
【ゲストスピーカー】
熊坂 泉さん
有限会社フレックス(現:株式会社フレックス) 副社長
オリジナルパジャマ専門店「パジャマ屋IZUMM」
【チャンネルMC】
柳田 敏正さん
株式会社柳田織物 代表取締役
ワイシャツ専門店「ozie(オジエ)」
心を動かすおもてなしで、お客様の期待値を超える
高額でも喜んでもらえる高品質な商品を
柳田さん:今回はパジャマ専門店のECサイト「パジャマ屋IZUMM」を運営している有限会社フレックス(現:株式会社フレックス)の副社長である熊坂泉さんにお越しいただきました。おもてなしに秀でたお店として有名な熊坂さんに、テクニックや考え方を深掘りしていきたいと思います。
ピンからキリまであるパジャマですが、「パジャマ屋IZUMM」が扱っている商品は、高級品に分類されるかと思います。Tシャツやスウェットで寝る方も多く、誰しもが着るものではないパジャマで、更に価格が高いというのはターゲットをかなり絞っているように感じます。
熊坂さん:通常、商品を作る際は販売価格を設定することから始めるかと思います。しかし、当店の場合は上代の設定を先に行わずに、良い商品を作ろうと生地や糸を選ぶので、販売価格が高くなってしまうことが多いです。その結果としてターゲットを絞っている形になっています。
自分が「もらって嬉しい」を形に
柳田さん:高級なパジャマを狭いターゲットに向けて販売しながらも売上を伸ばしている理由の1つに、ラッピングに工夫を凝らしていると伺いました。
熊坂さん:自分用に高額なパジャマを買うことはあまりないでしょう。1万~5万円のパジャマを誰が買うのか考えたときに、自分用だと勇気がいりますが、ギフトなら誰かに「ちょっと良いものを上げられたら良いな」といった想いで購入するのではないかと思ったのです。そこで、私が贈り物をもらう立場になった際に、嬉しいなと思えることを、ラッピングをはじめ少しずつ形にしてきました。
柳田さん:「もらって嬉しい」を工夫して形にした結果が今に通じているのですね。
熊坂さん:袖を通した際に、感動できるような着心地のパジャマを作ろうとしたら、だんだん価格が上がってしまいました。お客様から「店長さん、申し訳ないけど値段が高くなりすぎて買うのは難しい」と直談判を受けたこともあります。しかし、そういった声を上げられても、何年かに1度は必ず買っていただけるんです。
柳田さん:お客様が価格について、あれこれお店に言うことはあまりないかと思います。しかし、それだけ価格がどんどん上がっていったら、直談判するのもわからないでもないですね。
熊坂さん:「これだけ高かったら、さぞかし良い商品だろう」と期待値が上がるので、それを超えないといけないのが大変です。
柳田さん:価格を上げることは期待値を上げることになるので、購入したお客様の期待値を少しでも下回ると、レビューに悪い評価が付きやすくなってしまうでしょう。低価格の商品の場合は、「安かろう悪かろう」という言葉があるように、期待値が低くなるため、「まぁしょうがない」と思うお客様は多いです。価格が高いとその分品質へのハードルは上がりますよね。
期待値に応えるために顧客の声に耳を傾ける
熊坂さん:お客様が何を望んでいるかを考えると、他社と同じようなものを作ってそこそこの価格になるよりも、突き抜けた価格で高品質の商品を扱うほうが私たちのような小さい会社はいいんじゃないかなと考えています。
高額な商品を取り扱う場合、お客様の期待を常に超えなければいけません。ずっと同じものを作るのではなく、毎年改良を重ねることが必要です。お客様からのレビューやメールを見て、洗濯をしやすいように改良したり、ゴムのテンションを変更したりするなど、微々たることでも少しずつリニューアルしています。そういった細かい変更ができるのはメーカーならではでしょう。
同価格帯の有名ブランドに勝つための工夫

柳田さん:「パジャマ屋IZUMM」は今でいう元祖D2Cですもんね。販売しているのがオリジナル商品なので純粋に他社の商品と価格で比較されにくいかとは思います。それでも価格の高さがネックになってしまうことはあるのではないでしょうか。
熊坂さん:その分、他のところで工夫しています。ラッピングはその1つです。これ(上画像)は布袋によるラッピングで、リボンを解くと中に商品が入っています。この布袋は巾着型になっており、開封後も使っていただけるようになっているのです。お客様に二度喜んでいただけるよう、旅行や洗濯袋として二次利用できることを目的として作っています。
柳田さん:ラッピングに関する情報はサイト上に載っているんですか?
