Rakuten AI Optimism 2025 ~「楽天市場」2025年下期戦略共有会~【参加レポート】
ニュースの概要

楽天グループ株式会社(以下、楽天)は2025年7月30日に、Rakuten AI Optimism 2025で楽天市場の2025年下期戦略共有会を開催しました。専務執行役員の松村亮さんから事業戦略について、常務執行役員の小林悠輔さんからシステムについて、発表された内容を紹介していきます。

EC流通総額10兆円に向けて。ロイヤルユーザーが成長をけん引

2023年に国内EC流通総額は6兆円を超えました。前年同期比では約5%の伸びで、着実に規模を拡大しています。楽天はここ数年、着実に流通額を拡大しており、次の目標として10兆円を掲げています。2024年も前年並みの成長を維持しました。今後も10兆円到達に向けさらなる施策を打ち出す方針です。

ロイヤルユーザー数は4〜6月期に前年同期比約3%増、ロイヤルユーザーの流通総額は約5.6%増と伸長しました。2025年下期は、こうしたロイヤルユーザーをさらに増やす施策が中心となります。

マーケティング改革:楽天経済圏のシナジーと市場内育成

グループサービス連携で送客を強化

共有会では、マーケティング改革とロイヤルユーザー拡大が第一の柱として掲げられました。楽天カードと楽天モバイルの併用者は単独利用者に比べ購買金額が約1.5倍高く、モバイル契約者のGMVシェアは21.5%、購買件数シェアは15.8%に達します。

楽天モバイルの契約回線は900万を突破し、10万回線ごとに感謝祭を実施するなどモバイル会員限定の施策を充実させています。さらに、Rakuten Linkアプリを活用したメッセージ配信や大規模コラボキャンペーンで新規顧客の獲得を強化し、楽天市場新規利用者に占めるモバイル利用者の割合は約8%に達しました。

市場内育成:ライトユーザーの参加率向上

二本目の柱は楽天市場内での顧客育成です。買い回りイベントへの参加率を高めるため、ターゲットユーザーに応じたキャンペーン案内やクーポンを配布します。2025年6月の大型セールではライトユーザーの参加率が前年3月比で約3.4ポイント上昇しました。1~6月の大型イベントにおける流通額は前年比で+6.3%伸びています。イベントページを個別にパーソナライズしたり、ターゲットを絞ったエントリー促進を行ったりした結果、エントリー率は+4.1%向上しています。

売り場改革:定期購入・ギフト・商品ページを刷新

定期購入:使いやすさを改善

定期購入はリニューアル後に売上1.5倍、契約数5.2倍、対象商品数4.3倍と大きく伸びました。下期はさらに「初回分をより早く届ける(2025年Q3)」「複数商品まとめて定期購入(2026年下期)」という改善を予定しています。楽天市場の定期購入における初回配送は通常の最短11日後のお届け設定になっていますが、最短翌日に届く設定を選択できる仕組みが導入される予定です。

ギフト機能:ソーシャルギフトへ進化

これまでのギフト機能は住所入力など手続きが煩雑で利用率が低いという課題がありました。新たに「ソーシャルギフト機能(2026年上期)」を追加し、贈りたい相手の住所を知らなくてもURLやQRコードでギフトを送れるようになります。受取側が配送先を入力すれば注文が確定し、SNSを通じたカジュアルな贈り物需要に対応します。

商品ページ・動画プラットフォームの強化

商品ページでは画像をクリックしてサイズや色を選べるSKU選択機能や、動画自動再生、パーソナライズされた価格・キャンペーン表示などを導入する計画です(2026年上期以降)。2026年上期には動画管理プラットフォーム「R-Cabinet」のUIを刷新し、動画のカット編集や加工がより簡単にできるようになります。店舗は動画を商品ページやプロモーションに活用しやすくなり、ユーザーは動画で商品の魅力を確認できるようになります。

カート・注文機能の改善

お買い物かご(カート)は、これまでPCだけで可能だった「お届け先複数指定」や「支払い・配送方法の詳細指示」といった機能がスマートフォンでも利用できるようになります(2025年8月)。また、最大注文数量の上限を200個から99,999個に拡大し、カートから注文画面へ遷移する際に在庫・価格を自動更新する機能も追加します。これにより大口注文やタイムセールでの在庫切れを防げます。

