【ゲストスピーカー】
北山 浩さん
エース株式会社 第三事業部 次長（収録当時）
メーカー直営ストア「ACE Online Store」
【チャンネルMC】
柳田 敏正さん
株式会社柳田織物 代表取締役
ワイシャツ専門店「ozie（オジエ）」
予算達成のための多店舗展開
柳田さん：前回に続き、メーカーのEC立ち上げについてお話をお伺いしていきたいと思います。前半では、卸売メインの企業が小売もする際、社内外問わず非常にいろんなところで弊害が出てくる中、どのように調整されたのか教えていただきました。実は社内調整が一番大変だったとのことです。
今はイチ事業部としてやられていますが、そこに至るまでいろいろなチャレンジをされてきたかと思います。その一つのキーワードである”多店舗化”についてお聞かせください。
北山さん：まずECのスタートは直営店舗でした。運用が落ち着いてくると、モールへの出店がどんどん進みます。毎年毎年売り上げ予算が期をまたぐ前にやってくるのですが、期待値が込められた数字なので、「えっ？」というような額で予算が下りてくるわけです。その目標をクリアするためにどういう方法を取ろうかと考えたところ、面を増やすのが手っ取り早いとなります。売り上げも読みやすいですしね。
柳田さん：前半でお話がありましたが、おまけを付けることも安くすることもできないため、やるとしたら面を増やすしかないということですね。
北山さん：実店舗を出すとなると、テナントの空きや家賃などのコストの問題があり、簡単な話ではありません。やはりコストを抑えて面を増やしながら、ブランド認知を上げて売っていくとなると、ECの面を増やすことになるわけです。出店するモールを一つずつ増やしていく作業を数年かけてやっていきました。
柳田さん：リアルの小売店も同じ事業部なんですか。
北山さん：同じ事業部でした。
柳田さん：ということはモールもリアル店舗も同じ一つの店舗として見られていたんですね。最初にどのECモールに出店したんでしょうか。
北山さん：最初は楽天市場ですね。その後、ファッション系なので、i LUMINE（アイルミネ）やZOZOTOWN、マルイウェブチャネルに出店していきます。マルイウェブチャネルは運営されている丸井社とはもともと取引があったため、比較的容易に出店できました。出店に一番苦労したのは、i LUMINEです。
柳田さん：ルミネ社とは直接取引はなかったんですか？
北山さん：はい。当時、私達が出店したときは、実店舗がないのにECだけ出ている企業はいませんでした。そこを何とかこじ開けて出店に至ります。
多店舗展開のジレンマと弊害
柳田さん：最も多いときで、どれくらいのEC店舗を運営されていたのでしょうか？
北山さん：楽天市場だけで３ショップ出ていることもあり、ショップ単位で見ると最高24店舗ありました。それを私含めて当時は４人で対応していたんです。最終的にはレディースのブランドと本体を一緒にハンドリングしていました。
面を増やす戦略を取っていましたが、売り上げが上がればラッキーぐらいのつもりでスタートしています。しかし、店舗数が膨らんでくると、その数だけ同じ作業を繰り返さないといけないというジレンマが出てきます。
柳田さん：全部同じデータじゃないですもんね。
北山さん：OMSを使えば、ある程度在庫の管理できますが、それは主要なモールに限っての話です。ZOZOTOWNやi LUMINE、マルイウェブチャネルとは連携しておらず、繰り返し同じ作業をしないといけません。
そこで自分たちで使いやすいように、マスターデータを作りました。細かい色味の設定など、品番は揃えたうえでそれぞれのモールのCSVに合わせて作っていき、コピーしては必要な分だけを抜き取って使えるようにしたんです。
例えば、同じ色でもブラックなら、マルイウェブチャネルの場合は半角でブラックと入れないといけないとか、それぞれにカスタマイズが必要になるんです。OMSで商品登録できる部分もありますが、結局各モールで違う点は手動でやらなければいけないと考えると、マスターデータを作る際にあらかじめ作り込むほうが良いとなりました。
柳田さん：マスターを管理するソフトを作ったんですか？
北山さん：いえ、ソフトは作っていません。お金をかけずに手動で作りました。
柳田さん：それでも業務が十分簡素化されたんですね。
北山さん：１モールずつやっていたことを考えると、かなり楽になりましたね。
柳田さん：でも新しいモールに店舗を出せば出すほど疲弊していくような気がするんですが……。
