ECなのにエリア限定で販売?専門店ならではの大川家具の地域密着型サービスとは
インタビューの概要

株式会社大川が運営する大川家具は、埼玉を中心に実店舗を構える地域密着型の家具&インテリア専門店です。1962年の創業以降、地域への定着を第一に考え店舗運営を行ってきました。そんな大川家具のECサイトも、埼玉などの地域限定で販売と配送しています。

実店舗と違い、商圏に制限がないのがECのメリットと言われる中で、なぜ大川家具はECサイトを運営しているのでしょうか。大川家具のEC担当者にお話を伺いました。

エリア限定だからこその配送料とアフターサポート

――ECサイトをエリア限定で立ち上げたのはなぜですか?

理由のひとつが配送料です。家具はサイズが大きく、組み立てを要するものもあるため、玄関まで届けて終わりというわけにはいきません。ある程度家具の知識がある人が届けて、なおかつお部屋の中に入って組み立てをして、お客様が要望しているスペースに設置する必要があります。時間と手間がかかり、技術も必要で、高額になるんです。

その点、弊社が契約している運送業者さんは、弊社の店舗があるエリアに限定して非常に効率よく回ってくださるので、お客様にご負担いただく配送料を抑えられます。これはエリアを制限しているからこそできることです。

もうひとつの理由が、エリアを制限することで、ご購入後のサポートができることです。家具は使う期間が長いので、サポートを受けられないことは、お客様にとって大きなデメリットになってしまいます。

このことは実店舗も同様です。実店舗でのご購入もほとんどが配送を伴います。そもそも弊社の場合、店舗に在庫がある商品は限られており、ほとんどの商品は、ご注文を受けて製造元から商品を取り寄せ、発送する形になっています。実店舗の場合、お客様が店舗で使い方やメンテナンス方法を確認なさったり、ご購入前に何度もご相談いただけたりするのも大きなメリットだと思います。

――実店舗を運営されるなか、ECサイトを始めたきっかけは何だったのでしょうか?

――実店舗を運営されるなか、ECサイトを始めたきっかけは何だったのでしょうか?

最初は実店舗の滞留在庫の消費が目的のひとつでした。実店舗では、お客様にアピールしたい商品、一番売れている商品が目につくところにあり、動かない商品、動きにくい商品の販売が難しいことが課題となっていました。それらの商品を、ECサイトによってお客様の目につくように販売したいと考えたのです。

ただ、ECサイト立ち上げからしばらくして、徐々に通常商品も掲載するようになり、滞留在庫を掲載することはなくなりました。滞留在庫だけではECサイトで利益を確保することが難しいという理由もありますが、そもそも滞留在庫が発生しにくくなったことが大きいです。

もともと実店舗のスタッフは滞留在庫を意識せずに販売していましたが、組織全体で意識付けを開始しました。ECサイトへの商品掲載も戦略の一部で、店舗で掲載写真を撮影する中でも、滞留在庫を意識しやすくなったようです。加えて、ECサイトの立ち上げをきっかけに、組織全体としても滞留在庫を追いかけやすくなり、実店舗のスタッフが自分事と捉え、創意工夫をすることで商品が動くようになりました。

ECサイトのもうひとつの目的が、販売エリアのなかでも、見えていないお客様にアプローチすることです。たとえば、店舗の営業時間にお店に行くことができない、そもそも店舗があることを認知していないというお客様が隠れているだろうと考えました。

専門店だからこそできる、かゆいところに手が届くサービス

――エリア限定の強みを活かした地域密着型のサービスとして、具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか?

