
A.T. カーニー株式会社(本社:東京都港区、日本代表:針ヶ谷 武文)は、小売業の現場業務と顧客体験におけるAIの影響を調査・分析した論考「店舗現場の高度化:AIは小売の現場業務と顧客体験をどう変えるか」(英題:Elevating the retail floor: How will AI reshape frontline retail roles and the customer experience?)を発表しました。
同論考は、米国における小売現場従業員、店舗マネージャー、そして複数店舗を管轄する責任者を対象に実施されたKearney調査の結果に基づいて作成されています。調査回答者のうち60%が、勤務する店舗において既にAI・自動化ツールの導入が開始されていると回答しました。これらのテクノロジーにより、在庫追跡や発注・補充、シフト作成、手作業でのデータ入力といった反復的かつ時間を要する業務が効率化され、従業員が顧客と向き合う時間の増加につながっているとのことです。
AI導入済みの店舗においては、従業員の77%が顧客体験が既に改善されたと回答しており、さらに81%が顧客の意見や気づきを収集・共有することが容易になったと答えています。その一方で、自身の勤務先がAI導入に対して「十分に準備できている」と感じている現場従業員はわずか19%に留まっています。同論考では、ツールの導入だけに留まらず、業務分担、研修プログラム、管理職のリーダーシップを一体的に再設計する必要性が指摘されています。
在庫追跡62%、発注・補充49%でAI活用が進む
AI導入店舗における回答者による複数回答の調査では、影響を受けた業務として在庫追跡(62%)が最多となり、続いて発注・補充(49%)、シフト作成・勤務計画(42%)、顧客対応(39%)、データ入力(35%)という結果になりました。さらに研修(33%)、業務の優先順位付け(30%)、データ報告・分析(29%)への活用も広がりを見せています。
導入状況の詳細を見ると、少なくとも1つのツールを導入している店舗が34%、複数のツールを導入している店舗が18%、1つ以上の業務を完全に自動化している店舗が8%となっています。AI導入店舗では、現場従業員の29%が業務負荷の軽減を実感しており、平均して週1~2時間、中には3時間を超える時間削減を達成しています。生み出された時間は、新しいスキルの習得、顧客対応、同僚への支援といった活動に活用されているということです。

ジョブ・ピクセレーションによる業務再配分の提唱
同論考では、職務を個別の作業へと分解し、それぞれを人、AI、あるいは両者の組み合わせのうち、最も効果的な担い手へ割り当てる「ジョブ・ピクセレーション」という考え方が提唱されています。AIは在庫追跡、データ入力、価格調整、シフト管理などの業務を自動化・支援することが可能です。
一方、従業員は商品選びや組み合わせの提案、店舗イベントの企画、チームメンバーの育成といった、人間の判断力、共感力、協働が求められる業務に集中できるようになります。この考え方は雇用を削減するものではなく、役割を進化させ、部門を超えた連携やスキルの多様化を促進するものとして位置付けられています。
重要なポイントは、既存の業務にAIを単純に追加するのではなく、AIと人間がそれぞれの強みを最大限に発揮できるよう、業務フロー全体を見直すことにあるとされています。

顧客体験向上の一方で研修体制に課題
AI導入店舗においては、顧客体験が向上したとの回答が77%、顧客の声を収集・共有しやすくなったとの回答が81%に達しました。従業員は、商品知識を深化させ、AIによる示唆や会員データを活用することで、一人ひとりに適した提案や、特別な要望への丁寧な対応に時間を割けるようになっています。
しかしながら、AIツールを使用する準備ができていると感じる現場従業員は63%である一方、職場で正式な研修を受けた割合はわずか17%に留まっています。今後6~12カ月でAI・自動化がさらに増加すると予想する従業員は59%であり、導入スピードに対して学習体制が追いついていない状況が浮き彫りになっています。
同論考では、職務目標や実績、顧客の声に応じた個別学習、必要な場面で助言を提供するAIコーチング、実際の接客に近いAIシミュレーションを日常業務に組み込むことが提案されています。例として、美容部員が新商品の説明を事前に練習し、店頭では色選び、関連商品、肌への注意点についてリアルタイムの支援を受けられるケースが挙げられています。
