
時代が大きく変動する今、マーケティングにおいても「勘」と「経験」だけでは限界があります。特に、グロースマーケティングを実践する上ではデータの重要性はますます増しています。蓄積されたデータは単なる数字以上の意味を持ち、事業戦略にどのように生かしていくかが鍵となるのです。
第4回目は、アパレル業界にてEC運用と店舗運営を経験した自身の過去から、顧客体験価値向上、売上拡大を目指すために見るべきデータについて解説しています。
麻野 宏史
株式会社DearOne
グロースマーケティング部 カスタマーサクセスユニット マネージャー
元外資系アパレルブランド出身。店舗マネジメントから、新規ブランドローンチ、リアル店舗の顧客データ活用から戦略立案を経験。2017年からEC業界へ。WEBサイト改善PDCA、OMO、ユニファイドコマースへの取り組みなど、データ活用支援と戦略立案、デジタル改革を推進。
DearOne入社後は、アパレルブランド、大手ゴルフサイトなどのAmplitudeの分析支援、分析示唆から具体的な施策シナリオの提案を行い企業のグロースを支援。
ユーザー行動分析に特化したツールAmplitudeの詳細
https://growth-marketing.jp/amplitude
この記事の目次
なぜ、データの持つ意味と正しいデータの使い方が重要なのか
早速ですが、皆さんが日々の業務で扱われているデータはどんなものがあるでしょうか?
- ソーシャルメディアデータ(SNS)
- マルチメディアデータ(動画、音声、画像)
- ウェブサイトデータ(行動履歴、購買履歴)
- カスタマーデータ(販促データ、会員データ)
- センサーデータ(位置情報、加速度、温度)
記載したものはごく一部ですが、日々社内にはデータがあふれています。まさにデータに溺れるような感覚です。私も以前、アパレルの店舗、本部、CRM、EC運用、施策設計運用とさまざまなところでデータと日々格闘してきました。
またコロナ禍以降、ユーザーの消費の場が店舗からECに大きく切り替わったことにより、OMO戦略、ユニファイドコマース、デジタルの体験価値向上という言葉を耳にするようになりました。このことから、単に売上向上のためのデータ活用ではなく、「シームレスな購買体験」や「一貫性のあるコミュニケーション」を通じて体験価値向上を目指すという視点のデータ活用が求められています。
では、現状多くの企業が行っているデータ活用と、体験価値向上のためのデータ活用にどのような違いがあるのでしょうか。私がECと店舗で、過去に行っていた分析の経験を交えてご紹介します。
当時EC運用時に私が見ていたデータ
EC運用をしていたときに見ていたデータは、以下のようなものがあります。
- トラフィックデータ(PV数、UU数、滞在時間など)
- 購買データ(購買商品、商品カテゴリ、販売数)
- キャンペーンの結果(広告、クーポン)
- コンテンツの効果(特集ページのPV数、SNSのいいね・シェア数)
当時は「どの特集ページのPV数が多いか」「どんなキャンペーンの効果が高いのか」など、コンテンツや広告でいかに流入や購買につなげるかという視点で分析・施策を行っていました。単に結果指標、購買したユーザーの動線をみて効率をあげるための施策ばかりを実行していたように思います。思うような成果がない場合は、新たな施策アイデアを練っては実行、練っては実行の日々でした。
当時店舗で見ていたデータ
一方、店舗で毎日お客様と接しながら本部から来る予算達成に向けて、戦略立案、実行するために見ていたデータとは…
- 他店舗、自店舗売上、購買点数、店舗の来客数(入り口のセンサーでカウント)
- 購買商品、商品カテゴリ、シーズン、ブランド店舗在庫数、販売数
- 従業員数、人件費、給料、評価基準、採用ニーズ、採用コスト
- キャンペーン情報、マーケティング企画
- 利益率、グロスマージン
これらの情報が本部から共有されていました。一見分析できそうに思えるデータが多いのですが、本部からの情報は共有が目的の数字であり、分析するためのデータではありませんでした。ただのレポートでしかなく、なぜその数字なのか?そのロジックがわからないため、数字を分析してもなかなか売り上げは作れませんでした。
EC、店舗の現場が本当に見るべきデータとは
前述の通り、多くのEC、店舗それぞれが見ているデータは、企業の売上に対して、施策に対してなど、ほとんどのデータが”企業目線”の結果報告のためのデータを担っているケースが多いということ。企業目線のデータを見ることが決して悪いわけではなく、売上や施策結果を把握する上で重要なデータであることに変わりありません。
しかし、企業の取り組みが対”ヒト”であり、ユーザーにより良い購買体験を提供するための施策をするには、”ユーザー目線”のデータも非常に重要です。特にECや店舗はお客様とコミュニケーションを取る第一線であるため、なおさらだと思います。
この視点が、私がグロースマーケティング*に関わるようになって気づいた大きなポイントでした。
*グロースマーケティングとは、サービスや製品の改善を通して顧客体験を向上させることで、ビジネスのグロースを目指すマーケティング手法です。
では、ECや店舗では、どんなデータが必要でどのようにPDCAを回すべきか?
