状や課題から、日本のファッション業界を盛り上げるためにどのような取り組みを行っていくのか伺いしました。
この記事の目次
縫製工場とアパレル業界の現状
――まず昨今のアパレル・ファッション業界と縫製工場の現状について教えていただけますか。
高木さん(LEFRI):現在でも多くのブランドが海外の縫製工場に依頼していますが、最近では物価上昇や円安の影響で日本の工場への依頼も少しづつ増えています。実際にLEFRIが縫製を依頼している工場は昨年と比べてフル稼働しています。
北村さん(SynaBiz):いろいろな工場やメーカーさんとお話をしていると国内で作ったほうが5~10%ほど製造原価を抑えられるようです。とはいえ、日本と海外の工場で分けて考えたときに価格以外の強み弱みもあります。例えば、日本の工場の品質が高いことは有名ですが、品質よりも量とスピードを重視する事業者もいます。中国の工場は大量に生産するラインが整っているため、こういった事業者の希望に寄り添えるケースもあるのです。
高木さん(LEFRI):大量生産の需要がある一方でアパレル業界は全産業中2位の汚染産業といわれています。SDGsを皮切りに各メーカーが大量生産・大量廃棄の問題に向き合い始めたところです。もちろん、国からの要請により廃棄量を減らすため、シーズンを過ぎた商品の再利用や、一般流通とは異なる販路に卸す動きは少しずつ増えています。
加えて、消費者の意識も徐々に変わっています。過酷な労働環境や大量廃棄といった問題が明るみに出て、世界中が厳しい目を向けました。こういった転換点をきっかけに、ファッション業界のSDGsへの意識は強まっているのではないでしょうか。

縫製工場が持つ課題とは
――ファッション業界が大量生産・大量廃棄を減らす傾向は、品質を強みとする日本には追い風のように感じます。また、円安などの背景があるものの、日本の縫製工場に依頼が集まっているのは日本経済が回って良い傾向なのではないでしょうか。では、今の稼働状況を今後も継続していく上で、日本の縫製工場が抱える課題としてどういったことが挙げられますか。
高木さん(LEFRI):縫製工場は自社工場の強みを外部に発信しきれていない点が課題といえるでしょう。いつまでこの円安が続くかわからない中で、価格の面で仮に海外に負けてしまったとしても、品質で継続的な関係性を築ける工夫が必要です。まずは工場が強みを活かせる形でブランドとつながることが大切だと思います。
工場自体はものづくりに特化しているため、ブランドが関係する工場を能動的にPRすることで、消費者やブランドのファンの方たちに良いものが日本国内で作られていることを伝えられるのではないでしょうか。

北村さん(SynaBiz):職人気質の方が営む縫製工場では、PR活動など発信をせずとも良いものを作れば自然と工場自体のブランド力が高まり、仕事の依頼や弟子の志願が増えて規模を伸ばしている事例もあります。しかし、どこの工場も同じような経営ができているとは限りません。実際はそうではない工場のほうが多いのではないでしょうか。
そのため、品質の良い縫製ができる工場を知ってもらう機会をもっと作っていきたいと思っています。日本の良いものを発信したい。さらに日本国内だけでなく、海外にも良さを伝えていきたいです。SynaBizではバイヤーとメーカーや工場をつなぐため、リアルな展示会やNETSEAという卸・仕入れのマーケットプレイスを展開しています。こういったSynaBizのフィルターを通せば、PRの機会を創出し、縫製工場にとってもブランドにとってもビジネスのチャンスを広げられる機会を作れるのです。
LEFRIの高木さんとは、初めてお会いした日に行ったお好み焼き屋で意気投合しました。工場を探す力がある高木さんとSynaBizが一緒に取り組むことで両社の強みを活かして良いビジネスを作れると確信したのです。

