
ボストン コンサルティング グループ(BCG)は、ザ・コンシューマー・グッズ・フォーラム(CGF)との共同調査により、消費財企業および小売企業における経営幹部39名を対象としたAI活用に関する実態調査を実施し、その結果をまとめたレポート「How CPG and Retail Leaders Maximize AI ROI」を公表しました。なお、CGFは世界各国の食品・消費財メーカーならびに流通企業およそ400社により構成される国際的な団体となっています。
消費財企業の76%が「探索段階」、小売企業は二極化の傾向
消費財・小売業界において、AI活用による最大の事業価値が創出可能と見られているのは「需要創出プロセス」となっています。需要創出プロセスとは、消費財企業においては商品企画・開発、販売活動、ブランド構築、顧客エンゲージメントといった領域を指し、小売企業においては品揃え、在庫確保、販売・マーケティング、顧客エンゲージメントといった領域を指します。これらは売上成長に直接的に結びつく一連の中核となる業務プロセスです。
今回の調査においては、消費財・小売企業におけるAI活用の成熟度を「試行」「探索」「本格展開」という3つの段階で分類しています。その結果によると、消費財企業においては76%が「探索」段階にあることが明らかとなり、「本格展開」している企業の割合はわずか18%という結果でした(図表1)。一方、小売企業においては45%が「本格展開」段階に到達している一方で、40%が「試行」段階にとどまっており、AI活用における成熟度の二極化が確認されました。
需要創出プロセスでのAI本格展開により大幅な価値創出が可能
BCGがこれまでに手掛けてきたプロジェクトの経験値に基づくと、需要創出プロセス全体においてAIを本格的に展開することにより、消費財企業ではEBITマージン(利払前・税引前利益率)換算で約2.2~3.5%ポイント相当、小売企業では約1.8~3.6%ポイント相当の価値創出余地があると推計されています(図表2)。このような価値創出余地については、利益改善として取り込むことはもちろん、価格面での競争力強化や商品・サービスの改善・拡充といった再投資への活用も可能であると考えられています。
しかしながら、多数の消費財・小売企業においては、需要創出プロセスの中でも事業成長と最も密接に関連する領域でのAI本格展開が実現できていない状況です。今回実施された調査では、消費財企業の回答者のおよそ半数が「商品企画・開発、市場投入」というプロセスを最重要領域として位置付けている一方、当該領域でAIを本格展開している企業はわずか11%にとどまっています。小売企業においても類似した傾向が見られており、46%が「商品提案、価格・品揃えの最適化」をAI活用における最重要領域としている一方、当該領域でAIを本格展開している企業は34%という結果でした。
さらに将来的には、エージェント型AIの成熟に伴い、AIの役割が意思決定支援から、ワークフローの調整・実行支援へと広がることで、事業価値創出の規模が約1.7倍にまで拡大する可能性があることも指摘されています。
AI投資のROI測定が課題に、CEOが検討すべき6つの重要な問い
今回の調査結果では、消費財企業・小売企業の双方において、半数を超える企業がAI投資のROIを正式に測定していないことが判明しました。また、AIの本格展開を妨げる要因として最も多く指摘されたのが、パイロット段階において確認された経済性が、拡大展開時のROIとして再現できていないという課題でした。
こうした課題を踏まえて、レポートではAIを企業の成長エンジンとして活用するために、CEOが検討すべき6つの重要な問いを提示しています。
- AI投資は、自社の戦略的優先課題と整合性が取れているか
- 十分に高い目標設定ができているか。また、その効果測定の方法はどうあるべきか
- AIを活用した変革を成功させ、持続可能なものとするためには何が必要となるか
- AI導入は、人材やオペレーティングモデルにどのような影響をもたらすか
- データ資産やテクノロジーパートナーシップをどのように位置付け、活用していくべきか
- リスクとコストを適切に管理しつつ、いかに迅速にAI活用を推進していくか
CGFのマネージング・ディレクターであるワイチャン・チャン氏は、「CEOにとって、AIを巡る『ハネムーン期間』は終わりを迎えました。AIはもはや単なる技術実証の段階ではなく、企業の収益に直接的な影響を与える重要な経営レバーとなっています。今後2年間において、AIを実際に本格展開できる企業と、AIについて語るだけにとどまる企業との差は、より一層明確になっていくでしょう」とコメントしています。
また、BCG東京オフィスのマネージング・ディレクター&シニア・パートナーである森田章氏は、「既に先行している企業では、AIへの投資による収益性改善の成果が表れ始めています。今後においては、AIを活用したビジネスモデル変革により、トップライン成長と競争優位性の向上をいかに実現するかが、競争の焦点になっていくでしょう。変化を見極めようと様子見の姿勢を続けることは、自ら競争力を失うリスクを受け入れることに等しいと考えます。経営トップ自らが高いアスピレーションを掲げ、組織全体を力強くけん引していくことが不可欠です」とコメントしています。
調査レポート
「How CPG and Retail Leaders Maximize AI ROI」
調査概要
調査対象:世界の消費財企業および小売企業の経営幹部39名
調査実施時期:2026年4月
調査実施主体:ボストン コンサルティング グループ、ザ・コンシューマー・グッズ・フォーラム(CGF)
調査方法:世界の消費財企業および小売企業の経営幹部39名を対象とした調査の実施に加え、個別インタビューおよびBCGが消費財・小売業界におけるAI変革の設計・展開支援を行ってきた経験を踏まえて分析が実施されています。
担当者
森田章氏 マネージング・ディレクター & シニア・パートナー
BCG消費財・流通グループの日本リーダー、気候変動・サステナビリティグループにおける循環型社会構築、および食料システムの変革のトピックリーダーを務めています。慶應義塾大学理工学部を卒業し、同大学大学院理工学研究科を修了。IT関連企業の起業・経営、外資系コンサルティングファームを経て現職に至っています。
出典元:ボストン コンサルティング グループ プレスリリース(PR TIMES)



















