
インタビューの概要
日本のECは頭打ち感があって越境ECを伸ばさないといけない状況ですが、なかなか進んでいないのが現状です。どこから始めたらよいのかわからないですし、商品が海外に売れるかどうかもわからない人が多いです。老舗通販サイトozieの柳田さんが越境ECをどのように考えて、どう取り組んでいるのかをお聞きしました。(※本取材は2024年7月に実施)
【コマースピック編集部より】
柳田さんと森野さんの対談は、記事とは別に動画も配信しています。文字数の都合などにより、記事では取り上げられなかったエピソードもあるので、あわせてご覧いただけたらと思います。下記ページからダウンロードできますのでぜひ!
この記事の目次
ECモールから始まったozieの越境EC黎明期

森野
今回のテーマは越境ECということで、皆さんご存じのozieの柳田さんにお話をお伺いします。越境ECは過去に何度もブームがあったのですが、柳田さんが越境ECを意識されたのはいつごろからなのでしょうか?

柳田さん
意識しはじめたのは楽天のグローバルマーケットですね。当時の翻訳だから今と比べると精度は低かったのですが、商品ページなどを英語や中国語に全自動で翻訳してくれたのが、ものすごくありがたかったんです。何もしていなかったのに月に数十万円売れていましたから。

森野
あの頃は本当に自動で海外に売れているイメージでした。売れていたのは、やはり体格が似ているアジア圏でしょうか?

柳田さん
そこはそうでもなくて、アメリカ、オーストラリア、シンガポール、香港、台湾が少し。中国はほとんど売れなかったですね。ただ、グローバルマーケットが2020年に終了してしまって、代わりになるものがないか?と調べてみたのが本格的に取り組み始めたタイミングでした。

森野
グローバルマーケットで売れていたので、本格的に取り組んだら海外でも売れるのではないか?ということですね。

柳田さん
楽天以外でも日本のAmazonが海外アメリカで売りませんか?というキャンペーンをやっていて、ページのテキスト翻訳サービスあったんですよね。僕としてもAmazonにあるデータをうまく使って売れるのであれば強力だなと思っていましたので、本格的にアクションを起こしました。
でも、こちらはぽちぽちしか売れないんですよね。今になって思えばわかるんですが、ローカルで使う言葉とかファッション用語の翻訳の精度が良くなかったんです。SEOで負けちゃったらAmazonでは売れないですよね。
でも、こちらはぽちぽちしか売れないんですよね。今になって思えばわかるんですが、ローカルで使う言葉とかファッション用語の翻訳の精度が良くなかったんです。SEOで負けちゃったらAmazonでは売れないですよね。

森野
ネイティブの皆さんが使う言葉と正しい翻訳は意味が違ってきますので、SEOの面から考えるとなかなか厳しい感じです…。当時は今と違って円高だったので、外国人の皆さんもシャツなどを日本から買うメリットはなかったですし。

柳田さん
100円から110円を行ったり来たりするぐらいでしたから、日本から買う理由はないですよね。その中でも面白い発見があって、売れていたのはシャツじゃなくてネクタイなどの服飾雑貨なんです。アスコットタイという首に巻くマフラーのようなネクタイとかですね。
越境ECに立ちはだかるローカライズの壁

森野
シャツの専門店でありながらも、売れていたのが服飾雑貨というのは面白いですね。シャツが売れなかったのは、やはりサイズの問題でしょうか?

