受取拒否によるコスト負担や物流の2024年問題など、それでもEC事業者が代引きを廃止しない理由とは

長らくECサイトの3大決済のひとつであった代引きの利用が減少傾向にあります。EC事業者にとって、代引きは受取拒否などによるコスト負担が大きいため、消費者の需要が変化してきたタイミングで他の決済手段への移行も増えています。その際、移行先として選ばれることが多いのが、後払い決済です。後払い決済は、物流の2024年問題に決済面から対策する手段としても注目されています。

しかし、代引きを引き続き利用している事業者は少なくありません。本記事では、代引きと後払い決済をめぐるECの利用者や事業者の動きについて、事業者の声をまじえて解説します。

情報提供:株式会社ネットプロテクションズ

3大決済から外れる代引き

これまでECサイトに導入すべき決済手段は、消費者によく利用されるクレジットカード決済、コンビニ決済、代金引換決済(代引き)の3つが挙げられていました。

しかし、近年は代引きを利用する割合が減ってきているようです。総務省の通信利用動向調査報告書からも、その傾向が読み取れます。

インターネットを使って商品を購入する際の決済手段 参照:「令和4年 通信利用動向調査報告書(世帯編)」
参照:「令和4年 通信利用動向調査報告書(世帯編)」

「令和4年 通信利用動向調査報告書(世帯編)」によると、「インターネットを使って商品を購入する際の決済手段(P37)」は、1位がクレジットカード払い(75.9%)、2位がコンビニ決済(36.4%)、3位は電子マネー決済(34.8%)となっています。代引きは20.5%で5位です。令和2年までは3位でしたが、令和3年から他の決済手段に抜かれてしまったのです。

代引きが他の決済手段に変わっている理由とは?

消費者が代引きを選ぶメリットが他の決済手段でも代替できるようになり、デメリットが大きくなったため、他の決済手段の利用が進んでいます。代引きのメリット・デメリットを整理したうえで、なぜ代引きの利用が減っているのかを考えます。

消費者にとっての代引きのメリット

代引きがこれまで消費者に選ばれてきた理由として、まず、ネットショッピングでクレジットカード情報を入力することへの不安があげられます。

ネットショッピングでクレジットカードを使いたくない消費者は一定数存在します。クレジットカードを持っていない人もいるでしょう。とくに、現金で支払いをしたい消費者に代引きが選ばれてきました。例えば、中小企業が運営するような、あまり馴染みのないECサイトでの初回購入は代引き、2回目以降はクレジットカード決済といった利用方法もよく見られます。

代引きはコンビニ決済のように支払いのために出かける必要もありません。ECサイトによっては先払いを求められることがありますが、先払いでコンビニ決済だと、入金確認までに時間がかかり、すぐに商品を発送してもらえません。しかし代引きであれば、注文してすぐに発送してもらえます。

こういったメリットが、代引きが決済手段として選ばれてきた理由といえます。

消費者にとっての代引きのデメリット

逆に消費者にとっての代引きのデメリットとしては、まず、荷物の受け取りのための拘束時間が長いことがあげられます。

代引きにすると宅配ボックスや置き配、宅配ロッカーやコンビニ受け取りなどの非対面型受取を利用できません。時間指定をしたとしても、指定の時間帯(2~3時間)に在宅する必要があります。ライフスタイルが多様化するなかで、この点はデメリットとして大きくなっているのです。

また、ネットショッピングの利用者が増え、とくに一人暮らしの女性など、対面で荷物を受け取ることや、配送員に住所や氏名などの個人情報を明かすことを避けたい消費者も増えています。

さらに、現金払いが主流の代引きでは、現金の用意や釣り銭のやり取りに煩わしさが感じられることもあります。キャッシュレス決済が普及するなかで、この点もデメリットとして大きくなっているのです。

代引きのデメリットが大きくなってきたところに、ECサイトにおける決済手段の選択肢が増え、代引き以外の決済手段でも代引きと同じようなメリットが得られるようになっています。

代引きを廃止する事業者

代引きの需要の減少とともに、代引きを廃止するEC事業者も増えています。EC事業者にとっての代引きのメリットとデメリットを整理したうえで、EC事業者が代引きの廃止を決める理由を考えます。

代引きの仕組み(参照元:ヤマト運輸株式会社)
代引きの仕組み(参照元:ヤマト運輸株式会社

事業者にとっての代引きのメリット

EC事業者が代引きを選んできた理由として、消費者の需要がある点は大きいでしょう。それに加えて、代引きのメリットとして、商品到着と同時に支払い完了となる点があげられます。コンビニ決済などは、商品の受注および発送と決済完了にタイムラグがあり、入金確認の手間がかかります。

また、商品到着後にコンビニ決済などで支払いをしてもらう場合、顧客が忙しかったりうっかり忘れていたりして、期限までに支払いが行われないこともあるでしょう。その場合、リマインドなどお知らせの手間がかかります。支払われない場合は、売買不成立でかご落ちの可能性もあるでしょう。

