
2025年通期の国内EC流通総額は6兆3,452億円、前年比+3.9%となりました。2023年比では+1,400億円、2年前比+2.3%と成長は維持しているものの、10兆円目標の達成時期は依然として示されていません。
こうした状況下で発表された2026年上期戦略は、単なる施策追加ではなく構造転換を示唆する内容でした。本記事では、その戦略の全体像と店舗運営への実務インパクトを整理します。
この記事の目次
楽天市場の現状と10兆円目標の現在地

2025年通期決算から見る流通総額の推移
2026年2月12日に発表された通期決算において、2025年の国内EC流通総額は6兆3,452億円、前年比+3.9%となりました。前期である2024年が前年比マイナス成長であったことを踏まえると、単年では回復に転じた形です。
一方で、2023年と比較すると増加額は+1,400億円、2年前比では+2.3%にとどまります。2023年に国内EC流通総額が6兆円を突破した当時の勢いと比較すると、足元の成長は緩やかです。規模としては拡大を維持しているものの、高成長局面にあるとは言い切れない状況です。

10兆円目標の扱いから読み取れる戦略の変化
2023年には、2030年までに年間流通総額10兆円を目指す方針が示されました。しかし翌年には「2030年」という期限が撤回され、達成時期を明示しない形で10兆円を目標とする表現へ変更されています。
目標自体は維持されているものの、時間軸を明示しなくなった点は重要です。成長のスピードよりも、持続的に流通を積み上げる戦略へと重心が移っている可能性が読み取れます。

今回の2026年上期戦略は、こうした前提の上で発表されています。流通総額の絶対値を追う段階から、どの領域で、どの顧客層の購買を伸ばすのかという具体策の設計に軸足が移っていると整理できます。
2026年上期戦略の柱となるロイヤルユーザー拡大施策
楽天市場・楽天カード・楽天モバイルの連携強化

上期戦略の最初に示されたのが、マーケティング改革とロイヤルユーザーの拡大です。その中心にあるのは、楽天経済圏の活用強化です。

従来は「楽天市場×楽天カード」の連携が主軸でしたが、今後は「楽天市場×楽天カード×楽天モバイル」へと軸足を広げる方針が改めて示されました。モバイル事業は単体収益だけでなく、グループ全体での相乗効果を狙った戦略的投資であることが再確認された形です。

楽天市場の流通に占めるモバイルユーザー比率は22.1%まで拡大しています。楽天モバイルは10〜30代が多く、主力層である40〜50代女性とは異なる年齢層の獲得が進んでいると説明されました。
これは単なる利用増ではなく、顧客構成の再設計です。若年層を取り込むことで、中長期のロイヤルユーザー基盤を強化する狙いが示されています。
顧客育成ドライバーの強化方針

流通最大化に向けては、4つの方針が提示されました。
- 大型イベントの更なる強化
- シーズナル/ジャンルイベントの強化
- 外部メディアとの連携
- オンラインリーチの拡大
大型イベントの強化

大型セールイベントの流通額は、5年平均成長率で+9.3%と説明されました。また、会員ランクの中でもライトユーザーの活性化が進んでいる点も強調されています。

具体施策としては、お買い物マラソンのTVCM開始や、マラソン期間中のジャンルSALE実施が挙げられました。これまでTVCMは主にスーパーセールで実施されてきましたが、マラソンにも拡張された点は象徴的です。イベント自体の位置付けを引き上げ、流通創出の機会を増やす狙いが見えます。
シーズナル/ジャンルイベントの強化

母の日・父の日・お中元・お歳暮などのシーズナルイベントに加え、ジャンル別の取り組み強化も示されました。フードジャンルでは冷凍グルメ特集、コスメジャンルでは楽天負担クーポンが付与される施策などが開始されています。
イベントページ上では、楽天負担のクーポンやポイントが付与される形で購買促進が図られており、ジャンル単位で流通を押し上げる設計が強まっています。
外部メディアとの連携

戦略共有会当初は詳細非公開でしたが、その後のプレスリリースにより、Google社との提携を通じてYouTube動画から楽天市場の商品をシームレスに購入できる仕組みが開始されたことが発表されました。
動画視聴中に商品を表示し、そのまま商品ページへ遷移できる導線が整備されます。これにより、動画コンテンツを起点とした購買体験が強化されます。出店店舗にとっては、YouTubeクリエイターによる訴求を通じた認知拡大や新規顧客獲得の機会が広がる設計です。

加えて、アフィリエイトの料率がカテゴリ単位から製品単位へ変更可能になる予定も示されました。個別商品の戦略的な訴求が可能になり、外部流入の最適化が進むと整理できます。
オンラインリーチの拡大

楽天のSNSアフィリエイトサービスであるROOMについても、強化方針が示されました。ROOMコラボによる売上拡大や、動画投稿機能のリリースにより、商品理解を深める仕組みを拡充していくと説明されています。