柳田さん
そうですね。過去に楽天で買ってくれていた人が、同じシャツをずっと買ってくれたことはありましたが、サイズの問題が難しかったです。アメリカ人は体が大きいので、LとかLLのように表記が同じでも一回り大きいですから。
こんな調子でAmazonではなかなか売れなかったので、越境ECをどこまでやるのか?と考えて、やっぱりローカライズだと思ったんです。ここにどこまで踏み込めるかっていうのが、ポイントになると。
こんな調子でAmazonではなかなか売れなかったので、越境ECをどこまでやるのか?と考えて、やっぱりローカライズだと思ったんです。ここにどこまで踏み込めるかっていうのが、ポイントになると。

森野
ozieさんはコンテンツにこだわってページや動画などを作られていますから、そこをローカライズすると強みになるということですね。ただ、そのローカライズの費用ってかなりな大きなものになりそうな気がします。

柳田さん
言語をどこのするのかを決めるだけでも大変ですよね。英語はもちろん、フランス語があったほうがよさそうだし、台湾の人も見てそうだとなると…ローカライズ費用だけで膨大になってしまいますから、全部をローカライズするのはちょっと現実的ではないです。
まずは国内向けECサイトのカートから海外対応

柳田さん
先ほど話したように、以前の楽天の自動翻訳でもそれなりに売れたわけなので、欲しいと思っている人は自動翻訳を使ってもらえれば文脈が何となくわかるはずですよね。

森野
自分たちでもブラウザの自動翻訳で意味はなんとなくわかります。

柳田さん
そうですよね。商品ページやコンテンツは完璧を求めるよりなんとなくわかればいいと思っていて、どこに力を入れようかと考えているときに、WorldShopping BIZさんに出会ったんです。

森野
WorldShopping BIZさんはカートだけ多言語対応してくれるのが便利ですよね。郵便番号や住所って国によって大きく違っていますし、アメリカの通販サイトで買おうとしてカートであきらめたことがある人も多いはずです。

「海外発送について」のページが売上を加速

柳田さん
出会ったきっかけは「ECの未来」での対談です。最初はカートではなくて集客の話で、「越境ECの集客に関してはPinterestいいんですよ」、ということだったんです。
うちもPinterestは2011年から使っていて、やっていることはハッシュタグを入れたピンを打っているだけなんですが、フォロワーが3,000人近くいるんですよね。海外からアクセスがあることはわかっていて、海外に駐在している日本人かな?と思っていたぐらいです。
うちもPinterestは2011年から使っていて、やっていることはハッシュタグを入れたピンを打っているだけなんですが、フォロワーが3,000人近くいるんですよね。海外からアクセスがあることはわかっていて、海外に駐在している日本人かな?と思っていたぐらいです。

森野
外国人向けに発信しているわけではないのに、外国人が見ているとは思わないですよね。

柳田さん
これを聞いて、WorldShopping BIZの方に「Pinterstからアクセスがありますよ」と伝えたら、「でも、ozieさん海外対応したカートがないですよ!」と言われて初めて海外の方が買えないことに気づいたんですよね。それで導入したという流れです。

森野
導入した結果は?

柳田さん
以前の楽天ほどではないですが売れましたね。Pinterstかもしれないし、Instagamかもしれないし、YouTubeかもしれないし、とにかく何かしらを見てから来てくれているんでしょうね。これに気づいたので、ECサイトに「International shipping service」というページを作って、海外発送にも対応していることを明記したらさらに売れて、やっていることは間違ってないと思いましたね。

森野
元々ポテンシャルがあったけど、カートという最後の部分がネックになって売れていなくて、解消されたとたんに売れだしたと。それに気づいてECサイト上で接客することでさらに売れた。いい循環ですね。
アフターコロナでインバウンド需要も

柳田さん
またまた面白いことに、今度は高額品のシャツがそれなりに売れています。何でこうなったのかなと思ったら、おそらくインバウンドの人たちなんですよね。コロナ前、コロナ禍ではまったくいなかったのに、最近になって六本木のショールームにインバウンドの方が入ってこられるんです。
この人たちは商品フックで、特定の商品を目指してショールームに来るんです。うちにはちょっと珍しいウールを100%使ったワイシャツ、ダブルカフスシャツを置いていて、それを欲しいという人が多いんですよね。これらはうちでしか作っていない商品が多くて、結局のところ日本でも人気なんですよね。それを国内向けにSNSで発信していたら、たまたま海外にも届いているんだと思っています。
この人たちは商品フックで、特定の商品を目指してショールームに来るんです。うちにはちょっと珍しいウールを100%使ったワイシャツ、ダブルカフスシャツを置いていて、それを欲しいという人が多いんですよね。これらはうちでしか作っていない商品が多くて、結局のところ日本でも人気なんですよね。それを国内向けにSNSで発信していたら、たまたま海外にも届いているんだと思っています。


森野
円安の影響もあるかもしれませんが、そこは大きな変化ですね。ただ、外国語での接客はできたのでしょうか?

