オフライン1万店舗への配荷で直面した“カニバリ”と“愛されマーケ”のリアル【まつ毛美容液「EMAKED」成長の裏側 第2回】

前回は、私が入社した当時のまつ毛美容液市場のカオスな環境において、いかにして「40代以上」という真のターゲットを見出し、泥臭いテストの末にWEBでの勝ち筋をつかんだかを記しました。オンラインでの基盤が固まりつつあった私たちが次に見据えたのは、オフライン(実店舗)への進出です。

しかし、そこにはD2Cの成功ロジックが全く通用しない「店舗流通の深淵」が待っていました。今回は、私たちがどのようにして1万店舗を超える配荷を実現したのか、そして実店舗の拡大がWEBの数字にどのような「異常事態」を引き起こしたのか、その全貌をお伝えします。

この記事の執筆者

村井 信也
水橋保寿堂製薬株式会社
取締役

越境ECの立ち上げからExitまでを経験後、化粧品D2C領域へ。市場の熱量を最大化させる仕掛けづくりに長け、大手ECプラットフォームを一時ダウンさせるほどの反響を何度も再現。一過性のブームに終わらせず、10年かけて売上を20倍にまで引き上げる持続的な事業成長を実現した。「熱狂」を売上に直結させる実戦型マーケターとして、幅広い業種の売上拡大に貢献している。

水橋保寿堂製薬
https://mizu-ho.com/

「5,000円・ピンクと緑・可愛くない」門前払いからのスタート

オフライン進出を試みた当初、私たちの前には絶望的な壁が立ちはだかっていました。当時のEMAKEDは、ほぼ通販のみで展開しており、パッケージも配送効率を重視した小さなものでした。デザインはド派手なピンクと緑の奇抜な配色。お世辞にも「店頭で目を引く可愛さ」があるわけではなく、ドラッグストアに並ぶ1,000円前後のプチプラ商材とは、価格も見た目もあまりにかけ離れていました。

バイヤーとの商談に持ち込んでも、「ドラッグストアで5,000円を超えるまつ毛美容液なんて、売れるわけがない」と軽くあしらわれる日々でした。当時の私たちは、「ランキング1位の実績」や「製薬会社による臨床テストのエビデンス」といったWEBで強力な武器だった要素を並べて、必死に「ゴリ押し」の営業をかけていました。しかし、そんな理屈だけでは、店舗の貴重な棚を奪い取ることはできなかったのです。

権力ではなく「愛」で棚を獲る――ボトムアップの流通戦略

営業がことごとく失敗する一方で、不思議な現象が起きていました。積極的な営業をかけていないにもかかわらず、なぜか継続的に商品を注文し、売り続けてくれている店舗が数軒存在していたのです。

第1回でお話しした通り、私は最初から精密なペルソナを作るよりも、実際に起きている反応を見ることを重視しています。店頭でも同じでした。売れていない理由を考えるより、なぜか売れている店舗に答えがあると考えたのです。実際に店舗へ足を運び、店長さんに「なぜ、EMAKEDを置いてくれているんですか?」と尋ねたところ、返ってきたのは驚くほど純粋な答えでした。

「私が実際に使ってみて本当に良かったから、好きで置いてるんですよ」

この瞬間、私の戦略は180度変わりました。リテールの攻略に必要なのは、本部の権力者に数字を突きつけることではなく、現場の店員さんに「愛されること」だったのです。

私たちは自慢げな実績アピールを一切やめ、いかにして現場の店員さんやユーザーに愛され続けるかに全エネルギーを注ぐことにしました。店員さんが自ら使って効果を体感し、熱量を持ってお客様に伝えてくれる。そんな「本物の声」によるボトムアップの広がりこそが、EMAKEDの配荷を広げる道でした。

インフルエンサー施策に潜む「人格」の重要性

この「愛されマーケ」の思想は、当時急速に普及し始めていたインフルエンサー施策にも色濃く反映されました。

多くの事業者が「フォロワー数」や「投稿の綺麗さ」でインフルエンサーを選別する中、私は数百、数千のアカウントを自らの目で一つずつチェックしました。私が依頼をしたのは、単に綺麗な部分だけを切り取る「マウント社会」の住人ではなく、リアルなライフスタイルを発信し、人格そのものにファンがついているような、人間味のある方々です。

