生成AI機能の企画・開発に注力するYahoo!ショッピング!専門集団「AIタックル室」の取り組みと事例を紹介

生成AI技術はここ数年で急速に進化しており、さまざまな分野で新たな可能性を生み出しています。

使われ方の代表例として文章の要約や翻訳、アイデアの壁打ちなどがありますが、実は生成AIができることの幅は非常に広く、日々の業務を効率化するだけに留まらず、これまでにない体験や価値の提供に繋がるものだと思っています。

Yahoo!ショッピングにおいても、生成AIの活用にはかなり力を入れており、2024年4月には「AIタックル室」という生成AIの専門チームを発足しました。本コラムでは、「AIタックル室」が担う役割と、実際の開発事例についてご紹介します。

この記事の執筆者

市丸 数明
LINEヤフー株式会社

ベンチャー企業でのエンジニア経験を経て、2014年にヤフー株式会社へ入社。入社当初からYahoo!ショッピングに携わり、レビューの強化などを担当。インセンティブやCRMを中心とした顧客育成のプロダクト企画・開発に携わりながら、2024年4月より同事業部内に「AIタックル室」を立ち上げ室長に就任。Yahoo!ショッピングにおける生成AI機能の技術責任者として企画・活用推進を一手に担っている。

発足の経緯

「AIタックル室」には、2025年3月現在、11人のメンバーが所属しています。AIの専門人材はおらず、元々「Yahoo!ショッピング」で企画やエンジニアとして働いていた社員による有志から始まった組織です。

この11人は皆、「生成AIを活用して課題解決に取り組みたい」という思いを持って集まりました。生成AIという技術自体は2022年の終わりごろから注目され始めたため、AIタックル室の発足以前も、「Yahoo!ショッピング」内でどのように業務やサービスに組み込めるかを検証したことはありましたが、なかなか前に進みづらかったのが正直なところです。その理由として、大きく以下の3点が挙げられます。

  1. 先行事例が少なかった
    先に述べたような、文章の要約やアイデアの壁打ちなどは代表的な使い方として知られていますが、「コマースサービスでの活用」という観点では現在も含めまだまだ事例は多くないため、そもそもどのようなアウトプットになるのかなど、企画のイメージをゼロから考える必要がありました。

  2. ナレッジやノウハウの分散
    Yahoo!ショッピングでは、各機能や季節の販促ごとに担当者が分かれています。生成AIはできることの幅が広い分、サービス内でもさまざまな活用アイデアが生まれやすいのですが、それを考える担当者が毎回変わるとなると、ナレッジやノウハウが貯まりづらいのが課題になってきます。また通常の機能で常に生成AIを使った企画を考え続けるというわけでもないので、一度使ったことがある人でも、次に使うまでに期間が空いてしまうと、どうしても忘れることも出てきてしまいます。

  3. リスクや法的観点でケアすべきところも多い領域
    生成AIを取り巻くルールや法律は、まだまだ未整備な部分も多いです。便利で革新的な技術だからこそ、利用者を守るために、使い方は慎重に判断しなければいけません。

これらを解決するために、組織内に専門チームを発足しようという運びになり、「AIタックル室」が正式に誕生しました。タックルは「課題に取り組む」という意味があり、これからさまざまなことにトライして生成AI活用の道筋を切り開いていく私たちにとってぴったりだと思い、この名前を付けました。ただキャッチーなだけでなく、このネーミングのおかげで、「Yahoo!ショッピングの中で生成AIに困ったらこの人たちに相談しよう!」という想起にもだいぶ早い段階で繋がった実感があります。他事業部の方からの認知も得られやすいので、覚えやすさは大事ですね。

また我々は「AIタックル室」という名称ではありますが、すべてを無理に生成AIで解決しようというわけではありません。あくまで目の前の課題を解決するための1つの手法として生成AIが使えるのではないか?という視点で取り組んでおり、あえて生成AIを使わずとも解決できる場合には、他の部署と連携してプロジェクトを引き継ぐこともあります。

AIタックル室の役割

AIタックル室では、主に以下の業務を担っています。

  • Yahoo!ショッピングにおける生成AI機能の企画/開発
  • LINEヤフー全社の生成AI組織との連携
  • 事業部内へのナレッジシェア、生成AIスキル底上げのサポート

