
楽天グループ株式会社(以下、楽天)は2024年1月25日に、楽天新春カンファレンスで楽天市場の2024年上期戦略共有会を開催しました。常務執行役員の松村亮さんから事業戦略について、上級執行役員の小林悠輔さんからシステムについて、発表された内容を機能別にまとめて紹介していきます。
この記事の目次
2023年下期の成長状況
2023年も堅調に成長を続け、国内EC流通総額は6兆円に到達しました。国内の小売業者ではオフラインを入れて最も大きな金額だと松村さんは話し、掲げている10兆円の目標に向けて現実的なラインになってきたと続けました。新型コロナ5類移行後の2023年第3四半期(7~9月)は前年同期比+15.7%と高い成長率を維持する結果となっています。
「楽天市場」の成長への取り組み
楽天市場が堅調に成長するために、直近取り組んだことと、今後どのようなことをするのか下記の5つの項目に分けて解説されていました。
- マーケティング改革とロイヤルユーザーの拡大
- 売り場改革
- 継続的な物流強化
- AIおよびシステムインフルへのさらなる積極投資
- 店舗コミュニケーションの強化
マーケティング改革とロイヤルユーザーの拡大
楽天市場の成長には、ロイヤルユーザーにもっと買い物をしてもらうための工夫とロイヤルユーザー以外のライトユーザー、新規ユーザーにロイヤルユーザーになってもらうことが重要だと松村さんは話します。
楽天市場・楽天カードの両輪に加わる楽天モバイル
ロイヤルユーザー化を促す一番の肝は楽天経済圏との連携・活用です。楽天IDとポイント、さまざまなサービスを展開する楽天経済圏を軸にお客様を育てる上で、従来は楽天市場とカードが両輪になって成長してきました。楽天カードを持っているユーザーは楽天市場でより多くの買い物をしています。そんなユーザーが増えることで楽天市場も楽天カードも成長してきたのです。
これからは楽天市場、楽天カードに、楽天モバイルが加わります。2023年の後半から楽天全体のマーケティングの方針で、より楽天モバイルユーザーにベネフィットがある施策を行なっています。
2023年12月に行われた楽天スーパーSALEの実績から、1人あたりの購入金額を見ると、楽天カード、楽天モバイルをそれぞれ利用しているユーザーは約1.3倍、楽天カードとモバイル両方を持っているユーザーは約1.9倍と、非常に購入金額が高くなっているのです。今後、契約数が600万を突破した楽天モバイルユーザーが、1,000万を目指すうえで市場の成長エンジンのドライバーになるであろうと、力説していました。
買いまわりイベントの進化
統計的な分析から、楽天スーパーSALEやお買い物マラソンの買いまわりに参加することで、ロイヤルユーザー化する確率が非常に高まるとのことです。こういった大型イベントも、市場の成長と同様に、堅調に成長を続けており、過去4年間の成長率を見ても平均で+20.8%と驚異的な成長を続けています。
このような買いまわりイベントにおいても、さらにアップデートを考えていると発表がありました。
今後は買いまわりイベントの開催頻度をさらに増加し、イベントカレンダーを公開。開催回ごとに特集テーマを打ち出して、もっと参加しやすく、わかりやすい形に進化をするとのことです。また、現在はすべてのユーザーに画一的なベネフィットを提供していますが、顧客ロイヤリティ別の最大倍率設定や特定ジャンルごとのポイントアップなど、ロイヤルユーザーの育成という観点で、より効率的かつスケーラブルなアップデートが行われる予定です。
コンテンツ活用による外部集客
ライトユーザー、新規ユーザーに対しては、楽天市場の良さを理解してもらい、買い物といえば楽天市場とすぐに想起するきっかけを作るため、YouTubeやInstagramなどでターゲティングをしながら、動画を配信することに力を入れると発表していました。
売り場改革
アプリファースト
売り場改革については、まず、モバイルアプリファーストを推し進めるとのことです。Webと比べて、高機能、ハイパフォーマンスのアプリによりトラフィックを集中させるため、ブラウザからアプリに飛ばす動きを加速させると話していました。
SKUプロジェクト
大きなプロジェクトとして、注目なのがSKUプロジェクトです。すでに95%以上の店舗の移行が完了しており、これから3~4か月かけて全店舗への導入を進めるとのこと。200万以上の価格違い商品が登録され、3軸以上を活用している商品は20万以上となっています。
SKU移行後、約半年後に商品属性の入力が必須化されます。その際、一部の「カタログIDなしの理由」の商品に対しては修正が必要となります。「項目選択肢在庫商品」や「セット商品」を選択していると、更新ができなくなったり、セット商品用のカタログIDの入力が必要になったりするため、注意してください。
