
地方創生を実現するためにD2Cを上手く活用することが重要になっていきます。なぜ地方創生の鍵がD2Cなのか?また業界ならではの課題について、D2Cブランド専門のグロースハックを支援しているchipperのCOOである西田圭佑さんに話を伺いました。
D2Cが地方創生の鍵を握る理由
竹内(コマースピック): 西田さん、本日はよろしくお願いいたします。D2C(Direct to Consumer)は地方創生の鍵を握ると聞きますが、西田さんはどう思われますか?
西田さん(chipper):D2Cは地方と東京の垣根を越えて販売していくことができるため、地方創生を実現する手段として有効だと思っています。これまでは地方の企業はその土地で直販をするよりも全国に展開できるよう卸売りを行うところが多かったのではないでしょうか。
竹内:BtoCにおけるEC化率が増えてはいますが、90%以上は実店舗などのオフライン販売となっています。また、コロナ禍で都内から地方に移住する人は増えていますが、それでも東京の一極集中は大きく変わってはいないと思います。地方の企業にとって、地域の方に販売するよりも、全国展開できる卸売りに注力するのもわかります。
西田さん:はい、そうなんです。しかし、今は卸売りだけだと厳しい時代になってきました。卸売りは、いかに多くの商品を卸せるかが鍵になってくると思いますが、人口が減少している中、大量生産大量消費のビジネスモデルから変化が求められています。
そのため、プロダクトアウトから、世の中のニーズや顧客の声を重視して商品の企画や開発を行っていく、マーケットインの考え方が重要になってきたのです。直接、消費者に販売するビジネスモデルであるD2Cだからこそ、世の中のニーズや声を把握し、商品企画や開発がしやすいのではないでしょうか。
竹内:緊急事態宣言を受けて、外出を控えるよう求められたことで、普段は実店舗で買い物をする人が、ECで購入するようになったと聞きます。経済産業省の電子商取引に関する市場調査でも、EC化率は大きく伸びている(2019年6.76%→2020年8.08%)ことから、D2Cビジネスにとって追い風になると思います。
D2Cビジネスが失敗してしまう要因とは
西田さん:とはいえ、D2Cで成功している企業の多くが東京であり、地方の企業で成功しているところは少ないのが現状です。
竹内:それはなぜでしょうか?
西田さん:これには弊社が様々な事業者を支援させていただく中で発見した、明確な解答があります。まずは情報不足や人材不足、もっというと組織の構造や人材育成の問題などがあげられます。また卸売の考え方をそのまま持ち込んでD2Cを始めた場合に陥りがちな、マーケットインではなくプロダクトアウトの考え方でビジネスを進めてしまうことも大きな原因です。卸売りの場合は、いかに良い商品を安く卸せるかがポイントになってくるため、プロダクトアウトの考え方に近いものがあるからなのでしょう。
竹内:なるほど、わかりやすく説明いただき、ありがとうございます。マーケットインの視点で、D2Cビジネスを取り組むためには、どうすればいいのでしょうか?

西田さん:何よりも、まずは「この商品を通じて、世の中や消費者の生活をどう変えていきたいのか?」というプロダクトのミッション・ビジョンを固める必要があります。先ほどもお伝えした通り、D2Cビジネスはマーケットインの視点が重要になってきます。しかし、組織の文化や想いがないと、プロダクトアウトの考え方や、売上先行の目線になってしまいがちです。私たちが支援をしてきたケースを見ていても、それではD2Cビジネスはうまくいきません。
また、D2CビジネスはJカーブ型の成長戦略を描くことが多いので、うまくいくかわからない不安から、経営者には凄まじいプレッシャーがかかります。その不安やプレッシャーを押し返すためにも、「何がなんでもこのプロダクトを通じて、世の中の改善に貢献したい」という、強い想いやパッションは必要になってくるのです。
また、消費者も情報の取捨選択ができるようになり、消費選択が賢くなっているように感じます。商品や技術がコモディティ化し、独自商品の生産が難しい状況の中で、消費者は「情緒的価値」を重要視して購買活動を行う傾向となっています。ストーリーや想いへの共感・実現したい世界への共鳴から購入を行います。「ブランド」には様々な定義がありますが、私たちはその世界観が一貫していることを「ブランド」と定義しています。今後、更に消費者がこの「情緒的価値」を重要視する傾向は加速していくと予測しているため、クライアントさんからお問い合わせいただいた段階で、「ブランド」が固まっていない場合は固めるための研修を提案することもあります。
chipperがADKダイレクトと事業提携した理由
竹内:chipperはD2C支援事業を行っていますが、ADKダイレクトさんと事業提携して、新たに「D2C UP STAGE」というサービスを提供すると伺いました。
西田さん:「D2C UP STAGE」は、D2Cの立ち上げから販売・運用までをワンストップで支援させていただくサービスです。一言でいうと、D2Cの総合ディレクション伴走型サービスになります。外部からただ口を出すだけでなく、メンバーの一員になって事業を進めていくため、「外部事業部長派遣サービス」という言葉がイメージを想起しやすいと思います。

