記事の概要

楽天市場・Amazonなどネットショップ運営代行をはじめ、モール通販を中心にECサポート・ECコンサルティングを行っているサヴァリ株式会社が運営するYouTubeチャンネル『ECの未来』では、ECに関わるさまざまな方をお呼びして、その方たちの得意ジャンルのお話をMCである株式会社柳田織物の柳田敏正さんと対談形式でお届けしています。

今回は、株式会社大都の代表取締役社長の山田さんに、「モノを売らずにコトを売る考え方」をテーマにお話いただく回をご紹介いたします。

【ゲストスピーカー】
山田 岳人さん
株式会社大都 代表取締役
工具や塗料などDIY用品のECサイト「DIY FACTORY

【チャンネルMC】
柳田 敏正さん
株式会社柳田織物 代表取締役
ワイシャツ専門店「ozie(オジエ)

社員の声が気づきに?方向性を示す「道しるべ」

柳田さん:若い人がどんどん入社して、活気のある会社にしていくために、どのようなことをやったのか教えていただけますか?

山田さん:2000年代初頭、ECで工具を販売し始めた頃は自然と売上が伸びていきました。しかし、2009年に初めて売上が頭打ちになり、次の手を考えた際にDIYにフォーカスすることに決めたんです。アイテム数が多い業界なので、商品数を膨大に増やし、いわゆるロングテールモデルで売上を拡大する戦略をとりました。

商品登録の効率化を図るため、中国にチームを作り、大量の商品登録を進めます。その結果、翌年から2年連続で売上が倍増しました。しかし、急成長の影響で現場が疲弊してしまいます。大量の注文に対応するため当時は自社で物流を運営していたこともあり、出荷業務が限界に達しました。毎日夕方になると、デザイナーや私自身も現場に入り、出荷対応に追われる日々が続きます。

このような状況の中、社員から「これが自分たちがやりたかったことなのか」「自分たちは何のために頑張っているのか」という声が上がりました。そして、会社の方向性を明確に示す「道しるべ」が必要だと指摘されます。

柳田さん:社員の方からの提案だったんですね。

山田さん:そうです。「何を目指しているのかわからない」との声を受け、いわゆるミッション・ビジョン・バリューの必要性を痛感します。そして、多くの本を読み、他社を見学しながら、自社があるべき姿を深く考えました。その中で生まれたのが、「ハッピートライアングル」というミッションです。

みんながハッピーになるビジョンの取り組み

山田さん:当時掲げたビジョンは、「つくる楽しさを未来につなげたい」でした。DIYを軸に事業を展開する会社として、このビジョンを実現しようと決めます。会社として、「どこを目指すか」「何を実現したいのか」「自分たちは何のために集まっているのか」といったことがしっかり決まらないと、戦略を策定することはできないでしょう。

このビジョンを具現化するための戦略があり、その戦略を実行するための組織が存在します。これらが一貫性を持ち、しっかりと道筋が揃っていなければ組織を強化しようとしても効果は得られず、戦略を考えるための土台も築けないでしょう。ビジョンをしっかりと定めることで、やるべきことが明確になるのです。

ミッションである「ハッピートライアングル」は、取引先、お客さん、私たちみんながハッピーになるビジネスを目指すという理念を表しています。そのため、取引先、つまり仕入れ先やメーカーとの関係性はものすごく大切にしています。例えば、「ベストパートナー賞」という制度を設け、毎月取引先の1社を表彰しています。表彰状は現場担当者に直接手渡しており、10年以上継続しています。

他には「パートナーズレター」と言って、取引先に対してメルマガを配信し、自分たちのことを知ってもらったり、年に1回開催する「DIY FACTORY TRYANGLE」というイベントでは、取引先や楽天、Amazonのようなパートナー企業をお呼びして、イベントを開催したりしています。そのイベントでは業績の発表と次の年の戦略を発表し、当社のことを包み隠さず知ってもらうのです。また、商品データベース自体もメーカーに全部開放しています。