SKUプロジェクトを実装した結果、バリエーションラベルや単価の表示がある商品が、ない商品と比べて2倍以上のクリック率となり、狙っていた効果が発揮されてきていると松村さんは話しました。
定期購入機能リニューアル
2024年に目玉となるアップデートは定期購入の全面リニューアルです。定期購入は現在の楽天市場でサービス展開されていますが店舗、ユーザーともに十分な機能が提供できていないため、改善の余地が大きいと話されていました。
全面リニューアルにより、店舗側の機能として、通常販売と定期販売を同一ページで表示、定期購入利用に伴う月額固定費を廃止し、より利用しやすいサービスになる予定です。また、2024年Q4を目処に、ユーザーは通常価格より5%以上安価に購入できたり、定期購入がSPU対象になったり、3店舗利用でポイント5倍になったりと、さまざまなベネフィットを提供すると、定期購入について力を入れる方向性を明らかにしています。
クーポン機能の進化・充実化
クーポン機能の進化・充実化も行われる予定です。クーポンの使われ方を見ると、購入検討時に獲得するよりも、商品を比較するときに獲得するほうが購買の押上効果が5倍以上高いとのこと。また、クーポンがなくても買う人、なかったら買わない人が購買動向からわかるようです。そこで、より効率的なマーケティングができるように、ターゲティングにより、クーポンがなくても購入するユーザーなど分析的にアプローチできる機能を搭載予定としています。
2024年3月に1クーポンあたりの対象商品数の上限が3,000商品から5,000商品まで引き上げられます。6月には効果的なユーザーに向けたクーポンの発行機能が搭載予定。この機能は新規orリピーター、購入回数といった店舗の購入情報や性別、年齢、誕生月など応じたユーザー属性でセグメントを分けてクーポンを付与することが可能になります。また、同時期にクーポンの公開設定が変更可能になる予定です。誤ったクーポンを発行した際に、クーポンの露出を制限できる機能と言えます。
広告機能の進化(RPP)
現在、全ユーザーに同じ入札単価で広告を配信しているRPP(検索連動型広告)が、会員ランク別にCPCの自動最適化が行われるようになります。会員ランクに応じて入札単価を適正にすることで効率的な広告運用が可能になるのです。
ダイヤモンド会員やプラチナ会員のような購入確率の高いユーザーには入札単価+25%、シルバー会員やレギュラー会員のように購入確率が低いユーザーには入札単価-80%の間で自動最適されます。
広告機能の進化(楽天市場外広告)
広告について、従来は楽天市場を中心に掲載されていましたが、Meta社やGoogle社との協業により、楽天市場外にいるユーザーにも効率的にリーチするサービスを作る予定との発表がありました。InstagramやGoogleのショッピング広告など、楽天市場のプロモーションメニューを介して掲載することが可能になります。
Meta社との協業はTDA Expansionとして楽天のセグメントやMetaのセグメントを設定して配信可能なターゲティング機能を実装して2024年Q1に。Google社との協業はRPP ExpansionとしてGoogle検索結果丈夫に表示できるショッピング広告メニューに楽天市場のプロモーションメニューから2024年4月を目処に配信設定ができるようになるのです。
より利便性が高くなるR-Messe
接客面について、R-Messeの2023年に行われたアップデートと、今後の方針について話されていました。2023年にアップデートされた機能は下記のとおりです。
1月18日 不適切ワード警告表示
3月15日 商品ページ経由問い合わせ、購入履歴連携
3月15日 メッセージ編集・削除機能
7月12日 問い合わせレポート拡充
9月13日 問い合わせレポート拡充
11月1日 自動応答設定、画像挿入
2024年は問い合わせの自動化の範囲を広げていき、店舗の業務効率化とユーザー満足度の向上を両立できるサービスを目指すとのことです。後半のAIのパートにて、今後実装予定の機能についてより詳細に解説を行っています。
継続的な物流強化
2023年のアップデート情報
物流面で2つの大きな取組みがありました。1つは送料をわかりやすくする共通の送料込みラインです。2020年から始まったこの取り組みは、現在95%の店舗が導入し、流通にも貢献していることがわかっています。
また、2023年6月からお届け日をわかりやすく表示する最短お届け可能日表示機能が始まり、購買転換率に大きく寄与していることが明らかになっているとのことです。8月には「お買い物かご」配送日選択ポップアップが表示されるようになりました。これにより、ユーザーに配送日選択を促し、再配達数や店舗の負担を軽減することにつながっています。
これから目指す配送の形
