
配送を専門の物流会社に任せていると、どうしても「依頼まで」がEC事業者の仕事だと認識しがちです。
日々の業務に追われる中で、目に見えない工程である「物流部分」に意識が向きにくいのは、ある意味で自然なことかもしれません。
しかし、物流現場での人手不足問題により、そうも言っていられない状況になってきています。
荷主であるEC事業者の皆さんが、物流の現場を理解しないままでいると、競争力そのものが失われていく。 そんな局面に、私たちは差し掛かっています。
今回は、物流業界でどのような問題が起こっているのか、そして何ができるのかをご紹介いたします。
野呂 寛之
X Mile株式会社
代表取締役CEO
物流・建設・製造をはじめとするノンデスク産業を対象に、業界特化型のHRプラットフォーム「クロスワーク」や、DXを推進する経営管理SaaS「ロジポケ」など等を展開。深刻な人手不足という構造的課題に対し、人(HR)と仕組み(IT)の両面からアプローチすることで、日本の基幹産業を支える新たな産業インフラの構築に挑んでいる。
クロスワーク
https://x-work.jp/
この記事の目次
EC市場は拡大しているのに、なぜ配送が滞るのか
ネット通販の市場規模は、この10年で大きく伸びました。 経済産業省の調査では、BtoC-EC市場は2013年から2023年の間におよそ3倍以上に拡大しています。
一方で、物流を支えるトラックドライバーの数はどうでしょうか。 2023年の日本トラック協会の調査では、ドライバーの50歳以上が全体の約49%を占め、29歳以下はわずか9%にとどまっています。

この構造的なギャップが、いま配送現場に大きな負荷をかけています。 「最近、発送が遅れた」「配送会社から値上げを打診された」という経験をされたEC事業者の方も少なくないのではないでしょうか。
それは、委託先のサービス劣化や利益の上乗せではなく、物流業界全体が構造的な限界点に近づいているサインかもしれません。
現場で起きている3つの構造問題
X Mile(クロスマイル)は、全国の物流会社・運送会社と向き合いながら、採用・定着・労務管理の支援を続けてきました。 その中で、現場の経営者や管理者から繰り返し伺う課題が、大きく3つあります。
1. 募集しても人が集まらない
「募集しても、なかなか人が集まらない」という話を、私も本当によく耳にします。
物流・運送業は、業務の負担が大きい割に待遇改善が追いついていないと感じている方が多い業界です。 繁忙期だけ人手が欲しくても、短期での確保が難しい。 通年で採用活動をしても、定着率が上がらないまま採用コストだけがかかり続ける。
努力を怠っているわけではありません。 構造として、人が集まりにくく、定着しにくい状況が続いているのです。
2. 2024年問題:残業規制でキャパが落ちた
2024年4月、物流業界にも時間外労働の上限規制が適用されました。 ドライバー一人当たりの年間時間外労働が960時間に制限されたことで、1人が運べる量が実質的に減少しています。
これは「ルールを守るためにサービスが下がる」という単純な話ではありません。 これまで長時間労働によって何とか回していた現場のキャパが、正当な形で可視化されたということです。
荷量は変わらず、むしろ増えている。 でも動かせる時間は減った。
この現実を、荷主側のEC事業者も理解しておく必要があると、私は思っています。
3. 管理がアナログのまま
「シフト管理はExcel、勤怠は紙の日報」という現場が、今も少なくありません。
集計ミスが起きる。誰かが確認しなければ回らない。管理者の負荷が高い割に、情報が整理されない。現場の『マンパワー』と『個人の責任感』に頼り切った運営が限界にきています。
この状態が日常的に続くと、現場はどうなるでしょうか。 「働きやすい職場」からは、少し遠ざかってしまいます。
「管理の非効率」が人手不足をさらに悪化させる
ここで、多くの方が見落としがちな構造についてお伝えしたいと思います。
人手不足の話をすると、どうしても「採用できないから人が足りない」という文脈になりがちです。 でも実際には、管理の非効率により業務不可が高くなり、それが離職を招き、結果として人手不足が深刻になるという流れも、少なくないのではないかと私は感じています。
たとえば、シフトの調整や新人の教育に毎週何時間もかかる管理者がいたとします。 その管理者が余裕を失えば、現場のフォローが行き届かなくなります。 コミュニケーションが減り、不満が蓄積し、離職につながる。
「採用→定着しない→また採用」というループの裏に、管理負荷の問題が潜んでいることは、あくまで推察ですが、私たちが接してきた多くの現場で見られたパターンです。
クロスマイルが支援させていただいた、とある物流会社様では、新人の教育の一部をデジタル化したことで、管理者の工数が年間でおよそ120時間以上、削減されたという変化がありました。
採用だけが人手不足の解決策ではないかもしれません。 管理の質が変わることで、定着率は変えられる可能性があります。
EC事業者が荷主として今できること
では、EC側の企業が今できることは何でしょうか。
配送委託先を「コスト」だけで選ばない
値段の安さだけで物流会社を選んでいると、現場の疲弊が積み重なったとき、突然サービスが維持できなくなるリスクがあります。『現場の健全さ』を維持するために、適切な投資を行っている会社か、という視点も、選定基準に加えてみてはいかがでしょうか。
たとえば、ドライバーの定着率や労働環境への取り組みについて、委託先に率直に聞いてみることも一つだと思います。
繁忙期の計画を早めに共有する
「急に荷量が増えた」という状況は、物流現場にとって最も対応が難しいケースの一つです。 セールや新商品リリースの予定を、委託先に早めに共有するだけで、現場の準備がしやすくなります。
小さなことに思えますが、現場との信頼関係を育てるうえで、大きな意味を持つのではないでしょうか。
配送網の多層化で「運べない」を回避する
1社への過度な依存は、急な荷量増加のときに、その配送パートナーへ「無理な計画」や「限界を超えた運行」を強いる原因になりかねません。 平時から複数のパートナーと協力体制を築き、配送網を多層化しておくことは、特定の現場に過重な負担が集中するのを防ぎ、結果として自社の荷物が届かなくなるリスクを回避することにつながります。
「大切な荷物を確実に届けてくれる現場」を疲弊させず、共に持続可能な関係を築くために、窓口を広げておく視点が今、求められています
まとめ:物流現場を理解することが、EC競争力につながる
「配送の安定」を物流会社だけに委ねるのではなく、荷主側も当事者意識を持つことが求められています。密な連携を欠いた状態では、潜在的な物流リスクを早期に察知し、対策を打つことが難しくなるからです。
配送が遅れれば顧客の不満はEC事業者に向かいます。 レビューが下がり、リピートが減る。 物流の問題は、EC事業者のビジネスの問題でもあります。
物流現場で何が起きているかを理解し、委託先と対等にコミュニケーションできる荷主であること。 それが、これからのEC競争力の一つになっていくのではないかと、私は思っています。
私たちクロスマイルは、ノンデスク産業の採用・定着・労務管理を支援することで、物流現場の安定に貢献し続けていきます。 EC事業者の皆さんにとっても、物流が「安心して任せられるインフラ」であり続けるために、できることを積み重ねていきたいと思っています。
クロスワーク
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