特徴的な取り組みとして、「修理アフターサービス」「出張採寸サービス」「家具移動サービス」などがあります。これらのサービスは、配達エリア内であれば、弊社でご購入いただいた方以外でもご利用いただけます。

大川の修理サービス
大川の修理サービス

まず、「修理アフターサービス」は、最初のお問い合わせが本部に入り、弊社でご購入いただいたものであれば、ほとんどの場合は店舗にサポートを頼みます。

最近は、弊社で購入したものではない家具のお問い合わせも多くなっており、それはECサイトで対応しています。お問い合わせのときに写真が添付できるので、製造元などの情報と合わせて、その段階で必要な修理の内容がわかる場合はある程度のお見積もりを出します。

一般的にはECサイトで購入した家具はアフターサービスがないものがほとんどです。弊社はECサイトがメインではなく、実店舗があってカスタマーサービスのセクションがあるため対応が可能なんです。

「出張採寸サービス」は、無料でご利用いただけるサービスです。店舗での依頼がほとんどで、まれにECサイトからお問い合わせのメールが入ることがあり、その場合は近隣の店舗をご案内するか、カスタマーサービスに頼んでお客様のお宅を訪問しています。

ご相談内容として多いのが、引っ越しの際のカーテンと壁面収納です。窓のサイズが変わり今までのカーテンが使えなくなったり、柱や梁が邪魔をしてお部屋のサイズに合う収納家具が見つからなかったりなど、ご相談を受けることが多いです。弊社であつかっている家具は細かいサイズオーダーができるものが多く、生活しやすい適切なサイズのご提案をできるのも強みだと思います。

大川の家具移動サービス
大川の家具移動サービス

「家具移動サービス」は、数年前から始めて、徐々にお問い合わせが増えてきています。お見積りは無料で、実際の移動に関しては出張料に加えて、動かす家具のサイズ・距離に応じた料金がかかります。

ご相談内容としては、たとえば、子どもが成長したので子ども部屋を二つに分けたい、足腰が弱ってきたので寝室を二階から一階に変えたいなど、生活環境が変化するタイミングでよくご利用いただいています。廃棄する大型家具を動かせない、二階から一階に移せないといったお問い合わせも多いです。最近では、家具や家電を新しいものに交換するときに、置いてあるところから出せない、搬入経路を確保したいといったお問い合わせも増えています。他のECサイトで購入した家具や家電が玄関渡しで自力では動かせないといったご相談もありますね。

大きなものを動かすというのは物理的に難しく、家屋や家具を傷つけてしまうこともあるので、専門家に任せたほうが安心だと思います。地域限定だからこそできるサービスだと思います。

家具は洋服のように頻繁に買うものではないので、いろいろな面でサポートできる体制があるのが、一番のサービスになると思います。お客様のかゆいところに手が届くようにしておくのが、専門店の強みになるのではないでしょうか。

お客様にも店舗にもメリットがある、実店舗とECサイトによる相乗効果

――お客様にとって、ECサイトがあるメリットはどのようなところだと思われますか?

営業時間に関係なく商品を探して、下調べができるというのはメリットとして大きいと思います。また、家具はサイズが大きく店舗に置ける商品の数が限られているので、いろいろな商品を比較するのが難しいものです

さらに、弊社のようにECサイトと実店舗を運営している場合、ECサイトをカタログとして使って下調べをしてから実店舗で購入することも、実店舗で商品を見て納得してからECサイトで購入することもでき、お客様の選択肢が広がります。ECサイトを立ち上げてから1年くらい経ってから、そういった相乗効果がうまく出てきました。

――実店舗のスタッフの方はECサイトをどのように活用していますか? また、ECサイトが立ち上がったことで、実店舗での接客で変化したことはありますか?