情報にファンがついているアカウントではなく、その人の「声」にファンがついている人。そんな方々に本当の愛用者として熱く語ってもらうことで、広告臭のない「本物の熱量」を伝播させていきました。

店舗数5,000超えの異変。オンラインの数字に起きた「異常事態」

店員さんたちの愛によって配荷店舗が5,000〜7,000店舗を超えた頃、WEBの数字に予期せぬ異変が起きました。それまで安定した水準で効果を出していたEMAKEDのLPのCVR(転換率)が、突如として急落したのです。

原因は、流入してくる「指名検索ユーザー」の質的な変化にありました。

それまでのWEB流入は、ネットで深い悩みを持って検索し、私たちの「お悩み解決型」の重厚なLPを読んで納得して買う層がメインでした。しかし、店舗数が増えたことで、「バラエティショップの店頭で見かけて気になったから検索した」という、そこまで深刻に悩んでいないライト層が大量に流入し始めたのです。

彼らがWEBに来た際、悩みをこれでもかと煽る「D2C特有の泥臭いLP」を見てどう思ったか。

「あ、店舗で見た華やかなイメージと違う。自分向けの軽い商品じゃないのかも」

そう感じて離脱していたのです。解決策は、WEBのプライドを捨てることでした。私たちは、店頭で最も反響のあったPOPのデザインをそのままLPのファーストビューに採用しました。

左:Before 右:After
POPのデザインに近くライトな層向けのデザインへ

モデルの顔をアップにするWEBの定石を捨て、店頭での体験とWEBでの再会に「ズレ」を起こさないようにした結果、CVRは見事に回復し、さらなる成長曲線を描くことができました。

1万店舗のジレンマと、小売店から愛される「実益」

配荷店舗が1万を超えると、今度は「オンラインの定期購入(サブスク)が減る」という事態に直面しました。家の近くのドラッグストアでいつでも買えるようになれば、当然ながら配送を待つ必要のある定期便の魅力は相対的に薄れます。

しかし、私たちはこれを「カニバリ」として嘆くことはありませんでした。

  • 若年層:ドラッグストアのポイントキャンペーンや手軽さを重視し、店頭で購入
  • 年齢層高めの方:買いに行く手間を省き、確実にお得に届くWEBの定期便を継続

このように、チャネルごとに顧客層が自然と「ぱっくり」と棲み分けられたのです。

また、EMAKEDは店舗側からも「最強の効率商品」として愛される存在になっていきました。1,000円のプチプラ商品をレジに通すのも、5,000円を超えるEMAKEDをレジに通すのも、店員さんの作業負担は同じです。場所を取らない小さなパッケージで、客単価を一気に引き上げるEMAKEDは、男性の店長さんからも「売上に欠かせない、無視できない商品」として重宝されるようになりました。

結びに代えて

「愛される商品」であれば、強引な営業や複雑な戦略がなくとも、自ずと道は拓けます。配荷が伸び悩んでいるのなら、目の前の数字を追う前に、誰がその商品を心から愛してくれているのかを、今一度確認してみてください。そこにこそ、チャネルを突き破る真の答えがあるはずです。

一方で、商品が広がれば広がるほど、ブランド側がコントロールすべき領域も増えていきます。どのチャネルで、どの顧客に、どのような見え方で届けるのか。短期的な売上を追うだけでは、ブランドの価値や利益構造を守れなくなる局面も訪れます。

次回は、1万店舗規模への配荷とWEBでの認知拡大の先に待っていた、急成長ならではの副作用についてお話しします。売れるほど難しくなる販路設計、価格やブランドの見え方、そして「伸ばすべき売上」と「追いすぎてはいけない売上」をどう見極めたのか。EMAKEDが向き合った、成長後のリアルな意思決定を紐解いていきます。

水橋保寿堂製薬
https://mizu-ho.com/

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