システム開発:店舗支援ツールとAIを強化

  • 全商品ダウンロードの上限撤廃:従来5万件までだった商品CSV一括ダウンロードの上限を撤廃し、従来以上の商品数でも一括で全件取得・反映が可能になります(2025年下期)。
  • R‑Storefront改善:ポイント倍率や配送方法の表示がテンプレート化され、設定や見せ方が簡単に統一できるようになりました。
  • 背景画像テンプレートの拡充:商品ページやショップトップで使える背景画像テンプレートを追加し、非デザイナーの店舗でも統一感あるページを簡単に作れるようになります。
  • RMS AIアシスタント:問い合わせメールの文章から適切な返信例を生成するAIを強化し、今後はレビュー返信AIや広告クリエイティブ自動生成ツールも追加予定です。
  • 分析機能の高度化:売上変動の要因を自動で分析し、改善施策を提示する機能を実装予定です。

さらに、店舗の声を受けて検索やレコメンド機能も強化されます。ユーザーの閲覧履歴や購入履歴、画像の品質スコアなどを検索ランキングに反映したパーソナライズドフィードを提供し、新規登録商品のインデックス反映を高速化します。父の日や母の日といったイベントに合わせた特集検索のテスト導入も予定されています。また、過去の問い合わせ文から学習するAI問い合わせ返信機能や、レビュー返信文案を提案するAIも順次利用できるようになる見込みです。

AIによる顧客体験の革新

共有会のハイライトは、AIを利用した購買体験の強化でした。2025年9月には対話型ショッピングエージェントがリリースされ、ユーザーの質問に自然言語で回答しながら商品提案を行います。検索機能も大幅に改善され、画像や文章から最適な商品をレコメンドする「AIショッピング」や、ユーザー行動に基づくフィードのパーソナライズなど、これまで店舗向けだったAI技術を顧客体験にも拡張します。

出店者サポートの充実

問い合わせ対応チャットを1つに統合し、従来1,000文字だった入力制限を5,000文字に拡張しました。今後は問い合わせ履歴の保存・検索機能も追加され、複数担当者での対応がしやすくなります。AIアシスタントは店舗ごとの過去回答を学習し、問い合わせ返信文の作成を支援するほか、レビューへの返信文案を自動生成する機能も開発中です。さらに、AIを活用した動画自動生成や広告デザイン支援も検討されています。

物流改善:最短翌日配送と置き配を拡大

最強翌日配送と夜間注文翌日配送

物流分野では「最強翌日配送」の対象商品拡大と認知向上を図っています。RSLでは40サイズや5cm厚のメール便といった小型商品の新料金プランを2025年2月から導入し、2026年上半期には夜間注文でも翌日配送する予定です。また、大型セールやスーパーSALEと連動した配送キャンペーンで早期受注を促進します。

置き配の標準化

ヤマト運輸・日本郵便など主要配送業者でも玄関先への置き配を選択できるようになりました。店舗側はキャリアごとに置き配可否を設定でき、ユーザーは購入時に置き配を選択可能です。これにより再配達を減らし、顧客体験と配送効率の双方を改善します。

改善スケジュール(VOMロードマップ)

共有会では、出店者の声(VOM)を反映した改善プランが一覧で示されました。主要な実装予定は次のとおりです。

実施時期改善内容詳細
2025年8月お買い物かごUI改善/商品価格表示強化カート画面をスマートフォン向けに最適化し、価格・ポイント還元率を分かりやすく表示します。
2025年8月定期購入初回発送前倒し初回分を通常より早く発送し、最短翌日に届けます。
2025年9月R‑Storefront ポイント還元率表示改善商品ページにおけるポイント表示を標準化し、ユーザーに還元率を分かりやすく伝えます。
2025年12月R‑Storefront 商品重量CSV編集機能CSVアップロードで商品重量を一括編集できるようにし、送料計算の正確性を向上させます。
2025年Q4R‑Messe チャット履歴保存機能自動応答チャットに履歴保存・検索機能を追加し、スタッフ間の引き継ぎを容易にします。
2025年Q4R‑Karte 商品分析強化商品別に売上やアクセスの要因分析ができるようにし、改善ポイントを示します。

このほか、AIアシスタントの機能追加やレビュー返信AIなど、開発ロードマップには多くのアップデートが盛り込まれています。

おわりに

2025年下期戦略共有会では、ロイヤルユーザーの育成と楽天経済圏のシナジーを軸に国内EC流通額10兆円を目指す姿勢が示されました。マーケティング、売り場、物流、システムの各分野で具体的な改善策と実施時期が公表され、店舗とユーザーの双方にメリットのある施策が数多く予定されています。AIの積極的な活用や出店者の声を反映したロードマップからは、楽天市場が今後も変革を続け、国内ECの成長を牽引する意欲が伝わってきます。

あわせて読みたい

コマースピックLINE公式アカウント

コマースピックメルマガ