◎配送品質向上制度と配送認定ラベル
今後は、送料のわかりやすさ、納期のわかりやすさに加え、お届けまでのリードタイムと商品受け取りのバリエーションを豊富にする方針を発表していました。
2024年7月に配送認定ラベルの制度がスタートします。配送に関する一定の基準を満たす商品に「最強配送」という名称のラベルが付与されるとのことです。この「最強配送」が楽天市場サーチの検索順位に関わってくるため、店舗においては見逃せない要素になるでしょう。
配送品質向上制度の開始に向けたスケジュールは上記の通りです。まず、3月に最短お届け可能日表示機能の全キャリア(配送業者)の対応することに加えて、地域ごとに配送日程を細かく設定できるようになります。また、商品設定で出荷・配送リードタイム、納期情報を設定し、基本情報と掛け合わせて、より正確なお届け日をユーザーに提供することが可能になります。
5月には営業日カレンダーの改善が行われる予定です。今までの営業日カレンダーは各業務を分業・外注している場合では不十分な作りでしたが、受注・発送・問い合わせの業務ごとに対応可否を指定できるようになります。
7月に実装される配送認定ラベル(最強配送)は3月、5月のアップデート項目に加え、配送日時設定を行うことで、ラベルが表示されるとのことです。
受け取り方については置き配や、受け取り予定日を遅くすることでポイントインセンティブを付与する急がない便(仮称)をリリースしながら、社会的にも問題になっている配送キャパシティに楽天としても主体的に課題解決できる取り組み進めていくと発表しています。
◎楽天スーパーロジスティクス(RSL)
楽天スーパーロジスティクス(RSL)にも言及していました。サービス開始当初は画一的なサービスメニューでしたが、過去数年は店舗ニーズのヒアリングを行い、オプショナルメニューが増えています。2024年4月以降に料金体系の見直しが行われる予定です。具体的にどの程度の価格変動が起きるかは情報を待ちましょう。
AIおよびシステムインフラへのさらなる積極投資
昨今の大規模言語モデル(LLM)、生成AIの活用は楽天市場にも導入が進んでいます。楽天市場においては次の6つの機能の実装を予定しています。
RMS AIアシスタントβ版の提供
RMSの設定は店舗運営Naviを読んでもわからないことがあったはずです。この学習したAIチャットボットに質問をすることで回答を得られたり、ChatGPT-4の機能を活用して文章の要約・校正・多言語対応などを利用できたりします。2024年Q1の機能公開を予定しています。
「R-Storefront」店舗オペレーション支援
商品の基本データからAIが商品名・商品説明文を作成します。このテキストを元に微修正を行い、公開することができるようになるため、ゼロから文章を考える必要がなくなるでしょう。商品画像は背景を自動生成し、複数パターン提案をもらえるようになるとのこと。シチュエーションに合わせたスタジオ撮影がなしで使用イメージを伝える画像が生成できるようになります。2024年Q1以降の実装予定です。
「R-Messe」業務効率化
ユーザーからの問い合わせに対し、自動で返答内容を作成する機能の提供を予定。AIが提案するドラフトをもとに店舗が修正を行い、回答ができる仕組みです。また、感情分析により、クレームかどうかや感情的になっているかどうかをテキストから判断し、問い合わせ内容を「ポジティブ」「ネガティブ」「中立的」に分類してくれます。こちらの機能も2024年Q1以降順次公開予定です。
「R-Karte」分析サポート
データに加えて、店舗カルテのサマリーを提供予定。提供直後は分析結果が100%すべて正しいとは限りませんが、少しずつ実験的に拡大していくとのこと。最終的には商品情報すべての分析結果をレポート化することを目指しています。商品・店舗レビュー情報から得られる示唆についてもAIで分析を行い、頻出キーワードの抽出やレビュー内容の分類が行われる予定です。こちらの機能も2024年Q1以降の公開と話されています。
セマンティック検索
セマンティック検索とは端的に言うと検索窓にキーワードを入れて機会が自然言語処理をした解釈で検索結果が表示される検索のことです。例えば、「こどもが遊べるボードゲーム」と検索をしてもユーザーが求める検索結果が得られていませんでしたが、セマンティック検索の導入により、ニーズを満たす検索結果が表示されるようになります。
従来の検索機能に比べると本当に探している商品に出会える確率が高まり、ロングテールの商品も売れやすくなるようです。一部で既に導入され、高いパフォーマンスを出しているとのことで、1月から楽天市場にも展開予定と発表されていました。
AIによる商品レビューの要約
