ソファD2C「MANUALgraph」がEC運用にリアルの接点を取り入れている理由とは?
インタビューの概要

1965年から続く株式会社フジライトは静岡県に自社工場を構え、家具作りをしています。三代目の代表取締役である鈴木大悟さんは、日本のものづくりを再興したいという想いから、2013年にソファ専門ブランド「MANUALgraph(マニュアルグラフ)」を立ち上げました。しかし、(無名のブランドが)20万円前後のソファをゼロから販売するのは容易な道ではありません。本格的に力を入れ始めた2019年から今に至るまで、どういった工夫や苦労があったのか、鈴木さんに伺いました。

新型コロナウイルスの影響でリアルからECに注力

店舗を閉じ、ECサイトのリニューアルで再スタート

――MANUALgraphのEC運営に力を入れ始めた2019年頃から、どういった取り組みを進めたのか教えていただけますか。

鈴木さん:工場併設の本店に加え、2019年10月に大型ショッピングモールに直営店を構えました。売上が安定してきた頃に新型コロナウイルスが流行し、会社として大打撃を受けることになります。ショッピングモールから客足が途絶え、本店のほうも県外から訪れる方が半分だったため、お客様はパッタリ来なくなってしまいました。そこで、ECに力を入れようとなったのです。

ECサイトはブランドを立ち上げた頃から運用していました。しかし、WordPressで構築したECサイトは制作会社に依頼をしないと価格の変更や商品ページの作成ができません。費用が都度発生してしまい、不便だったためリニューアルを決意します。自分たちでサイトの更新・変更ができるように、当時騒がれていたShopifyへとカートを乗り換えました。また、ショッピングモールの直営店は撤退し、その店舗にいたスタッフにEC担当者へとコンバートしてもらっています。

功を奏したSNSの発信で認知を獲得

鈴木さん:その頃、私自身SNSを通した情報発信に力を入れ始めました。まずは個人のアカウントでTwitterとnoteを開設します。当時は海外のD2Cブランドが大きな規模になっており、創業者が自ら発信している事例が多くありました。それに倣い、ブランドの認知を目的に発信を行ったのです。

MANUALgraphの鈴木さんが書いた2本目の記事がnoteの「おすすめ記事」に
2本目の記事がnoteの「おすすめ記事」に

――SNSはどういった軸で情報を発信したのでしょうか。また、発信してみて効果はありましたか?

鈴木さん:コンテンツが人に喜んでもらえるものでないとお客様には届かないと思っていました。そのため、いろいろと勉強し、戦略的に想いや地域のことを取り込んで発信しています。ちょうどコロナで地方移住が盛んになっていたタイミングだったこともあり、地域活性活動の要素を入れられるようにしています。

発信による効果はあったと感じています。最初の頃に作成したnoteの記事を「おすすめ記事」に選んでもらえたことも効果につながったことの1つです。また、SNSの活動を通じてビジネス系のメディアに取り上げてもらうこともありました。SNSを起点にした情報発信がブランド認知につながり、目的をうまく果たせていたと思います。

ブランド認知に加え、情報収集をする目的もあったのですが、ShopifyやECに関係する方々とコミュニケーションを取れるようになったことは大きいと思っています。Twitter経由でリアルな出会いにつながることがあり、今では仕事だけでなく一緒にキャンプする仲になっている方もいるくらいです。

ソファの販売はECサイトで完結しないカスタマージャーニーが肝

――SNSによる認知獲得は一定の効果が上げられたかと思いますが、ECサイトに力を入れ始めてからの効果はどうでしたか。

鈴木さん:まず、簡単には売れないということがわかりました。20万、30万円するソファはいくら想いを伝えても、製品の特徴を伝えても、実際に座ったり実物を見たりリアルな体験を通さないと購入いただけないのが一番大きなハードルです。お客様がECサイトにアクセスしてから購入までをサイト内で完結することは諦めています。

ECサイトはあくまで1つのコミュニケーションツールとして割り切り、サイトを中心としてLINEや他のSNSで接客をしながらリアルな体験を提供することが重要です。認知から購買までの流れの中で、体験をどういう形で、どんなタイミングでしていただくのか、カスタマージャーニーを考えています。ECサイトはこのカスタマージャーニーで、お客様が持つ1つの接点として用意しているのです。

初回のコンバージョンは購入ではなく生地の無料サンプル

――カスタマージャーニーで認知から購買までどのような流れで取り組まれているのか具体的な内容を伺いたいです。まず、MANUALgraphをお客様に知ってもらうために、どんなことをしているのでしょうか。

鈴木さん:集客は主にSNSか広告で行っています。記事を作成したオーガニック経由の流入でSEO対策をした時期もありましたが、いかにもSEOな記事になってしまい、私たちらしさが損なわれると感じたため、現在は取り組んでいません。

広告ではLP(ランディングページ)に集客し、ソファの生地を無料でお送りすることをCV(コンバージョン)に設定しています。月10万円ほど広告を回すと、大体30~40件ほどのお申込みをいただけています。CV以降はお客様から連絡先をいただいているため、商品の特徴をお伝えしたり、お客様の質問を受けたりとコミュニケーションを取りながら、来店いただくきっかけ作りに注力しています。