柳田さん:まさに目的が決まって戦略が定まったからこそ、データベースを開放できたんですね。

山田さん:APIを活用して、取引先の在庫データをリアルタイムで取得し、ECサイトに反映できる仕組みを作りました。在庫数がわかれば、お客さんは問い合わせをする必要がなくなります。また、メーカーごとにID・パスワードを割り振って商品データベースにログインできるようにし、データを見られるようにしています。

柳田さん:ここまでの仕組みを作り上げるには、日頃からの信頼関係がものを言いますね。どれだけ素晴らしい仕組みでも、信頼がなければ協力を得るのは難しいのではないでしょうか。

山田さん:おっしゃる通り、取引先との信頼関係を築くことは非常に重要です。具体的な取り組みの一つに、EDI(電子データ交換)の導入にあたって、システムを無料で提供していたことです。取引先からは驚かれることが多かったですね。

他にも、信頼関係を重視する一環として、私たちはプライベートブランド(PB)を作らないことを宣言しています。株主からは「PBを始めればもっと利益を上げられるのになぜやらないのか」と指摘されることもあります。しかし、これはメーカーに対するリスペクトでもあり、業界に対するアンチテーゼでもあります。

実際、ホームセンターや大手EC企業がメーカーの売れ筋商品を模倣したプライベートブランド商品を展開しているのを見かけますが、メーカー側からすれば、それは決して嬉しいことではないはずです。

柳田さん:PBをやらないと判断したことで、メーカーの商品をどのようにお客さんに伝え、どう使っていただくかという方向に力を入れられたのですね。情報を出すためのコンテンツ作りなどにも取り組まれたのではないのですか。

山田さん:コンテンツ作りには非常に力を入れています。Googleで「DIY」と検索すると、一番上に「DIY FACTORY」が表示されます。こうした結果は、しっかりとしたコンテンツ制作が評価されている証拠です。ECの世界が面白いのは、中小企業にも大きなチャンスがあることです。

日本には売上が何千億円規模のホームセンターが数多く存在しますが、主要なECモールを見ても、DIYジャンルでは私たちが一番です。ECの世界は必ずしも大資本が勝つとは限らないのが面白いところです。私たちのやり方がそのまま他の業種に適用できるとは思いませんが、工夫次第で何でも可能になると感じています。

ビジョンを変えることはブレている?

柳田さん:全メーカーさんとAPIで在庫を繋ぐなど、普通の企業では難しい挑戦ばかりですね。その中でも、DIYをキーワードにしたことが大都の大きな転換点だったのではないでしょうか。もともとは「DIY FACTORY」という名前ではなかったと聞いています。

山田さん:はい、そうです。実は社名は2度変えています。最初は「卸問屋 都築屋本舗」という名前でした。「都築」は妻の旧姓で、結婚を機にその名前を屋号に残したかったんです。その後、「DIYツールドットコム」に変更し、「DIY FACTORY」は後に出した実店舗の名前でした。

実店舗を持つと、認知の広がりが早いと実感しました。実店舗があるとメディアの取材が増え、それをきっかけにネット上での検索数も伸びていきます。そこで、ECサイトの名称も「DIY FACTORY」に統一したのです。

DIYと言っても、私たちは工具屋ではありません。お客さんは工具そのものを求めているわけではないんです。例えば、子供部屋を可愛くしたいと考えている方が、必要な塗料や電気ドリルを買いに来ます。よく言われる「ドリルを売るなら穴を売れ」という言葉の通りで、実店舗を持つことで気づかされました。工具をくださいと言うお客さんはいません。皆さん、「こんなことをしたい」と相談に来られるのです。

柳田さん:まさに、そうした場を提供しているのですね。ホームセンターが工具を買いに行く場所であるのに対して、「DIY FACTORY」は作りたい思いを形にする場所だと思います。型番の商品はどこででも買えますが、「DIY FACTORY」ではお客様の要望を叶える取り組みが一貫して行われているのですね。その積み重ねが「DIY」というキーワードで検索上位に表示される理由なのかもしれません。普通であれば、大手ホームセンターに検索順位で勝つのは難しいはずです。