柳田さん
1人だけ英語ペラペラのスタッフがいるんですけど、いつもいるわけではないので、私なんかはスマホで翻訳しながら接客していますね(笑)。接客に精一杯ながらもやり取りをしていると、Instagamを見ましたとかYouTubeを見ましたとかを話しているんです。

森野
必死なのが想像できます(笑)。
日本向けの発信でも世界中の人が見るSNS

森野
越境ECのためにわざわざ商品開発をするのではなくて、日本人向けに個性的な商品を作っていて、それをSNSで発信したら海外の人にも売れたと。商売の根本は世界共通なんですね。

柳田さん
それは僕も思いましたね。アメリカからわざわざ買いに来た人がいて、「日本でパーティーに出ないといけなくて、ダブルカフスシャツを探したらどこもなかった」と。頑張ってネットで調べたらうちが出てきて、ショールームがあるから来たということだったんです。日本人と同じ行動ですよね。

森野
頑張って検索して見つけたら、喜びもあるでしょうし労力を無駄にしたくはないのでショールームに来ちゃいますよね。

柳田さん
InstagamやYouTube以外にもGoogle マップを見てくる人もいます。ショールームの近くにホテルがあるのですが、シャツが必要になった人がGoogle マップで検索するとうちが先頭に出てくるので、ふらっと来てまとめ買いされていきます。

森野
確かに!近くのお店を探すときって「欲しいもの 地名」でGoogleやSNSを検索するよりもGoogle マップを使いますよね。先ほどのお話の通りで、日本人と同じ行動なんですね。

柳田さん
急激に越境ECで大きな収益を上げるのは難しいかもしれないけど、オリジナルの商品を提供することで、インバウンドのお客さんや越境ECのお客さんにも響くと思います。そう考えると、情報発信は続けていかないといけないですよね。

森野
この流れで、外国人に売れるのもちょっとずつわかってきたという感じでしょうか。

柳田さん
そうですね、これまでは雑貨だけしか売れていなかった上に、世界的な流れでネクタイが売れなくなってしまいました。そのタイミングでオリジナルのワイシャツなどが売れるのは非常に嬉しいですよね。本格的に自社ECサイトの翻訳などはしていないけど、外国人向けの商売としてはいい線を行っていると思っています。

森野
インバウンドで来た人がうまく検索して来てくれて買ってもらえる。接客が慣れてきたらショップカードを渡すなどできて接客の幅も広がります。そうするとどこかでリピートしたり紹介してくれたりする。いい循環ですね。

柳田さん
可能性は高まりますよね。改めて思うとカートが対応したのが大きいです。なんとなく、こうしたら売れるかな?と思ってやってきたことが、カートが対応したことで一気に動き出しましたから。あとは自分で工夫次第でどこまで伸ばせるかという感じですよね。
SNS×ショールームで外国人向けの商売に手ごたえ

森野
ここまでのお話からすると、SNSとショールームの存在が大きいですよね。SNSは誰でもできるとして、ショールームなどリアル接点はあったほうがいいのでしょうか?

