40万人が使うAGAセルフケアブランド。『HIX』が証明した、コンプレックス商材のLTV最大化戦略
この記事の執筆者

佐藤 亘
株式会社エムボックス
HIXプロダクトオーナー

2000年生まれ。青山学院大学法学部在学中の2021年に株式会社エムボックスへ参画。現在は同社が展開するAGAセルフケア「HIX(ヒックス)」、および便秘セルフケア「Bebo(ビーボ)」のプロダクトオーナーとして、テクノロジーを活用した疾患領域のUX改善と、ユーザーに寄り添った伴走型サービスのプロダクトマネジメントを牽引している。青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科(MBA)修了

公式サイト:https://www.hix-selfcheck.com/

きっかけは薄毛への焦燥感。大学生だった私が、この領域に挑む理由

株式会社エムボックスで、AGAセルフケアブランド『HIX(ヒックス)』のプロダクトオーナーを務めている佐藤です。本題に入る前に、まずは私がなぜ、この「薄毛・AGA」という領域に携わっているのか、その背景についてお話しさせてください。

『HIX』との出会いは、大学時代に抱いた「切実な焦燥感」がきっかけでした。昔からつむじが広いこともあり、「今は大丈夫かもしれないけど、数年後に薄毛になってしまうのでは...」という不安に駆られたのです。

また、その不安は単なる個人の感情に留まりませんでした。もともと自分でサービスを立ち上げたいという意欲があった私は、「この市場には、解決すべき大きな課題があるのではないか」と、ビジネスの視点から興味を持つようになったのです。

そこから、この領域を調べていく中で見えてきたのは、ユーザーが置き去りにされた「不十分な体験」の連続でした。ネット上の記事やSNSには、科学的根拠の乏しい情報や不安を煽る広告が溢れ、何を信じればいいのかわからない。勇気を出して一歩踏み出しても、高額な契約や一方的な投薬を迫られるかもしれないという不安がつきまとう。

「正しい解決策があるはずなのに、そこに辿り着けない。この領域には、もっとやるべきことが、もっと改善できる体験があるはずだ」。

その想いを形にできる場所を探し続ける中で、一通のプレスリリースに出会いました。それが『HIX』を運営するエムボックス社でした。テクノロジーの力で、一人ひとりに最適化されたセルフケアを届けるという思想。記事を読んだ瞬間、「ここなら自分が作りたかったものが形にできる」と確信しました。

そこから、代表の金澤にX(旧Twitter)でメッセージを送り、2021年にインターンとしてエムボックスに参画。以来、『HIX』のプロダクト作り、マーケティングに没頭してきました。

患者数に対して『正しい治療』が浸透しないAGA市場のリアル

男性の薄毛の9割以上は、AGA(男性型脱毛症)によるものとされています。これは、悪玉化した男性ホルモン(DHT)が髪の成長期を短くしてしまう「進行性の疾患」です。日本人の5人に1人が該当[1]すると言われるほど身近な存在でありながら、正しい治療が浸透しにくい、いくつかの構造的な要因を抱えています。

その一つが、正しい知識へのアクセスの断絶です。

AGA治療の正解は、医学的に明確です。日本皮膚科学会が発表している「AGAガイドライン」でも、フィナステリドやデュタステリドといった内服薬で進行を抑え、ミノキシジル外用薬(塗り薬)で発毛を促すことが強く推奨されています。つまり、生活習慣の改善だけでは限界があり、医薬品による正しいアプローチが不可欠なのです。

それなのに、いざ解決策を探そうとすると、ネット上には医学的根拠の乏しいヘアケア情報や、不安を煽るような広告が溢れています。情報のノイズがあまりに多いために、ユーザーは「自分に合った正解」に辿り着く前に遠回りをしてしまい、時間と費用を浪費した末に「自分には効果がない」と諦めてしまう。この初期段階での情報のミスマッチが、最初の壁となっています。

