「送料無料」表示がなくなる?消費者庁の意見交換会から考える見直し内容【前編】
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ECサイトのマーケティング施策として定番の「送料無料」表示。しかしこの表示が今のように使えなくなる可能性があります。消費者庁では現在、2023年6月23日から『「送料無料」表示の見直しに関する意見交換会』を開いており、2023年11月8日には第9回が開催されました。各回、物流業界、通販業界、消費者団体など関係業界の各団体の代表者が招かれ、意見交換が行われています。本記事では、第1~6回までの意見交換会からそれぞれ要点をまとめて紹介します。

各回の詳細は以下のページに記載されている情報をご確認ください。
消費者庁HP: 「送料無料」表示の見直しに関する意見交換会

「送料無料」表示の見直しが行われる背景

大前提として、まず、なぜ「送料無料」表示の見直しが議論されているのかを押さえておきましょう。そこには、物流の「2024年問題」があります。物流の「2024年問題」とは、2024年度以降、物流の輸送力不足により今のように荷物が運べなくなる可能性がある問題です。

2024年4月より、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(平成30年法律第71号)に基づき、自動車の運転業務の時間外労働について年960時間の上限規制が適用され、荷物の輸送に必要な人手が足りなくなります。このまま何も対策を講じなければ、2024年度には14%、2030年度には34%の輸送力不足の可能性があるのです。

そこで2023年3月、我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議が開催され、同6月、「物流改革に向けた政策パッケージ」がとりまとめられました。この政策パッケージにおいて、運賃・料金が消費者向けの送料に適正に転嫁・反映されるべきという観点から、「送料無料」表示の見直しに取り組むことになります。

全日本トラック協会の意見【2023年6月23日 第1回意見交換会】

第1回の意見交換会では、公益社団法人全日本トラック協会より、運送事業者・ドライバーを代表した意見が発表されました。その主旨は、『「送料無料」の表現はやめてもらいたい』というものです。

理由として、送料は運送の対価として収受するもので「無料」ではないにも関わらず、「送料無料」という言葉が「輸送にはコストがかからない」という考え方を消費者に植えつける可能性があることを指摘しています。

そういった考え方があると、輸送にかかる費用が上昇するなかで価格転嫁に必要な消費者の理解を得られず、物流の2024年問題にも対応できなくなる恐れがあるとのこと。また、運送事業者・ドライバーからは、「送料無料」という言葉は物流の仕事を軽視する表現に感じられる、低賃金の一因であるといった声もあがっています。

「送料無料」表示の代案としては、「送料は当社にて負担します」などの、送料がかかっていることがわかる表現が提案されています。

その他、意見交換では、実際にはさまざまな物流コスト負担の形があるものをすべて「送料無料」と表示してしまうことで、価格転嫁の交渉の妨げになっている可能性や、複数回の注文や再配達などによる物流量の増大につながっている可能性が指摘されました。

アジアインターネット日本連盟(AICJ)の意見【2023年8月9日 第2回意見交換会】

第2回の意見交換会では、アジアインターネット日本連盟(AICJ)より、インターネット業界を代表した意見が発表されました。

AICJは、「送料無料」表示の見直しに当たっては、目的が消費者の行動変容促進なのか価格転嫁促進なのかを明確にして、目的に対して立法事実に基づく合理的かつ効果的な対策であるかの議論をお願いしたいとの意見です。

仮に「送料無料」表示を見直すのであれば、「配送料」という形での消費者負担はないものの、実際には物流事業者に対して「運賃」が別途支払われている旨を十分に説明することが、現実的な方向性とされています。

荷主が物流事業者に払うコストをどう確保しているかは各社異なるので、明確に切り分けることは難しく、受注時点では配送料が確定しない場合もあります。そのため、正確な送料を計算して毎回消費者に提示するのは技術的に不可能に近いとしています。

また、送料無料サービスそのものの話と「送料無料」表示の話を分けて考える必要があり、送料無料サービス自体は、顧客のニーズに応えた各社の経営努力の結果であることへの理解を求めました。

さらに「送料無料」表示が、「運送事業者への運賃は別途支払われており、消費者において追加的な送料の負担が生じない」という意味であることは、消費者に理解されているとの考えです。表示の変更は事業者に一定程度の負担が生じるものであり、それに見合う効果が見込めないのであれば「送料無料」表示を禁止すべきではないとの意見です。

他方、配送事業者との関係については、各社の判断があるものの、運送事業者から値上げ要請があればきちんと交渉に対応すべきとしています。多重下請構造の問題などは業界を挙げて取り組んでいく課題であり、配送効率化に荷主として注力していくなど、物流業界全体の課題解決に向けて、荷主も協力や改善の必要があるとしています。

新経済連盟の意見【2023年8月10日 第3回意見交換会】

第3回の意見交換会では、新経済連盟より、EC業界を代表した意見が発表されました。

新経済連盟は、「送料無料」表示の別の表現への置き換えは困難との意見です。また、「送料無料」表示が物流の諸問題の原因であることには合理的根拠がなく、表示を変えることが問題解決につながるといえないとしています。消費者はコストコンシャスで送料について考えているからこそ、「送料無料」表示に惹かれるという考えを示しています。

