株式会社フューチャーショップ 取締役 安原貴之さん
インタビューの概要

2022年は、3月下旬にまん防(まん延防止等重点措置)が解除され、徐々に外出機会が増加した1年になりました。人流が変わった影響は消費行動にも反映されています。事業者の販売をサポートするSaaS型ECサイト構築プラットフォーム「futureshop」ではECだけでなく、オフラインとの連携によって小売業を広く支えています。今回は株式会社フューチャーショップ(以下、フューチャーショップ)の取締役である安原貴之さんに、EC業界の2022年の振り返りと2023年はどのような動きになるのか伺いました。

2022年、小売業を取り巻く環境

実店舗のニーズが戻り、求められるOMO施策

――コロナ禍でEC化率が大きく伸びた2021年と比べると、徐々に外出機会が増えた2022年の消費行動は変わったかと思います。フューチャーショップでは、ECのみならず、オフラインとの連携によるOMOの支援を行っていますが、2022年を振り返ってどのような1年だったといえますか?

安原さん:ご利用店舗様の大まかなデータを見ると、2021年の売上を下回る月はなく、全体的に着実な成長をしていることがわかります。しかし、個社別で見るとはっきりと明暗が分かれた1年になりました。特にEC専業の事業者様で、新規顧客獲得だけに絞って施策を打つのは厳しい印象です。

実店舗を持つ事業者様については2022年の春先から外出が増えたことで、夏に向けてECの売上が下がり、実店舗が向上。結果、企業全体の売上は昨対で同等か少し伸びた会社が多いのではないでしょうか。2021年よりも実店舗は着実に回復しているものの、コロナ以前と比べて戻りきっていないのが現状です。そこに円安と原材料高騰などの物価高が相まって、決して良いとはいえない状況でした。

――コロナ禍にEC化が進んだことで、実店舗に訪れる消費者のニーズに変化はあったのでしょうか。

安原さん:店舗受け取り(BOPIS)や実店舗の在庫をECサイトに表示させる機能のニーズは2022年にとても増えました。ユニクロさんをはじめ、大手企業では店舗受け取りをやっており、このサービスを利用している方は少なくありません。実際に消費者から「店舗受け取りはできないですか?」と聞かれることが多くなり、フューチャーショップの導入企業でも実店舗と連携を始めた事業者様が増えました。

SNSやECなどデジタルの世界でアイテムを見つけ、実店舗で実物を見て購入するなど、ECに偏っていたコロナ禍とは違った消費行動が起きています。実店舗とEC間を行き来しながら購買する機会が増えていることから、ECにリソースを寄せていた企業が実店舗に改めて力を入れだしたのです。

アフターコロナの今、ECの利用機会は減少したか?

――ここ数年で大きく消費者の態度変容がありました。外出機会が増えた2022年後半、消費者のECを利用する機会は減少したのでしょうか。

安原さん:総務省の調査によるとECの支出額は増加しているものの、利用世帯の割合は横ばいである結果が出ています。futureshopの独自データから見るに、流通額は2022年1月~9月時点で1,370億円と2019年の年間流通額を上回る結果となりました。外出機会が増えた2022年においても、自社ECサイトの利用が定着していることがこの数字から窺えるでしょう。

2018201920202021
futureshop流通額1,085億円1,141億円1,550億円1,827億円
物販系分野
BtoC-EC市場規模
9兆3,000億円10兆円12兆2,000億円13兆3,000億円

経産省発表のデータ(下段)と近い伸び率で流通額が向上しているfutureshop

安原さん:一方で利用世帯が横ばいであるデータからもおわかりいただけるように、新規でECを利用する消費者数は明らかに減っています。いわゆる「ECサイトを立ち上げたら売れる」時期は既に終わりを迎え、新規獲得コストが上がり続けているのが現状です。

そこでしっかりとリピート対策を行っている事業者様の売上はあまり落ちていないことから、「このブランドだから買い続ける!」といった買う理由の創出・情報発信・CRMがさらに重要になっています。

新規集客の難易度が上がっている原因は外出機会が増えたことだけではありません。原因の1つに、個人情報保護の観点から広告が効きづらくなっている点が挙げられます。昔のようにとりあえずリスティング広告をやりましょうという感じではなく、P-MAXを利用して全体的に広告を表示することで最適解を見つけるやり方に変わってきました。

しかし、P-MAXの設定がしっかりできておらず、広告効果がでていないケースがあります。基本的な設定や、提供するフィードの正確性など、手間がかかるところではありますが、そこがしっかりできているかどうかで明暗が分かれるでしょう。事業者様の場合は設定したとしても、それが正しいかどうかをご自身で気づくのは難しいため、フューチャーショップでは無料コンサルやfutureshop ACADEMY(勉強会)を通じてやり方をお伝えしています。蓋を開けてみると間違っていることが多く、ちょっとした調整によって成果が上がることもあるため、今一度見直してみるとよいでしょう。