また、勇気を出して専門機関を訪ねたり、薬を手に入れたりしても、それで全てが解決するわけではありません。AGA治療は、薬を服用し始めてすぐに結果が出るものではなく、数か月から数年単位の長い時間を要します。しかし、多くは「診断」や「処方」という"治療の開始"をゴールとする点(スポット)の接点に留まりがちです。

ここで浮き彫りになるのが、個人の意思に依存した「セルフケアの限界」という課題です。これは特定の医療機関や販売店に限った話ではなく、セルフケアを選択するすべての方が直面する共通のハードルです。

例えば、治療初期に一時的に抜け毛が増える「初期脱毛」という現象。知識として知っていても、いざ自分の身に起きると「薬が合っていないのではないか」と強い不安に襲われることもあるでしょう。このような日々の不安や、モチベーションの維持をフォローしてくれる存在が近くにいない環境では、たとえ正しい薬を手にしていても、治療継続は容易ではありません。

こうした問題が発生する背景には、サービス提供者側の構造的な限界も存在します。医薬品を開発するメーカーの多くは、ドラッグストアなどの広範な流通網を通じて製品を届けています。この仕組みは「手軽に薬を入手できる」という点では非常に優れていますが、一方で、メーカー側が「購入したユーザーが、その後どのような状態で、どんな不安を抱いているか」までを直接的に把握することは、現在の流通構造上、極めて困難です。

つまり、薬を販売した後のユーザー体験、特に「抜け毛が減らない」「このまま続けていいのか」という切実な不安を拾い上げる仕組みが、これまでの市場構造には十分に備わっていなかったのです。

これこそが『HIX』が解決すべき領域であり、テクノロジーの力で「点」の接点を「線(プロセス)」の伴走へと変えていくことが付加価値だと考えています。

「モノ」ではなく、納得感のある「プロセス」を実装する

こうした「情報の断絶」「個人治療の限界」を解消するために、『HIX』では単なる「モノの販売」ではなく、ユーザーが迷いなく治療を続けられる「プロセスの提供」に注力しています。

銀座総合美容クリニック(銀クリ)の正木院長による監修を受け、現場の知見をテクノロジーに落とし込むことで、以下の3つの役割をアプリで実現しました。

① 「感覚」を「データ」に変える、AIによる客観的評価

20万枚以上の画像データから構築したAIによる毛髪・頭皮チェックを実装。鏡を見たときの「主観的な不安」を、医学的知見に基づく「客観的な数値」に変換します。一人で悩む時間を、データによる「納得」に変えることが、迷走を止める第一歩となります。

② 毛髪・頭皮チェックから治療までを支える、一気通貫のプロダクト群

『HIX』ではアプリの他に、国内最高濃度5%のミノキシジルを配合した発毛剤『ヒックス ミノキシジル5』、5万人の頭皮データから生まれた『ヒックス スカルプシャンプー』や内側からケアする『ヒックス サプリメント』などのプロダクトを展開しています。

アプリでご自身の頭皮を撮影・チェックすると、その解析結果から今の状態に必要なアイテムを自動で選定し、そのままスムーズに購入いただけます。プロダクトとテクノロジーを融合させることで、診断から対策まで迷いのない、一貫した治療体験を構築しています。

③「孤独な戦い」を支え、モチベーションを維持する仕組み

最も離脱率が高い「治療開始直後」を支える機能『14日間プログラム[2]を実装。初期脱毛などの不安に対し、アプリが先回りして正しい知識と励ましを届けることで、心理的な脱落を防ぎます。さらに、撮影データの「比較機能」による変化の可視化や、専門家への「チャット相談」体制を構築。ユーザーの意志の強さに頼るのではなく、「仕組みとしての伴走」を提供することで、孤独な個人治療の限界を突破しています。

「便利さ」の前に立ちはだかる、コンプレックス商材特有の2つの壁

満を持してリリースしたアプリ『HIX』ですが、当初私たちが直面したのは「ユーザーに拒絶される」という厳しい現実でした。これまでの一般的なアプリ開発の常識が通用しない、コンプレックス商材ならではの「2つの壁」を痛感することになったのです。

