
2021年11月26日に、ファッション×ビューティー領域のDXをテーマに、株式会社アイスタイル主催ウェビナー「先行企業と考えるDXによるビジネス拡大の可能性」が開催されました。コーセーのDXプロジェクトを推進した進藤さんと、CHOOSEBASE SHIBUYAの立ち上げを行った株式会社そごう・西武の伊藤さんがそれぞれのプロジェクトの概要と、目指すべきDXの本質についてディスカッションを行いました。本記事では各社のプロジェクトの概要を、後編ではディスカッションの内容を掲載いたします。
【スピーカー】
進藤 広輔さん
株式会社コーセー 情報統括部 グループマネージャー
伊藤 謙太郎さん
株式会社そごう・西武 CHOOSEBASE SHIBUYA ディレクター
【モデレーター】
村上 要さん
株式会社INFASパブリケーションズ WWDJAPAN編集長
矢野 貴久子さん
株式会社アイスタイル BeautyTech.jp編集長
この記事の目次
コーセーが進めるDX戦略

進藤さん(コーセー):コーセーは2020年からマーケティングDXプロジェクトを推進しています。プロジェクトにおける2020〜2021年の取り組みのゴールは、「グローバル企業として競争力のあるデジタル力をつけること」。またテーマとしてはマーケティングのグローバル化を掲げています。
DXはデータをしっかり活用して進めていく必要があります。DXの推進においてコーセーが抱えている課題をわかりやすくいうと、データが整備されていなかったことです。社内にあるデータの種類や量を把握できていなかったので、どこにどんな情報があるのかを把握するところから始まりました。
「点」でつながるチャネルを「線」でつなげる

進藤さん(コーセー):今回のプロジェクトでは、これまで顧客とチャネルごとの接点が点と点でつながっていたところを、線でつなぐことを目指しました。コーセーでは化粧品業界ならではの顧客情報管理をしていて、流通ごとに別の顧客として管理されていたのです(上図、顧客管理を参照)。同時にこれまで推進してきたIT化も個別最適として進めていました。
DX化の推進にあたって、1顧客1IDにできるだけまとめることを目指し、その過程で1つのDB(データベース)とアプリにまとめることにしました。
DX=デジタイズ×デジタライズ

進藤さん(コーセー):ここでDXについて整理しておきたいのですが、DXは3つの要素で成り立っています。1つはデジタイズ、もう1つはデジタライズ、その掛け合わせがデジタルトランスフォーメーションです。
デジタイズは数値化、データ化し蓄積することです。これはデータ化が進むことで実現できます。次にデジタライズはデータから得た気づきをもって、どうしていくかということ。その組み合わせがDXになります。データを蓄積した結果、新しいビジネスにつながっていくのがデジタルトランスフォーメーションです。

進藤さん(コーセー):政府刊行のDXレポートに、DXの成熟度レベルが0〜5段階で示されています。まずは戦略が明確になっているか、中盤になるとどの部門でやっているのか、最後は継続的につなげられるのかが指標になります。多くの企業は1〜2の段階にいるのではないかと思っています。

進藤さん(コーセー):同じくDXレポートではDX推進の7プロセスが示されています。まずはトップのコミットを得て、その上でビジョンを作る。体制を作って、現状を評価、業務の効率化、既存ビジネスを拡張した上で、大きなビジネスに転換するというものです。
全社的に取り組むには、プロセス4の現状分析が最も重要だと考えています。コーセーではどこまでIT化や、データの活用が進んでいるのかを評価をしようとしているところです。プロセスを飛ばして進行することもできるかもしれませんが、則って進めたほうが良い場合が多いのではないでしょうか。

進藤さん(コーセー):そして何にフォーカスしてDX化すべきかという話になったとき、システム化や新しいビジネスに目が行きがちです。AIやRPAの活用はステップであり、また新商品や新サービスは経緯に過ぎず、お客様やマーケットに何を提供できるかまで進行して、はじめてDX化できたといえると思っています。
コーセーのコスメデコルテ パーソナルビューティ コンシェルジュ

