
2025年の楽天市場は、国内EC流通総額が前年を上回り、数字上は回復基調に見える一年となりました。一方で、その成長の内訳を丁寧に読み解くと、ふるさと納税の特需や店舗数減少、ユーザー動向の変化など、見過ごせない構造的課題も浮かび上がります。
本記事では、2025年の楽天市場を業績・機能アップデートの両面から総括するとともに、2026年の流通予測や成長戦略、店舗運営者が今から備えるべき重要ポイントについて専門的な視点で解説します。
この記事の目次
楽天市場の2025年総括ー回復の裏にある構造変化
流通総額は回復基調、しかし手放しでは喜べない
2025年の楽天市場は、数字だけを見れば回復基調にあります。国内EC流通総額はQ1からQ3まで全て前年比プラスで推移し、特にQ3は二桁成長を記録しました。一見すると「完全復活」とも取れますが、成長の一部は、ふるさと納税の駆け込み需要が例年より早く発生したことによる前倒し効果が含まれていることを、理解しておく必要があります。
2024年の反動という前提を忘れてはいけない
2024年は、SPU上限改定や前年度特需の反動もあり、楽天創業以来初めて通期で前年比マイナスとなりました。2025年のプラス成長は、その反動からの回復という側面が強く、「構造的な成長軌道に戻った」と判断するには慎重さが求められます。
店舗数減少が示す中期的リスク

もう一つ注視すべき点が、出店店舗数の純減です。直近1年間で459店舗が減少しており、短期的な流通額への影響は限定的と考えられるものの、中期的には品ぞろえの魅力低下につながる可能性があります。特に、差別化された商品やブランドが減少した場合、ユーザーの回遊性や購買意欲の低下を招きかねません。

加えて、楽天エコシステム全体の月間アクティブユーザー数(MAU)の伸びが緩やかになってきている点も見逃せません。2025年Q3時点のMAUは4,450万人と前年同期比ではプラスを維持しているものの、その伸び率は以前と比べると鈍化傾向にあります。
2025年実装の主要アップデートと店舗実務へのインパクト
パーソナライズド検索が変える「検索順位」の考え方

2025年7月に開始されたパーソナライズド検索により、楽天市場の検索結果はユーザーごとに最適化されるようになりました。これまでのように「全員に同じ順位」を前提とした検索対策ではなく、商品そのものの価値を高める施策が不可欠になっています。
RPP広告の自動最適化配信開始と運用スタンスの変化

RPP広告は2025年11月から全店舗必須で自動最適化へ移行しました。入札単価や予算を人が細かく調整する時代から、AIに配信設計を委ねる運用へと変化しています。無駄な露出が減る一方で、意図しない外部配信が発生するケースもあり、完全放置ではなく、定期的な数値確認と設計見直しが重要になります。
RPP-EXPのサービス開始で広がる楽天市場外集客

RPP-EXPは、楽天市場内の商品をGoogle検索やショッピングタブ、画像検索などの外部媒体に配信できる広告サービスです。楽天市場内の検索や回遊だけでは届かなかった潜在層にアプローチできる点が特徴ですが、商品選定や費用対効果の見極めが欠かせません。店舗にとっては、外部集客を本格的に検討するための選択肢が一つ増えた形になります。
定期購入リニューアルがもたらす継続購買の可能性
2025年に実装された定期購入のリニューアルは、楽天市場における大きな転換点です。通常販売と同じ商品ページ内で定期購入を選択できるようになり、買いにくさやお得感のなさといった課題が改善されました。これにより、単発購入中心だった商品でも、継続購入への導線設計が現実的になっています。
レビューAIサマリが与える購買判断への影響
レビューAIサマリは、複数のレビュー内容をAIが要約し、良い点・悪い点をわかりやすく整理する機能です。大きな仕様変更ではありませんが、購入前の判断スピードを高める効果が期待されます。店舗側としては、レビュー件数の確保だけでなく、内容の質がより重要になり、日頃の顧客対応や商品改善が間接的に成果へ影響する仕組みと言えるでしょう。
楽天市場の2026年流通予測ー成長率5%時代をどう読むか
2026年、高成長の期待度は低め…?
2026年の流通総額は、前年比プラスではあるものの、成長率は5%前後が現実的と考えられます。過去にも特需の翌年は伸びが鈍化する傾向があり、2023年と同様の構図が想定されます。
新規ブランド流入が数字を押し上げる
近年増加している海外有名ブランドの新規出店は、全体の前年比成長を押し上げる要因です。ただし、これは「既存店舗の売上が同じだけ伸びる」ことを意味しません。既存店舗単体で見れば、成長率はさらに低く感じられる可能性があります。
既存店舗が取るべき現実的な視点
この環境下で重要なのは、市場全体の成長に期待しすぎないことです。店舗の成長は「自ら取りにいくもの」と捉え、イベントや施策を戦略的に活用する視点が欠かせません。

