記事の概要

楽天市場・Amazonなどネットショップ運営代行をはじめ、モール通販を中心にECサポート・ECコンサルティングを行っているサヴァリ株式会社が運営するYouTubeチャンネル『ECの未来』では、ECに関わるさまざまな方をお呼びして、その方たちの得意ジャンルのお話をMCである株式会社柳田織物の柳田敏正さんと対談形式でお届けしています。

今回は、株式会社マルヒサの代表取締役である村井洋仁さんに、「日本の伝統×海外進出」をテーマにお話いただく回をご紹介いたします。

【ゲストスピーカー】
村井 洋仁さん
株式会社マルヒサ 代表取締役
着物専門店「京都きもの京小町

【チャンネルMC】
柳田 敏正さん
株式会社柳田織物 代表取締役
ワイシャツ専門店「ozie(オジエ)

海外進出の不安・言語の壁を超える挑戦心

柳田さん:もともと村井さんはフットワークがあまり良くなかったと伺いました。現在アメリカを拠点に活躍されていますが、そのきっかけについてお聞かせいただけますか?また、英語は得意なのでしょうか?

村井さん:実は英語は全く話せません。もっと勉強しておくべきだったと今でも後悔しています。ただ、気持ちは伝わるもので、ボディランゲージや単語を並べるだけでも、意外と通じるものです。

アメリカ進出にチャレンジした当初は、着物はハードルが高いと感じたため、まずは浴衣の販売に注力します。実際に現地で販売活動をしてみると、サンディエゴからラスベガスにかけて7月から約2か月にわたり、盆踊りのイベントが南から北へと開催されていることを知りました。これらのイベントは、日本人コミュニティやお寺が主催されていますが、訪れるのはローカルのアメリカ人の方々です。

会場にテントを張り、浴衣を並べて販売し続けてきました。現地では、通訳や着付けを手伝ってくださる方との出会いがあり、その協力のおかげで出店が実現し、現在の活動の基盤を築くことができました。とても感謝しています。

また、サンディエゴには海軍基地があり、米軍関係者が浴衣を購入してくださることもあります。話を伺うと、「沖縄に赴任していたときに浴衣を知り、家族で着たい」といった理由で購入されるのです。こうした日本文化への関心や評価は、日本人として非常に嬉しく感じます。

アメリカで浴衣を販売すると、日本文化への興味を持ち、楽しんで購入してくださる方々の姿に触れることができます。その経験は、海外進出に伴う不安や言語の壁といった困難を上回る喜びや挑戦心となり、何度でも海外に挑戦したいという気持ちになります。

日本人コミュニティとのつながりで販路を広げる

柳田さん:英語が話せず、海外事情にも詳しくない中、たとえ誰かの協力があったとしても、現地で大きくビジネスを展開するのは難しかったのではないですか?

村井さん:その通りです。最初から大きく展開するのは難しく、投資も限られていたので、まずは「本当に売れるのか試す」ことから始めました。交通費をまかなえる程度の利益を得られれば十分という感覚で、イベントに出店すると30万円ほどの売上が見込め、その中から次の活動資金を確保するという流れです。

浴衣販売は現地で競合が少なかったため、日本人コミュニティの中に入れてもらえるようになりました。現地の方々と食事を共にすることで、次第に紹介の輪が広がり、ネットワークを築けたのです。5年ほど前には「着物も売ってみたらどうか」という声をいただき、ホテルの宴会場を借りて販売会を開いたところ、1日あたり50~100人の来場があり、手応えを感じました。

この取り組みは、まさにEC事業を始めた当初の試行錯誤に似ています。最初から大量に売れるわけではなく、現地で課題を見つけ、改善を重ねるという、いわゆるPDCAをじっくり回すイメージでした。

柳田さん:最初は浴衣だけだったのが、着物販売にステップアップできた背景には、そうしたネットワークの広がりがあったのですね。

村井さん:そうです。見込み客ゼロから始め、約2年かけて500人ほどの来場が見込めるようになり、そこで初めて着物を持ち込む決断をしました。

いざ着物を販売してみると、オンライン販売とは違い、現物を見て購入したいというお客様のニーズが強いことに気づきました。着物に詳しい日本人ならオンラインでも判断できますが、初めて触れる方にとっては、実際に商品を見ることが購入の決め手になります。

柳田さん:確かに、知らない商品をいきなりオンラインで購入するのはハードルが高いですよね。

村井さん:そのため、リアルイベントではお客様の期待感が高まり、オープン前から並んでくださる方もいます。少人数での運営のため、食事の時間すら取れないこともありますが、日本人コミュニティの方々が差し入れをしてくださり、海外での活動の中で「親戚のようなつながり」が生まれる感覚があります。

日本では親戚は血縁を指しますが、海外では「同じ日本人」というだけで繋がりが生まれるのです。こうした体験を通じ、日本文化を尊重し、楽しんでくれる海外の方々の存在を改めて感じます。ECやリアルでの販売も嬉しいですが、質・量ともに、海外のお客様に受け入れていただけることは特別な喜びです。

柳田さん:日本文化を正しく伝える場を設けることは、文化の継承において非常に大切ですね。

海外の文化に合わせた柔軟なローカライズが成功の鍵

村井さん:日本人にとって、着物は民族衣装という意識が根強いですが、私は着物には「民族衣装」と「ファッション」という二つの側面があると考えています。民族衣装としては、正しい着方やルールを守るべきですが、ファッションとしての着物は、いわばコスプレのような楽しみ方です。実際、海外ではハロウィンの衣装として着物を選ぶ人も少なくありません。