竹内:近年、D2C・EC支援事業者と広告代理店のグループ会社が業務提携したり、共同事業をしたりする動きが目立っているように思えます。他社のサービスとの違いについて教えていただけないでしょうか。
西田さん:他のサービスは、ある程度企業規模の大きいケースを中心に提供していますが、「D2C UP STAGE」は、中小規模の事業者さんも支援できるようなサービスになっています。
弊社は一社一社には手厚く支援を行っていますが、手厚いが故に支援できる企業の数が限られてしまっています。支援できる企業の数が少ないと、取れる実データも少なくなってしまうため、戦略や施策を立てるときに、数値データがマーケット調査の結果に依存してしまいます。支援できる企業の数が増えれば、それだけ多くの実データを得ることができるので、戦略や施策を立てる際の大きな参考になります。
一方、ADKダイレクトさんは、大手だけでなく中小規模の企業さんまで、毎年数万社とお取引をしています。他の広告代理店さんと比べて、クライアントさんの数が多いのが特徴です。そのため、多くの実データを持っています。また、全国の支社ネットワークを含めた体制があるため、成功事例を社内で共有することで、再現性が高い事業を展開できるのです。ただ、D2Cの事業戦略構築なども含めた支援はしているものの、上流から支援を行うことができるメンバーは多くないことが課題だと伺っています。
竹内:なるほど。業務提携をすることで、お互いの弱みを補完し、強みを伸ばしているのですね。
西田さん:ADKダイレクトさんとは、いくつかのプロジェクトで協業することがありました。先ほど、「D2C UP STAGE」はD2Cの総合ディレクション伴走型サービスと言いましたが、「支援」ではなく「伴走」であることがポイントです。弊社もADKダイレクトさんも、D2Cブランドの立ち上げから販売までを支援するのではなく、事業者さん、そしてパートナー企業さんと一緒になって事業を「共創」することをミッションとしています。同じ価値観、想いだからこそ、業務提携をするに至った点も大きいと思います。
竹内:そのような熱い想いを持っている両者だからこそ、必然と惹かれ合ったのですね。
今後、chipperとして取り組みたいこと
竹内:最後に、これからchipperとして、あるいは西田さん自身が実現したいことはありますか?

西田さん:これまでは事業者側の問題についてお話しさせていただきましたが、D2Cビジネスがうまくいかない原因は、支援事業者側にもあると私は思っています。D2C・ECビジネスは、コールセンターや物流会社といった代行会社をはじめ、カートシステムや受注管理システム、WMSなどのシステムを提供している企業のような、様々な支援事業者と関わる必要があります。しかし、支援事業者の選定が本質的になっていないケースが多く、選定基準が明確化されておらず、支援事業者側も「売上が見込めるから」という理由で案件を受けてしまい、本質的な支援ができていないケースが、正直多々見受けられています。
弊社へお問い合わせをいただくクライアントさんで多いのが、「D2Cコンサルティング企業」と呼ばれる企業の支援を受けながらも、本質的な支援が受けられず、困って弊社へ助けを求められるケースです。やはり話を聞いていると、支援事業者側が自社の利益を重視した結果、本質に即していない支援をされています。
この課題はかなり根が深いと考えていまして、ここに対して真剣に向き合って解決していきたいと思っています。
竹内:僕自身、様々な事業者さんをインタビューする中で、パートナーさん選びで失敗してしまったという声を聞きます。できると言ったのに、実際に依頼したら、できなかったり、しまいには連絡が途絶えてしまったりすることがあるそうです。もちろん、必ずしも支援事業者さんが100%悪いというわけではないと思いますが……。
西田さん:D2Cビジネスは決して簡単なものではありません。困難な課題に直面されている事業者さんからの相談もあります。その課題を解決するには一筋縄ではいきません。弊社もADKダイレクトさんも「支援」ではなく、「伴走」にこだわっているのは、生死を共にする覚悟を持っているからです。できないから、逃げてしまうという選択はありません。
少し話がそれてしまいましたが、最適なパートナー選びができないといった問題を解決すべく、「D2C UP STAGE」の次の進化のカタチとして「D2C CONSORTIUM(コンソーシアム)」を構想しています。それぞれの事業者さんから自社だけでは対応しきれない依頼を受けた場合、グループ全体で対応していこうという考え方です。案件を共有することで、迅速に最適なパートナー企業をプロジェクトにアサインできる「共同事業体」を目指しています。

竹内:chipperさん、そしてADKダイレクトさんの取り組みにより、D2C・EC業界が活性化し、地域創生に繋がることを応援しています。弊社でも、事業者様のお役に立てるような情報を発信してまいります。お互いに、業界を盛り上げていけたら幸いです。本日はお忙しい中、ありがとうございました。
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