管理職の準備不足と今後の人材戦略
店舗マネージャーはAI活用により平均して週2~3時間の時間削減を実現している一方で、管理職がAI活用環境をリードする準備が十分だと考える現場従業員は約2割に過ぎません。管理範囲が複数部門や複数拠点へと拡大する可能性を踏まえ、感情知性、デジタル理解、迅速な意思決定能力を高める育成計画と継続的な支援が必要とされています。
今後6~12カ月でAI・自動化により業務が楽になると考える従業員は52%、業務がより意義あるものになると予想する割合は46%となっています。同論考は、将来の店舗業務に必要な作業とスキルを先に描き出し、そこから逆算して役割、管理体制、学習環境を再構築する「トゥモロー・バック」の人材戦略こそが、生産性、イノベーション、長期成長を左右すると結論付けています。
論考について
論考名:「店舗現場の高度化:AIは小売の現場業務と顧客体験をどう変えるか」(英題:Elevating the retail floor: How will AI reshape frontline retail roles and the customer experience?、2025年8月21日公開)
監修者
井上 真 グローバル取締役 シニアパートナー
東京大学卒業。ワシントン大学(ミズーリ州)MBA修了。三井物産、米国の化学品メーカーなどを経て、A.T. カーニー入社。消費財・小売、サービス、総合商社を中心に、全社戦略、競争戦略、グローバル成長戦略、営業・マーケティング改革、組織診断・設計、チェンジ・マネジメント等のコンサルティングに従事しています。2024年には、Kearneyの新たなプラクティスであるStrategy, Growth & Organization Transformation (SG&OT)のAPACのリーダーに就任しました。コンサルティング業界媒体The consulting reportの "The Top 25 Strategy Consultants and Leaders of 2024" に選出されています。
福田 稔 シニアパートナー
慶應義塾大学商学部卒業、IESEビジネススクールMBA修了、ノースウェスタン大学ケロッグビジネススクールMBA exchange program修了。電通総研(旧電通国際情報サービス)、欧州系戦略コンサルティングファームを経て、A.T. カーニー入社しました。消費財・小売プラクティスのAPAC共同リーダーを務めています。主にアパレル・繊維、ラグジュアリー、化粧品、小売、飲料、ネットサービスなどのライフスタイル領域を中心に、戦略策定、ブランドマネジメント、GX、DXなどのコンサルティングに従事しています。上記領域においてプライベートエクイティやスタートアップへの支援経験も豊富です。
経済産業省の産業構造審議会 繊維産業小委員会委員、繊維産地におけるサプライチェーン強靭化に向けた対応検討会委員、これからのファッションを考える研究会~ファッション未来研究会~副座長など、アパレル・繊維、ライフスタイル産業に関わる多数の政策支援にも従事しています。大学院大学至善館の特任教授(マーケティングの理論と実践)も務め、ビジネスとアカデミアからライフスタイル産業の革新に向けた多くの発信を行っています。著書に『2040年アパレルの未来 「成長なき世界」で創る、持続可能な循環型・再生型ビジネス』(東洋経済新報社)などがあります。
A.T. カーニーについて
A.T. カーニー(グローバル・ブランド名:Kearney)は、100年にわたり世界有数の経営コンサルティングファームとして、Fortune Global 500企業の4分の3以上をはじめ、世界各国の政府機関から信頼されるパートナーであり続けてきました。40カ国以上に拠点を展開しており、最大の強みは「人」にあります。インパクト・ファーストを掲げ、独創的な発想と実行力をもって、顧客企業が直面する最も困難な課題に挑み、変革の実現をともに推進しています。日本には1972年に進出し、あらゆる主要産業のリーディングカンパニーに対し、戦略策定から変革の実行まで一貫した支援を提供しています。
出典元:A.T. カーニー株式会社



