柳田さん
国内か越境ECかにかかわらず、僕はないとまずいと思います。
理由は二つあって、一つはやっぱり商品は見えたほうがいいよね、ということです。特にうちの場合はアパレルでサイズものなので、サイズを確認したいのは絶対にありますからね。もう一つはお客様とコミュニケーションがとれること。接客後に接客メモを取るようにしているのですが、それを分析してみると何が欲しいかとか、どういう商品を作ったらいいのかなど、すべてわかるんですよね。
理由は二つあって、一つはやっぱり商品は見えたほうがいいよね、ということです。特にうちの場合はアパレルでサイズものなので、サイズを確認したいのは絶対にありますからね。もう一つはお客様とコミュニケーションがとれること。接客後に接客メモを取るようにしているのですが、それを分析してみると何が欲しいかとか、どういう商品を作ったらいいのかなど、すべてわかるんですよね。

森野
こういったインタビューでもネットで行うのとリアルで行うのはまったく違いますからね。ネットだとどうしても堅苦しいので脱線しづらいというか本音が聞きづらいですが、リアルの場合はリラックスできるのでフランクな会話ができます。
「いいな」と思ったことを地道に続けた結果が今のozieに


森野
そろそろ話をまとめたいと思いますが、越境ECにこだわらずに自社のことをSNSで地道に発信していくことが、結果的に日本でも海外でも売れるということになりそうですね。

柳田さん
そうですね。僕のは地道にコツコツと続けているだけです。SNSはコロナ前からやっていましたけど、コロナになってから本格的にやらなくちゃいけないと思って、そこから4年ぐらい経つわけです。今になってその効果を実感しています。やってよかったって。

森野
SNSって今日始めたからといって、急に売れるわけでもないですからね。

柳田さん
SNSもそうだし、越境もそうだし、何でもそうですけど、すぐに結果を出す才能がある方はいます。うちはその才能で商売しているわけでもないですし、SNSのフォロワーを増やす天才でもなんでもないですし、今までもポンとやってポンと売上が上がったことなんて1回もないんですよ。シャツのメーカーとして代々続いていて今年で100年なんですけど、商売を続けていくことが大事だと思っています。
ショールームも2014年からやっているので、外国人の方も気になったら来れるのに、そんな人は1人もいなかったですから。いろいろ継続してやっていることが、4年ぐらい経って、やっと実を結んできたかなっていう感じですよね。
ショールームも2014年からやっているので、外国人の方も気になったら来れるのに、そんな人は1人もいなかったですから。いろいろ継続してやっていることが、4年ぐらい経って、やっと実を結んできたかなっていう感じですよね。

森野
結果が出るように頑張りはするのだけど、それがうまくいくかどうかは誰にもわからないですよね。

柳田さん
「いいな」と直感的に思ったことを、まずやるっていうことが大事ですよね。これをやると何万フォロワー増えて、売上もこれぐらいかな?と、そろばん叩いたって、そうはならないじゃないですか。こんな考えの人たちは途中でやめちゃうのが多いですしね。
うちだって結果が出ない期間がどれだけ長いかと思うときもあるんですよ。だけど、それを続けてきて今に至っているんです。越境ECも同じように地道にやることなんだと思っています。
うちだって結果が出ない期間がどれだけ長いかと思うときもあるんですよ。だけど、それを続けてきて今に至っているんです。越境ECも同じように地道にやることなんだと思っています。

森野
今日は貴重なお話をありがとうございました。
インタビューを通して森野が思ったこと
今回のインタビューで思ったことはこの3つです。
- お客様のことを徹底的に知る
- その人たちから得たものを商品とサービスに活かす
- あらゆる接点を活用して認知度向上に努める
SNSなどをやりたくても発信のネタがないという人は多く見かけますが、お客様のことを知ろうと思えばたくさんのことがわかって、発信のネタも事欠かなくなります。そして、それが結果的に売上につながる。
「国内も越境ECでもやることは同じ」なのであれば、やらない手はないですよね。
【コマースピック編集部より】
柳田さんと森野さんの対談は、動画でも配信しています。下記フォームからメールアドレスをご入力いただけましたら、メールにて動画をお送りいたします。文字数の都合などにより、記事では取り上げられなかったエピソードもあるので、合わせてご覧いただけますと幸いです。
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