北山さん：４人のチームで私が責任者でした。3人の仕事量を把握しているので、誰がやるかとなると、私がやるしかないんです。
柳田さん：根性論ですか。
北山さん：根性ですね。
店舗拡大後の収束・最適化
柳田さん：今も24店舗ってそのままあるんですか？
北山さん：いや、ちょっと断捨離しまして、何店舗かは落としました。
柳田さん：ちなみに断捨離したのはどんな基準からでしょうか。
北山さん：売り上げですね。拡大時期はとりあえず出せるところに出していこうと。しかし、作業の割には売り上げが立たないところっていうのは当然出てきます。
柳田さん：費用対効果が悪い店舗ですね。
北山さん：手間に対して店舗を出し続ける理由があるのか考えます。倉庫に商品を預けないといけないモールだと、販売ロス・機会損失が発生するため、まずは、倉庫に預け入れで売り上げの悪いところからやめていきました。
柳田さん：今、実際運営されている店舗で在庫を預けているのは何店舗ぐらいですか？
北山さん：ZOZOTOWN、マルイウェブチャネル、i LUMINEぐらいですかね。
柳田さん：結局、在庫を預けると分散してしまいますからね。
北山さん：シーズン性の高い商品とかも扱っていましたので、シーズンが終わる寸前ぐらいに商品を引き上げる際、やめてしまおうと判断して、倉庫に預け入れるモールから断捨離していきました。
高い売上予算を達成し続けるための心構え
柳田さん：売上予算が期待値を込めて高いという話がありましたが、コロナが流行る前は、その期待には応えられていたんですか？
北山さん：応えられていましたね。2010年からレディースのブランドと、本業のブランドのチームが一緒になる前までは、前年を切ることなく与えられた予算をクリアできていました。
柳田さん：面戦略を取っていましたが、元々ECのプロではないかと思います。最大で24店舗まで増やしていましたが、なぜやり切れたんでしょうか。
北山さん：与えられたミッションをクリアできるかできないか、そこに尽きると思います。
柳田さん：当時、経営陣から面戦略で行くように指示されたわけではないですよね？
北山さん：はい、言われていません。
柳田さん：でも、わからない中で面戦略を取るのは、ECだと特にとても大変じゃないですか。
北山さん：わからないけどもやるしかない。走りながらやっていこうと決めていました。
柳田さん：その上、価格をいじらずに運営していたというので驚きです。わからない中で、それだけやり切るということ。経営陣の後押しや、「安売りはしません。お互いにブランド価値を上げていきましょう」と社外を調整し、あとは一生懸命頑張る。なんかベタですがそこまでできるものなんですね。
北山さん：簡単に諦めてしまう風潮はありますが、どの選択肢がゴールに続いているかは正直やってみないとわかりません。ただ、そこにしか活路がないなら、そこに全集中するしかないんです。厳しい予算が毎年降ってくるわけなんで、これをクリアするためには、次の畑を探しに行くしかない感じですね。
柳田さん：今はそれをスクラップ＆ビルドされているんですね。それができているのが素晴らしいことだと思います。BtoBがメインの企業はBtoCをやらなければいけないと、どの企業も多分思っているんですよね。そのような状況で、ハードルが高くてできないと感じているのは特に中小企業のほうが多いのではないでしょうか。リソースや外部環境など、さまざまな問題があるでしょう。今日の北山さんの話からも、リソースが全くなかったことがわかります。
北山さん：リソースは全くないです。
柳田さん：そんな中でもできたわけです。また、外部環境も地道に交渉し、説得していくことが王道で近道なんだなというのを今日改めて思いました。BtoCへの進出は今後誰もが絶対やっていかないといけないでしょう。大手メーカーしかり、自社商品を卸し売りするだけでは厳しい時代です。北山さんのお話しを聞き、皆さんに少しでも勇気を持ってもらえたらと思います。
おわりに：与えられた目標をやり切るガッツ
会社から与えられた予算や数字を前に、絶望的な状況に追い込まれたことがある人は一定数いらっしゃるのではないでしょうか。このとき、ファイティングポーズを取ってあの手この手を考えて立ち向かっていくのか、もう無理だとお手上げになるのかで生み出す仕事の成果のレベルは大きく変わることでしょう。今回の北山さんの仕事に向き合う姿勢とやり切るガッツは背中を押してくれる内容だったかと思います。
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