【海外ニュース】Cookie規制の改革/SHEIN・TemuはEUで顧客1億人超え/中華系ECがGoogleから検索除外に?/Amazon Haulが対象国を拡大

本記事では、欧州を中心としたEC関連の最新トピックをお届けします。今回は、次の4つのニュースを紹介します。

この記事の目次

EU、Cookie規制を改革へ 煩雑な同意バナー廃止を検討

欧州委員会は、ウェブサイトでのクッキー利用に関するルールを抜本的に見直す方針を示しました。現在、EU域内のオンラインストアやウェブサイトは、訪問者にクッキー利用の同意を求める「クッキーバナー」の表示が義務付けられていますが、その実効性が疑問視されています。

委員会は「現行制度はデータ保護にも透明性にもつながっていない」とし、ブラウザなどを通じて一括管理する新しい仕組みの導入を提案しています。

参照元:EU wants to reform cookies

「クリック疲れ」と同意形骸化、16年続く制度を見直し

EUでは2009年の「eプライバシー指令」に基づき、利用者が明示的にクッキー利用へ同意することが義務化されました。バナー上で「同意する」「拒否する」を選択できる仕組みは普及したものの、実際には多くの利用者が内容を読まずに「同意する」をクリックしており、形骸化しているのが現状です。

欧州委員会によると、この“クリック疲れ”がデータ保護の意識をむしろ低下させているとの指摘が相次いでおり、「利用者も企業も不満を抱える制度」になっていると分析しています。

ウェブサイト運営者からも、「全ページで同意確認を繰り返す仕組みはUXを損ねる」「バナーを閉じる操作が離脱率上昇につながる」といった声が出ており、事業者・ユーザー双方にとって負担となっている実態があります。

ブラウザ設定で一括管理へ 統計クッキーは免除対象に

こうした問題を受け、欧州委員会は同意取得の手続きを簡素化する新制度を検討中です。その柱となるのが「中央管理型」のクッキー設定システム。たとえば、ChromeやSafariといったブラウザの設定画面で、利用者が一度だけ好みのクッキー許諾範囲を指定すれば、EU全域のサイトでその設定が反映される仕組みが想定されています。これにより、サイトごとに毎回バナーをクリックする必要がなくなる見通しです。

また、個人情報を含まない統計分析用のクッキー(例:アクセス解析など)については、同意不要とする方向で検討されています。これにより、サイト運営者の手続き負担が大幅に軽減され、不要な「同意依頼」も減るとみられます。

プライバシー保護団体は「監視強化の抜け道」と懸念

一方で、データ保護団体や専門家からは改革案に対して懸念の声も上がっています。バナー廃止によってユーザー体験は改善されるものの、根本的な「オンライン監視」の問題は解決されないという指摘です。

現行制度下では、少なくとも利用者が同意バナーを通じて「クッキーが存在する」ことを知るきっかけがありました。これを撤廃すれば、企業による追跡行為やターゲティング広告がより不可視化される恐れがあると警告しています。

欧州デジタル権利センター(EDRi)などの団体は、「透明性の欠如を招く抜け道になる可能性がある」「ユーザーが個人データ利用の実態を把握できなくなる」として、より包括的なプライバシー保護対策の導入を求めています。

また、GDPR(一般データ保護規則)との整合性についても議論が残ります。新ルールがクッキー同意を簡略化した結果、個人情報処理への同意が曖昧になれば、GDPRの「明確な意思表示」という原則に抵触するリスクも指摘されています。

今後の見通し

欧州委員会は年内にも改正案の草案を提示し、加盟国および欧州議会との協議に入る見込みです。デジタル市場法(DMA)やデジタルサービス法(DSA)など、他のデジタル規制との整合を取りながら、事業者の負担軽減と利用者保護の両立を目指す方針です。

最終的な制度設計が決まるまでには一定の時間を要するとみられますが、欧州発の「同意バナー文化」が大きく変わる可能性があり、EC・広告業界を含むウェブ全体に影響が及ぶことは確実です。

欧州ECを席巻する中国勢:SHEINとTemuが変えるオンライン消費の地図

欧州のEC市場で、中国発の2大プラットフォーム「SHEIN(シーイン)」と「Temu(テム)」が急速に勢力を拡大しています。ファストファッションの旗手として定着したSHEINと、ディスカウント特化型のTemu。両社のアプローチは異なるものの、欧州の消費行動や市場構造を根底から変えつつあるのです

