Airbnbの評価指標活用術に学ぶ!ECブランディングの効果測定(KGI/KPI/NSM/OKR)【EC業界におけるブランディング 第9回】

「ECブランディングを本格的に始めたけど、なかなか成果が測りにくくて...」「この施策は本当に効果があるのだろうか?」このような悩みを抱えていませんか?

ブランディングは感覚的な要素が強いため、その成果を客観的に評価することが難しいと感じるEC事業者は少なくありません。本記事では、KGI/KPI、NSM、OKRといった評価指標フレームワークの活用法と具体的な実践ステップをご紹介します。

「なんとなく」のブランディングを卒業し、データに基づく効果的なブランド構築への第一歩を踏み出しましょう。

この記事の執筆者

山本 達巳
つきみ株式会社

静岡市出身、関西学院大学卒。地元医療系の企業で修行後、父親の経営する医療介護系企業に入社。経営とバックオフィス業務を学ぶ傍ら、留学がきっかけで以前から関心が高かった輸入品雑貨のネット販売事業を開始。令和元年に独立し、複数の海外メーカー取引きの経験を経て、自社アウトドアブランドを展開。

その後、自社ブランドを伸ばしていきたい事業者を応援したいという思いから、令和6年につきみ株式会社を設立。商品ページ作りや広告運用、SNSなどECに関係する領域を幅広く対応しつつ、商品ブランディング支援を行っている。

つきみ株式会社
https://tsukimi.ne.jp

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第1章:なぜECブランディングに評価指標が必要なのか

ECのブランディングに力を入れている多くの事業者が直面する課題が「成果の測定」です。魅力的なデザイン、こだわりの商品紹介、丁寧な情報発信。これらの取り組みが「ブランド価値の向上」や「事業成長」にどれだけ貢献しているのか、具体的に把握することは容易ではありません。

「サイトの雰囲気が良くなった気がする」「お客様からの反応が良い」といった手応えも大切ですが、ビジネスである以上、投下したリソースに対する成果を客観的に評価し、次のアクションを決定する必要があります。

「測れないものは管理できない」という言葉があります。ブランディングという抽象的な活動も、適切な評価指標を設定することで、初めて戦略的に管理できるようになるのです。

ここでプロダクトマネジメントの視点を取り入れてみましょう。著書『プロダクトマネジメントのすべて』では、ECを含むデジタルプロダクトは「顧客価値の最大化」を目指すべきだと説かれています。

ブランディングもその重要な一部として、「顧客にどのような価値を届けたいか」「その価値が実際に届いているか」を客観的に問い続ける姿勢が求められます。(出典:プロダクトマネジメントのすべて)

ECは、オフラインビジネスと比較してデータ収集が容易です。アクセス数、回遊率、購入率、リピート率など、顧客行動を詳細に把握できる環境があります。これらのデータを活用し、ブランディング施策が顧客行動や認識に与える影響を「見える化」することで、より効果的なブランド構築が可能になります。

評価指標を設定する意義は、単に「効果を測る」だけではありません。組織全体が同じ目標に向かって進むための「共通言語」を作ること、そして「何が重要か」を明確にすることでリソースの最適配分を実現することにもあります。

第2章:ブランド構築を支える3つの評価指標フレームワーク

評価指標の重要性を理解したところで、具体的にどのような指標を設定し活用すれば良いのでしょうか。ここでは、EC事業者が活用できる代表的な評価指標フレームワーク「KGI/KPI」「NSM」「OKR」を紹介します

KGI/KPIフレームワーク:最終目標とプロセスの明確化

最も基本的なのが「KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)」と「KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)」です。

KGIは最終的に達成したい「ゴール」を定量的に示した指標です。ECブランディングにおけるKGIの例としては、「ブランド認知度30%向上」「ブランド経由売上100万円/月」「顧客ロイヤルティ(NPS)10ポイント改善」などが考えられます。

KPIはそのゴール達成に向けたプロセスが順調に進んでいるかを測る「中間指標」です。例えば、KGIが「ブランド認知度向上」であれば、「Web広告表示回数」「SNSエンゲージメント率」「ブランド関連記事掲載数」などがKPIとなります。