AIタックル室とは別に、LINEヤフーでは、「生成AI統括本部」という全社横断の生成AI専門部署があります。生成AI統括本部では、社内向けの生成AIツールの開発や、全社的な生成AI利用におけるガバナンス・倫理観点でのルール整備のほか、我々のような事業サイドと連携し、各サービスでの生成AI活用推進を行う役割を担っています。AIタックル室は前述のとおり、元々AIに深く携わってきた人材がいるわけではないのですが、全社の専門チームと密に連携をとれていることで、利用者が安全安心に使える状態を整えた上で機能を実装できる環境をつくれています。

また我々AIタックル室のメンバーだけが生成AIに精通すればいいというわけではもちろんありません。Yahoo!ショッピングに携わるすべてのメンバーが、生成AIを使いこなせるようになるために、事業部内への定期的なナレッジシェアや、相談窓口の開設なども行っています。

事例:「おトク日提案機能」の開発

ここで一つ、実際の開発事例をご紹介します。AIタックル室で開発する機能には特に縛りはなく、社内向け・社外向けにさまざまな企画を考えているのですが、今回お話するのは今年2月にリリースしたばかりの「おトク日を提案する機能」です。

「Yahoo!ショッピング」では、ユーザーにおトクにお買い物を楽しんでいただくために、さまざまなキャンペーンを行っています。定常的に行っているものもあれば、季節限定で開催するものなど、日によってポイントの付与率が異なるため、これまではいつどのキャンペーンが行われているのかをチェックしてお買い物しなければいけませんでした。

今回リリースしたこの機能は、ユーザーが商品画面上に表示される専用ボタンを押すと、直近7日以内でよりおトクな購入日を提案するというものです。対象ユーザーが、LINEヤフーの会員制サービスである「LYPプレミアム」の会員であるかどうかや、購入を検討している商品カテゴリーに基づいておトクな日を分析するため、一人ひとりに合わせた提案が可能になっています。

「Yahoo!ショッピング」では、これまでも商品ページ上で購入時のポイント付与率などを表示していましたが、本機能を活用することで、ユーザーはこれまで以上に効率的におトクな日を逃さずお買い物できます。

「Yahoo!ショッピング」では、これまでも商品ページ上で購入時のポイント付与率などを表示していましたが、本機能を活用することで、ユーザーはこれまで以上に効率的におトクな日を逃さずお買い物できます。

このポイント付与の計算自体は、生成AIがなくとも、従来組めるロジックで行うことができます。今回生成AIが使われているのは、「なぜおトクなのか」「今日買うべき理由は何なのか」「おすすめの理由」など、ユーザーにおすすめ日を提案するための文章を作成する部分です。生成AIが直近7日以内のポイント付与のロジックを理解し、瞬時に内容に合わせた文章を生成します。

ECモールに限らず、商品購入の意思決定には「選ぶ理由」が非常に重要であると考えています。ただロジックを組んで数字を並べるだけでなく、なぜこの日に買うことが良いかというのを説得力のある文章とともに提示することで、ユーザーが納得してお買い物をできることに繋がります。

現状はβ版として一部ユーザーのみが利用できる状態ですが、すでに一定の成果が見え始めています。おトク日の提案時に、生成AIによる解説を提示する場合と、解説なしでおトク日だけ見せる場合のパターンで出し分けのテストを実施しました。すると、生成AIによる解説が表示されるグループの方が、表示されないグループに比べて、約1.7倍の売上に繋がっていることがわかりました(※1)。引き続き状況を見ながら、徐々に提供規模を拡大していければと思っています。

※1:機能提供開始日の2025年2月18日~2025年3月4日時点での売上比較

さいごに

AIタックル室ではその他にも、商品のレビュー内容に基づいたレコメンド機能や、出店ストア向けには問い合わせ対応を行うAIチャットボット、社内向けにはLPを従来の3割ほどの工数で作成できる機能などを開発してきました。チーム発足から1年足らずで、15の機能を世の中に出せています。

もちろんそのすべてが大成功というわけではなく、失敗も多く経験してきており、いったん出してみたものの現在は提供を停止しているという機能もいくつかあります。

しかし、そのような失敗があるからこそ、さまざまな気づきが得られ、生成AIの可能性や面白さをますます感じています。どんどん進化していく生成AIという分野だからこそ、「まずやってみる」は非常に大事なのではないでしょうか。ぜひ、みなさんも積極的に”タックル”してみてください!

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