
TISインテックグループのTIS株式会社は、キャッシュレス決済の利用実態と利用意向についての大規模調査を実施しています。この調査は、キャッシュレス決済を利用したことのある全国15~69歳の男女600名を対象に行われ、日常生活や冠婚葬祭など全30の支払いシーンにおけるキャッシュレス決済と現金の利用状況について明らかにしています。
経済産業省によると、2024年の国内キャッシュレス決済比率は42.8%と初めて4割を超え、将来的には80%まで引き上げる目標が掲げられています。TIS株式会社では、注力すべき社会課題として「金融包摂」を掲げ、安全かつ円滑なキャッシュレス決済を実現するシステム開発に取り組んでいます。
今回の調査では、日常生活から冠婚葬祭までの多様な支払いシーンでの「キャッシュレス」と「現金」の利用実態・利用意向を分析し、現代日本のキャッシュレス決済の実情と、今後の「キャッシュレス社会」発展の兆しについて考察されています。
この記事の目次
調査概要
調査手法 :インターネット調査
調査期間 :2025年9月10日(水)~9月11日(木)
調査対象者:全国 15-69歳男女 計600名
調査結果トピックス
- 日常シーンの利用意向では「キャッシュレス派」が7割超!冠婚葬祭でも3割以上がキャッシュレス利用意向あり。
- <キャッシュレス>利用実態・利用意向ランキング!「どちらも使える場合の利用意向」1位と2位は「交通手段への支払い」
- <現金>利用実態・利用意向ランキング!「どちらも使える場合の利用意向」冠婚葬祭が上位を占め、「お金を贈るシーン」に現金需要あり。
- 冠婚葬祭シーンにおいて、「現金派」の理由は「伝統的な慣習」がトップ。「キャッシュレス派」の理由は「現金の用意が面倒だから」がトップに。
- 対友人・知人での金銭授受のシーンでは、「現金派」を選ぶ理由として「相手が使っていないことがあるから」と回答する層が多く、相手の環境が整えばキャッシュレスで支払いたい意向が伺えます。
日常シーンの利用意向では「キャッシュレス派」が7割超!冠婚葬祭でも3割以上が利用意向
現金・キャッシュレスどちらも使える場合の利用意向では、日常生活での支払いシーンにおいて、約7~8割が「キャッシュレス派」と回答しています。多くの支払いシーンで、キャッシュレス利用実態比率を、キャッシュレス利用意向比率が上回る結果となっています。
また、ご祝儀や香典、お年玉などの冠婚葬祭・儀礼的な支払いシーンでは、他のシーンと比べると割合は低いものの、3割以上が「キャッシュレス派」という結果が出ています。
特に「結婚式のご祝儀を渡すとき」において、どちらも使える場合の利用意向で「キャッシュレス派」は40代32.0%、50代34.0%、60代15.0%である一方、20代42.0%、30代43.0%と、若い世代で「キャッシュレス派」の比率が高くなっていることが判明しています。近年では事前振込型のご祝儀も登場しており、若い世代を中心に冠婚葬祭シーンでも「キャッシュレス派」が今後伸びていく可能性があるようです。

また、利用実態では「現金」が上回るエンタメシーンにおいても、どちらも使える場合の利用意向では「キャッシュレス派」が「ゲームセンターで料金を支払うとき」57.7%、「カプセルトイを購入するとき」55.0%と5割を超えています。現在は現金での支払いに限られるシーンでも、決済環境が整えばキャッシュレスを選ぶ方が多いことが示唆されています。
<キャッシュレス>利用実態・利用意向ランキング!「交通手段への支払い」がトップに
現金・キャッシュレスどちらも使える場合の利用意向では、「高速道路の通行料を支払うとき」83.5%、「電車やバスで乗車料を支払うとき」82.8%と「交通手段」へのキャッシュレス利用意向が上位にランクインしています。「スムーズな移動」に対するキャッシュレス需要の高さが伺えます。
また、「病院やクリニックで診察料を支払うとき」でもキャッシュレス利用意向が73.8%となるなど、実態として現金での支払いに限られることが多い場所でも、キャッシュレスが使える環境であれば利用したいという意向が全体的に見られています。

<現金>利用実態・利用意向ランキング!冠婚葬祭が上位、「お金を贈るシーン」に現金需要
冠婚葬祭シーンや、お小遣い・お年玉・募金・投げ銭などでは、どちらも使える場合「キャッシュレス派」よりも「現金派」が上回る結果となり、「お金を贈るシーン」では、現金の利用意向が高いことが明らかになっています。
特に「結婚式のご祝儀を渡すとき」において、世代別の現金利用意向では60代が最も高く85.0%となっています。一方、20代58.0%、30代57.0%と若い世代では現金利用意向が相対的に低く、世代間での意識の差が顕著に表れています。

冠婚葬祭シーンにおける「現金派」と「キャッシュレス派」の理由
現金・キャッシュレスどちらも使える場合に、冠婚葬祭シーンで「現金派」と回答した人の約半数が、その理由を「伝統的な慣習だから」と回答しています。
一方、「キャッシュレス派」と回答した人の半数以上が、「現金(新札)の用意が面倒だから」と回答しており、キャッシュレス決済による手間の軽減を望んでいることが分かります。
「お年玉をもらうときor渡すとき」では、「現金派」と回答した人の理由として「お金のことを考えることができる」「お金の使い方を学ぶ良い機会だから」などが挙げられ、「お年玉を現金でやりとりすること=お金の価値を考える機会」と捉えている人が一定数存在することが明らかになっています。