2025年7月30日に開催された楽天市場の下半期戦略共有会では、大型セールイベントの流通額が前年同期比で+6.3%と、堅調に伸びていることが示されました。加えて、母の日や父の日といったシーズナルイベントの流通額も、国内EC全体の成長率を上回る水準で推移しています。
これらのデータから、楽天市場ではスーパーSALEやお買い物マラソン、シーズナルイベントなどのイベント期間中に売上が集中しやすい構造が読み取れます。その一方で、イベントがない通常期間は前年比で伸び悩む可能性が高い点には注意が必要です。
楽天市場のイベントは多くが前年踏襲型で設計されるため、今のうちに2026年のイベントスケジュールを把握し、年間を通した販売計画を立てておくことが重要と言えるでしょう。
2026年に成果を分ける7つの重要テーマと店舗側の備え
インフルエンサー活用が「実験」から「戦略」に変わる

楽天市場では近年、ROOMを中心としたインフルエンサー活用が単発施策から中長期戦略へと移行しつつあります。取材型広告がモニター施策より高い購入率を示すなど、一定の成果も確認されています。一方で、費用感は高く、成果の振れ幅も大きいため「とりあえず試す」段階は終わりつつあります。2026年に向けては、商品特性やLTVを踏まえ、どのフェーズで・どの目的でインフルエンサーを使うのかを整理した上で、再現性のある運用設計が求められます。
AIによる購買体験の進化と「選ばれる商品」の条件

パーソナライズド検索に続き、楽天はAIによる商品提案の強化を明確に打ち出しています。今後は「ユーザーが探す」だけでなく、「AIが提案する」購買体験が拡張されていくでしょう。この環境下では、AIに選ばれる商品であるかどうかが重要になります。
サーチの進化とLLM活用がもたらす検索行動の変化

パーソナライズド検索の実装により、検索経由の流通額は一定の伸びを示しましたが、その影響はまだ限定的です。楽天は今後、LLM(大規模言語モデル)を活用した検索・提案の高度化を進めるとしています。これは、キーワード中心だった検索行動が、「目的や文脈」を含んだ形に変化することを意味します。
複数商品をまとめた定期購入が広げるLTV設計

2026年下期を目途に予定されている「複数商品まとめて定期購入」は、定期販売の設計を大きく変える可能性があります。これまで送料がネックとなり定期化しづらかった商品も、まとめ購入によって選択肢に入りやすくなります。これにより、単品LTVではなく「組み合わせLTV」を意識した商品設計が可能になります。定期購入は単なる割引施策ではなく、顧客との関係性を長期化させる戦略であることを改めて認識する必要があります。
ソーシャルギフト機能がシーズナル需要を再定義する

住所を知らなくてもギフトを贈れるソーシャルギフト機能は、母の日や父の日などのシーズナルイベントとの相性が非常に高い仕組みです。ただし、サービス開始直後はユーザー認知が進まず、自然流入だけで成果が出る可能性は高くありません。そのため、店舗側が商品ページや特集内で「ソーシャルギフトとは何か」「どう使うのか」を丁寧に説明することが重要になります。
動画プラットフォーム強化による商品理解とCVR向上

楽天市場でも、商品ページ上での動画活用が本格化しつつあります。動画付きの商品ページは、画像のみの場合と比べて転換率が高い傾向があり、商品の理解促進という点でも有効です。一方で、撮影や編集のハードルが高く、後回しにされがちな施策でもあります。近年は生成AIを活用することで、短時間・低コストで動画を作成することも可能になっています。完璧を求めず、まずは主力商品から着手する姿勢が重要です。
商品ページUI改修が店舗運営にもたらす影響と対応策

2026年上期以降、楽天市場では商品ページUIの複数の改修が予定されています。選択肢表示の視覚化、動画のファーストビュー配置、説明文のタブ化などは、ユーザー体験の向上につながる一方、従来のページ構成が通用しなくなる可能性もあります。店舗側は「どこに何を書けば伝わるか」を再設計する必要があります。UI変更は一時的な対応ではなく、継続的な改善を前提に捉えることが重要です。
まとめ|2026年を踏まえて「次の一手を」
2025年の楽天市場は回復基調に見える一方で、店舗数の減少やユーザー成長の鈍化など、構造的な変化も進んだ一年でした。
2026年に成果を伸ばすためには、市場全体の成長に期待するのではなく、自店舗の競争力を高める視点が欠かせません。パーソナライズド検索やAI活用を前提とした商品ページ改善、定期購入や動画といった施策に早期に取り組むことが、今後の成果を分ける重要なポイントとなるでしょう。
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