そういった手間やリスクを避けられる点が、EC事業者にとっての代引きのメリットです。

代引きを導入しているEC事業者の声

「ユーザビリティ向上の観点から、決済手段の選択肢は多く持っておきたいという自社ECサイトの方針がありました」(アパレルショップ)

「標準的な決済手段でユーザーニーズもあるため。また、現金決済ユーザーの受け皿にもなります」(日用品ショップ)

事業者にとっての代引きのデメリット

逆に事業者にとっての代引きのデメリットとしては、受取拒否となる確率が高いことがあげられます。

玄関応対が必要な代引きは、午前中であれば9~12時、夜も19~21時と就業時間内もしくは直後にしか受け取りの時間を指定できないため、受取拒否される可能性があるのです。

昨今、代引きを悪用した送り付け商法が増えていることも、消費者の代引きへの警戒感につながっています。受取拒否をされると、往復の配送料が事業者負担となり、返品処理にもコストと手間がかかり、事業者にとって損失となります。

また、代引きの手数料は値上げ傾向にあります。これは、配送業界の人手不足のなかで、代引きの再配達率が高く、配達員が集金業務も行う必要があり、負担が大きいためです。代引きは宅配ロッカーや置き配など不在時に非対面型受取を利用できず、不在でない場合も現金が用意できていないなどの理由から、再配達率が高くなっています。

詳しくは後述しますが、「物流の2024年問題」に対処するため、EC事業者は国や関係省庁、宅配会社などから配送の効率化を求められています。

以上のような代引きのデメリットや昨今の事情から、代引きを廃止して、代替となる決済手段を選ぶ事業者が増えつつあるのです。

代引きに課題を感じるEC事業者の声

「商品の受取拒否が頻繁に発生し、返送されてきた商品の処理に関する業務も多く、返品の金額もかなりのものになっていました。また、商品を確認してから安心してお金を支払いたいユーザーの声に応えられず、ユーザビリティの面でも代引きの限界を感じていました」(レコードショップ)

「代引きはインフラの問題で利用できない地域もありました」(安全衛生用品ショップ)

「ギフトのご注文では代引きを利用できず、先払いでは商品発送が入金確認次第となるため間に合わず、クレジットカードも所有していないために、購入を断念されるお客様もいらっしゃいました」(洋菓子ショップ)

「代引きはお客様が不在だった場合の保管期限が短く、郵送物が戻ってきてしまうため、あらためて送付するなどの作業が発生していました」(通信講座)

代引きの代わりに利用される後払い決済とは

代引きの代わりに利用されることが多いのが、後払い決済です。後払い決済とは、その名の通り、購入者が商品を受け取った後に支払いを行う決済手段です。多くの場合、後払い決済は後払い決済サービスを提供する決済事業者によって運営されます。

後払い決済の仕組み(参照元:株式会社ネットプロテクションズ)
後払い決済の仕組み(参照元:株式会社ネットプロテクションズ

サービスによる違いもありますが、後払い決済の支払い方法は、コンビニエンスストアでの支払いや銀行振込などが一般的です。商品に同梱または商品到着後に郵送される請求書で支払う方法の他に、メールやマイページ、アプリなどで支払いに必要な情報の確認ができたり、ひと月分の代金をまとめて口座から引き落とせたりするサービスもあります。

では、後払い決済は、代引きと比較したときにどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。

消費者にとっての後払いのメリットとデメリット

消費者にとっての後払い決済のメリットとして、まず、代引きと同様に、クレジットカード情報などの登録が不要で、現金を利用できる点があげられます。

代引きにはないメリットとしては、商品を確認してから支払いを行えることがあげられます。サービスによっては、口座振替などで外出しなくても支払いができ、ポイントが貯まることもあります。また、サービスによっては分割での後払いが可能な場合もあり、高額な商品を購入する決済手段として親しまれている側面もあるのです。

逆にデメリットとしては、コンビニまで支払いに行く手間がかかる点があげられます。ただし、口座振替が可能な後払い決済サービスもあり、その場合は自動で支払うことも可能なため、大きな手間とは言えないでしょう。

EC事業者にとっての後払いのメリットとデメリット

EC事業者にとっての後払い決済のメリットとしては、まず、代引きと同様に、クレジットカード以外の決済手段を提供できる点があげられます。

代引きにはないメリットとしては、顧客が商品を確認してから支払いを行うため、代引きに比べて受取拒否が発生しにくい点もあげられるでしょう。消費者の需要に沿った決済手段を用意することは、カゴ落ちを減らすことにもつながります。

また、与信や督促は後払い決済サービスを提供する決済事業者が行ってくれるので、決済に関するEC事業者の負担も減らせるのが特徴です。さらに、宅配ボックスや置き配などの非対面型受取を利用できるため、再配達率が下がり、配達員の負担も減らせます。