① 「使いたい」けれど「知られたくない」という、根深い不信感

まず立ちはだかったのは、ユーザーの羞恥心と警戒心の強さでした。アプリを開発する側として、より良い体験のために「まずユーザー属性を知りたい」と考え、初期の『HIX』では会員登録を必須にしていました。しかし、これが大きな離脱要因となっていました。

コンプレックス商材のユーザーにとって、悩みは究極のプライバシーです。「万が一、誰かに見られたらどうしよう」という、自己防衛に近い心理が働きます。そんな心理状態のなか、いきなりメールアドレスや個人情報の入力を求められることは、心理的に非常に大きな抵抗感を生んでいたのです。

実際に、データを見ると、ダウンロード(DL)されても登録画面で大半が離脱し、数日以内にアプリが削除されるケースが続出しました。「利便性を高めるために情報を入力してもらう」という、サービス提供者側の論理はここでは通用しません。まずは、ユーザーの「不信感」をゼロにする。この一点に振り切った設計が必要なのだと強く思い知らされました。

② 「確認して終わり」になってしまう、プロダクトの性質

二つ目の壁は、毛髪・頭皮チェックという機能そのものが持つ「一過性」の問題でした。ユーザー行動を深掘りすると、多くの利用目的が「自分は薄毛なのか、そうじゃないのか」を確認することに終始していました。一度チェックを受け、安心するか、あるいは現状を突きつけられるかすると、そこでアプリの役割が完結して満足(あるいは落胆)して消えてしまうのです。

さらに深刻だったのは、すでにミノキシジルなどの薬を服用している「自覚層」の無関心でした。彼らにとって、今さら「薄毛かどうか」をチェックする機能は不要です。しかし、本来私たちが伴走すべきなのは、まさに今治療に励んでいるこの層でした。

毛髪・頭皮チェックはあくまで「入り口」に過ぎない。その後の数か月、数年にわたる治療プロセスにおいて、「使い続ける理由」を明確に提示できなければ、真の伴走者にはなれないという現実に直面したのです。

ユーザーの「不信」を「納得」に変え、利用率を2倍に改善

直面した高い壁に対し、私たちが出した答えは「機能を足す」ことではなく、「ユーザーの心理的・物理的ハードルを徹底的に削ぎ落とす」という、引き算のアプローチでした。

① 「まずは試せる」体験で、心理的障壁を突破する

最初に着手したのは、ユーザーの「抵抗感」を「安心」に変える設計です。「個人情報を渡すことへの不安」を解消するため、ダウンロード後、会員登録を一切行わずに毛髪・頭皮チェックが受けられるように開放しました。

本来、ECやアプリビジネスにおいて会員登録はデータ取得の肝ですが、コンプレックス商材においては「このサービスは信頼できるのか」を証明することが先決です。アプリ起動から毛髪・頭皮チェック開始までのステップを最小化し、ユーザーが価値(自分の状態を知ること)を体験するまでの時間を極限まで短縮しました。

さらに、物理的なハードルも取り除きました。頭頂部の自撮りは意外と難しいものです。当初の「横向き撮影」から、片手で自然に、かつ正確に撮れる「縦向きUI」へと刷新。一見小さな変更ですが、こうした「撮りづらさ」というストレスを一つひとつ解消した結果、撮影完了率は初期の30%台から70%台へと、2倍以上の劇的な向上を見せました。

アプリDL後、アカウント登録なしでも毛髪・頭皮チェックをご利用いただけます。

② 「単発」を「習慣」に変える、フィードバックの仕組み

診断という入り口を広げた次に注力したのは、一過性の利用を「継続的な伴走」へと変えること。ユーザーが「自分の主観的な感覚」だけで継続を判断しなくて済む仕組み作りです。