今や“低価格×スマートフォン完結”という購買体験は、AmazonやZalandoといった既存大手にとっても無視できない潮流となっています。

参照元:
15 million new European Shein users
12.5% more European users for Temu

SHEIN、EUで月間1億4,570万人が利用 中欧・南欧で強固な支持

2025年前半、SHEINは欧州で月間平均1億4,570万人のユーザーを獲得し、半年前から1,520万人増(+11.6%)と順調に拡大しています。欧州委員会のデジタルサービス法(DSA)に基づき開示されたデータによると、フランス(2,730万人)、スペイン(2,580万人)、イタリア(2,280万人)が主要市場を形成し、ドイツも1,600万人から1,990万人へと約24%の伸びを記録しました。

とりわけドイツは、2023年に20億ユーロの売上を達成しており、欧州の収益面でも中核拠点として機能しています。SHEINはファッション特化型ECでありながら、近年は美容・雑貨・生活用品にカテゴリーを拡大。アプリのUIを「トレンド探索型」に刷新し、Z世代の消費者を強力に取り込んでいます。

さらに同社はサプライチェーン効率化に磨きをかけ、データドリブンな需要予測を活用して“超短サイクル生産”を実現。平均で新作投入から販売まで7日以内というスピード感が欧州のファストファッション市場で他社を圧倒しています。

SHEINの成長は、「安さ」だけでなく、アルゴリズムを駆使したパーソナライズ提案と、TikTokやInstagramを中心とするUGCマーケティングの成功に支えられている点が特徴的です。

Temu、1億1,570万人に到達 ローカル展開と倉庫網整備で加速

一方、同じく中国のPDDホールディングス傘下であるTemuも、2025年前半に月間平均1億1,570万人の欧州ユーザーを獲得し、前年下半期比で+12.5%(+1,290万人)と急拡大しています。

フランスでは+19.4%、スペインでは+15.6%と上位市場が軒並み二桁成長を示しており、ルーマニアでは+20.5%と最も高い伸びを記録しました。ドイツ、ポーランド、イタリアもそれぞれ13〜14%前後の成長率を維持しており、欧州全域で均質に利用者が増加している点が特徴です。

Temuは2023年に欧州市場へ本格参入して以降、現地企業の参入を許可し、欧州域内のローカルフルフィルメント体制の整備を進めています。現在、全注文の80%を欧州内倉庫から出荷することを目標としており、越境配送の遅延問題を改善中です。この「現地化戦略」が功を奏し、他の中国系企業に比べて“安くて早い”という信頼を築きつつあります。

もっとも、急成長の裏では規制当局からの監視も強まっています。フランス政府は、製品安全や競争ルールに違反した場合に「検索結果からの除外措置」を可能とする法的権限をEUに求めており、Temuはその主要ターゲットの一つとみなされています。欧州市場の拡大と同時に、法規制遵守・サプライチェーン透明化への対応が喫緊の課題と言えるのです。

対照的な戦略、重なる“中価格帯の支配”

SHEINとTemuは、いずれも“低価格EC”のカテゴリーに分類されるが、戦略の焦点は微妙に異なります。

SHEINがトレンド性と商品更新速度を武器に「Z世代ファッション領域」を支配するのに対し、Temuは価格破壊による「日常消費領域」でユーザーを拡大しています。前者が“ファッションメディア的アプリ”として利用されているのに対し、後者は“価格比較プラットフォーム”のような位置づけを強めており、同じ中国系でありながらユーザー体験のベクトルは正反対です。

しかし両社に共通しているのは、いずれもAIレコメンドを中核としたモバイル主導の購買導線を最適化し、ユーザーの滞在時間と購入頻度を最大化している点です。とりわけSHEINは「データ×ファッション」、Temuは「データ×コスト」の最適化を通じて、欧州ECの中価格帯を急速に侵食しています。既存プレイヤーであるZalandoやH&Mはこの領域での価格訴求力を失いつつあり、市場構造の再編が進んでいる状況です。