商品によっては数千件レビューが付いていることもありますが、すべてをユーザーが確認するのは難しいです。このレビューを要約し、よく挙がっているキーワードをピックアップして、商品のレビューサマリをレビューページにアップ予定です。
AI活用によるECC業務の強化
機能の実装とは異なりますが楽天社内でのAI活用も進んでいるようです。コンサルティング用ツールの強化や対話型AIによる社内FAQ対応による作業時間の短縮を図るなど、2024年下半期を目処にコンサルティング業務の質を上げる動きを取るとのこと。
店舗コミュニケーションの強化
店舗コミュニケーションの強化は2024年も発展させると言います。NATIONSは新プログラム「ブランド設計」を2024年2月以降に開始予定。昨年から始まったビジネスマッチングも好評につき拡大を予定しています。さらに、楽天大学は新しい企画をスタートし、従来の楽天大学よりも視座を上げたリベラルアーツ寄りのコンテンツを提供しています。
その他改善点
「R-Karte」新店舗カルテ
2023年10月にデザインを大幅刷新された「R-Karte」は、店舗の声を参考に、色やグラフの微調整を行なっています。今後、時間別に売上を確認できるカレンダーの追加や、全体タブで売上・売上件数の両方が確認できるようになるなど、UI改善を進めていくとのことです。
楽天市場アプリ画像検索機能
楽天市場アプリに2023年11月から実装された画像検索機能。テキスト検索よりも4.5ptほど転換率がアップする機能です。今後、画像で検索した後、キーワードや条件で絞り込みを行うなどさらなる機能拡張予定を予定しています。
コンテンツページ機能
2024年6月にコンテンツページの機能が公開予定です。いろいろなウィジェットを組み合わせて自由にページ作成が可能になります。現在、多くの店舗がGOLDを利用し、HTMLを組んで行なっているページ作成が、コンテンツページに移行する予定とのこと。
組み合わせるパーツは、新規やリピーターによって出し分けが可能なターゲティング画像パーツ、動画を店舗トップ・コンテンツページに表示可能にする動画パーツの利用が可能になります。また、既存の商品パーツをさまざまな条件設定で絞り込むことができるようになったり、現在テキストのタイトルを画像表示できるようになったりします。
機能公開後は、A/Bテストをできる環境の構築なども検討していると話されていました。
月額出店料の値上げに関して
ショッププランのアップグレード
2024年Q3にはスタンダードプラン、がんばれプランを対象に画像容量と登録可能商品数のアップグレードが予定されています。現在メガショッププランを利用している店舗の中には、今回のアップグレードによりスタンダードプランへプランダウンし、固定費を抑えられる可能性もあるため、現在の利用状況と照らし合わせてみてはいかがでしょうか。アップグレード後の各上限は下記のとおりです。
・画像容量
スタンダードプラン:100GB(現状5GB)
がんばれプラン:1.5GB(現状500MB)
・登録可能商品数
スタンダードプラン:50,000商品(現状20,000商品)
がんばれプラン:10,000商品(現状5,000商品)
月額出店料変更の背景とアナウンス時期
その一方で、2019年から2023年にかけて、システム関連コスト投資が物価高の影響などにより約1.6倍に増加しているとの発表がありました。今後も楽天市場が魅力的な売り場であり続けるために、引き続き大きな投資を予定していると松村さん話します。
そうした背景もあり、月額出店料を一部変更について2月末頃にアナウンスを予定していると発表していました。
さらなる成長に向けて
最後に、「10兆円の目標に向けて、さまざま領域を一つずつアップデートしながら、一貫性を持ってやることが重要。大きく5つのテーマで進化・前進し、10兆円に向かって店舗の皆さまが輝ける場を作り、一緒に走り抜けられれば」と締めくくっていました。
発表を聞いて:時代を捉えたアクションで増える業務と効率化される業務
SKUプロジェクトに加え、配送品質向上制度の施行まで半年を切り、今後対応すべき事項が山積されていることかと思います。日常的な店舗運営に、モール独自の対応が重なることは大きな負担になる一方で、モールが力を入れる取り組みだからこそ、疎かにせず対応を進めることが重要です。随時アップデートされる詳細に目を向けて乗り遅れないことを推奨します。
今後、AIの導入により、今まで悩みのタネだった作業の負担が軽減される未来も見えたかと思います。徐々に機能が実装されるはずですが、初動から100%の成果を求めるのではなく、まずは触って慣れるくらいの気持ちで利用してみると良いかもしれません。楽天市場に限らず、グループ全体の動きに注目が集まる楽天の今後の動向から目が離せませんね。
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