実は待ったなし!EC事業者のCO2排出量開示 ~Scope3開示への備え~
この記事の執筆者

川原 健史
株式会社テクノスジャパン
経営管理本部 経営戦略部

2016年に北海道大学大学院を卒業後、株式会社テクノスジャパンに入社。基幹システムの大規模導入PJへの参画、独立行政法人IPAへの出向などを経験したのち、2023年より株式会社estomaとの協業プロジェクトに抜擢。現在は、当プロジェクトにおける企画・営業・コンサルタントなど、サービス全般を担う担当者として活動中。

CO2排出量開示とは?なぜ今話題に?

「CO2排出量開示」とは、各事業者が自社の事業活動におけるCO2排出量に関する情報を企業HPや有価証券報告書等で公開し、気候変動への対応をどの程度行っているかを示す行為を指します。

2023年1月31日の「企業の内容等の開示に関する内閣府令等」の改正により、2023年3月期の決算を迎える事業者から、有価証券報告書に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記述が必須とされ、その一部としてCO2排出量の記載が求められています。

このCO2排出量開示、これまではあくまで上場企業が対象のものでしたが、昨今はその影響範囲がより広範囲の事業者に広がりつつあります。

Scope3に関する開示義務化

日本におけるサステナビリティの開示基準を取り決める組織であるサステナビリティ基準委員会(SSBJ)は、2025年3月5日に日本の上場企業を対象とした開示基準を公表しました。

このサステナビリティ開示基準において、気候変動の開示カテゴリーの一つとして「Scope3 = 企業のバリュー・チェーンで発生する間接的な温室効果ガス排出」が明記されています。

これは、事業者のサステナビリティにおける重要な部分である「企業活動におけるCO2排出量」の開示において、事業者が「自社のエネルギー利用に伴うCO2排出量(Scope1,2)」のみならず、バリュー・チェーン全体のCO2排出量についても責任を負う必要があることを示しています。

この開示基準の適用時期については未定ではありますが、上場企業を対象として今後数年以内に適用開始されることが見込まれています。

気候変動の開示カテゴリーScope1,2,3の模式図
環境省「物語でわかるサプライチェーン排出量算定」をもとにテクノスジャパンにて作図

EC事業者自身のScope3開示(上場企業の場合)

上場しているEC事業者にとっては「EC事業者自身のScope3開示」は非常に重要な事項です。

なぜならば、自社のCO2排出量のみならず、非上場企業を含むバリュー・チェーン内の他事業者の排出量を把握する必要があるからです。

EC事業者はこれまで、自社で工場や店舗を持っていないため、自身の企業活動におけるCO2排出量が比較的少なく、CO2排出量の重要性や、開示された情報の精度はあまり問われることがありませんでした。

しかし、Scope3に関する開示義務化により、今後はバリュー・チェーン全体の排出量を把握・開示し、排出量の低減に努めていく必要が出てきました。

これは、

  • バリュー・チェーン(特に製品の生産者)での製品ごとのCO2排出量を把握し、開示する
  • 製品ごとの輸送・配送にかかるCO2排出量を把握し、開示する

という必要があることを意味しています。

つまり、EC事業者自身のCO2排出量が少なく排出量開示の重要性が低かったとしても、バリュー・チェーン全体のCO2排出量の把握・開示にはある程度の精度が求められ、またその改善にしっかりと労力を割かなくてはならないのです。

取引先のScope3開示(上場企業に製品を卸している事業者の場合)

上場企業を取引先に持つEC事業者にとっては、「取引先のScope3開示」が非常に重要な事項となります。

これは、取引先が上場企業、特に上場企業に製品を卸している場合において、CO2排出量の開示を求められる可能性があるということです。

非上場企業のEC事業者にとって、これまではCO2排出量の開示に特に対応する必要がなく、一種の「関心の薄い事項」と捉えられていました。

しかし、バリュー・チェーン全体のCO2排出量開示が求められるようになると、上場企業のバリュー・チェーン内に属する事業者についても同様に、「上場企業に対してのCO2排出量の開示」が求められる可能性があります。

