島袋孝一のEC体験記:ブランドを卒業したお客様とのコミュニケーションを考える

私事なのですが、4度目の転職をしまして、現在はJ.フロントリテイリング(JFR)に所属しております。社名を聞いてもピンと来ない方も多いかもしれませんが、大丸松坂屋百貨店やファッションビルを運営するパルコなどを傘下に持つ持株会社です。そこで、いわゆる「デジマ」や「メタバース」を担当することになります。

そう、古くから私を知る方は、「お!?」と思ったかもしれません。というのも、私は2004年に新卒でパルコに入社しており、2016年まで勤めていました。その後、飲料メーカーやスタートアップを経て、出戻り(?)することとなりました。厳密にいうとパルコ籍に戻るわけではないので、「文字通りの出戻り」ではないのですが、一緒に働くチームには、パルコ在職当時にお世話になった方が多数おりますので、感覚的には「出戻り」です。暖かく迎え入れられています。

アルムナイ

「アルムナイ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?この近年、人事・HR領域で注目を集めている言葉です。「アルムナイ(alumni)」。元々の意味としては英語で「卒業生」「同窓生」といった意味なのですが、HR用語で「企業の退職者・卒業生・OB/OG」を表す用語として広まってきています。

私は今回、特にパルコのアルムナイコミュニティに所属していたわけでもなく(そもそもそのような組織はない)、たまたまパルコ退職後でも日常的にSNSやメッセンジャーで先輩とやりとりしていたことがきっかけで転職をすることになりました。

本メディアは「キャリア」のメディアではないので、私の転職についての点は、これ以上言及しないのですが、思考のトレーニングとして、この「卒業」という事象をECやプロダクト・サービスのマーケティング軸で、捉えるとどうでしょうか

例えばアパレルブランドでの「卒業」です。若年層向けブランドが、顧客のライフステージの変化(年齢を重ねる・入学卒業)をきっかけに、「自分のブランドではないな」と感じ、購入されなくなる・選択肢に入らなくなる、といったような事例・ケースです。

現在アラフォーの私ですが、当時のパルコ在職時代はメンズフロアを担当していたこともあり、メンズ・ビギ、メンズメルローズ、アバハウス・コムサデモード、バーバリー・ブラックレーベル(懐かしい)、ポールスミス、レイジブルーなどを着用していた時期もありました。こちらも私のライフステージの変化(結婚・育児や働く職種の変化)により、「選ばなく」なってしまったブランドです。

しかし、時代が一周回って、レイジブルーを運営しているアダストリアのブランド(グローバルワークやベイフロー)にたどり着いたり、昔買って着なくなっていたアバハウスのジャケットを再び袖を通すようになったり、と当時の記憶を再び思い起こすようになっています。

たまたま私は商業ディベロッパーという職種から、アパレルに隣接する業界にいたので、「**」というブランドは「◯◯」というメーカーが生産・運営している、という勘所があり、自身を俯瞰したときに、上述のような解析をするに至っています。しかし、業界が異なる、そうではない生活者にとって「とある1ブランド」の「メーカー」を意識してい生きていることはレアだと思っています。当時の体験時に、よっぽどの愛着や想いがある状態を作り出せていたらなら、「そういえばあのブランドって」と想起されることもあるでしょう。

「おかえり」の準備

ブランドを卒業してしまったお客様とは、企業はどのようなコミュニケーションをとることができるでしょうか。ECの世界では、(自然消滅的な)購入の停止、(意思をもった)メルマガ解約、LINEブロックなどさまざまな度合いの「卒業」があるかと思います。しかし、一方で、デジタルメディアの活用、「広告」「SNS」などを利用することで、実店舗以上に再度接触を持つ可能性・機会は多いのかな、とも想像します。MAを活用して、〇日間アクセスや注文がない方へコミュニケーションを再開することができるかもしれません。

そんなときに、帰ってきた方々の「受け皿」の準備はできていますでしょうか?

再び少しHRの話題に戻ります。僕は「出戻り」する形でオンボーディング(=新しく配属されたメンバーが組織に馴染み、早期に力を発揮できるようにするために企業が実施する一連の取り組み)を受けました。完全に新規転職者を受け入れるときほどのリソース・ケアは不要な状態が一般的かと思います。しかし、それでもブランクはあるので、あらたにキャッチアップすべきことがあります。当時から変更点のあった差分を埋めるようなイメージです。

これもECに、思考を転用することができるかと思います。

当然のことですが、卒業生を迎え入れるのに、「ご新規キャンペーン」の訴求をするよりも、「おかえりキャンペーン」というメッセージの方が、「自分ごと」になるかと思います。

自然消滅的に買い上げがなくなっていた方にとっては、帰って来た際に、「自身が利用していた」ことも忘れているかもしれません。でも、EC側は過去の履歴から「あなたはこんな買い物をしていましたよ」とお迎えすることができるかと思います。その際に、せっかく帰ってきてくれた卒業生に対し、当時の同じリコメンドは通用しないかもしれない、という前提も必要かもしれません。ライフステージや嗜好性が変わっているという前提でコミュニケーションを意識するといいかもしれません。

当然、コミュニケーションだけでなく、先の私のアパレルの事例のように、経過年月を経て受け入れられる(当時はなかった)ブランドを立ち上げていくことも、有効な取り組みかもしれません。

最近話題になった映画「シン・ウルトラマン」や「THE FIRST SLUM DUNK」などは、ひとりの顧客の年齢変化における「おかえり」と、その顧客の子ども世代をも誘因したある意味「世代をまたいだ卒業生企画」ともとらえることができるでしょう。

「アルムナイ」という言葉自体は、現時点では、一般的な概念とは言えませんが、皆様の既存事業にあてはめたときの「離反客」「離脱客」などに置き換えて、コミュニケーションプロセスを再考すると、気づきがあるかもしれません。

さて。私も卒業して、外の景色を見てきたからこそ、再び帰って来たときに還元できることがあると思い、現職に戻ってきました。7年間のブランク・環境変化を早々に埋めて、アクションをしていこうと思いますー!

このコラムを御覧いただいた方で、JFR(大丸松坂屋・パルコ)となんかやってみたい!と思っている方は、お気軽にコチラまでお声がけくださいませ!

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