事業者が工場を知るきっかけ
――なかなか陽の目を見ない工場の生の情報を数万人のバイヤーを会員とするNETSEAで発信できるのは認知を広げる良いきっかけになりそうですね。基本的な流れとして、事業者はどのようにして縫製工場を見つけることが多いのでしょうか。
高木さん(LEFRI):今は縫製工場と事業者をつなぐプラットフォームがあるため、そういったところからつながるケースも増えているのではないでしょうか。しかし、そういったプラットフォームだけでは、つながれる工場に限りがあります。
そのため、ネットで検索をかけたり、ネットに情報が少ない工場は紹介や足を使って探したりと、泥臭く1件1件問い合わせをしながら情報収集することが必要です。ネットに情報がない工場に私が問い合わせたときは「どうやってうちの工場を見つけたの?」と驚かれたこともありました。
縫製工場とメーカーをつなぐSynaBizの取り組み
――そういった地道な活動で高木さんと接点を持った工場がSynaBizの力で拡散されていくイメージが湧いてきました。具体的に、認知の課題を解決するために、今考えている取り組みについて教えていただけますか。
北村さん(SynaBiz):取り組みを3つのフェーズに分けて考えています。フェーズ1では、高木さんから工場をご紹介いただいて、記事などのコンテンツを作成することで認知を広げていきます。しかし、認知を得られた工場に興味を持たれた事業者が都度足を運び、実際にサンプルを手に取って商談をするとなると、工場にとっても事業者にとっても効率的ではありません。
そこで、次のフェーズでは、事業者の方たちにはSynaBizで開催する展示会に来ていただき、実際のサンプルを手にとっていただく機会を設けます。事業者にとっては一度に複数の工場のサンプルを手に取ることができますし、工場にとってはより依頼の確度が高い状態で事業者と接点を持つことになるWin-Winな座組になるのです。
最後のフェーズとして、海外からの輸入品を転売している人たちのOEM先として工場をつないでいきたいです。オークファングループでは、副業や輸入品の販売をしている方の会員数が非常に多いため、このシナジーを活用していければと思います。

北村さん(SynaBiz):加えて、工場ツアーのようなモノを見る機会、ヒトを見る機会が必要です。匠の技を間近で見ていただくと、依頼をした事業者にとって自分の商品に誇りを持って販売できるきっかけを作ることにもつながります。先日、あるバイヤーから相談を受けて、とある縫製工場をおつなぎしました。30年前のリーバイスの生地をアメリカからトン単位で買い付けたジーンズを扱う工場です。生地は丁寧に再加工されて綺麗な状態になり、クリエイターの感性を取り入れた商品を作る話が実際に動いています。
メイドインジャパンを通して原点回帰を狙うNETSEA
――実際に案件化している事例もあり、今後の展開に目が離せません。最後に、今回の縫製工場に焦点を当てた取り組みを行う上で、伝えたいメッセージをお聞かせいただけますか。
北村さん(SynaBiz):NETSEAは現状サイトの特性上、中国から輸入した商品を日本で販売する人の動きが盛んです。中国で生産された商品は安かろう悪かろうだった頃のイメージから変わり、品質の良い商品が増えています。それはそれで良いのですが、やはり日本人のアイデンティティにこだわり、メイドインジャパンを打ち出していきたいと思っています。
元々、NETSEAは当初はアパレルに特化したブランドやメーカーとバイヤーをつなぎ合わせるDXプラットフォームの思想で立ち上がりました。時間が経つ中で思想がずれてしまった点はありますが、今回の取り組みをきっかけにNETSEAが「原点回帰」できればと考えています。そして、NETSEAのイメージを一新し、メイドインジャパンを国内外に広く届けられるようなプラットフォームへ進化させたいです。
インタビューを通して:商品開発の起点となる工場から日本を盛り上げる
円安を理由に生産の拠点を日本に移すブランドが増えている中で、その流れを一過性で終わらせないために今回の取り組みは日本国内の経済を活性化させる意味で社会性の高いものだと感じました。
今後、コマースピックではSynaBizの北村さんとLEFRIの高木さんから縫製工場をご紹介いただき、情報を発信していく予定です。メイドインジャパンブランドでアパレルブランドを立ち上げたい、輸入販売から切り替えて自社ブランドを持ちたいなど、縫製工場とつながりを持ちたいとお考えの方は、ぜひお問い合わせしてみてはいかがでしょうか?
▼株式会社SynaBiz 問い合わせ先
https://www.netsea.jp/support
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