
配送コストの値上げと、高騰し続ける人件費。2026年、ECの現場は「売れば売るほど忙しいのに、手元に利益が残らない」というジレンマに陥っています。
本コラムでは、元凶であるバックヤードのアナログ業務(住所確認や返品処理)にメスを入れ、購入後体験を「コストの掃き溜め」から「利益の源泉」へと転換する、具体的な運用戦略を解説します。
亀井 智英
株式会社ネクストラボ
代表取締役
電通、Digital Garageなどを経て、Tokyo Otaku Modeを共同創業。EC運営の際に感じた現場の課題を解決すべく、2021年に株式会社ネクストラボを設立。CS・配送自動化プラットフォーム「バクアゲ」を通じ、返品・送金・住所不備の完全自動化を提唱しています。独自のAI技術を運用設計に落とし込み、1万社を超える導入実績を通じて、多くのEC現場が本来のクリエイティブな仕事に集中できる環境づくりを後押ししている。
バクアゲ:https://bakuage.co/
自社メディア(ECナビ):https://ecnavi.henpin.co/
HP:https://nextlabs.jp/
X:https://x.com/henpinkun
この記事の目次
2026年、ECの成長を止める「見えないバケツの穴」

CPM(広告表示単価)の高騰は天井知らずで、もはや新規獲得だけで利益を出すのは至難の業です。そこに追い打ちをかけるのが、物流コストの上昇と、2026年4月に施行された「改正物流総合効率化法」です。
かつては「現場のミス」で済まされていた住所不備や再配達は、いまや企業の社会的信用を傷つける「経営リスク」へと変わりました。穴の空いたバケツに、高額な広告費という水を注ぎ続けるのは、あまりに非合理的です。
今、私たちが目を向けるべきは、華やかな集客施策ではありません。これまで「コストセンター」として蓋をしてきたバックヤード。つまり「購入後の体験(ポストパーチェス)」の改革です。
「売って終わり」がLTVを殺す

多くの企業でLTV(顧客生涯価値)が伸び悩む主な原因は、マーケティング部門とオペレーション部門の連携不足にあります。
マーケティング部門は、広告やブランディングで顧客の「期待値」を高めます。一方でバックヤードを担うオペレーション部門は、コスト削減や効率的な「処理」を優先しがちです。
その結果、顧客が抱いた期待と、実際に届いた商品や対応(体験)との間にギャップが生まれます。このギャップこそが顧客満足度を下げ、リピート購入を妨げる大きな要因となっています。
「直線型」から「循環型」へプロセスを再設計する
この課題を解決するためには、ECのプロセスを「売って終わりの直線」ではなく、次のような「循環(ループ)」として再設計する必要があります。
【利益とLTVを高めるループ構造】
Step 1:不安の払拭
配送通知や丁寧なCS対応により、購入直後の「本当に届くか」「似合うか」といった不安を先回りして払拭する。
Step 2:信頼の獲得
商品が合わなかった場合でも、返品・交換を「面倒な作業」ではなく「安心できる保証」として提供する。
Step 3:再購入の促進
「トラブルがあっても安心できる」という信頼感を醸成し、次の購入ハードルを下げてリピート率を向上させる。
Step 4:データの資産化
返品理由をデータとして蓄積し、商品開発へフィードバックすることで、より精度の高い商品作りにつなげる。
返品データを「R&D(研究開発)」に活用する
このループにおいて、経営者が特に重視すべきなのがStep 4(データの資産化)です。
「サイズが合わなかった」という返品理由は、単なる顧客都合ではなく、「その商品のサイズ感が特定の層に合っていない」という重要な改善データです。多くの現場では、こうした情報を返金処理だけで終わらせてしまいます。
しかし、返品データを商品開発の改善点として活用(採掘)できれば、不良在庫の削減やプロパー消化率の向上につながり、結果として利益体質な組織を作ることができます。
利益を垂れ流す「3つのボトルネック」