NSM(North Star Metric):顧客価値を示す北極星

「NSM(North Star Metric:北極星指標)」は、特にプロダクトマネジメントの世界で重視される考え方です。NSMとは、そのプロダクト(EC)が顧客に提供している「本質的な価値」を最もよく表す、単一の最重要指標のことです。

優れたNSMは、「顧客価値を反映し」「ビジネス成果に繋がり」「先行指標であり」「測定可能でわかりやすい」という特徴を持ちます。ECのNSMは、そのサイトが顧客に提供する独自の価値によって異なります。

例えば、「欲しいものがすぐ見つかる」という価値を提供したいECなら「検索成功率」や「検索からの購入率」「安心して買い物できる」、価値を重視するなら「商品レビュー投稿数」や「問い合わせ解決率」などがNSMの候補となります。

組織全体が一つの指標を追いかけることで、プロダクトの本質的な成長を実現可能となります。

OKR:組織を前進させる目標設定フレームワーク

「OKR(Objectives and Key Results:目標と主要な結果)」は、Googleなど多くの革新的企業が採用する目標設定・管理フレームワークです。

OKRは「Objective(目標)」と「Key Results(主要な結果)」から構成されます。Objectiveは達成したい定性的で野心的な目標で、Key Resultsはその達成度を測る定量的で具体的な指標(通常3〜5個)です。

OKRの特徴は、達成率100%を目指す必達目標ではなく、少し背伸びした「野心的な目標」を設定する点にあります。これにより挑戦を促し、大きな成果を狙います。

ECブランディングでのOKRの例:

Objective: 熱狂的なファンコミュニティを形成し、ユーザー生成コンテンツを活性化させる

Key Results:

  1. コミュニティのアクティブ参加者数を500人にする
  2. 月間ユーザー投稿数を100件まで増やす
  3. ユーザー投稿経由のサイト流入数を前月比30%増加させる

ジョン・ドーア氏の著書『Measure What Matters』では、「OKRの本質は、組織の透明性と連携を促進し、全員が同じ方向を向いて前進することにある」と説明されています。(出典:Measure What Matters: 伝説のベンチャー投資家がGoogleに教えた成功手法OKR)

第3章:Airbnbに学ぶブランド体験と指標設定の実践

具体的なイメージを持つために、「Airbnb」の評価指標を活用したブランディングの成功事例から学びましょう。

(出典:airbnb公式ホームページ)

「Belong Anywhere」体験を測る指標戦略

Airbnbの成功の核心には、「Belong Anywhere(どこにでもあなたの居場所がある)」というブランド哲学があります。単なる宿泊予約サービスではなく、旅行者がその土地の文化に触れ、現地の人々と繋がることができる「体験」こそが彼らのユニークな価値提供でした。

では、この「体験」という抽象的な価値をどう測ったのでしょうか?初期のAirbnbがNSM(北極星指標)として設定したのは「予約された宿泊数 (nights booked)」でした。

この指標を選んだ理由は明確です。「予約された宿泊数」は、ホスト(家主)とゲスト(旅行者)双方にとって価値が生まれる瞬間、つまりAirbnbならではの体験が実際に提供された瞬間を最も的確に捉えていたからです。単なる登録ユーザー数やリスティング(部屋)数ではなく、実際の「価値交換」を示すこの指標を追いかけることで、組織全体が一つの方向を向いて成長することができたのです。

指標の進化:体験の「質」への注目

プラットフォームが成長するにつれて、彼らの指標も進化しました。規模が拡大するにつれ、単なる宿泊の「量」だけでなく、提供される体験の「質」を測る指標も重視されるようになったのです。

ホスト側の指標としては、ゲストからの評価点数、レスポンス率、スーパーホスト率などが重視されるようになりました。ゲスト側では、リピート予約率、平均滞在日数、ウィッシュリスト登録数などが追加されました。これらの指標を組み合わせることで、プラットフォーム全体の健全性を保ち、ブランド体験の質を高める努力が続けられたのです。

また、Airbnbは顧客体験を定性的に理解するために、ユーザーリサーチやインタビューにも積極的に投資しました。定量指標と定性的な顧客の声を組み合わせることで、数字だけでは見えないブランド体験の機微を捉え、改善に活かしていったのです。

ECブランディングへの応用:あなたのNSMは?