それは「目の前のお客様の行動をデータとして蓄積し、可視化・分析すること」です。
ユーザーの行動をどれだけ可視化、分析し、施策改善、プロダクト改善、UI/UX改善に生かすことができるかが、OMO戦略や体験価値向上を目指す上で重要なデータ活用と言えます。
EC、店舗が行うユーザー行動分析とは
こう考えると、改善するべき数値はシンプルです。目の前のお客様に対してサービス、商品に満足してもらい買っていただくこと。ユーザージャーニーは下記のようなイメージです。
【ECの場合】
サイトに訪問してもらう → 商品ページを見る → カートに追加する → 決済する → 再訪問してもらう

STEP1 サイトに訪問してもらう = 訪問率
STEP2 商品ページを見てもらう = 閲覧率
STEP3 気に入ってもらいカートに追加してもらう = カート追加率
STEP4 決済してもらう = 購入率
STEP5 再訪問のきっかけ作り = リピート率
【店舗の場合】
来店してもらう → 商品を見る → 試着する → レジに並ぶ → 決済する → 再訪問してもらう

STEP1 店舗に入店してもらう = 入店率
STEP2 商品を手に取り試着してもらう = 試着率
STEP3 商品を比較して気に入ってもらう = 試着決定率
STEP4 レジに並んで、購入してもらう = 購入率
STEP5 再訪問のきっかけ作り = リピート率
みなさんご存じのそう、ファネルです。
例えば、購入率を上げるためには、カート追加率(気に入ってもらいカートに追加してもらう人)と試着決定率(商品を比較して気に入ってもらう人)を増やす必要があり、もし離脱している場合には離脱を減らすための施策を講じます。
ファネル自体、ECの場合は一般的なものですが、店舗と比べデータが豊富に取得できることから「新規ユーザー」「リピーター」など、ユーザーの属性データを掛け合わせ、さらに成果を出すための高度なファネル分析も可能です。
こちらの記事ではECサイトの高度なユーザー行動分析方法についてご紹介しています。
ロイヤルユーザー増に向けたデータの可視化、行動分析事例:グロースマーケティング戦略でロイヤルカスタマーを育成【第3回】
一方で、店舗のファネル分析はどのように行うのか?