加えて、新規集客として重要なSNSはPR投稿の効果が厳しくなっています。複数のインフルエンサーに依頼して、一気に認知度を獲得して新規の売上を伸ばす、という手法では成果が出づらくなっているようです。例えば自社の商材に合ったインフルエンサーを起用することもそうですが、マスに向けた施策よりも、どこに自分たちを好きになってくれる顧客がいるのかを見つけることに力を入れる必要があるでしょう。自分たちのブランドを好きになってくれるファンの周りには似た人がいます。ファンが周囲の人に紹介してくださり、数珠つなぎで新規の集客になることが理想的です。

futureshop ACADEMYで開かれる活用講座
futureshop ACADEMYで開かれる活用講座

2023年の展望

――新規集客の難易度が上がり、消費者一人ひとりとより密接な付き合いが求められていることがわかりました。2023年、EC業界はどのような展望が見通せるでしょうか。

安原さん:新型コロナウイルスによって今後どうなるのかに関わらず、ECを始めとしたデジタルでの情報発信や顧客接点の強化、CRMは2023年も引き続き重要です。そのために、実店舗に限らず接客を通して購買体験を高める動きが大切になるでしょう。

消費者がファンになる瞬間は、商品が良いことはもちろんですが、接客を受けて感動した体験が元になっています。不安な想いで初めてECで買い物をしたときに、丁寧な接客やきれいな梱包、お手紙が同梱されて感じた安心感が次につながることもあるでしょう。

そして消費者意識にあったオンライン・オフラインの垣根がなくなり始めていることで、自社ECサイトでも店舗スタッフが得意とするコミュニケーションを活かした接客のニーズが高まっています。そういったコミュニケーションが生まれる接客はファンを作りやすいため、2023年はアパレル企業を中心に、今後注力したい点だと思います。

2022年に注目度が高まった「ライブコマース」について、フューチャーショップとしてもライブコマース機能である「Live cottage(ライブコテージ)」をリリースしました。複数社に実施いただきましたが、中国のライブコマースのように、「1つの配信で飛ぶように売れる」ということは日本では起こりづらい印象です。それよりも、ブランドとファン、そしてファン同士のコミュニケーションを実現する場として、コミュニティ形成の文脈で利用されることが多くなると考えています。

ライブ配信の盛り上がりはトークの技術よりも視聴者とライバー(ライブ配信者)の関係性がどうなっているかが大切です。売ることに特化して商品紹介に終始するのではなく、ファンとのコミュニケーションを活発に行い、売上軸よりももっとファンになってもらう軸でやっていくのが良いでしょう。

コミュニケーションの手段は形を変えて多岐に渡っていますが、一貫して「このブランドだから買い続ける!」理由を日々作っていくことは変わりません。デジタルの情報拡散力や場所を選ばないコミュニケーション、実店舗で実物に触れること 、スタッフと交流する深いコミュニケーション、それぞれの顧客接点の長所を活かしているブランドは2023年も変わらず売上を立てていかれると思います。

ライブコマース機能「Live cottage」
ライブコマース機能「Live cottage」

futureshopが注力していくこと

――手段を問わず、さまざまな角度から顧客と密なコミュニケーションを育む環境づくりの重要性が増す1年になりそうです。最後に、今お話いただいた内容を踏まえて、2023年にfutureshopではどういったことに力をいれていくのでしょうか。

安原さん:まずEC業界全体では食品系のジャンルが大きく市場を伸ばしました。数年前までは食品系はECモールへの出店に注力する傾向があり、自社ECサイトに注力される事業者があまり多くない状況でした。最近はブランドがしっかり確立されている事業者様から食品をECで買うことが浸透し、SNSなどを含めた顧客コミュニケーションをすることで自社ECの売上も向上する事例が多くなってきています。そういった背景から、ここ数年は自社ECサイトにチャレンジする事業者様が増加しているのです。

食品は常温だけでなく、冷凍や冷蔵、賞味期限など、他のジャンルにはない特殊な管理が求められるため、今後、食品を扱う事業者様向けの機能開発をfutureshopでも進める予定です。

――経産省のデータからも食品系のECは急激に伸びている結果が出ていました。他に注力するポイントはありますか。

安原さん:EC市場が拡大する一方で、EC人材の確保に苦しむ企業は多いです。以前から力を入れている無料コンサルやfutureshop ACADEMYなどのEC担当者のスキルアップを目的としたラーニングプログラムは更に強化していきます。

また、futureshopではECサイトの開店支援からオンボーディングまでの支援を初期費用の2.2万円に含める形でしっかりとやらせていただいています。開店後は無料コンサルティングプログラムを準備しています。まずは1商品売るところから、月商10万円、50万円とfutureshopは事業者様と一緒に頑張っていけるプログラムです。

EC人材の流動が激しく、社内のEC担当者が転職するケースも多いです。そういったとき、新規立ち上げでなくとも、新しくアサインされた方が1から業務を覚えるために活用できるラーニングプログラムになっています。ECの業務範囲はとても広いため、futureshopをぜひご活用いただきたいです。

インタビューを通して:顧客と良好な関係を育むことが2023年の鍵か

コロナ禍においてECを始めた事業者が急増しました。市場は飽和状態に陥り、ECサイト上にある商品情報だけでは良し悪しを判断することが難しくなっています。消費者のこういった感覚に応えられるように、事業者が強化したポイントがCRMを活用した差別化や既存顧客向けの施策といえます。売るための施策を積み重ねるよりも、よりブランドの世界観を一貫して共有するために、何をしないといけないか見つめ直さないといけない時期に来ているのではないでしょうか。

futureshopの導入企業は2,900店舗超ありながら、平均年商8,094万円と高い水準であるため、ECのみならず小売業界全体の動向を読み取っています。これから先、どのような展開をするべきか迷っている、答えを出せない事業者はフューチャーショップに相談してみてはいかがでしょうか。

■futureshopのサービスサイト
https://www.future-shop.jp/

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