Airbnbの事例から学ぶべきは、自社が顧客に提供したい「独自のブランド体験」を明確にし、それを測るための適切な指標(特にNSM)を設定することの重要性です。

これはECにも当てはまります。あなたのECは、顧客にどんな体験を提供したいですか?「運命の一品との出会い」「専門知識による安心感」「エシカルな選択」「仲間との繋がり」など、まずは独自の「体験価値」を定義してみましょう。

そして、その価値が顧客に届いているかを最もよく表すNSMは何かを探求します。それは売上やCVRだけではないかもしれません。「検索成功率」「レビュー投稿率」「レコメンド経由購入率」「コミュニティ投稿数」など、提供価値によって注目すべき指標は変わるはずです。

Airbnbが「予約された宿泊数」を北極星としたように、あなたのブランド体験の核心を示す指標を見つけ、チームで追いかけること。それが、データに基づいたブランディング戦略を力強く推進する鍵となります。

第4章:評価指標を設定・活用する3ステップ

ここまでの理解を踏まえ、あなたのECで明日から実践できる評価指標導入の具体的なステップをご紹介します。

ステップ1:ブランドの本質的価値を定義する

まず、あなたのECが顧客に提供したい「独自の価値」は何かを明確にしましょう。それは「専門性の高い商品知識による安心感」かもしれませんし、「ライフスタイル提案による新しい発見」かもしれません。

価値が明確になったら、その価値が届いているかを最もよく示す指標(NSM候補)は何か、チームで話し合い、洗い出してみてください。このプロセスでは、顧客の声を直接聞く定性調査も非常に有効です。

ステップ2:目標と道筋を設定する

次に、ステップ1で見えた価値や事業目標を踏まえ、具体的な「ゴール(KGIやOKRのObjective)」を定めます。目指す姿を明確にし、その達成度を測るための「主要な結果(KPIやOKRのKey Results)」を設定しましょう。

指標設定のポイントは以下の通りです:

  1. 指標の数を絞る:最初は3〜5個程度に限定し、本当に重要なものだけを選びましょう。
  2. 計測可能なものを選ぶ:曖昧な指標ではなく、明確に数値化できるものを選びます。
  3. 行動に繋がるものを選ぶ:指標を見て「次に何をすべきか」がわかるものが理想的です。
  4. バランスを考慮する:短期/長期、定量/定性、先行/遅行指標のバランスを考えましょう。

指標は使わなくては意味がありません。見やすく、全員が常に目にできる場所に掲示することをおすすめします。

ステップ3:計測・分析・改善のサイクルを回す

指標を設定したら、定期的に「計測」する仕組みを作り、データを取得します。Googleアナリティクスやマーケティングツールなどを活用し、可能な限り自動化しましょう。

次に、データを「分析」し、施策の効果や課題を読み解きます。単なる数値の上下だけでなく、「なぜそうなったのか」という原因分析が重要です。定期的なレポーティングの場を設け、チームで分析結果を共有しましょう。

そして、分析結果から次のアクションを考え、「改善」を実行します。PDCAサイクルを高速で回すことで、ブランディングの効果を継続的に高めていくことができます。

計測・分析・改善のサイクルこそがプロダクト成長の原動力であり、一度設定した指標も定期的に見直すとより効果的に機能します。

まとめ:指標はブランド育成の羅針盤

評価指標を設定することは、ECブランディングの「終着点」ではなく「スタートライン」です。指標があることで初めて、データに基づいた戦略的なブランド育成が可能になります。

最初から完璧な指標設計を目指す必要はありません。まずは自社の本質的な価値を見つめ直し、それを測る最も重要な指標を定めることからスタートしましょう。そして、計測と改善のサイクルを回し続けることで、指標自体も進化させていくことが大切です。

「測れないものは管理できない」という言葉の通り、評価指標という羅針盤を持つことで、感覚頼りのブランディングから脱却し、顧客の心に確実に届くブランド構築への道を歩み始めることができるはずです。

次回は「ロイヤリティ」をテーマにお話しさせていただきます。

つきみ株式会社 https://tsukimi.ne.jp/

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