熊坂さん:載っています。誰かにパジャマを贈ろうと考えて、有名ブランドと当店の同じ価格帯のパジャマを比較した場合、商品単体で比べると当店がブランド力で勝つことは難しいでしょう。どうやってお客様に選んでいただくか考えたときに、おもてなしの要素を加えようとなったのです。
ラッピング以外にも、メールはもちろん、手書きのお手紙など、手を加えられるところは手を加えています。一方で、機械的に対応できることはなるべくシステム化しています。
梅雨時のメールに「鬱陶しい時期ですがいかがお過ごしですか」と季節の挨拶を入れることで、メールの冒頭でお客様の心をちょっと惹きつけられると思いませんか。こういった工夫はある程度システム化することで対応できますが、時期に合わせたマメな変更は必要です。
細かい点を含めて、お客様との信頼関係を得るために、どうあるべきかを常に考えています。同価格帯の有名ブランドにどうしたら勝てるのかという視点です。ギフトのラッピングも作り込むことで「こっちのほうが素敵!」となれば、有名ブランドに勝てるのではないかと思って始めました。
柳田さん:ラッピングを作り込むことは基本的に手間がかかるため大変なことですもんね。
自社の顧客に合ったラッピングでギフトに付加価値を

熊坂さん:特に手間をかけたラッピングがこちらです(上画像)。パジャマブーケといいまして、ブーケの中にパジャマが入っています。ECでも心が動くようなことができたらいいなと思い、受け取った方が「なにこれ!?」と驚くようなラッピングにしました。
柳田さん:心を揺り動かされるほどの感動は印象に残りますよね。このラッピングは普通のパジャマ屋にはできないと思います
熊坂さん:こんな面倒くさいこと多分どこもやらないと思います。
柳田さん:このブーケはいくらでできるんですか?
熊坂さん:税込み2,860円(現在は3,960円)で対応しています。
柳田さん:ラッピング代でその金額は相当高いですよね。
熊坂さん:1万~2万円のパジャマであれば、ラッピングにかける追加費用として気にならない範囲の金額なのでしょうね。ギフトは受け取った方に喜んでもらえることが付加価値になるからだと思います。
柳田さん:高額であってもこだわり抜かれた商品をプレゼントしようと思う方は、ブーケラッピングのようなラッピングを選ぶのかもしれません。また、プレゼントを受け取る方もこういったラッピングでもらうことが嬉しいのでしょう
熊坂さん:このギフトラッピングは、仮にオリジナルではない商品をラッピングしたとしても、オリジナル商品として販売できると思います。ラッピングの中身がTシャツ1枚であったとしても、ラッピングによって付加価値を与えられるからです。なので、価格を比べられても自信を持って販売できます。
柳田さん:そういった独自性で選んでもらうことが大事ということですね。実際にブーケラッピングの売れ行きはいかがですか?
熊坂さん:好評です。恐る恐る販売を始めましたが、出してみると予想以上にご注文いただけています。あくまでこのギフトラッピングはサービスです。ですので、そこまで利幅はないですが、パジャマの付加価値を上げるための一つの方法として成功しています。
人件費・広告費ゼロ!ラッピングが新たなお客様を連れてくる
新しい顧客を連れてくる感動のラッピング
柳田さん:ラッピングに工夫を凝らすことで、どのような効果が期待できるのでしょうか。
熊坂さん:贈った方は贈られた方に喜んでもらえると、別の方にも贈ろうと考えるんです。一方、贈られた方は受け取って、嬉しい気持ちになったら、今度は自分が誰かにプレゼントするようになります。
柳田さん:ギフトをもらった方が他の人にもあげようと、気持ちが伝播していくんですね。
熊坂さん:ギフトのラッピング対応がきちんとできたら、一つの注文が次に繋がるため、二度おいしいです。なので、ラッピングは利益を取らずに宣伝費だと思ってやっています。
柳田さん:一般的にはギフトのラッピング対応はどちらかといえばコストではないでしょうか。やればやるほど手間がかかるわけですから。僕からしたらこのサービスは誰もができるようなものではないと思います。誰もができるわけではないから価値になりますよね。ギフトを選ぶ方が商品を探す指標としてラッピングの良さは欠かせません。
熊坂さん:もちろんラッピングの中身となる商品が良いことが前提にありますけどね。
柳田さん:パジャマ市場で見たらかなり高級品となる価格帯の商品を、どんな人がギフトに選ぶのかを考えたら、これくらいのラッピングが求められるのでしょう。同じ価格帯の商品が並んだときに、ブーケラッピングがあることで選んでもらえる確率は絶対に上がっているはずです。
熊坂さん:布袋のラッピングでもかなり印象に残るようで、お店の名前も覚えてもらえるのです。こういったお店独自の工夫がブランディングとして作用するのではないかと思います。
柳田さん:ちなみに、ラッピングの種類はどれくらいあるんですか?