欧州消費の価値観シフト:「ブランド」から「実用と効率」へ

SHEINとTemuの拡大は、欧州の消費者心理の変化とも密接に関係しています。インフレによる生活防衛意識の高まりが「とにかく安く、早く、見つけやすい」購買行動を後押ししており、特に若年層ほどブランド名よりも“コスパ”を重視する傾向が強まっています。PwCなどの調査でも、欧州消費者の6割以上が「ブランドより価格を重視する」と回答しており、こうした土壌が中国勢の定着を支えているのです。

同時に、ユーザーが“アプリ内完結型”に慣れたことで、Amazonのような横断的検索プラットフォームを介さない購買行動が増加。欧州では、「アプリ=ブランド」という新しい認知構造が生まれつつあります。その結果、モバイルUIの最適化やレコメンド精度が競争の生命線となり、デジタルプレイヤーの寡占が進んでいます。

規制と拡大のせめぎ合いが続く欧州市場

一方で、中国勢の台頭に対し、欧州委員会や加盟国当局は監視を強化しています。特にフランスは、150ユーロ未満の小口輸入品に適用されていた関税免除制度の撤廃や、EU域外からの小包に対して一律2ユーロの手数料を課す方針を提案。これが実現すれば、中国系プラットフォームの価格競争力は一定程度削がれる可能性があります。

また、デジタルサービス法(DSA)による監査義務化により、両社はユーザーデータ管理や広告透明性の報告を定期的に行う必要があるのです。それでも、両社の勢いがすぐに鈍化する兆しは見えません。

欧州消費者にとって“便利で安い”ことは依然として最強の魅力であり、テクノロジーと物流の両面で高速進化する中国勢がそのニーズを満たしています。結果として、欧州EC市場は今、価格・スピード・UXの三要素を軸に新たな競争局面を迎えているのです。

フランス政府、中国系ECの急拡大にGoogleから「検索除外」提案

フランス政府は、EU域内で安全基準や税制に違反するオンラインプラットフォームを、Googleなどの検索エンジン結果から削除できるようにする新たな権限を欧州委員会に求めています。

SHEINやTemuなど、中国系の越境ECサイトが欧州市場で急拡大するなか、製品の安全性や消費者保護、税制の公平性を脅かす事例が増加しており、フランスはEU全体での包括的な対策を主導しようとしています。

参照元:France: EU needs option to delist platforms from Google

背景:爆発的に伸びる「格安EC」への危機感

この提案の背景には、フランス国内で急速に存在感を高める中国系プラットフォームへの懸念があります。TemuやSHEINは、欧州消費者に向けて低価格の商品を直接販売し、配送も中国や第三国の倉庫から行うことでコストを抑えています。これにより、H&MやZalando、Cdiscountなど既存の欧州勢がシェアを奪われる一方で、商品の安全基準や労働条件、環境規制の面で“グレーゾーン”と指摘されるケースが増えているのです。

フランスのルワジーグ外務・貿易大臣は、EUに提出した提案書で次のように述べています。

「われわれは、欧州の消費者が危険な製品に晒されるのを防ぐ必要がある。法を順守しないプラットフォームを野放しにしておくことはできない。」

この問題意識は、国内の小売業界や消費者保護団体でも共有されています。特にSNS広告を通じて若年層がTemuやSHEINの商品を購入するケースが急増しており、「安さの裏に潜むリスク」を訴える声が広がっているのです。

提案の中身:検索除外+関税免除の撤廃+小包手数料の導入

フランス政府が欧州委員会に求めている措置は3つあります。

・規則違反プラットフォームの検索結果からの除外

EUの安全・消費者保護法に違反するサイトを、検索エンジンやアプリストアの表示対象から除外することを可能に。対象には、製品安全情報の不開示や虚偽表示、リコール指令の無視といった行為が含まれる。

・150ユーロ未満の輸入品への関税免除を撤廃

現行では、EU域外から輸入される150ユーロ未満の小口商品には関税がかからない。この制度を利用し、中国からの格安商品が大量に流入。これを撤廃し、EU域内業者と同等の税負担を求める。