近年、製造業などではすでに先行して、非上場のサプライヤーが上場企業のメーカーからサステナビリティについてのアンケートの回答を求められるケースが急増しています。

取引先アンケートの件数がここ数年で数十倍に増加した企業もあるほどで、この動きは、他業界にも徐々に広がってゆくことが想定されます。

そのため、非上場であっても、特に上場企業との取引を行っている事業者については、CO2排出量の開示要求に備えておく必要があるのです。

EC事業者にとって、CO2排出量開示はなぜ「今」対応すべきなのか?

とはいえ、CO2排出量の開示といっても、あまりピンとこない方が多いのも事実でしょう。

環境負荷の少ない製品を取り扱ったり、梱包を変更したり、というような活動であればまだしも、事業活動のCO2排出量を開示するという活動が、なぜ今必要となるのでしょうか。Scope3開示の適用が数年後、というのであれば、今対応する必要は果たしてあるのでしょうか。

ここからはEC事業者がなぜ今、CO2排出量開示に対応すべきなのかについてご説明します。

リスク:規制強化による取引停止の可能性

上場企業に対するサステナビリティの要求は、世界中で年々厳しさを増しています。

日本におけるScope3に関する開示義務化はあくまでこの動きの中の一つであり、海外では既に2027年より適用開始を決定している国もあります。

そのような中で、バリュー・チェーンの中にCO2排出量情報未開示の事業者がいた場合、バリュー・チェーン全体のサステナビリティに責任を負う上場企業にとっては大きなリスクとなってしまいます。

2023年3月に公正取引委員会が公表し、2024年4月24日に改定版を公表した「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」では、以下のように述べられています。

事業者等は、グリーン社会の実現に向けて、短期及び中長期にわたって、規制及び制度、市場構造並びに技術動向等の国際的な競争環境の前提の変化に対応していく必要がある。このため、事業者等が、公正取引委員会に対して自らの取組について事前相談等を行うに際して、(中略)公正取引委員会は、これらを踏まえた判断を行う。

ここでは、事業者がグリーン社会の実現に向けた対応として取組を行う場合には、公正取引委員会もその背景を踏まえて判断を行う、ということが記載されています。

そのため、CO2排出量の開示を一切行わなかった場合、リスク回避のため取引先から取引停止を告げられてしまう、というようなケースもありうるのです。

また、海外では実際に先進的な大企業が、サステナビリティ向上に取り組んでいない事業者との取引を打ち切る、といったケースも出てきています。

CO2排出量開示、ひいてはサステナビリティ情報開示への対応は、もはや待ったなしといえるでしょう。

機会:物流効率化に合わせた開示の仕組みづくり

物流効率化はEC事業者にとって非常に大きな課題であり、2024年問題の発生以降、現在も多くの事業者が対応に追われています。

実はこの物流効率化はCO2排出量と密接に関係しており、この物流効率化を実施している今だからこそ、CO2排出量開示の仕組みを作り始めるべきなのです。

ここからは、この物流効率化と、CO2排出量の関係について見ていきます。

物流の効率化とCO2排出量の関係

物流によるCO2排出量は、Scope3の各カテゴリーのうち、主にカテゴリー4に当てはまります(自身が荷主となるもの)。

このカテゴリー4について、環境省が推奨する改良トンキロ法においては、以下のような計算式で計算が可能です。

CO2排出量 = 輸送重量 × 輸送距離 × 積載率別CO2排出原単位

この「積載率別CO2排出原単位」というのは、トラックの積載率ごとに輸送重量・輸送距離あたりのCO2排出量をまとめたものです。

車種や使用する燃料ごとの値が公開されており、積載率が高いほど排出量が下がる、というものになっています。

この計算式を見るとわかる通り、今EC事業者が物流効率化のために実施している活動の中には、そのまま「CO2排出量の低減活動」となるものが多く含まれています。

例えば、自社配送となるケースにおいては、配送ルートの効率化によって低減される「輸送距離」が、CO2排出量計算の1要素として利用できます。

配送委託となるケースにおいても、まとめ配送によって軽減した梱包分の「配送重量」のデータや、委託業者として共同配送を行っている事業者を選択して「積載率」を向上させたデータは、同様にCO2排出量計算の元データとして使用できます。