進藤さん(コーセー):では、コーセーでDXに取り組んでいる一例として、2021年9月にリリースしたコスメデコルテ パーソナルビューティ コンシェルジュの取り組みについてご紹介します。
コロナ禍においてBC(ビューティ コンサルタント・美容部員)が仕事をする機会が失われてしまいました。少し落ち着いてきたところで、現状に回復させようとしましたが、テスターの使用やタッチアップの機会は増えず、Before コロナの水準に追いつくことはできませんでした。そのような状況で、Before コロナの水準を追い越すことを目指した仕組みが、コスメデコルテ パーソナルビューティ コンシェルジュです。

進藤さん(コーセー):化粧品業界の接客は、現場、現物、現実主義。お客さまに足を運んでいただいて接客するスタイルです。コロナ禍ではこの環境がありませんでした。そこで対面接客を前提としないオンラインで、いかに価値を提供できるかを考えたのが今回の取り組みでした。

進藤さん(コーセー):そして生まれたのがコーセーのDXです。BCという人材を活用しつつ、そこにデジタルを組み合わせて新しい接客スタイルとして、化粧品ブランドのオンラインカウンセリングサービス「コスメデコルテ パーソナルビューティ コンシェルジュ」が生まれました。

進藤さん(コーセー):従来の接客を超えた新たなカウンセリングモデルの確立を目指して、新たな働き方であること。品質や性能では、対面で接客しているようなリアリティを追求しました。

進藤さん(コーセー):化粧品業界に限らずよくある話かと思いますが、ブランドごとの個が確立していると、共通的なものの考え方がしづらくなります。商品の作り方やサービスのあり方にはユニークさがあるべきだと思いますが、システムはとにかく汎用性が高く、使い回せるものであるべきです。そうすることで費用対効果が高くなるし、サービスの回収も早くなります。それを実現したのが、カウンセリングサービスで活用している「WEB-BC SYSTEM」です。

進藤さん(コーセー):またシステムとしては、店頭業務を全てデジタル化して、APIで読み込んでアプリケーション上で実現する仕組みをとりました。
業務共通アプリとして、カタログを作り変えたり、接客していく過程で自動的に記録が更新されていくようお客様の情報を記録したカルテを新しく作ったりしました。オンラインの接客を予約できるシステムでは、オンラインに限らず予約必要なサービス全てで利用できるようになっています。またサードパーティやCRMと連携することも可能です。
メディア型OMOストア CHOOSEBASE SHIBUYA

伊藤さん(そごう・西武):CHOOSEBASE SHIBUYAは未来を選ぶ、提案するメディア型OMOストアです。名前には未来を見つめ選ぶ場所でありたいという想いがこもっています。
百貨店のようにモノが並ぶショップは多くありますが、CHOOSEBASE SHIBUYAでは、未来につながるストーリーがあるショップを大切にしており、テーマにヒットするブランドと消費者をつなぐリアルなプラットフォームとして知っていただいています。