熊坂さん:ブーケラッピング、布袋、箱に加えて、無料のラッピングの4種類です。いずれのラッピングも、すべて自社で作っておりオリジナルなものとなっています。ラッピングの価格はギリギリ足が出ないくらいの設定にしています。例えば、布袋は作るのに400~500円ほどかかっており、リボンも入れたら提供価格とトントンです。ラッピングによって、新規のお客様が増えていると思うと、採算が取れなくてもいいと考えています。

何を選べば良いかわからない人に向けてセット販売
熊坂さん:最初からラッピングされているギフトセットも用意しています。かごの中にいろんな商品を詰めて、セットで販売しています。
柳田さん:詰め合わせの商品は自由に選べるんですか?
熊坂さん:決まった商品をセット組にしているため選べません。ネット通販でギフトを選ぶにあたって、「予算は決まっているけど、何を選んで良いかわからないから、代わりに選んで欲しい」とよく問い合わせを頂きます。そのため、予めギフトセットを作っておくことが、ブランディングに繋がると考えたのです。
柳田さん:どんなプレゼントを選んだら良いかわからない人はそれなりいるでしょう。商品数が多ければ多いほど、選びやすくすることでお客様の時間短縮にもなるでしょうね。
熊坂さん:鉄板となるセット商品を作ってあげるのはギフト販売において、非常に大事なことだと思います。
柳田さん:セット商品の価格帯はいくつかあるんですか?
熊坂さん:出産祝いや父の日、母の日、敬老の日などシーンに合わせて、3,000円代~5万円代まで広く取り揃えています。

感動の伝播で100回以上のリピート経験も!?
柳田さん:今までの創意工夫のお話を伺っていると、長くお買い物をしてくれている良い筋のお客様が大勢いらっしゃるように思えます。
熊坂さん:そうだと思います。お店を始めて19年になりますが、100回以上もリピートしてくださる方が何人もいて、応援していただけているんだと非常に実感しています。
柳田さん:パジャマは消耗品とはいわないかと思いますが、いつかはヘタってしまうものですよね。
熊坂さん:当店のパジャマは、5年間は着られる品質になっています。そのため、5年毎に注文が来ると思いきや、ギフトの注文を何度もしていただけるリピーターさんが多いです。
柳田さん:リピート率はどのくらいなんですか?
熊坂さん:当店ではパジャマだと3年周期でリピート率を取っていますが、1度買ったお客様のリピート率は17~18%で、売上の約25%をリピーターの方が占めています。
高額商品を扱うスタッフのホスピタリティとは
柳田さん:良い商品をお買い求めになる良いお客様がたくさんいらっしゃる中で接客レベルも上げないといけないですよね。そのために、何か努力をされているんでしょうか?
熊坂さん:まずは、自らやって見せることです。最初は「どうやったらお客様が喜んでくれると思う?」とメールやレビューを見ながらスタッフと話します。すると段々と自分なりにカスタマイズして、接客してくれるようになるんです。また、その接客やサービスを受けた方がどう思うのかと想像力を働かせられるようになっていきます。もし、ご不満をいうお客様が来られたときに、まずは「私たちに落ち度があったから」という考え方をするようにと伝えています。
当店のスタッフは子育てをしてきたお母さんが多いのですが、赤ちゃんを育ててきた方の想像力ってすごいんですよ。言葉をうまく話せない赤ちゃんの気持ちを汲み取って、「おむつ濡れてるの?」とか、「お腹すいたの?」といったことを想像力で補って育てているお母さんってすごいと思いませんか。文句を言う方がいたとしても、言葉を話してくれるので赤ちゃんの100倍楽ですよね。
柳田さん:スタッフは主婦の方が多いんですか?
熊坂さん:長く働いていただいている主婦の方が多いです。まだお子さんが幼稚園児ぐらいのときにアルバイトとして働いていただき、後々子供の成長とともに、正社員になってもらった方が何人もいらっしゃいます。子供が育って時間ができた方が長く働けるので、正社員になるという流れです。10年以上在籍しているスタッフが半分くらいいます。
柳田さん:そういうスタッフの方々がいらっしゃるからこそ、サービスの対応レベルがステップアップして、お客様の顔が見えるようになってくるのかもしれませんね。
熊坂さん:仕事を楽しんでくれているんだと思います。
柳田さん:楽しんでいないとできないでしょう。その楽しんでいるのがお客様にも伝わっているんだろうとお話を聞いて感じました。
おわりに:徹底的なこだわりと期待に応え続ける実直な姿勢
絶えず商品に改良を重ね、価格が上がったとしても繰り返し購入してくれるお客様がいるのは、ギフトや日常的な接客を含めた商品・サービスの品質が高いことが理由だと本動画を通して感じられました。お客様の期待値を上回るのは決して簡単なことではありません。まずは、自分が、その商品、そのギフトラッピングを受け取って喜べるのかどうかが自社に置き換えて考える上で大切な視点になることかと思います。
こういった視点から具体的な施策を考案するには、日常的にいろいろな場所で買い物をしたり、ギフトを贈ったりする経験が大事になってくるでしょう。自分が感動できるようなお買い物体験を通して、お客様を喜ばせることができたら素敵ですよね。
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