
2025年夏、楽天市場に関わる店舗運営者や関係者向けに開催された「下期戦略共有会」。本共有会では、楽天グループが掲げる中長期ビジョン「流通総額10兆円」構想の進捗や、モバイル戦略・大型イベント施策・定期購入の強化方針などが共有されました。
本コラムでは、それらの内容をもとに、今後の楽天市場の成長ドライバーと店舗側に求められる視点を専門的に解説します。
この記事の目次
中長期目標としての「10兆円」構想とその現実性
楽天グループが掲げる流通総額10兆円のビジョン

楽天市場はこれまでも繰り返し、中長期的な目標として「国内EC流通総額10兆円」の達成を掲げてきました。かつては2030年を達成目標としていましたが、近年は表現を「中長期での達成」とやや柔らかく修正しており、慎重姿勢も見え隠れします。
2023年時点の国内EC流通総額は5.95兆円。2024年は前年比マイナスとなったため、10兆円という目標達成には一層の戦略的取り組みが求められます。
2036年達成の可能性と成長率シミュレーション

仮に毎年105%(前年比+5%)の成長率を維持した場合、10兆円に到達するのは2036年という試算になります。年間成長率5%は決して容易ではなく、特に市場が飽和傾向にある中での実現には、新たなユーザー層の取り込みや、グループ全体での購買体験向上が不可欠です。
グループサービス連携とモバイル会員戦略の深化
楽天カード依存からの脱却とモバイル施策の強化

これまで楽天市場の成長を支えてきたのは、楽天カードとの連携による購買促進でした。しかし近年は、楽天モバイルユーザーとの連携強化に注力しはじめています。楽天市場の購入者のうち約7割が楽天カードを利用している一方、モバイル経由の流通総額も着実に拡大しており、新たな顧客育成の柱と位置づけられています。
モバイルユーザーの構成比と成長率の現状

楽天モバイルユーザーによる流通総額は全体の21.5%を占めており、前年比で+1.7ptの増加を記録しています。これは通信×ECのシナジーを活かした楽天らしい成長モデルの一環であり、今後のさらなる拡大が期待されています。
Rakuten Link広告と販促チャネルとしての可能性

Rakuten Linkを通じた広告配信や、楽天市場出店者による販促チャネルとしての活用も進められています。まだ実績面では限定的ではあるものの、今後の機能拡張次第では有望なリテンション施策となる可能性があります。
イベントでの流通拡大と育成ドライバーの役割
大型セールにおける流通増加の構図

2025年上期における大型イベント時の流通総額は、前年同期比+6.3%と好調な伸びを示しました。一方で、通常期間の流通成長は+4.7%にとどまっており、イベント時に売上が集中する傾向が強まっています。今後も楽天経済圏における「買い回り促進」施策は重要なドライバーとして機能し続けるでしょう。
母の日・父の日などシーズナルイベントの伸長

シーズナルイベントでの成果も顕著です。2025年上期の母の日特集は+16.5%、父の日特集も+7.6%の伸びを記録し、通常期を大きく上回る成果となりました。こうした特集ページや販促連携を通じた施策が、年間を通じた売上安定化に寄与しています。
今後も高まる大型セールイベント販売の重要性
楽天市場におけるスーパーSALEやお買い物マラソンといった大型イベントは、引き続き流通拡大の最重要ドライバーとして位置づけられています。特にモバイルユーザーの参加率や新規顧客の流入増加が顕著で、イベント施策の最適化が売上成長に直結します。
こうした流通最大化の取り組みに加え、顧客との長期的な接点形成も重要なテーマとなりつつあります。
顧客育成としてのインフルエンサー活用事例

楽天ROOMでは、モニター広告よりも取材広告のほうが平均購入率が6.2pt高いという発表がありました。ただし、費用が約2倍になる傾向もあり、費用対効果の見極めが重要です。弊社でも9月のスーパーセールで取材広告を実施予定で、従来施策との比較を行う予定です。
売り場改革:定期購入・ギフト・RPP広告の最新動向
定期購入機能のリニューアルと成果

2025年3月末に定期購入機能が刷新され、流通総額はリニューアル前の1.5倍に増加。新規申込者数は5.2倍にまで伸長しました。SPU対象外であったキャンペーンを適用可能にするなど、利便性向上の工夫が成果に直結した形です。
RPP広告の自動最適化と自動移行による影響

RPP広告では、2025年7月より自動最適化機能の導入が始まりました。導入店舗数は約7,500店。11月には自動移行も予定されており、これによる広告配信ボリュームの増減が発生する可能性があるため、事前に運用状況の精査が必要です。
ソーシャルギフトの開始と店舗側の備え

贈り先の住所を知らなくてもギフトを贈れる「ソーシャルギフト」機能は、2026年上期に本格導入予定。機能としては先行他社に追随する形ですが、ユーザー認知度の向上には時間がかかるため、商品ページでの解説や訴求が重要となるでしょう。
AI・フィード・動画によるユーザー体験の進化
パーソナライズド検索の初期成果と今後の課題

2025年上期に導入されたパーソナライズド検索では、検索経由の流通総額が+0.92%の改善を記録。数字としては控えめな印象ですが、今後の進化によって更なる成果が期待されます。
チャット型商品探索とAmazonとの比較

下期以降は、会話型UIによる商品探索も本格化します。Amazonでも導入されているチャット型の検索体験を楽天でも強化していく方針で、ユーザーの目的に応じた商品提案の精度向上が課題です。
フィード型UIとショート動画活用の新戦略

楽天市場アプリ内におけるフィード表示の強化に伴い、動画コンテンツの重要性がさらに増しています。TikTokやInstagramとの連携を想定したショート動画の制作・活用が求められます。
購入体験向上のための商品ページの進化

UI面でも進化が続いています。SKU選択部分への画像挿入、ページ冒頭への動画掲載、商品説明をタブで表示する仕様など、他モールを参考にした改善が進行中。購買導線の短縮とCVR向上に寄与するアップデートです。
物流戦略の要「最強翌日配送」の成長と今後の改善
ラベル取得による成長率の差と導入効果

「最強翌日配送」ラベルを取得している商品群は、非対応商品と比べて+20.1ptの成長差を記録。検索結果上でも優遇されるようになっており、今後さらに導入が進む見込みです。
締め切り時間の延長と配送リードタイムの短縮

2026年上期には、当日15時締切だった出荷基準が24時までに延長予定。Amazonの配送水準に一歩近づく形となり、ユーザーの“翌日届く”期待値に応える取り組みが本格化します。
まとめ|店舗様が取るべき次の一手
楽天市場は「10兆円」という中長期ビジョンの実現に向け、モバイル会員拡大、売り場改革、AI活用、物流進化といった多面的な戦略を展開しています。特に、モバイル戦略やイベント販促、ショート動画などの新潮流は、今後の成果を左右する重要な鍵です。
各店舗としては、こうした戦略の方向性を的確に捉え、施策導入のタイミングを見極めながら、柔軟かつ戦略的に対応することが求められます。
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