従来の百貨店と異なる契約形態、空間演出
伊藤さん(そごう・西武):契約形態として、一般的な小売業では仕入れ・販売を行う形や、場所を貸して使っていただく形がありますが、CHOOSEBASE SHIBUYAはSaaS型と呼んでいて、一回申し込みいただいた後、こちらに全てお任せいただく形をとっています。
通常、百貨店などではイニシャルコストがかかるものですが、CHOOSEBASE SHIBUYAの契約形態では、アプリで毎月課金するような形で使ってもらえるのが大きく異なります。
売り場のレイアウトにもこだわりがあり、美術館のような洗練された空間を演出しています。2021年9月にオープンしましたが、他と大きく違うのは値段やスペックを掲示していないことです。
お客様にはお店に来て、QRコードを読み取り、商品のストーリーや機能を見ていただきます。買い物の仕方としても、従来はレジに持っていくことになりますが、CHOOSEBASE SHIBUYAではWEBカタログから注文。支払いはキャッシュレスオンリーです。
通常の小売店では、ネットで決済して店頭で受け取れる商品全てを対象にできているケースは少ないのではないでしょうか。CHOOSEBASE SHIBUYAでは全ての商品を店頭受取でも、自宅配送でも受け取りできるようにしました。
全商品を対象に店頭受取も自宅配送も可能にするために、在庫管理にはこだわっています。従来の運用方法では、EC用と店舗用の在庫は別々に管理していることが多いのですが、マルチテナントではなかなか難しく、お店で見て、調べて買おうと思ったらECでは取り扱いがない経験をしたことがある人は少なくないでしょう。
CHOOSEBASE SHIBUYAでは、そのようなことは全く起こりません。それにより、ブランドは販売の機会損失を防ぐことができ、また、お客様も購入の機会損失を防ぐことができます。
購入プロセスまでをも明らかに
伊藤さん(そごう・西武):さらにデータ周りのお話をすると、購入データは従来もあったと思うのですが、CHOOSEBASE SHIBUYAでは購買体験までが一元化されていますので、購買プロセスを明らかにし、データとして活用できます。いわゆるパーチェスファネルですね。会員登録したけど買わなかった、見ているけど買わなかった、などといったデータが取れています。
その他にも、新規事業の進め方、DXでどう進めるのかという視点においても、CHOOSEBASE SHIBUYAは仕事の進め方から新しいものでした。私自身が百貨店の出身ではないので、外部のチームメンバーだけでコンセプト設計からやっていたところはとがっていたなと思います。
また、CHOOSEBASE SHIBUYAのコミュニケーション自体がSNS中心です。今まで百貨店でやっていなかったことに挑戦している意味でも新しい取り組みになっています。
値札がない、キャッシュレス、購入はスマホ。その結果、毎日のように来店者によるSNSで、購買体験だったり、内装だったり、演出だったりを投稿いただいています。結果としてメディアの掲載数が相当多くなっており、来店者も日増しに増えていっているのが現状です。
人・モノ・情報の交差点を作るCHOOSEBASE SHIBUYA

伊藤さん(そごう・西武):ここからはCHOOSEBASE SHIBUYAのご紹介をします。コンセプトは、「人・モノ・情報の交差点を作ろう」です。そして、場所は渋谷駅から10分程度のところにあります。

伊藤さん(そごう・西武):初回のテーマはタイムリミット。サスティナブルの言い換え表現として使っています。サスティナブルにやりましょうは、聞きざわりが良すぎて流れがちかなと思っているので、自分ごと化しやすいようにしています。

伊藤さん(そごう・西武):店内は従来のようにモノを置くのではなく、リッチに空間を使っています。内装は従来の売り場とは違う形になっていて、お客様がゆっくり滞在できるようなフリースペースも用意しています。
ご来店いただくと店内専用のカタログを配布して、こちらのカタログを見てもらいます。こちらから購入もできるし、モノを店頭で受け取っていただくこともできます。
お客様にとっては店頭やECでの自由度の高い購買体験を大事にしていますし、購買データ以外のデータが取れるので、マーケティングにも活かせるようになっています。
セミナーに参加して:DXの先にある新たな購買体験のカタチ
コロナ禍においてDXの推進に迫られた企業は数少なくはないと思います。今回お話いただいたコーセーさんの事例は、化粧品を扱う企業を中心に、接客を必要する企業にとって参考になる事例だったかと思います。
店舗やブランドを複数展開している場合、顧客IDやデータベースが共通で管理されておらず、店舗やブランド、オンラインとオフラインなど、それぞれの環境で顧客情報を重複して持っていることが少なくありません。年齢や生活環境の変化に合わせて、顧客に最適な提案を行うためにも、まずは環境整備が必要不可欠かと思えます。
後編では、スピーカー2名とモデレーター2名によるディスカッション内容をまとめています。DXを推進するにあたっての具体的なお話や、CHOOSEBASE SHIBUYAの裏側などディスカッションの内容は大変濃いものになっているので、ぜひご覧ください。
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