
【ゲストスピーカー】
室水 房子さん
株式会社ピアリビング 代表取締役
防音専門「ピアリビング」
【チャンネルMC】
柳田 敏正さん
株式会社柳田織物 代表取締役
ワイシャツ専門店「ozie(オジエ)」
この記事の目次
越境EC 成功事例!国内ニッチメーカーの海外進出方法とは
シンガポール進出のきっかけは直談判から
柳田さん:今回はECメインでやっている中小企業がどうやって海外市場に出るのかお話しいただきたいと思います。それでは室水さん、簡単に自己紹介をお願いします。
室水さん:弊社では、防音カーペットや防音カーテンなどの防音商品の販売と、制作・施工・商品開発を行っています。
柳田さん:つい最近もシンガポールで実演販売をされたようですが、なぜシンガポールで実演販売することになったのか、時系列に沿ってお話いただけますか。
室水さん:シンガポールへの販売は急遽決まりました。2015年から毎年1ヶ月ほど渋谷の東急ハンズで実演販売していたところ、今年(2019年)の5月にたまたま東急ハンズの社長さんがいらっしゃいました。そこで、実際に弊社の商品を体験いただき、2年半前から中国の微博(weibo)で活動し1万2,000人くらいフォロワーがいることや既に販売実績があることをお伝えしたのです。すると、社長さんが「いいね、それ!シンガポールで売ってみよう!」となり、シンガポールで販売することになりました。
柳田さん:東急ハンズさんの協力の下、シンガポールに販売することになったんですね。
室水さん:はい、弊社の商品は非常に重さがあるため、東急ハンズさんに手配いただいて、船便を出してもらいました。例えば、軽いと思われるカーテンでも、弊社の場合は5重構造になっていて、キロ単位で重さがあります。中国の送るだけでも送料で5,000円ほどです。

まずは現地の方を知ることから始める
柳田さん:シンガポールで販売しようという話は5月にされたとのことですが、実際に売り始めたのはいつになったのでしょうか。
室水さん:10月26日~11月24日の期間販売しました。渋谷で社長さんとお話した翌日に、東急ハンズさんの海外事業部から連絡をいただきました。その後すぐに打ち合わせをし、販売する日程がはっきりと決まったのが9月になってからです。船に積み込むまでの期限が1週間あるかないかのスケジュールで動いていたため、販売する商品を決めるなどバタバタしながら間に合わせました。
販売する商品を決めたら、パンフレットや動画の制作に時間を当てました。現地の言語で対応できる人は1人しかいなかったので、お客様にわかりやすく商品のことを伝えられるようにする必要があったのです。
柳田さん:現地の人にわかってもらうためには、どのような内容のものを作ったのでしょうか。
室水さん:まずは商品の紹介です。動画では日本の騒音事情をお伝えする中でピアリングが解決したい悩みや課題についての想いを流しました。また、シンガポールではどのような需要があるか見えていなかったため、大きなアンケートボードに騒音の例を出して、該当するものにシールを貼ってもらいました。
柳田さん:日本と海外では悩みが違いそうですね。
室水さん:おっしゃる通り、全然違う結果になりました。日本では圧倒的に集合住宅の隣や上下に住む方の音が気になる場合や楽器の悩みが多いです。一方で、シンガポールは外から聞こえる建設の音を悩みにしている方が多かったのです。
シンガポールの方とお話していると、現地には”防音”商品がないようで、「なにこれ!?すごい!」ととても驚いていました。日本の方より、もう少し気楽な感じでお話できることも印象的でした。
柳田さん:英語での接客はそつなくこなせたのでしょうか?
室水さん:伝えることはできるものの、聞いたことを返すのに少し手間取ってしまいました。翻訳の機械やツールをいろいろ試した中では、Google 翻訳が一番役立ちました。翻訳の記録が残るので、同じような質問を頂いたときは履歴を見せれば解決できる点も良かったです。
潜在的なニーズを顕在化するコミュニケーション
柳田さん:そうやってコミュニケーションを取りながらニーズを拾っていったんですね。日本の場合は、住居が広くないこともあり、騒音に敏感な方が多い印象ですが、実際にニーズを聞いていて海外の方は防音に対してどういった意識を持っていることがわかりましたか。
室水さん:現地で販売する前は、中国の方もシンガポールの方も騒音には悩んでいないと言われることもありました。しかし、実際に販売してみると、口には出していないだけで、内心は気にされている方も少なからずいることがわかったのです。また、自分たちが思っている以上に日本の製品が愛されていると感じました。
柳田さん:やったほうが良いと言われることは、既に顕在化されているニーズが多いです。一方で、潜在的にいるはずの騒音が気になっている人たちに向けて適切な情報出しをすることで、勝機が生まれるのかもしれません。中国では微博だけでなく独自ドメインのECサイトもあるのですか?
室水さん:2年前にいま中国でお世話になっているパートナー会社に5ページくらいのサイトを作ってもらいました。ピアリングという名前は漢字にしても中国では伝わりづらいと思ったので、”快適空間工房”と見てすぐわかる名前にして中国・日本の両国で商標を取得しています。