逆にデメリットとしては、後払い決済サービスの認知度があげられます。消費者に後払い決済サービスを知ってもらう、サービスを理解してもらう必要があります。これはEC事業者というより、後払い事業者全体の課題です。

後払いを導入したEC事業者の声

「後払い決済導入後、2か月間で売上が125%に増加しました。すべてが後払い決済のおかげとは言えませんが、ユーザーの購買を後押ししたことは間違いありません。受取拒否率が低く、在庫を余計に抱えるリスクも回避できています」(アパレルショップ)

「若年購入者の比率が高い特定の商品においては全体購入者の7〜8%が後払い決済を利用、10~20代に限った後払い決済の比率は導入後半年で約10%を占めるまでになりました」(レコードショップ)

「地方在住のお客様から、非常に使い勝手が良くなったというお声を頂きました。また、後払い導入により前払いを廃止し、在庫引当コストなどの負担が大幅に軽減しました」(安全衛生用品ショップ)

「新規顧客のギフト需要にも対応できるようになり、郵便局で支払いたいという地方のお客様からのニーズにも対応することができました」(洋菓子ショップ)

「後払い決済を利用した購入は売上高ベースで約8割強。なかでも新規獲得に大きな効果を発揮しています」(化粧品ショップ)

それでも代引きを廃止しない事業者がいる理由とは?

ここまで紹介してきたように、代引きを廃止するEC事業者は増えつつありますが、それでもまだ、代引きを決済手段として提供しているEC事業者は少なくありません。

EC事業者が代引きを廃止しない理由として、利用が減ってきているとはいえ、まだ消費者の需要があるという点は大きいでしょう。希望した決済手段が使えないことは、離脱の理由となりやすく、代引きをなくすことに慎重なEC事業者も多いと考えられます。

これまで代引きを利用してきて大きな不便を感じていない顧客に、わざわざほかの決済手段に変えてもらうというのはハードルの高いでしょう。そのため、代引きという決済手段を入れ続けているのです。

とはいえ、配送業界の人手不足のなかで代引きにかかるコストは今後も上昇すると考えられ、一方で後払い決済などの代引きの代替となる決済手段の便利さがさらに広まっていくことで、消費者の代引きへの需要は減少していくものと考えられます。

消費者の需要がなくなれば、EC事業者にとって代引きを利用する理由もなくなるので、代引きの廃止が増えていくでしょう。

後払い導入後も代引きを残しているEC事業者の声

「現金で決済できる手段を残しておきたかったため、代引きの廃止には至りませんでした」(アパレルショップ)

「後払いですべてをカバーできるわけではありません。代引きを使いたいユーザーもいます。また、後払いの審査NG時の代替手段としても代引きを残しています」(日用品ショップ)

「物流の2024年問題」が代引きと後払い決済に与える影響

物流の2024年問題って何?(参照元:公共社団法人全日本トラック協会)
参照元:公共社団法人全日本トラック協会

「物流の2024年問題」は、2024年の「時間外労働時間の上限規制」の適⽤により物流の人手不足が加速し、従来の配送サービスや荷物の取扱量を維持できなくなる問題です。この問題に対処するため、政府や関係省庁、配送業界、EC業界、IT・サービス業界が連携しながら施策が実施されています。

EC事業者に関係の深い施策としては、配送の効率化があげられます。そのために推進されているのが、宅配ボックスや置き配、宅配ロッカーやコンビニ受取などの非対面型受取を活用することによる再配達の削減です。

ところが代引きは、前述したように非対面型受取が利用できません。また、配達員が集金業務を行う必要もあり、ひとつの配達に時間がかかり、配送の効率化を妨げることになります。

後払い決済サービス「atone」を運営する株式会社ネットプロテクションズは、代引きを後払い決済に切り替えることは、物流の2024年問題の課題解決につながると示唆しています。

物流の2024年問題への対策として、これまで配送面での対策は行われてきましたが、決済面でのアプローチは未着手の状態でした。代引きを後払い決済に切り替えることで、非対面型決済を利用できるようになって再配達が減り、対応にかかる所要時間も削減され、配達員の負担が軽減されます。また、後払いに切り替えても、代引きのユーザーニーズは満たせる点もポイントです。

代引きは置き配での対応の約4倍の所要時間がかかるケースも存在しています。逆に代引きを置き配に切り替えることで所要時間が約4分の1になる可能性があるのです。

物流の2024年問題への決済面でのアプローチとして、後払い決済は有効といえるでしょう。代引きから後払い決済への切り替えは、これまでは一部のEC事業者の取り組みでしたが、EC業界・配送業界・決済業界の取り組みとなる可能性もあります。

◎企画・構成:竹内 長
◎情報提供:株式会社ネットプロテクションズ

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