アメリカや他国で「これは日本の民族衣装だから着てみてはどうか」と上から目線で勧めても、相手には響きません。むしろ、海外では民族衣装という固定観念を手放し、ファッションとして気軽に楽しめる提案をすることが重要です。

ドバイで浴衣を半年間販売した際も、購入者のほとんどはアラブ人女性でした。彼女たちは外出時にアバヤを着る文化があるため、日本人の感覚では「なぜ浴衣を買うの?」と疑問に思うかもしれません。しかし実際は、自宅でファッションを楽しむ文化があり、浴衣がその選択肢の一つとなっているのです。

こうした経験から学んだのは、海外進出には現地の文化や慣習を理解し、それに合わせて商品や提案をローカライズする柔軟さが必要だということです。例えば、アメリカでは日本人が民族衣装として着物を求める一方で、現地のアメリカ人はファッションとして着物を楽しむ傾向があります。これが非常に興味深く、勉強になっています。

京都の着物業界にいると「着物の着方はこうであるべき」と考えがちですが、海外のローカルな方々はそんなルールにとらわれず、自由に着物を楽しんでいます。その姿を見て、自分自身の視点が広がりました。

柳田さん:日本であれば「そんな帯の巻き方はダメ」と指摘しがちなところを、「いいね」と受け止められる柔軟さが大切ということですね。

村井さん:その通りです。こうした経験は、一人の経営者としても大変面白く、学びが多いです。

柳田さん:その国や時代に応じて変えていくことが、文化を伝える上で大切なのですね。日本のルールをそのまま持ち込むだけでは、現地の方には受け入れられませんから。

村井さん:本当にその通りです。大切なのは「固定概念を持ち込まないこと」です。先日、アメリカのマクドナルドでセットメニューなら簡単に注文できると思っていたら、「メープルシロップを入れますか?」など、日本とは異なる質問をされ、会話が詰まってしまいました。これも固定概念の例です。

また、アメリカでは信号が赤でも一時停止すれば右折できるのに対し、日本ではそういったルールがありません。国によって物差しや価値観は異なるため、それに対応する柔軟さが不可欠です。海外に挑戦するには、こうした柔軟な発想が重要だと感じています。

柳田さん:現地コミュニティに深く入り込めていることが強みですね。伝統文化を扱う村井さんが、着物姿で日本人コミュニティに登場し、英語が話せないからこそ頼り、助けてもらう。そのつながりが、他の人には真似できない強みになっているのではないでしょうか。

村井さん:私自身、人見知りなんですよ。人見知りだからこそ、一生懸命コミュニケーションを取ろうと考えます。コミュニケーション能力が高いと言われることがありますが、実は多くの人見知りの方が同じなのではないでしょうか。芸人の方々も、普段はおとなしい方が多いと聞きます。

助けてほしいときは、素直に「助けて」と言う。厚かましく食事に誘うことも大切だと思います。アメリカでは朝食以外、誰かと食事を共にし、人脈を広げることを心がけています。結果として、紹介の輪が倍々に広がっていきました。

私のこの「独特なキャラクター」が、ここまでやってこれた理由の一つです。今後は、私がその経験を活かし、アメリカ市場に挑戦したい方々をサポートするグループを作っていきたいと考えています。

柳田さん:その挑戦が、より多くの方の役に立つ未来につながると感じます。

幅広い日本文化を束で発信、「日本のキュレーター」を目指して

村井さん:私は着物だけではなく、日本文化全体を発信していきたいと考えています。ラーメン、お好み焼き、餃子、焼き鳥など、これらもすべて日本文化です。着物だけでは、日本文化を語るにはインパクトが足りません。

コンサルティングの立場ではなく、「一緒にやろうよ」と呼びかけたい。これまで培ってきた経験や人脈を共有し、一緒に挑戦してほしいと思っています。複数の日本文化を束ねて発信することで、より強いインパクトを与えることができ、面白さも増します。

例えば、着物を着て焼き鳥を楽しむといった、異なる要素の組み合わせも考えています。日本文化が好きな方は、アニメから入り、お寿司やラーメン、着物まで幅広く楽しんでいます。日本では分けて考えられがちですが、海外ではそうしたジャンルを横断して受け入れられると感じています。軸を絞る必要はなく、さまざまな日本文化を一緒に持ち込み、アメリカ市場に挑戦していきたいですね。

柳田さん: 確かに、人口減少の影響もあり、着物に限らず国内市場は縮小傾向にあります。越境ECはノウハウ中心の話が多いですが、村井さんの取り組みは他の方には真似できない独自性があります。

今後の展望を伺い、「日本のキュレーター」としての役割を果たされる姿が思い浮かびました。本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

おわりに:小さな一歩の積み重ねが市場を拓く

日本文化であり、日本人ですら日常生活では触れる機会が少ない着物を、海外に持ち込みビジネスを展開するというのは容易なことではないと思います。時間をかけて、現地の日本人コミュニティの一員となり、人脈や経験を培ってきたからこそ生まれた市場だと言えるのではないでしょうか。村井さんがアメリカに進出することになったきっかけはお客様からの1通のメールでした。些細なきっかけを着実にビジネスにつなげる行動力は、これから新たなチャレンジを検討している方の背中を押してくれるものとなるのではないでしょうか。

EC市場の真の発展に貢献をという想いで、「ECの未来」を運営しているサヴァリ株式会社は楽天市場・Amazonなどネットショップ運営代行をはじめ、モール通販を中心にECサポート・ECコンサルティングを行っています。EC運営に不安を抱えている事業者様は問い合わせてみてはいかがでしょうか。

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