・EU外から届く小包1件ごとに2ユーロの手数料を課す

配送・検査コストの増加を補う目的で、EU外からの荷物1件につき固定料金を課す案も提起。これにより、安価な大量出荷モデルに一定の歯止めをかける狙い。

これらはフランス単独の政策としてではなく、EU全体での制度化を前提とする提案であり、すでに欧州委員会と他の加盟国に協議が持ちかけられています。もし採用されれば、欧州デジタル市場における「最も強硬な対中EC規制」となる可能性があるのです。

EU内でも賛否が分かれる「検索除外」措置

この提案は、EU内で賛否が割れています。賛成派は「消費者保護と公正競争のために不可欠」と主張する一方、反対派は「検索エンジンの中立性や表現の自由を損なう可能性がある」と警戒しています。

特にドイツやオランダの一部議員は、「検索除外は実質的な検閲に近い」と指摘し、透明性の確保を求めています。また、GoogleやMicrosoftといったテック大手は、国家による検索結果操作が常態化すれば「前例を作る危険がある」として慎重姿勢を崩していない状況です。

一方で、EU域内の中小小売業者や製造業団体は歓迎ムードです。彼らにとって、中国発プラットフォームは「税・労働・環境規制のハードルを回避して価格競争を仕掛ける存在」であり、現行制度のままでは公平な市場が成り立たないと主張しています。

安全・環境基準違反の実態 EU監査で相次ぐ摘発

欧州委員会の内部資料によれば、2024年時点でTemuおよびSHEINで販売されている商品のうち、一定割合がEUの安全基準に抵触している疑いがあります。特に玩具・電子機器・化粧品・衣料品において、化学物質規制(REACH)や玩具安全指令(Toy Safety Directive)に違反する事例が報告されています。これらは主に製造元の追跡が困難で、販売責任の所在が曖昧なことが問題視されているのです。

欧州消費者機構(BEUC)は声明で、「Temuのようなプラットフォームは“マーケットプレイス”を名乗りつつも、販売事業者情報の開示が不十分で、消費者が苦情や返品を申し立てる際に法的救済を得られない」と批判。欧州委員会に対し、「越境ECの透明性基準」を新たに設けるべきだと要請しています。

広がる「デジタル主権」論 フランスが描く戦略的狙い

今回の提案は単なる貿易問題ではなく、フランスが主導する「デジタル主権(sovereignty numérique)」政策の一環でもあります。フランス政府は近年、デジタルインフラやAI、クラウドなどの分野でEUが米中依存から脱却する必要性を訴えており、EC分野もその延長線上にあります。ルワジーグ大臣は「欧州のルールの上で競争を行うことが、長期的な経済主権を守る道だ」と語りました。

この動きは、EUレベルでの規制強化(デジタルサービス法DSA、デジタル市場法DMA)とも連動しており、違反企業の透明性義務・罰則強化・監査権限拡大が進んでいます。特にフランスは、米中のテック大手に対しても積極的な課税・法的対応をとる国として知られており、今回の提案はその一環と位置づけられています。

今後の展望:消費者保護か、保護主義か

フランスの提案は、2025年以降のEU政策議論における重要テーマとなる見通しです。欧州委員会がどの程度この構想を受け入れるかは未知数ですが、「安全・税制・環境を盾にしたデジタル経済保護政策」として、加盟国の支持を得る可能性は高いといえます。一方で、過度な制限が自由貿易の原則を損なうとの懸念もあり、消費者保護と市場開放のバランスが今後の焦点となるでしょう。

TemuやSHEINのような中国系企業にとっては、フランスの動きが「欧州市場への警告」となりえます。欧州は今、安さと利便性の裏にある“リスク”をどう管理するかという新たな局面に立たされているのです。

Amazon、Temu・SHEINへの対抗を本格化し、「Haul」をスペインにも展開

米EC大手Amazonは、低価格商品に特化した新セクション「Amazon Haul(アマゾン・ホール)」をスペインで正式に展開しました。すでにイギリスとドイツで導入済みの同サービスは、主に20ユーロ以下の商品を集めた“格安ストア”として位置づけられています。Amazonは、TemuやSHEINといった中国勢がヨーロッパで急成長する中、「安さ×信頼性」の両立を掲げて競争力の再構築を図っています。