さらに、「●●といえば楽天市場」という第一想起を高めるジャンル特化型TVCMも、対象カテゴリを拡大して継続強化していく方針です。
これらの施策は個別に見ると分散しているように見えますが、共通しているのはロイヤルユーザーの育成と接点拡張です。流通総額を押し上げるための短期施策ではなく、ユーザー基盤の厚みを増すための設計が、上期戦略の中心に置かれています。
売り場機能の刷新と広告・AI活用の拡大

定期購入リニューアルの成果と課題

2025年の売り場改革の中心は定期購入のリニューアルでした。通常購入とのUI統合、固定費廃止、5%以上の値引き設計が導入されています。
その結果、流通額は従来比2.7倍、新規申込者数は6.4倍に拡大しました。定期購入は継続的な流通を生む仕組みであり、イベント依存からの脱却につながるかが今後の焦点です。
ソーシャルギフト機能の導入

今年の主要改革の一つがギフト領域の強化です。新たに導入されるソーシャルギフト機能により、住所を知らない相手にも商品を送れる仕組みが整います。
LINEギフトは累計3,500万人、年間約2,000万人が利用する規模に成長しており、楽天市場としても基盤整備に着手した形です。ギフトはシーズナル需要との親和性が高く、継続利用を設計できるかが鍵になります。
パーソナライズとAIコンシェルジュの実装

売り場改革では、AIによるパーソナライズ強化も進められています。縦長動画コンテンツの拡充や、アプリ上での「Rakuten AI」コンシェルジュ機能が実装されました。
検索主導とは異なる提案型導線が整備されつつあり、データ蓄積による精度向上が見込まれます。店舗には、AIが理解しやすい商品情報やレビュー整備が求められ、「推薦されるかどうか」が露出を左右する構造に近づいています。
広告機能の高度化と自動化

RPP広告では、AIによるキーワード運用の自動化を2026年第3四半期を目途に実装開始予定とされています。従来は店舗側で設定していなかったキーワードにも拡張される可能性があり、運用負荷と成果構造の変化が想定されます。
TDA広告では、配信ターゲットの選定、入札単価、クリエイティブ制作をAIが担う機能が2026年Q2を目途にリリース予定です。さらに、検索結果最上部に動画を含めたフォーマットの拡充も予定されています。検索面の視認性が高まる設計です。

TDA-EXPについても、従来のMeta配信に加えてCriteo経由での配信が追加される予定と説明されました。外部メディアへの露出経路が拡大する形です。
これらの動きは、広告運用の一部をアルゴリズムに委ねる方向性を示しています。店舗に求められる役割は、細かな手動設定よりも、商品力やクリエイティブの質を高めることへと移りつつあります。
最強翌日配送を軸とした物流施策の強化

最強翌日配送の実績と位置づけ
物流領域では「最強翌日配送」の促進が継続されています。2024年7月1日に開始された本施策は、テレビCMも展開される重点プロジェクトです。
12月において、最強翌日配送ラベル付き商品は非対応商品と比べ売上が15.1ポイント高いと説明されました。配送は受注後の業務ではなく、購買前の意思決定に影響する要素として位置づけられています。
検索評価との関係
楽天の検索評価軸の一つに「カスタム指標」があり、迅速な配送が可能な商品が優遇表示されるケースが示されています。最強翌日配送が明示的に検索優遇と結び付けられているわけではありませんが、配送対応力が露出機会に影響する可能性は読み取れます。
物流は単なるコストではなく、集客要素の一部です。最強翌日配送への対応可否は売上構造に直結し、物流戦略は販促戦略と切り離せない段階にあります。
店舗運営支援機能の拡充と収支可視化の取り組み

BillPayにおける収支把握機能の開始
店舗コミュニケーション強化の一環として、BillPayに収支把握機能が追加されます。売上(受注日ベース)と費用(発生日ベース)を同月内で可視化できる仕組みです。
広告費などが先行しやすいEC運営において、月次損益を一画面で把握できる点は実務上の利便性向上につながります。
可視化と経営判断は別問題
ただし、EC事業で重要なのは売上ではなく、粗利から変動費を差し引いた限界利益とキャッシュフローです。月次収支が可視化されても、入金と支払いのタイミング差により資金繰りは変動します。特に広告投資を強める局面ではキャッシュアウトが先行しやすく、資金管理が不可欠です。
BillPayの集計機能は有効な補助ツールですが、各店舗でキャッシュフロー計算書や資金繰り表を管理する前提は変わりません。数字が見やすくなることと、利益が最大化されることは別問題です。
まとめ|売り場・広告・物流を横断した成長戦略
2026年上期戦略の本質は、施策の追加ではなく流通拡大の前提を組み替える点にあります。経済圏連携、定期・ギフト、AIと広告自動化、最強翌日配送は個別施策ではなく、接点から購買・配送までを再設計する動きです。
店舗は、楽天が強化する領域と自社戦略を接続する必要があります。定期・ギフト対応や配送体制、AI前提のページ設計をどう位置付けるか。流通額ではなく、自社の利益構造を軸に中期判断を行うことが求められます。
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