山田さん:実は屋号だけでなく、ビジョンも途中で一度変えています。以前のビジョンは「つくる楽しさを未来につなげたい」でした。しかし、この言葉には「DIY=日曜大工」という限定的なイメージが伴っており、本来のDIYの思想とは異なるものでした。

DIYの本質は、自分たちの暮らしを自分たちで作り上げるという思想にあります。その語源はイギリスの第二次世界大戦後の復興スローガンで、「Do It Yourself」、つまり自分たちの町を自分たちの手で取り戻そうという意味が込められています。日曜大工ではなく、より深い理念を持つ言葉なのです。

ビジョンを変えることには「経営理念がブレている」と思われるリスクもあり、最初は抵抗がありました。しかし、既存のビジョンに縛られて視野が狭くなっていることに気づき、思い切って「らしさがあふれる、世界を。」という新しいビジョンに変更したのです。この新たなビジョンのもと、学校へのDIY出前授業やサイトでの作り方の公開といった活動を進めています。これらは直接的な収益にはつながりませんが、DIYという文化を広めることで、長期的にDIY人口を増やし、結果としてビジネスにもつながると信じています。

柳田さん:世の中の変化が早い中で、お客さんや社会のニーズも日々変わっていきます。理念を頻繁に変えるのはおかしいかもしれませんが、数年に一度見直すことは重要だと思います。理念を変えることで、お客さんにより寄り添った存在になれることもありますよね。

ミッション・ビジョン・バリューを設定し、未来を目指す

柳田さん:ハッピートライアングルにおける取引先は卸先にあたりますが、大都が問屋をしていた頃のことを考えると同業者といえますよね。

山田さん:そうですね。

柳田さん:こっぴどくやられてきた山田さんからしたら「お前らよくもあのときはやってくれたな」と思ってもおかしくないはずですが、今では手を取り合い、共に業界を良くしていこうとされているかと思います。

山田さん:そうですね。ECを始めた頃は「業界に風穴をあけてやる!」と意気込んでいました。しかし途中で、「自分たちが本当に目指しているのはこれなのか?」と自問自答するようになったんです。

そして、ミッション・ビジョン・バリューをしっかりと決めたことで、考え方が大きく変わりました。ホームセンターも私たちと同じくDIYを日本に広めてくれる同志であり、一緒に未来を目指すパートナーだと捉えられるようになったのです。

実は、私はこの業界に特別な興味があったわけではなく、跡継ぎとしてこの仕事を始めたので、最初から「これをやりたい」と思っていたわけではありません。それでも理由は後から付けても良いと思っています。

売上を伸ばしたり、利益を上げたりすることはもちろん必要です。ただ、「売上1,000億円を目指すぞ!」と言っても、それで社員が喜ぶかというと、そうではないと思うんです。喜んでいるのはおそらく経営者だけでしょう。

柳田さん:スタートアップ企業では、早い段階でミッション・ビジョン・バリューを決めることで最短距離を進むことができるでしょう。一方、後継ぎの場合、入社後に試行錯誤しながら、自分たちが良いと思ったことを形にしていくプロセスが重要かもしれません。理念が後からついてくることもあるとあるのではないでしょうか。

おわりに:顧客のニーズに即した方向に走れるMVV

ただの工具屋ではなく、お客さんが叶えたいニーズに応えられる商品を販売するお店としてミッションやビジョンを設定しているお話は非常に重要なことだと感じました。走る方向を定めて、戦略や組織形成の道筋を築いていくことが事業を着実に伸ばすための鍵になりそうです。

EC市場の真の発展に貢献をという想いで、「ECの未来」を運営しているサヴァリ株式会社は楽天市場・Amazonなどネットショップ運営代行をはじめ、モール通販を中心にECサポート・ECコンサルティングを行っています。EC運営に不安を抱えている事業者様は問い合わせてみてはいかがでしょうか。

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