室水さん:この独自ドメインのサイトではバンバン売っていくというよりは情報を先にお出しして、知っていただくことに努めています。すると、パートナー会社に毎月出してもらっているレポートを見ていたら、「どこで商品を買えるのか」という問い合わせがだんだん増えてきたのです。「実際にプロから話を聞きたい」「相談に乗ってもらいたい」「展示会はやっていないのか」といったような声を頂くようになります。ここまで反響を頂くまでに2年間、ずっと発信を続けたことが大きいと思っています。
柳田さん:物を売ることに熱心になりすぎて、情報を活かしてお客様とともに成長していくことや、お客様に共感してもらうことができなくなっている企業が多いと思います。中国でもちゃんと発信していれば、2年あれば微博のフォロワーが1万人を超え、ニッチでもそれだけの集客ができるのですね。
室水さん:広告は一切使っていないので、純粋に音に対する意識が濃い方々が集っています。なので、まずは発信することが大事だと思います。
海外市場をきりひらくヒントは、問題だと気づかせること!?
認知の拡大につながった積極的な取材依頼
柳田さん:中国では2年に渡る情報発信が実を結び、今年に入ってから注文が続々と増えているようですが、シンガポールの場合は準備期間がほとんどなかったかと思います。現地での集客は東急ハンズさんの協力があったのでしょうか?
室水さん:東急ハンズさんには物流のところでご協力いただいたので集客面は特にありませんでした。何をしようか考えましたが、まずはシンガポールでの販売が決まってすぐに、英語でFacebookページを作成しました。わずかですが、シンガポールに向けて広告を回して認知を取りにいきます。
とはいえ、今回は売ることよりも、まずはシンガポールに”防音”のために対策商品を購入する文化がないため、現地の方の生活や悩みなどを知ることや、ピアリングという会社を知ってもらえたら良いという想いでやりました。
現地で販売を始めると、今回のために作成したFacebookページよりも日本語で更新していたFacebookページがシェアされ始めます。加えて、日本向けの自社ECサイトにはシンガポールからのアクセスが増えるといった反響がありました。
柳田さん:結果的にSNSでシェアされることで、アクセスが増えましたが、他に何か取り組んだことはありましたか。
室水さん:当時シンガポールにいた日本人のYouTuberに取材を依頼しました。シンガポールに行くことが決まったとき、英語を話せない中で接客をすることを考えると憂鬱な気持ちでした。そのとき、シンガポールについて調べる中で、シンガポールでとても楽しそうに暮らしている様子を発信しているジブおじさんという方を知ったのです。
「この方に取材してもらいたい」と思ってメッセージを送ったところ、2回取材いただけました。動画だけでなく、記事も書いていただけて、今では「シンガポール 防音」で検索すると一番上に表示されるようになっています。
参考:コンドミニアムの騒音対策はどうすればいい?防音のプロに聞いてみた
柳田さん:日本ではYouTuberに取り上げてもらうことはありますが、海外でやってもらおうと思うのは斬新ですね。今回、シンガポールでの時間は短かったかと思いますが、種まきはある程度できたのでしょうか。
室水さん:その後、シンガポールからの問い合わせを頂くことや、東急ハンズさん経由でお知り合いになったリノベーション関係の会社さんからとても気に入っていただき、シンガポールのショールームに商品を展示することになりました。この機会を頂けなければ、商品をまた船便で送り返すのにもお金がかかることから、廃棄しようかと思っていたので、とてもありがたいお話でした。
未開の地の経験がスタッフの意識も変える
柳田さん:お話を伺うと今回のシンガポールは先行投資の意味合いが大きいように思います。
室水さん:おっしゃるとおりです。現地にスタッフが帯同しましたが、今回の経験を通じて英語で伝えよう、コミュニケーションを取ろうという気持ちが強まったように思います。
新人の子がピアリングの英語ページを作ってくれたり、みんなでパンフレットを考えたり、どうやったら伝えられるかということを以前と比べてひときわ考えるようになりました。未開拓の場所で経験を積んだことが、こういった変化のきっかけとして良い効果になっていると思います。

柳田さん:そういった環境でやると一致団結できそうですね。
室水さん:全体のモチベーションが非常に上がったと思います。来年は中国、その後はラスベガスの展示会に行くことを決めています。夢は「防音のApple」です。
“売る”ではなく”解決する”ための情報発信を
柳田さん:中国とシンガポールのお話を中心に伺いましたが、今後、今やっていることを通じて海外に向けた動きはどういう想いでやっていこうとお考えでしょうか。海外展開をされたい方に向けてヒントやアドバイスを頂きたいです。
室水さん:海外に出ると日本の物がとても愛されていると感じます。「どこで作られたか」と現地の方に聞かれて、日本製だと応えると非常に良い反応を頂くのです。日本は島国で、外に出ていかなくても生きていけると思います。でも、ECは世界に届けられます。インターネットは世界中から見られるので、日本だけの販売にとどまる必要はありません。
私の想いは、”物を売る”ことではなく、音に悩んでいる方なら、どの国の方であっても関係ないと思っています。ちょっとした思いやりを持つことが日本人らしさであり、愛されている点ではないでしょうか。音のトラブルが減っていく世の中を作っていくことが想いです。
日本のものはびっくりするほど愛されています。なので、まずはなんでも良いので、情報発信からやって欲しいです。出さないといつまでも動きはありません。きっとその情報を求めている方はいるはずです。
おわりに:伝えるための情報発信と生の一次情報を取得する重要性
“防音”の市場がないといわれていた中国やシンガポールに挑戦し、着実に問い合わせの件数を増やしている室水さん。市場がなくても、潜在的に悩みを抱えているであろう人に応えられるような情報発信を着実に積んできたことが中国での成功につながっています。
また、挑戦して間もないシンガポールでは、まずは現地の方の声や悩みに耳を傾けて、お客様を知ることの重要性を本記事で述べられています。空想で描かれたお客様像ではなく、現地で生の声を聞くことは、何にも代えがたい大切な情報です。海外展開をお考えの方はぜひ室水さんの経験を参考にしてみてはいかがでしょうか。
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