ECサイトの立ち上げ当初は、実店舗と売り上げの奪い合いになるんじゃないかという声もありましたが、来店したお客様から「ECサイトを見ただけではわからないから実際に見に来ました」といった声があったことで、ECサイトの役割に納得してもらえたと思います。追いかけているお客様の層が違うことなど、社内でも情報共有や説明はしていましたが、お客様からの声があったことが大きかったですね。

ECサイトで完結するお客様はECサイトに入ってそのまま注文につながる傾向があり、問い合わせが入ったお客様は95%くらい店舗で購入される感じです。問い合わせへの対応を店舗にお願いするときも、どんどんウェルカムな感じに変わっていって、うまくコミュニケーションが取れるようになりました。

全国対応、若い世代にも使ってほしいサブスクリプション

――大川家具では、サブスクリプション型のECサイトも運営されていますが、その立ち上げの背景や通常のECサイトとの違いなどをお教えください。

サブスクリプションは、対応地域を日本全国にしたのが一番大きなところです。

また、住宅をはじめて取得する若い年齢層にアプローチをしたいという目的がありました。家を買うというのは人生のひとつの大きなタイミングで、出ていくお金も膨大です。家具にもこだわりたいけれどお金がかかりすぎて難しい。でも良いものを選びたいと思っている方に対して、気軽に試せる価格で、気に入った場合は購入もできて、アフターケアもあるというサービスにトライしてみようという背景がありました。

サブスクリプションへのニーズはお問い合わせなどから感じていたのですが、主にアフターケアへの懸念から、スタッフ間でははじめ躊躇していました。ただ、やってみないとわからないということと、品揃えを限定すればできなくないだろうなどと徐々に不安が取り除かれました。

商品を限定することで、メンテナンスが必要な事態が圧倒的に少なくなります。経年劣化はありますが、サブスクリプションは最長3年間の利用なので、その間に修理が必要になるというケースはほとんどありません。

しかも、良い家具というのは全国に販売店があるので、お客様がお住まいの地域に弊社の店舗がなくても、その家具を扱っている販売店があれば、製造元と連絡を取ってアフターケアができる可能性があります。

サブスクリプションでは出張採寸サービスはできませんが、良い家具というのは全国に製造元が運営するショールームがあるので、購入前にお試しいただいたり、サイズ感をご確認いただいたりできます。しかもそこにはプロがたくさんいるので、きちんとした説明も受けられますし、お客様が図面を持っていけばサイズ感のアドバイスなども受けられます。

地域密着の専門店として、未来の選択肢を残していきたい

――今後、大川家具が目指していること、ECサイトで取り組まれたいことがあれば教えていただきたいです。

今取り組んでいることとしては、見えていない顧客に対して広告のターゲティングを明確にしていくことです。システム部と広告担当とEC担当とでタッグを組んで、外部の会社にも協力してもらいながら、インターネットというツールを使ってどこまで安価で幅広く広告を出せるのかというのを研究しているところです。その成果があったのか、ある雑誌の特集のなかで弊社のサブスクリプションサービスを「高評価!」と紹介していただきました。ここからより実績に結ぶ付く広告が戦略のひとつの柱になるように力をつけていきたいです。

また、地域密着の専門店だからこそできること、しなければいけないというサービスの部分にも継続して力を入れていきたいです。お客様の声や悩みをダイレクトに聞けるからこそ信頼していただいて、次につながることが多いので、これはなくしてはいけないところだと思います。利益が大きく出る部門ではありませんが、他のECの家具屋さんとの差別化になり、実店舗がある安心感という強みもあります。

そう思うのは、そもそも修理などに対応できる職人さんが少なくなっていて、受けたくても受けられなくなるかもしれないからです。安価なものを買って壊れたら新しいものに買い替えるという生活は、今はできていますが、地球規模で見れば絶対にノーという時期が来ますし、良いものをメンテナンスしながら長く使いたいというニーズは今後高まってくるだろうと思っています。自転車屋さんみたいに販売だけじゃなくてメンテナンスもするような個客とのつながりは、必要ではないでしょうか。

今のやり方にどこかでブレーキをかけて、別の方法を脈々と残しておかないと、なくなってゼロからでは難しいので、専門店が踏ん張らないとダメだと思っています。

▼大川家具のECサイト
・オンラインショップ:https://www.ohkawa-online.com/
・サブスクリプション:https://www.ohkawa-sub.com/

▼大川家具のHP
https://www.oh-kawa.co.jp/

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