その核となったのが、「比較機能(ビフォー・アフター)」の実装です。AGA治療の停滞期において、自分の感覚(主観)だけで「維持できている」と確信するのは困難です。そこで、過去と現在の頭皮画像をミリ単位で並べて比較できる機能を充実させました。客観的なデータとして「変わっていない(=悪化を食い止めている)」あるいは「改善している」という事実が突きつけられる。この「事実による安心」こそが、再利用率を飛躍的に高める鍵となりました。

また、離脱が最も多い初期フェーズを支える機能「14日間プログラム」では、治療初期の不安を先回りして解消するコンテンツをプッシュ配信しました。「今はこういう時期ですよ」「次はここを意識しましょう」とアプリが伴走することで、ユーザーは「自分の判断」という迷いから解放されます。結果として、アプリ継続率(リテンション)は大幅に改善され、LTVの土台が完成しました。

こうした地道な改善を積み重ねた結果、『HIX』の累計ユーザー数は40万人[3]を突破しました。特筆すべきは、アプリを利用しているユーザーの約7割が「薬単体での使用や鏡での確認より、効果を実感しやすくなった」と回答[4]している点です。

「モノ」を売るだけでは届かなかった、あるいは「鏡」を見るだけでは得られなかった「納得感」。それこそが、テクノロジーとUXデザインによって私たちが生み出した、新しい市場価値だと確信しています。

デジタルとリアルを繋ぎ、誰もが「正しい選択」を継続できるインフラをつくる

40万人というユーザーの皆様と向き合ってきた今、私たちが目指しているのは「アプリの中」だけで完結する体験ではありません。私たちが解決したい「個人治療の限界」を本当の意味で突破するためには、デジタルの外側にある「リアルな接点」との融合が不可欠だと考えています。

その一つとして、私たちは信頼できる実店舗とのパートナーシップを開始しています。例えば、愛知県内を中心に展開するドラッグストア・amano(アマノ)様の店頭に『HIX』のプロダクトを導入いただいたことも、大きな一歩です。ユーザーが日々の生活の中で、アプリで知った「正しい解決策」を、信頼できる馴染みの店舗で実際に手に取ることができる。こうした物理的な接点との連携を広げていくことで、オンラインの利便性とオフラインの安心感が補完し合う、よりシームレスなセルフケア体験を目指しています。

また、今後はターゲットを共にする事業者様との共創も加速させていきます。パートナー企業のサービス内で『HIX』の診断をフックに「自身の兆候」に気づく機会を作る一方で、私たちのプラットフォーム側でも、蓄積された「悩みや行動のデータ」をパートナー企業様の知見と掛け合わせ、より深い顧客理解に基づいた提案を模索していく。こうした双方向の連携を通じて、ユーザーが社会のいたるところで「正しいケアへの導線」に触れられる環境を作っていきたいと考えています。

日本人の5人に1人が悩むこの領域において、かつての私のように「将来への不安」を抱えながら立ち止まっている人はまだ大勢います。しかし、正しい知識へのアクセスを整え、主観に頼らない客観的なフィードバックの仕組みを社会全体で創り上げることができれば、AGA治療は「孤独で不透明な戦い」から、「後悔のないポジティブな体験」へと変えられるはずです。

私たちはこれからも、テクノロジーによってセルフケア体験をより良いものへと進化させ、ユーザーの人生に寄り添うプロダクトのあり方を追求し続けていきます。

【HIX詳細】
公式サイト:https://www.hix-selfcheck.com/

【会社概要】
会社名:株式会社エムボックス
代表者:代表取締役CEO 金澤大介
所在地:〒104-0032 東京都中央区八丁堀2-3-9 H¹O 八丁堀302
設立:2018年11月1日
事業内容:医薬・ヘルスケア業界へのITソリューション提供及びWebサービスの運営
コーポレートサイト:https://mbox-inc.jp/

[1] 日本醫事新報
[2] 14日を超えた継続が重要であって、14日で効果が生じるものではありません。
[3] 2025年12月時点
[4] 2025年12月実施。『HIX』アプリユーザーアンケートより

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