店舗の入店率や試着率などの行動データのほとんどは、本部では管理していないデータです。それは、データ取得しにくいユーザーの行動だから。
だからこそ、店舗では、どういう年齢層がどの時間に、何を見て来店して、実際に興味を持って、何で悩んで、購入のきっかけは何か?そういった、定性的な観点からユーザーの行動をデータとして定義して集めることがアクションの実行にはとても重要です。結果として、どのくらい購入して、それがどのくらいの人数いたか?他店舗と比較して良し悪しを判断します。
店舗のユーザー行動を可視化するとなると、難易度は上がり、設備投資や開発が伴うものですが、一部の外資系アパレル店舗などでは、入り口のセンサーや店内のカメラで入店数をカウント、試着数をカウントし試着率を算出するなど、積極的に店舗のお客様の行動データを取得し分析に活かすという取り組みも進んでいます。
ECと店舗の行動データは、統合して使うことも可能です。統合により、ECで購入したものを店舗で受け取る、店舗での購入履歴に合わせて最適な商品をECでレコメンなど、まさに今求められるOMO戦略の実現が可能となります。
データの可視化で多くの企業が抱える課題
すごく理想的な話に触れましたが、データ分析・データ活用には障壁があることも事実です。
冒頭で触れたOMO戦略を推進する企業は増えていますが、現実は難しく、未だ大半の業務は報告レポートのためにあるデータが多いため、OMOにはどんなデータが必要でどのように扱うべきかわからない、企業の戦略だけが先走りしていき実際に扱うデータの中身は変わらない、変えられないというケースが多々あります。
なぜデータは変わらないのか?
- データに一貫性がない
- 部署ごとにKPIがバラバラ
- KBF(購買決定要因)、KSF(重要成功要因)などの分析がされずアクションが先行する
そのほかにも考えられる理由はたくさんあるかと思います。
また、OMOやデジタルの体験価値向上を実現するようなサービスや取り組みのツール導入は進めるものの、データがサイロ化していくケースが多くあります。
ツールを導入した部門内で情報が閉じてしまい、他部署への情報共有が少なく、実際の戦略に生かせていない。せっかく高いツールを導入したものの、データを共有する仕組みがなく、活用するメリットが伝わっていない。理由や課題はたくさんあります(あまり生意気なことは言えませんが……)。
結論、データ活用を進めるためには、
- データ活用のイメージ、戦略設計が必要
- データ共有の仕組み化が必要
ということです。
データをためている企業は多いですが、うまく活用できている企業は意外と少ないものです。データを”活用”まで持っていくためにやるべきことに関連する記事がありますので、気になる方はこちらをご覧ください。
ユーザー行動分析のためのデータの可視化と使い方
データ活用する観点で、必要な人に必要なデータが渡せているか?はとても重要です。データを戦略実行に生かすために必要な4つのポイントです。
- データを施策実行に容易に扱える形に変換できるか。
- 施策実行の示唆が出せるデータが揃っているか。
- データを分析しやすい形にし、量も適切に共有することができるか。
- 戦略実行に関わる人材に行き届く場所にデータを保管できるか。
上記の流れがどこかで切れてしまうとユーザー行動分析は難しく、適切な内容で適切な量の施策実施は難しいと感じます。データを可視化して正しく使うためには、以下のシンプルな流れが極めて重要です。
データをためる → データを整える → データを分析する → データをつかう

この4ステップについては、マーケティングの変化と今後欠かせない要素:グロースマーケティング戦略でロイヤルカスタマーを育成【第1回】で詳しく解説しています。
最後に:ユーザー行動分析の重要性
新しいチャレンジ、新しい領域、新規事業に携わる人。そうでなくても、新しい施策、結果を出したいと思う人、たくさんいると思います。
現在、多くの企業が次々とサービスをリリースしていく中で、ユーザーの行動を可視化し分析する、その結果を施策やプロダクトのUI/UXの改善にどう活用していくかが、現代の企業に求められている重要な課題だと認識しています。
体験価値向上、売上拡大を目指すなら、伝えたいコンテンツ、訴求したい商品、サービス、それらは企業目線ではなく、ユーザー目線であるべきだと日々私は思います。
本記事ではユーザー行動データの可視化やその分析について触れましたが、DearOneではユーザー行動分析に特化したツールの提供や分析支援を行っております。詳しくはこちらをご覧ください。
ユーザー行動分析に特化したツールAmplitudeの詳細
https://growth-marketing.jp/amplitude
DeraOneへのお問い合わせはこちら
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