対友人・知人での金銭授受における「現金派」の理由
現金・キャッシュレスどちらも使える場合に、友人や知人など対人間での金銭授受のシーンにおいて「現金派」と回答した理由として、「現金の方が安心だから」がトップとなっています。
一方、年代別で見てみると、30-50代は「現金の方が安心だから」と「自分はキャッシュレスで良くても相手が使っていないことがあるから」という回答が同じく3~4割程度となり、相手の環境が整えばキャッシュレスを利用したいという潜在的な意向が見られます。

一方、どちらも使える場合の利用意向で「キャッシュレス派」と回答した理由では、約半数が「キャッシュレスの方がラク・スムーズだから」と回答しており、時短や利便性を重視する傾向が見られます。
20代では、現金・キャッシュレスどちらも使える場合に「キャッシュレス派」を選ぶ人の割合は、「飲み会の幹事に、会費を支払うとき」73.0%、「友人、知人とランチの割り勘をしてお金を精算するとき」72.0%、「友人が立て替えてくれていた旅行代金を支払うとき」69.0%と、他世代よりも友人や知人との金銭授受のシーンにおいてキャッシュレス利用を望む人が多いことが明らかになっています。

有識者によるコメント

東洋大学 経済学部 国際経済学科 教授
川野 祐司 氏
1976年大分県生まれ。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)、英国宝石学協会特別会員(FGA)。専門は国際金融論、ヨーロッパ経済論、金融政策、宝石学。主要著書は『これさえ読めばすべてわかる アセットマネジメントの教科書』『ヨーロッパ経済の基礎知識2022』(いずれも文眞堂)など。
今回の調査結果からわかるように、結婚式のような儀礼的なイベントで効率性よりも慣習を重視する人が多いのは、お金の受け渡しが単なる価値の移動ではないことを示しています。同時に、年代別の数字からは私たちの「慣習」が時とともに変化することも読み取れます。キャッシュレスは時間をかけて日常生活に浸透していくのでしょう。
2020年代に入って世界のキャッシュレスはさらに進んでいます。世界のほとんどの地域で50%に達しつつあり、日本を含む東アジアでは80%に近づいています。
また、世界のキャッシュレスの機能も進化しつつあります。中国のWeChatには「赤い封筒」という機能があり、お祝いやお年玉を送ることができます。お金だけでなく、音声の録音、選べるギフトを贈る機能があり、コミュニケーションにも役立っているのです。
EU(欧州連合)では、「デジタルユーロ」の取り組みが進んでいます。2029年に発行される予定となっており、ビジネスや生活が効率的になると予想されています。また、さまざまな事情を抱えた人にも使いやすく、教育しやすい設計を目指しています。特に、お金の使い過ぎや借金を抑える教育が欠かせません。この取り組みを金融包摂といいます。
一方で、現金が今後も長く残ると予想されています。現金は手元にあると安心感があったり、手渡しには気持ちを伝えやすいメリットがあります。私たちの生活は効率性だけでは測れません。今後も現金とキャッシュレスは互いに支え合いながら社会を支えていくでしょう。
TIS担当者によるコメント

TIS株式会社 デジタルイノベーション事業本部
ペイメントサービス事業部長
津守 諭
大学卒業後、TIS株式会社に入社。決済システムの開発からスタートし、経営企画部門では中期戦略やM&Aによるアライアンス推進に従事。現在はキャッシュレスサービスの責任者として、サービス開発と社会実装を横断的に推進。ビジネスとテクノロジー、企業と生活者の橋渡し役として、現場と未来をつなぐことを大切にしている。
日本のキャッシュレス決済比率は2024年に4割を超えました。今回の調査結果は、実生活での利用実態において、キャッシュレスが自然な選択肢になったことを示しています。さらに、現金しか使えないシーンにおいてもキャッシュレスの利用意向は5割近く、国が目指すキャッシュレス比率8割に向けて、実現可能性を期待できる結果となっています。
一方、全てがキャッシュレスになるのでなく、現金だからこその価値も確認することができました。冠婚葬祭では現金が多く利用されていますが、2割の方が「現金の方が気持ちが伝わる」と回答しています。現金は経済的な価値だけでなく、情緒的な価値を持っているといえそうです。年代によっても現金とキャッシュレスの感じ方は異なるので、選択肢を持てることがより重要になるとのことです。
消費性向に目を向けると、価値観が大きく変わりつつあります。大衆消費から瞬間的なパルス型消費が増加しており、この傾向は対話型AIによる購買で一層加速されるとされています。一方で商品ではなく価値観からはじまるブランドが好まれ、新消費を避ける感謝経済の萌芽も見られるとのことです。
今回の調査結果からは、キャッシュレスが利便性の選択肢から、価値観や感情を媒介する社会インフラへと進化しつつあることが見えてきます。TISでは、キャッシュレスサービスによる利便性向上と、消費者の体験をより楽しく、社会とのつながりを感じられるものにする取り組みを、事業者の皆さまとの共創によって進めていくとしています。
TIS株式会社について
TISインテックグループのTISは、金融、産業、公共、流通サービス分野など多様な業種3,000社以上のビジネスパートナーとして、お客さまのあらゆる経営課題に向き合い、「成長戦略を支えるためのIT」を提供しています。50年以上にわたり培ってきた業界知識やIT構築力で、日本・ASEAN地域の社会・お客さまと共創するITサービスを提供し、豊かな社会の実現を目指しています。
出典元: TIS株式会社 プレスリリース