具体的に「バケツの穴」はどこに空いているのか。現場レベルまで解像度を上げると、利益を垂れ流している箇所は以下の3点に集約されます。
これらは現場の精神論や根性論でカバーするものではなく、システムという「仕組み」で確実に塞ぐべき穴です。
① 住所不備:その「0.1秒」が物流を救う
番地抜け・郵便番号の不一致などを目視でチェックし、電話確認を行う作業では、1件あたり15分程度の工数がかかってしまいます。
さらに恐ろしいのは、見落としによる「持ち戻り」です。往復送料や再配達コストがかかるだけでなく、再配達を待つ顧客を失望させてしまいます。これらを防ぐには、カートシステム側で「0.1秒の自動チェック」を導入するほかありません。ここへの投資を惜しむことは、2026年の経営判断として非常にリスクが高いと言えます。
② 返金処理:銀行振込という「負の遺産」
スタッフがネットバンキングで手動振込を行っている体制は、直ちに見直すべきです。
手動対応には、振込手数料や二重チェックの人件費がかかるうえ、「返金まで2週間」といった待ち時間が顧客のストレスになります。セブン・ペイメントやAmazonギフトカードなどのデジタル送金へ移行することは、経理DXにおける基本と言えます。
③ 返品の入口:キャッシュアウトを止める
「とりあえず送り返して返金」という流れを許容していませんか?ここで重要なのが「入口統制」です。
返品ポータル上で、返金ではなく「サイズ交換」や「別カラーへの交換」を優先的に提案しましょう。「交換なら送料無料」といったメリットを提示することで、多くの顧客は交換を選びやすくなります。これにより、返金によるキャッシュアウトを防ぎつつ、在庫の回転率を高めることが可能です。
【自己診断】「利益を生むバックヤード」つの絶対条件
☑ 住所不備:目視ゼロで、システムが自動検知・補正している
☑ 返品受付:電話・メールを使わず、Web完結している
☑ 交換誘導:返金より「交換」を選ばせる動線がある
☑ スピード:商品到着から24時間以内に返金・交換発送している
☑ データ化:返品理由を商品開発フィードバックに使っている
「例外処理」をゼロにする鉄則

現場が疲弊してしまう最大の原因は、「今回だけは特別に」といった例外処理(エクセプション)の多さにあります。これをなくさない限り、バックヤード業務はコストセンターのままです。以下の2つの鉄則を取り入れましょう。
鉄則1:事前承認をシステム化しましょう
返品は「顧客が自由に送るもの」ではなく、「システム上で申請し、承認されたものだけを受け入れる」というフローに変更します。
「購入から何日以内か」「セール品ではないか」といった条件をシステムにあらかじめ設定しておきましょう。そうすれば、CSスタッフが判断に迷う時間をゼロにすることができます。
鉄則2:検品基準(グレーディング)を標準化しましょう
戻ってきた商品を見て「良品にするか、B品にするか」と悩む時間も大きなロスです。以下のように基準を明確化しましょう。
- Grade A(良品):即座に在庫に戻し、再販を開始します。
- Grade B(微細な傷):自動的にアウトレット在庫へ移動させます。
- Grade C(廃棄):廃棄フローへ回します。
この判定を標準化し、システムに入力した瞬間に次のアクション(再販・返金など)が決まる仕組みを作ることが重要です。
私たちネクストラボ(バクアゲ)では、これを「返品物流の高速回転」と呼んでいます。商品を倉庫で眠らせず、一瞬で「資産」として蘇らせるスピードこそが、利益を生み出す鍵となるのです。
バックヤードDXは「攻め」の投資である

もはや「良いモノを作れば売れる」という時代は終わりを告げました。2026年という厳しい市場環境を勝ち抜くことができるのは、「配送箱を閉じた後の体験」までを緻密に設計できたブランドだけです。
返品、返金、住所確認といった業務を、単なる「面倒な裏方仕事」と捉えるか、それともLTV(顧客生涯価値)を高めるための「攻めの投資領域」と捉えるか。経営者としてのその意思決定が、数年後の利益率を大きく決定づけることになるでしょう。
今こそ「穴の空いたバケツ」を塞ぎ、顧客との信頼のループを回し始めましょう。そのための解決策(ツール)は、すでに手の届く場所に用意されています。
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