参照元:Amazon launches Haul in Spain

「20ユーロ以下の世界」を切り出すAmazon Haulとは

Amazon Haulは、既存のAmazonアプリやウェブサイト内に統合された低価格専用ゾーンです。ファッション、アクセサリー、家庭用品、日用品、ガジェットなど、手軽に購入できる商品を中心に展開しており、価格帯は1〜20ユーロが中心となっています。

ページ構成は通常のAmazonと異なり、Haul専用の検索・カート・決済フローを備えており、ユーザーは別サイトを経由せずに“格安ショッピング”を完結できます。同サービスの名称「Haul」は、英語で「たくさん買い込む」「まとめ買いする」を意味する言葉に由来しています。

その名のとおり、ユーザーが低価格商品を複数点まとめて購入できる設計になっており、「少額でも満足度が高い買い物体験」を意識した仕組みです。また、従来のAmazonと同じ評価システム・返品ポリシーが適用されており、「安くても安心して買える」ことが最大の売りとされています。

スペイン市場への投入背景:Temu・SHEINの台頭

AmazonがHaulをスペインで展開したのは、単なるサービス拡張ではありません。背景には、TemuやSHEINといった中国系プラットフォームの急速な浸透があります。両社は近年、SNS広告と価格破壊を武器にスペイン市場を席巻しており、2024年時点でTemuのアプリダウンロード数はAmazonを上回る月もあるほどです。Z世代を中心に「安くて届くのが早い」中国勢への支持が広がる一方、ブランド信頼性や返品対応の面では課題も残っています。

Amazonはこの状況を踏まえ、「価格でTemuに、信頼でSHEINに負けない」という二正面の競争戦略を掲げています。特にスペインでは、物価高と所得格差の拡大が続いており、低価格ニーズが顕著に高まっているのです。Haulの導入は、このトレンドを正面から取り込む狙いがあるとみられます。

安全・品質の担保で差別化 ― “Amazonらしさ”を維持した格安路線

Amazonは、Haulに登録されるすべての商品を通常のマーケットプレイスと同様に審査・監視対象としています。この点が、出品管理の緩いTemuやSHEINとの最大の違いです。

Amazonの広報担当者は次のようにコメントしています。「私たちの目的は、顧客が求めるお得な商品を見つけやすくすることです。しかし、価格競争のために信頼やカスタマーサービスを犠牲にすることはありません。」

Haul内の商品も、顧客レビュー・出品者評価・返品保証の各システムが通常通り適用されます。つまり、Haulは“安さの追求”ではなく“安心して安く買える”体験を前面に押し出した設計になっています。このアプローチは、ユーザー満足度を維持しながらも、価格訴求によって新しい顧客層(若年層・低所得層)を取り込む狙いがあるとみられます。

Amazonの低価格戦略、欧州全体へ波及か

Haulは、2024年に英国・ドイツで先行展開され、スペインが3か国目となりました。Amazon内部では、イタリア・フランスへの展開も検討されており、欧州全域でのHaulブランド定着が視野に入っています。特に、欧州委員会がTemuやSHEINへの規制強化を検討している今、Amazonは「安全で合法的な代替先」としての立ち位置を確立しようとしています。

この流れは、ECプラットフォームの再編を促す可能性があります。かつては高価格帯・プレミアム路線に注力していたAmazonが、再び「低価格戦略」を全面に押し出すのは異例です。ただし、単なる値下げではなく、ブランド信頼を維持したうえでの“安心型ディスカウント”というのが、Amazon流の戦い方といえます。

スペイン市場での反応と今後の展開

スペインの消費者団体OCU(Organización de Consumidores y Usuarios)は、Haulの導入について「競争が活性化し、消費者の選択肢が広がる」と歓迎する一方で、「価格だけでなく持続可能性にも配慮すべきだ」との意見も表明しています。TemuやSHEINが批判される要因の一つに「大量消費・低品質・環境負荷」があり、Haulがこれにどう対応するかが注目されています。

Amazonは今後、Haul内に「サステナブル商品」や「ローカルブランド支援」カテゴリーを設ける構想も検討しているとみられます。また、Prime会員向けの限定割引や送料無料ラインの引き下げなど、Haulとの連携施策も順次導入される見込みです。

欧州のEコマース市場では、安さだけでなく「信頼できる安さ」が新たな価値基準になりつつあります。Haulはその象徴的な存在として、今後の市場動向を大きく左右する可能性があるでしょう。

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