
年末年始は、EC事業を行う上で一年の中でも最も需要が高まる時期です。ギフト需要、ブラックフライデーを始めとした年末の駆け込み購入、年明けの初売り・セールなど、売上の最大化を狙う大きなチャンス。特にアパレル、食品、生活雑貨などシーズン性の高い商材ではこの時期の売上が1年の数割を占めることも珍しくありません。
その一方で、多くの事業者が頭を悩ませるのが「配送遅延」です。物流現場では出荷が極端に集中するうえに、休業日が増えることで通常時よりも配送キャパシティが縮小します。大手小売のブラックフライデーの影響から既に一部の配送会社では遅延が発生しているというニュースも出始めています。さらに冬季は悪天候が多く、雪による道路規制や航空貨物の遅延が発生しやすくなります。これらの要因が重なり、”普段通り”のリードタイムでのお届けが実現できなくなるケースが増えます。
だからこそEC事業者は、売ることだけでなく、顧客の手元に期待通り届けるためのコミュニケーション設計が求められます。他の事業者がセールをすることや、その結果荷物が増えることで配送会社のキャパシティを超えて起きる遅延を防ぐことまではコントロールできません。しかし、配送トラブルが起きる可能性を前提とし、事前にしっかりと情報提供や調整を行うことで、注文後の顧客の不安や不満を最小化できるのです。
以下に、年末年始の発送を成功させるための実践的なポイントを整理します。
西尾 浩紀
株式会社CAPES 代表取締役
大学卒業後、ジュピターショップチャンネル、アビームコンサルティングを経て2015年モノタロウ入社。モノタロウではAGVピッキングシステムを始めマテハン設備を多数導入した国内最大規模の9万㎡の平屋建て物流センター立ち上げプロジェクトのマネージャーとして、業務プロセス設計から、総務・労務業務設計やスタッフ採用計画に至るまでの多岐に亘る業務設計をリード。センター稼働後はセンター長としてセンターマネジメントを実施。2018年株式会社CAPES設立。スタートアップから中小、大企業まで企業規模・ステージを問わず幅広く対応してきた実績を有する。特に自動化設備の導入・運用に関する豊富な知見を有し、EC物流の構築、物流センターの立ち上げ支援を得意とする。
企業HP : https://capes.jp/
X(旧Twitter) : https://twitter.com/nishio240_jp
出荷計画の策定
まず取り組むべきは、販売と物流の連携です。この販売と物流の連携というのはまだまだうまくできていない、あるいは仕組み化できていない事業者さんが非常に多いのが現状です。販売と物流を連携させる上では、まずはセールのタイミング、想定売上、日々の注文数やピーク日を明確にし、販売・マーケティングの担当者は必ず物流担当者と早い段階で共有しましょう。売上を作る施策と物流キャパは表裏一体。どちらかが欠けると機会損失やクレーム増加を招きます。
物流側は受け取った情報をもとに、以下の準備を進めます。
- 売上予測金額の物量換算・物量予測
- シフト調整や残業計画の立案
- パート・アルバイトスタッフの早期確保
- 梱包資材の適正在庫確保
- ギフト繁忙への体制強化(ラッピングなど)
特に人材確保は直前では間に合いません。最近ではすっかりタイミーで人材手配をされる企業が増えてきていますので、スポットの労働力確保のリードタイムは短縮され、手配も容易になったとはいえ年末は取り合いになります。12月は世の中的にイベントや休暇取得が増えるので早めの人材確保が欠かせません。また、ギフト需要が高いカテゴリでは検品精度も重要になるため、教育時間の確保も意識する必要があります。さらに、年内到着の最終出荷日の設定や、年明けの稼働再開スケジュールとの整合性も忘れずに行う必要があります。特に年始、出荷開始のタイミングを見誤ると、年明け初出荷のタイミングで休暇中に入っていたオーダーを処理しきれず、顧客からの問い合わせやクレームを発生させることにつながるので要注意です。
物流パートナーとの共有
販売情報の共有は物流部門だけでなく、物流会社や配送会社とも連携していくことが年末年始成功の重要要素です。ヤマト、佐川、日本郵便などは毎年この時期、集荷制限や時間指定不可エリアの拡大が発生しやすくなります。
事業者側が行うべきことは次の通りです。
- 物量予測(日毎の出荷件数・行数・Pcs数)を早く共有する
- 大型商品や冷蔵・冷凍品の配送可否の最新状況の確認
- 天候による遅延可能性を事前に把握
年末年始は車両の確保が何よりも重要です。早めに物流会社・配送会社に情報連携をして自社の荷物を確実に積み込んでもらえる体制を整えていきます。特に配送会社は情報共有が遅れれば遅れるほど対策が取れず、結果的に事業者自身が困ることになります。「早い連携は確実な配送と信頼確保につながる投資」と考えましょう。
顧客とのコミュニケーション
物量を策定し、ステークホルダーと共有することを中心としてどれだけ万全の準備をしても、遅延リスクはゼロにはできません。だからこそ顧客への情報提供が欠かせません。顧客への情報提供はサイト上での表示を中心に行っていきましょう。
ECサイト上で明記すべき内容
- 年内の最終出荷日の案内
- 年末年始の配送遅延可能性
- 休業日・配送再開予定日の案内
- 商品ページごとのリードタイム表示
- 荷物の問い合わせに関する窓口や連絡先情報
特にギフト注文やおせちは「渡す日」が明確に決まっているため、確実に間に合う購入期限を強調することが大切です。また、問い合わせを減らすためのFAQ整備も大変有効です。
「いつ届きますか?」というお届けに関する問い合わせ数は、繁忙期に最も増える項目です。事前に顧客の不安を解消できれば、CS負荷も軽減し、品質の高い応対が維持できます。顧客の不満は「遅れること」そのものではなく、「知らされていなかったこと」「問い合わせがパンクして返信がないこと」に向けられることを忘れないようにしましょう。
まとめ
年末年始は、EC事業者にとって攻めと守りのバランスが求められる時期です。早めの計画と準備、物流パートナーとの緊密な連携、そして顧客への誠実な情報提供を行うことで、配送トラブルを最小化できます。「売るだけでなく、確実に届けることで顧客の信頼を獲得できる」。それが年末年始物流対策の本質です。短期的な売上を追うだけでなく、翌年以降のリピーター獲得にも繋がる重要な機会といえます。ぜひ今から準備を進め、顧客にとっても企業にとっても気持ちのよい新年を迎えられるようにしていきましょう。
▼株式会社CAPES
https://capes.jp/
あわせて読みたい