EC事業者が物流事業者に運賃を支払うBtoBの話と、EC事業者が消費者から送料として別途追加的に費用を頂くかというBtoCの話が混同されているとの指摘もありました。

そして、物流業界の賃金適正化には、運賃・料金の収受で不適正と考えられるポイントを捉えて仕組みを確認する必要があるとしています。EC事業者が物流事業者に支払う運賃が上がっていることは事実で、そのなかで商品価格への反映は、各社の判断となっています。

物流の担い手の気持ちに寄り添い、諸問題を解決するためには、表示の置き換えではなく、合理的根拠に基づいた直接的に効果のある別の方策を、関係者が協力して検討・実施すべきと提案されました。

一般社団法人セーファーインターネット協会(SIA)の意見【2023年8月10日 第4回意見交換会】

第4回の意見交換会では、一般社団法人セーファーインターネット協会(SIA)より、EC業界を代表した意見が発表されました。

SIAの意見は、「送料無料」表示の意味やメリット・デメリットなどの認識を整理した上で、「送料無料」表示の見直しで「運賃・料金が消費者向けの送料に適正に転嫁・反映される」根拠などを示してほしいとの立場です。

そして、政策効果を立証できないなら、安易に「送料無料」表示の見直しを求めるべきではないとしています。一方で政策効果があるとして「送料無料」表示の見直しに取り組む場合は、「国内で営業する全事業者が一斉に服するルール」「表現の幅は広く認めるルール」を求めています。

日本郵便株式会社の意見【2023年8月22日 第5回意見交換会】

第5回の意見交換会では、日本郵便株式会社より、2024年問題への対応と「送料無料」表示に関する日本郵便のスタンス・考え方が発表されました。

日本郵便では、2024年問題を、構造的に物流業界全体の中での労働力確保の課題への対応、ドライバーが働きやすい職場環境の整備、仕事の中身の見直しの問題として捉えています。そして「物流改革に向けた政策パッケージ」において、2024年問題が物流事業者だけの課題ではなく、発荷主・着荷主を巻き込んだ形で社会全体の課題だと位置づけられている点が画期的であるとのこと。

そのなかで「送料無料」表示は、象徴的な意味合いのなかにあるとの考えです。実際の送料は無料ではなく、物流の各プロセスに業務があり、人手が必要で、コストがかかり、環境負荷にもつながっています。「送料無料」表示が、そういったものがない印象の誤認を与える、少なくとも誤解を含んだ表現が一部あるとして、2024年問題への取組の流れとは若干異質な部分を含むとの考えを示しています。

そういった文脈での「送料無料」表示の見直しの動きは歓迎すべきとして、物流業務・運送業務への理解が進み、消費者の協力も得て、不在配達を軽減の動きにつながる形になれば、政策パッケージとも連動する形で前向きに取り組んでいけるとの姿勢です。

公益社団法人日本通信販売協会(JADMA)の意見【2023年8月23日 第6回意見交換会】

第6回の意見交換会では、公益社団法人日本通信販売協会(JADMA)より、通信販売業界を代表した意見が発表されました。JADMAは、1983年設立の通信販売業界を代表する公益法人です。

JADMAの意見・提言では、「送料無料」表示の見直しを行う場合、小売業界全体で取り組むこと、そして政策の効果を数値検証できる制度を求めました。

「送料無料」表示を見直すのであれば、大手プラットフォーマーも含めた市場に影響のある事業者・関係者の協力が不可欠であり、万一法規制化を検討する場合は「送料弊社(社名)負担」などのコスト負担を表示するよう求める規制を希望しています。。

また、そもそも日本の総貨物量に占める宅配便の割合は限られており、政策により下請け配送事業者の地位向上が図られるのか、結果を確認できる基準をもって取り組み、政策実施の際には効果を数値として測定し共有することを求めています。

JADMAとしては、通販業界も物流業界と問題意識を共にし、下請け配送事業者の待遇改善の抜本的対策を希望しています。通販業界はすでに配送会社からの値上げ要請に応じて適切なコストを負担してきており、2017年以降に配送料値上げ要請があった会員のうち、値上げ要請に応じた会員割合は約98%というデータもあがりました。

JADMA会員へのアンケートでは、送料無料表示の法規制化について「(法規制案も奨励案も)いずれも不要」との回答が最多となっています。

法規制に賛成する事業者のなかでは、通販事業者だけでなくプラットフォーマーや店舗場型小売事業者など全事業者・関係者を規制対象に含め、実効性のある規制にすることを前提とした意見が目立っています。送料無料表示に替わる表記としては「送料弊社(社名)負担」への賛成が多いです。

EC・通販事業者が知っておくべき意見とは?【後編】へ続く

【前編】で紹介した第1~6回の意見交換会では、物流業界から1団体と大手宅配1社の意見、EC・通販業界から4団体の意見が発表されました。

EC業界としては、物流の重要性や問題の解決は認識した上で、「送料無料」表示の見直しはできれば避けたいという意向が見られます。一方で物流業界としては、差し迫った諸問題を解決するきっかけのひとつとして、「送料無料」表示の見直しを進めたいという意見が強いことがわかりました。

【後編】では、さらに物流業界から1団体と大手宅配2社の意見、そして消費者団体4団体の意見を加え、「送料無料」表示がどう変わる可能性があるのか、EC事業者はどのように対応すれば良いのかを考えていきます。

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