MANUALgraphのLPにはコースターになる生地サンプルを無料で提供している
コースターになる生地サンプルを無料で提供している

鈴木さん:去年くらいからお客様がLINEでコミュニケーションを取ることに抵抗がなくなったように感じます。それまではメールでのやり取りが主でしたが、現在ではLINEがコミュニケーションの軸となりました。

お客様とリアルな接点を作る工夫

――静岡県に住んでいる方なら来店しやすいかと思いますが、それ以外のエリアの方に来店していただくのはハードルが高いのではないでしょうか。

鈴木さん:MANUALgraphのソファを検討するのは子連れの方が多いです。そのため、家族で思い出を作れるように静岡の名所をコンテンツとして発信し、観光がてら静岡に来てもらえるような工夫をしています。特に遠方から来店するお客様の7割以上が購入いただけることもあり、いかに来店いただけるかが重要です。

――観光を通した来店動機を提供しているとはいえ、全国から問い合わせが来る可能性があるECで、静岡県に行くことがカスタマージャーニーの中で欠かせないのは購入までのハードルがとても高いように思います。何か工夫されていることはありますか?

鈴木さん:まず、広告は静岡・神奈川・東京など本店に訪れやすいエリアを中心に配信しています。それに加え、常設の本店以外に、エクスペリエンススポットとポップアップストアでお客様が商品を体験できる機会を設けています。

エクスペリエンススポットとは、カフェやコワーキングスペースなどにソファを設置してもらい、特定のソファを体験できる場所です。MANUALgraphのソファを試したいお客様が、そのカフェに訪れてコーヒーを飲んでもらえれば、弊社と設置場所でWin-Winな形を作れます。設置場所とは特に金銭のやり取りはしていませんが、ソファの接客や売り込みをしていただけるところもあるのでありがたい限りです。

東京・神奈川を中心に展開しているMANUALgraphのエクスペリエンススポット
東京・神奈川を中心に展開しているエクスペリエンススポット

失敗を糧に目的を変えたポップアップストア

鈴木さん:ポップアップストアは過去に都内の一等地で300万ほど費用をかけて開催したのですが、そのときは全く売れず大失敗してしまいました。認知は取れたと思うのですが、結局購入まで至ることはほとんどありません。人生で数えるくらいしかないソファを買うタイミングにたまたまポップアップストアを開催するタイミングを合わせるのはかなり難しいことです。

現在では、資料請求から商品に興味を持っていただいた方が20~30人ほどになったタイミングでポップアップストアを開催しています。会場には持ち込むソファは事前にお客様に確認し、関心を持っていただいているものを用意します。来ていただけるお客様向けの個別展示会を開催する意識に近いです。

過去の失敗からコストをできるだけ抑えるために、会場費はなるべく安く、物流コストは私自らトラックにソファを積み込んで現地まで運転することにしています。1開催あたり2~3台くらい売れるのですが、1台も売れない可能性を考えるとコストはできるだけ抑える必要があるのです。

――確度の高いお客様に絞ってポップアップストアを開催すれば一定の費用対効果が期待できそうですね。最後に、MANUALgraphを今後どのようなブランドにしていきたいかお聞かせいただけますか。

鈴木さん:大量生産の同じものをたくさん作るブランドではなく、一人ひとりに向き合ったブランドになっていきたいと思っています。円安や物価高による資材高騰を受けて、各社の動きを見ながら今後の対応を考えているところです。

ソファ選びは一生に一度といわれている家を買うタイミングであることが多いです。そのとき、多様化したライフスタイルに適応できるセミオーダーブランドとして皆さまの頭に浮かぶようなブランドへと育てていきたいと思います。

インタビューを通して:オンラインとオフラインの垣根を超えたカスタマージャーニー

数万円の商品であっても購入前に実物を見たいと思う方は多いはずです。それが10万円を遥かに超える、部屋の印象を決めることになるソファならなおさらでしょう。しかし、店舗に商品を卸すことでは中間マージンが発生し、良質な商品な適切な工賃と適正価格で販売することは難しくなってしまいます。かといって、自社で常設店舗を構えることも簡単なこととはいえません。

このような環境で、鈴木さんはオンラインを起点にして獲得した認知をオンラインとオフラインの垣根を感じさせない施策で工夫しています。例えば、LPから生地のサンプルを提供することに加えて、ソファの実物大シートを提供しています。過去にARで部屋に実際に設置されるイメージを作成したこともあるそうですが、シートをお届けするほうが良い評判の声が多いようです。

MANUALgraphがLPに入れているソファの実物大シート
ソファの実物大シート

試行錯誤を重ね、創意工夫に富んだ施策を実践することで徐々にMANUALgraphは安定した売上を残せるようになってきているとお話していました。一生物のソファをご検討している方はファクトリーブランドMANUALgraphのソファを検討してみてはいかがでしょうか。

■MANUALgraph ECサイト
https://manualgraph.com/

■鈴木さんのnote
https://note.com/daigosuzuki

■鈴木さんのTwitter
https://twitter.com/Daigo_P

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