つまり、物流の効率化で整理した情報が、そのままCO2排出量の開示に繋がるのです。

物流システムの導入に合わせたCO2排出量計算の仕組みづくり

2023年7月に経済産業省により行われた「サステナビリティ関連データの収集・活用等に関する実態調査のためのアンケート調査結果」においては、以下のような課題が示されています(「サステナビリティデータの収集・集計・分析ツール」についてのアンケート結果より一部抜粋)。

  • 可視化機能、分析機能、タスク管理機能を備えたシステム整備が必要
  • エクセルでの集計は膨大な時間と労力がかかるため、システム構築が必要
  • 手作業で入力・収集・分析を行っているところも多く、業務負荷がかかり、時間がかかることが課題

サステナビリティ開示業務においてCO2排出量開示はかなり大きな部分を占めており、CO2排出量開示のみに絞っても、データの収集・管理・分析のためにはシステム化が必須であることは明白です。

このCO2排出量開示の仕組みを、一度出来上がったシステムの中に組み込むことは非常に大変です。

CO2排出量計算で取り扱う情報は、確かに先述したように物流効率化の検討において俎上に上りやすい情報です。

しかし、業務効率化「のみ」を目的としてシステムを構築した場合には、それらの情報は業務運用として最終的に必要とされないケースがあります1

そのため、一度物流効率化のためにシステム化を行い、あとから別途CO2排出量計算の仕組みを組み込もうとすると、また改めてデータの整備やシステムの改修が必要となってしまうのです。

物流効率化のために物流情報の管理と運用を見直そうとしている今であれば、物流システムの導入と合わせて、効率的にCO2排出量計算の仕組みを作っていくことが可能となります。

もちろん、システムの導入やデータの管理方法の見直しは物流効率化以外でも検討されるため、今が唯一の機会、というわけではありません。

しかし、少なくとも物流効率化のために物流システムの導入を考えるべきタイミングの今が、効率的にCO2排出量計算の仕組みを構築する一つの非常に良いタイミングなのです。

1 例:製品重量があまり重要とならない事業者では、製品マスタ整備の際に重量情報を必須としない、など

まとめ:CO2排出量開示に備えてEC事業者がやるべきこと

ここまでEC事業者のCO2排出量開示について、特に物流に着目して述べてきました。

CO2排出量開示に備えてEC事業者が知っておくべきこと・やるべきことをまとめると、以下のようになります。

  • Scope3に関する開示基準公開により、バリュー・チェーン全体でのCO2排出量管理が必要となる
  • 上場企業は自身のScope3開示に、非上場企業も上場企業からのCO2排出量開示要求に備える必要がある
  • CO2排出量開示を怠ると、上場企業との取引が停止されてしまう可能性がある
  • 物流効率化のため物流のIT化を考えている今こそ、CO2排出量開示の仕組みづくりのチャンス!

CO2排出量の計算については、各事業者からさまざまなツールやサービスが提供されています。

排出量の削減コンサルティングやカーボンクレジットへの対応まで備えた包括的なものから、CO2排出量のデータの管理と計算を行ってくれるだけのシンプルなもの、特定の業界に特化したもの、開示のサポートなど特定の業務にフォーカスしているものなど、価格も機能もさまざまです。

ご自身の企業規模や求めているレベルに合わせて、最適なサービスを探してみてください。

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